『テッド2』が8月28日より公開です。公開に合わせ同日にはR15指定の前作『テッド』をPG12に編集した「大人になるまで待てないバージョン」のテレビ放映があります。
新作『テッド2』では、ぬいぐるみながら結婚したテッドが奥さんとの間に養子を迎えるため騒動を起こす、といった物語になっているようです。
前作も愉快で楽しい映画でしたが、その中には解りづらいオマージュや、楽しいだけではない影のある寓意も含んでいます。それらを詳らかにすることで、新作の予習をしていこうと思います。
『テッド』一作目を見ている前提でネタばれ上等に書いていますので、未見の方はまず『テッド』を観賞してからお読みください! もう見てる人は読み進みましょう!
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】イマジナリー・フレンドとしてのテッド
3~5歳くらい、同年代の他の子供と触れ合い始め「自分以外の子供がいる」という状況に戸惑い、その戸惑いに折り合いをつけるため想像上の友達を作る子がいるそうです。これは「イマジナリー・フレンド」と呼ばれる行為/存在です。
『テッド』に登場する幼少期のジョンくんはいじめっ子のいじめ対象からすら除外され、いじめられっ子からも蔑まされる徹底的に孤独な子供でした。その彼の「親友が欲しい」という願いに“遣わされた”のがテッドです。
本来イマジナリー・フレンドは他の人からは見えず(もしくは単なるぬいぐるみとしてしか見えず)、独り遊びの相手として想像している当人の頭の中だけに存在しているものです。また、当人が成長していき実際の人間関係を築いていく中で、記憶が薄れるようにフッと消えてしまうものです。
『テッド』ではそんなイマジナリー・フレンドが「実在して、自意識があり、記憶のようには消えない、クマのぬいぐるみ」であることに寓意が含まれています。
親友の呪い
テッドは孤独な少年だったジョンくんの「親友が欲しい」という願いを叶えるためだけに生まれ、存在します。
そもそもイマジナリー・フレンドは、想像上での遊び相手なので、当然のように想像した本人そのものの性格を持っています。一緒にテレビを見ていて面白がるポイントも同じだし、飽きてチャンネルを変えたくなるのも、別の遊びを始めたくなるのも同じです。なにせ本人ですから。
テッドも最強に気の合う親友“サンダー・バディ”として、ジョンくんに寄り添います。
テッドはジョンくんにとって幸せな奇跡だと言えます。ただ、同時にテッドという存在を抱えることはジョンくんの呪いでもあります。
ジョンくんの親友としてだけ存在するテッドにはテッド自身の幸せのための機能はありません。通常の男性が持つ、セックスという肉体的なスペクタクルは奪われています。セックス的な何かをしている様子も写りますが生殖器の無さを「メーカーにクレーム入れた!」と嘆く場面があります。
テッドがほとんど四六時中マリファナ吸引器やビール瓶を手放さないのは肉体的スペクタクルへの焦がれるような渇望だと見れます。
ジョンくんは自分の幸せのためにテッドという不具の友人を作ってしまい、その代償を払うために大人になって、恋人のローリーを差し置いてもテッドにとことん付き合います。永遠の親友という一見幸せに思える約束は、一方で呪いの契約にもなるのです。
自傷行為としてのテッドとジョンくんのケンカ
ジョンくんがローリーの上司主催のパーティを抜けだし、テッド主催のパーティへ駆けつけたことが決定打となりローリーは別れを決意します。アパートから追い出され落ち込むジョンくんの仮住まいにテッドがやって来ます。
テッドのパーティに誘われた時、一度は断りはしたものの『フラッシュ・ゴードン』主演のサム・J・ジョーンズがいるという魅力に抗いきれずパーティに駆けつけ、さらにコカインの誘いに乗って、時間を忘れて遊びまくったのはジョンくん自身です。テッドの来訪により、ジョンくんは改めて自分自身への怒りを自覚しますが、その怒りをテッドにぶつけ、大ゲンカとなります。
この場面はイマジナリー・フレンド現象に見られる「自己嫌悪における自傷行為」です。自分のしでかした失敗をイマジナリー・フレンドがやったと責任転嫁し「オマエはなんてヒドイ奴だ!」と言いながら怒りをぶつけますが、怒りは結局そのまま自分へ向けられています。
テッドはジョンくんの分身なので、ジョンくんがテッドに向ける怒りとは、即ち自分への怒りなのです。
『テッド』が描くテーマ
映画『テッド』では誰かにとっての幸せが、直接別の誰かの不幸になる瞬間を描きます。
テッド自身の幸せ(や快楽)を放棄することでジョンくんは幸せになります。ただ、ジョンくんの幸せは恋人ローリーの不幸を招きます。ローリーの幸せはジョンくんの不幸を招きます。“不気味な親子”の幸せはテッドやジョンくんの不幸になります。
『テッド』はコメディの構造を借りて『猿の手』のような物語も内包しているのです。
『テッド』で取り上げられるオマージュ
『テッド』には深い寓意を持つ一方で、バカバカしすぎるオマージュにも溢れています。中でも80年代のハイコンセプトな映像作品へ強い思い入れがあるようです。
『フラッシュ・ゴードン』
1930年代に流行したアメリカン・コミックを元にした連続活劇のリメイクとして1980年に製作、公開された映画です。「アメフトのスター選手が宇宙の危機を救う」というノー天気を絵に描いたような物語で、『スターウォーズ』ブームに煽られて再映画化されました。しかし体育の先生のようなスラックスに「FLASH」と自分の名前が書かれたTシャツを着る主人公は失笑をもって迎えられます。ただ、クィーンによるテーマ曲だけは、映画とは別に現在に至るまで大人気を誇っています。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『ナイトライダー』
ジョンがテッドからの着信メロディに設定しているのは、80年代に大人気だったテレビドラマ『ナイトライダー』のテーマ曲です。人工知能コンピューターを搭載したスポーツカーを駆るマイケル・ナイトがアメリカを世直しして回るという人気シリーズです。
マイケルを演じたデビッド・ハッセルホフは後にテレビドラマ「ベイ・ウォッチ」でも人気を得ますが、アルコール依存となり酔っぱらってハンバーガーを食べる様子を娘に録画されYOUTUBEにアップされると、さらにその様子をパロディ化した動画が流行るという不名誉なブームを起こしました。
『007/オクトパシー』
ジョンくんとローリーの思い出の映画は、ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを演じた最後の007映画『オクトパシー』です。007の歴史においてロジャー・ムーア時代は、とにかく派手でバカバカしいのが特徴です。『オクトパシー』にも超小型飛行機にワニ型潜水艇など、子供狂喜の秘密道具が登場します。
Rakuten TVで観る【登録無料】ハイコンセプトとバカ
これら多くのオマージュは80年代を中心に取り上げられています。80年代というのは総じてハイ・コンセプト=バカバカしかった時代として懐古されています。テッドとジョンくんは、そのバカバカしい時代が大好き=バカだという意味と、精神的な成長を止めている記号にもなっているのです。
映画『テッド』は「もしも、イマジナリー・フレンドが実在したら」というテーマを元に物語が作られ、その物語に相応しいオマージュとして80年代カルチャーが選ばれています。
下品で愉快で理屈無く笑えるバカコメディであると共に、総合的な組み立てがされている優れた作品だと言えるでしょう。
※2021年9月29日時点のVOD配信情報です。