【モバマスss】前川被害者事件簿 その1
───ふと目が醒めると、俺は磔にされていた。
いきなり何を言っているのかと言われるかもしれない。
だがしかし。悲しいかな、これはまごう事なき事実であり、否定したい現実であった。
幸いなことに、状況把握は直ぐに叶った。
───ああ、なるほど。そういうことか。
P「……ほんで、俺が連れてこられたと。」
早苗「そうよ。連行、と言った方が正しいかもしれないけどね。」
P「連れてこられたって言葉と連行って言葉に差は特にないと思うんですが、どっちが正確かとか測れるんですか?」
早苗「できるわよ。」
P「その心は?」
早苗「世界よ。」
P「駄目だ予想以上に話が通じない」
P「しかもちょっとタメを作ったあたりがもうたまらない。言葉にできない。」
早苗「あなたに会えて本当に良かった?」
P「名曲を生贄に捧げてクソ会話召喚するのやめてもらえません?」
早苗「ま、細かいことはどうでもいいのよ、嫌われるわよ、そういう面倒くさい男」
P「この状況を作った本人が常識を講釈する資格はないのでは……」
早苗「だーかーらー、この状況は別に私が作ったってわけじゃないわよ。」
P「え?俺早苗さんのこと信じてたのに……」
早苗「なに負の方向に信用してくれちゃってんのよ。 違うわよ、美優ちゃん。美優ちゃんがやって欲しいっていうから。」
P「それさっきも聞いたんですが、笑えない冗談を言っていいのは敬虔なイギリス紳士とマックにいる女子高生だけですよ」
早苗「なに並列させちゃってんのよ。まあ、その2つの中なら、私はどちらかといえばイギリス紳士かしら?」
P「早苗さん、女子高生を諦めないで?」
早苗「あんた一回その発言見返した方がいいわよ。美優ちゃん以外は許してくれないわよその発言。具体的には世間の目が。」
P「しょうがない、美優さんと二人だけで暮らせる世界を作るか。」
早苗「唐突な魔王宣言してるとこ申し訳ないんだけど、そろそろ本題に入っていい?」
P「え、あと一往復くらい会話のキャッチボール……」
早苗「こいつまさかこの状況を楽しんでいる……?」
P「そうでもなきゃプロデューサーなんてやってられませんって。……んで、なんですか?本題って。」
P「文脈って知ってる?」
早苗「察するのがオトナなのよ。とにかくよろしく頼むわ。」
P「よろしくっつったってアナタ、まず磔を解いてくださいよ」
早苗「別にアナタ磔にされてないわよ。足はちゃんと地について直立してるし、手に巻いてあるの白滝よ。」
P「白滝」
早苗「白滝。」
P「え、てことは何か、俺は手に白滝を巻きつけて仁王立ちしてた独身男性(笑)ということになるわけ?」
早苗「そこまで卑下することはないわ、今時独身男性なんていくらでもいるもの。」
P「どちらかというと前半部分をフォローしていただけます?」
しかしこういう「くだらない時間」こそが、人生を振り返った時に特に思い出されるものだ。
その思い出の色が、白かろうが黒かろうが。色褪せようがビビッドだろうが。
なにかを「共有」、もしくは「共謀」した友の存在こそが真の宝物、人生をよりよく彩るものなのだ───と、プロデュース部統括本部長から言われたことがある。
その時俺はうどんを手打ちしていたのでよく覚えていない。
うどんを捏ねる時は少しコツがいる。
全身の力を効率よくうどんに伝えるためには、うどんパワーを充填しなければならない。
ではどのようにすればうどんパワーを充填できるかといえば、これは簡単なことに、うどんを食せば良い。
しかしここで一つパラドックスが生じる。
うどんパワーを充填する事で美味しいうどんができる。
美味しいうどんを食す事でうどんパワーを充填できる。
では、うどんパワーの「補給」と「使用」、どちらが先に来る」のか?
鶏が先か、卵が先か。
鮭が先か、イクラが先か。
これらと全く同じパラドックスが、いまここに生じている……!
これが俗に言ううどん輪廻である。メビウスの輪であり、身近に感じられるトポロジーである。
それは違う。
P「んでそれはいいんですよ、何があって三船さんはそんな酔いつぶれてんすか?」
早苗「たくさんお酒飲んだらこうなったのよ。」
P「The・雑」
早苗「時は戦国、所は戦地、翔ける姿は花のよう。」
P「修飾語句つければいいってもんじゃないぞ」
P「喋ってんじゃん!」
早苗「お、自分に矛先向いたと思ったら急に元気になりやがったわね、まあいいