LINEの技術組織が取り組んでいる・今後取り組む未解決課題を深堀りするインタビューシリーズ「Unresolved Tech Issue」、今回のテーマは「約1万人の社員全員が、家族友人に自慢できる働きやすさNo.1の社内IT環境づくり」です。
国内外を合わせて約1万人が働くLINEには、多種多様な国籍、文化、バックグラウンドの人々が在籍しており、さまざまな部署やプロジェクトで活躍しています。より良い労働環境を実現するために、LINEでは独自システム開発や外部サービス導入するなど積極的に社内ITに力を入れています。一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し、サービス競争力を高めることができる環境を目指しています。
社内ITの取り組みの詳細を、IT支援室 室長の吉野一也とIT推進室 室長の小窪政史、IT推進室 副室長の岩見賢吾が解説します。
左から吉野・小窪・岩見
認証・認可の情報を一元管理できる体制へ
──IT支援室が実施している施策についてお話しいただけますか?
吉野:IT支援室は社内システムの開発や導入、運用、ユーザーサポートなどを担う部署です。複数の施策を実施していますが、今回はその中から、あらゆる内製・外部サービスに対応する統一的な認証・認可基盤の構築プロジェクトについてお話しします。
LINEでは、NAVERが開発したNSS(Naver Single Sign On)というツールを用いて認証情報を管理しています。しかし認可については、社内に数種類のツールが点在しており、社員が各システムでどのような権限を持っているのかを一元管理できていない状況です。
社内のセキュリティを高めるために、この状況を改善する必要があります。統合的なシステムを用いて全社員の権限情報を管理・編集できるようにしなければなりません。さらに問題が起きたときの調査を容易にするため、どんな権限を用いて誰が何の作業をしたのかをログに残す必要もあります。
これらを実現するシステムを、私たちの部署で現在開発中です。権限を統合的に管理する仕組みに関しては、既存のソフトウェアを活用しカスタマイズすることで実現しようと考えています。また、社員の作業ログを残す仕組みに関しては、AWSを用いて構築しており部署内での開発を進めているところです。
──現在(取材をした2021年9月時点)の進捗状況について教えてください。
吉野:すでにシステムは一部完成しており、部署内向けのβオープンを開始しています。少しずつ改善を続けており、2022年内に全社公開を目指しています。その後、社内の各種サービスとの連携を実施し、認証・認可の情報を一元管理・可視化できる体制を築いていく予定です。
── IT支援室として、未解決の課題としてはどんなものがありますか?
吉野:ある組織の上長が、メンバーがそれぞれアクセスできるシステムがどれで、どんな権限を持っているか、また退職や異動時にしっかりその権限は棚卸しされているか、といったことをより把握しやすくしたいと考えています。今回のシステムでは権限を一元化することで管理しやすく、常に権限が必要最小限の範囲になっているかを見える化し、自動的に適切な権限範囲に保たれるような仕組みを構築しようとしています。
──課題を解決していくために工夫している点や苦労している点はどんなところでしょうか
吉野:社内のツールを一元管理するためには、それを組み込んでもらうハードルの低さが重要と考えています。LINEは優秀なエンジニアが多いので、使い勝手が悪いと自分たちで構築してしまうことがありますので……(笑)
そのため、ユーザーである部門、特にエンジニアに対して広くヒアリングを行い、多方面からの意見を聞いたうえで最適な解を出すことには時間をかけています。なかなか難しいところではありますが、極端に言うとAPIのエンドポイントの向き先を変えればシステム移行完了、みたいな感じが理想だと思っています。
バックオフィス業務をテクノロジーの力で支える
──IT推進室の取り組みについてもお願いします。
小窪:企業にはバックオフィスと呼ばれる部門があり、それにあたる経理や人事、総務などが社内で完結する業務を担当しています。LINEでは企業の規模が大きくなるにつれて、バックオフィス部門の業務量が徐々に増大してきました。IT推進室は社内システムの企画およびプロジェクト推進を行うことで、バックオフィス業務をサポートすることを主な役割としています。
──施策の具体例をいくつか挙げてください。
小窪:入退社や採用プロセスの管理システム、勤怠管理システムといった、従業員や各部門向けの支援ツールなどを管理・開発・運用しています。また、最近ではIT資産の貸与状況や資産価値などを管理・可視化するクラウドサービスの導入なども推進しました。
──コロナ禍の状況下では、働きやすい社内体制の整備はより一層重要になってきそうです。
小窪:そうですね、コロナ禍になってから全社的にリモートワーク体制となりましたが、それに伴うシステム導入もIT推進室が担いました。例えば各種書類への署名や、紙媒体の保管をしなくて済むように、SmartHRなどのクラウドツールを積極的に導入して各種の手続きをオンライン上で完結できるようにし、業務の効率化を推進しました。
それ以外にも、社内で用いられている各種ツールやデータの情報整理なども積極的に行っています。私たちの部門の活動によって、バックオフィス業務のかなりの部分が効率化・自動化できていると自負しています。
──さらなるクラウドサービス導入やIT資産のリアルタイム監視はこれから解決していく課題かと思います。実現に向けてハードルになっていること・実施するために技術的に工夫・苦労しているポイントなどを教えてもらえますか?
小窪:バックオフィス業務は、LINE独自の運用が定着している部分が多く、あるべき論で「導入したモノを正に運用を変えましょう」という進め方は、バックオフィス部門の各室およびチームにおいて既存運用役割・登録操作が異なりお互い干渉しあう運用オペレーションが乱立する中、なかなか通用しません。
現場で行われている現在の運用に寄り添い、それに合ったソリューション検討や「そういう運用するならこういうツールのこの機能で」という視点にしないと、運用オペレーションが大きく変わってしまうからです。
新しいシステムを導入することで、今の運用のある部分が省ける/簡略化されるという形にもっていき、いろいろなステークホルダがいるなか合意形成をとりながらAs-is,To-beを整理して要件に落とし込んでいくというところに時間を費やしています。また、そのうえで使いやすさも合わせて求められるので、UI/UXは相当意識しているポイントだと考えています。
グループ内の各種リソース情報を管理・可視化
──IT推進室が実施している他の施策についてもご説明ください。
岩見:私たちは、LINEグループ内の財務・人事などのリソース情報を統合的に管理・可視化できる独自ツールを開発・運用しています。LINEは日本だけではなく世界各地に拠点があり、複数の国の社員たちが協業しながらひとつのサービスを作り上げるプロジェクトが多いです。しかし、かつてはそれぞれの拠点の各種リソースがどれくらいあるのかを、効率的に調べるための仕組みがありませんでした。
そのため、新しいサービスや機能をたくさん開発するために企画担当者の人数を増やしても、そのアイデアを形にするエンジニアやデザイナーの数が足りないという課題が生じました。この状況を改善し適切にリソースを管理する「OPERA」という独自ツールを開発した経緯があります。
OPERAの導入によって、プロジェクトに関わる人々やその稼働状況などを可視化したり、各社員の業務実績に加えて職種、スキルレベルなどの情報も紐づいた状態でデータが登録されるため、どのプロジェクトにどんなメンバーがどれくらい注力しているのかをわかりやすく可視化できるようになります。OPERAでは各部署のマネージャーが月の締めに各社員の入力内容を確認して承認するフローをとることで、正確な情報であることを担保しています。
また、OPERAの所有しているリソース情報と、財務・人事情報などを複合的に可視化し、そのポートフォリオをもとにして各プロジェクトへの適切なリソース配分への判断材料として活用されております。これにより、サービスの生産性をより高められる筋肉質な開発体制を目指しています。
──そうしたツールによって現時点で挙げられた成果についても教えてください。
岩見:大きく2つあります。LINEではもともと工数の情報をExcelで管理していたのですが、それをOPERAによる管理に変えました。社員の稼働状況が正確に把握できるようになったため、サービス別の人件費などの計算がより精緻化されました。さらにOPERAの導入は経営層にも利点がありました。社内の各種リソースをより可視化できるようになったことで、事業計画や各プロジェクトの優先順位を検討しやすくなったのです。
将来的にはディープラーニングなどを組み込むことで、成功したプロジェクトのリソース状況の傾向などを分析可能にしたいです。プロジェクト健康診断のようなことが実現できると、より利便性の高い社内システムになるはずです。
──未解決の課題を実現していくにあたり、技術的に工夫・苦労しているポイントはどんなところですか?
岩見:OPERAをより入力しやすくしさらに活用していく、ということが課題と認識しています。1万人規模の社員の稼働状況を、全員に正確かつ網羅的に入力していもらいのは非常に大変です。また、入力の手間なども考えると、あまり入力に時間のかかるUIでは1万人規模の時間総数に換算すると相当な時間量になってしまいます。それらを考慮したうえでOPERAでは極力UIをシンプルにし、個別の細々した作業内容を入力させる事なくその業務に従事した割合を入力させる方式に設定しております。これにより1ヶ月分の入力が5分以内で完了できるようなUIを提供できています。
また、組織によっては担当業務の流動性が少ないようなケースもありますので、担当マネージャーにはExcelのようなUIを通じてメンバー全体の稼働状況を入力できるUIを提供し、極力簡略化できる仕組を実施しています。これらの工夫によりOPERAはユーザーに対し非常にシンプルな仕様になり、結果として正確かつ網羅的な情報の収集が実現できています。
約1万人の社員の業務を改善する醍醐味
──どのようなスキルやマインドを持った方が、今回話して説明いただいたようなプロジェクトに向いていると思いますか?
吉野:何かの業務に取り組む際に「なぜ、その施策をやるべきなのか」「根本的な課題は何なのか」という、根底にある目的を理解して進められる人が向いていると思います。
例えばある人が「A地点からB地点までなるべく短時間で行きたいので、速く走る馬がほしい」と要望を出したとします。その人の言葉を鵜呑みにするのではなく、「なぜA地点からB地点まで行きたいのか」をまず考えることが重要だということです。
その人が荷物を運びたいならば、私たちは速く走る馬ではなく自動車を薦めるべきかもしれません。または、B地点にいる知人に情報を伝えることが目的ならば、電話を導入するほうが効率的ですよね。つまり、表面的な情報だけで施策を決めるのではなく、ユーザーの真のニーズを掘り下げられる人が、私たちの部門の業務には向いています。
岩見:LINEは社員が取るべき行動指針として「LINE CODE」を定めています。この文面には「多様性を認め互いを尊重し信じ合う」「謙虚な姿勢で社会やパートナーと一体となって協力し合う」「公平で健全、正直な行動をとり、透明性をもって誠実に向き合う」などが記されているのですが、こうした行動指針は私たちの業務においても重要です。
また、受動的な姿勢で仕事をするのではなく、自ら課題を発見して能動的に動ける人のほうが活躍しやすいと思います。これは吉野さんが述べてくれた概念とも通じる考え方ですね。
小窪:LINEグループ全体では国内外を合わせて約1万人が働いていますが、これは企業としては相当に大きな規模です。大規模な社内IT環境や多くの人の業務を支えられるのはやりがいが大きいですし、サービスを提供する対象者が身近にいるため施策へのフィードバックも直接得られます。
そういった環境に魅力を感じる方や、社員の意見をもとにして社内環境を良くすることにモチベーション高く取り組める方は、私たちの部門で働くことにやりがいを見いだせるでしょう。LINEの社内ITの改善に携わることは、非常に意義の大きな仕事ですよ。
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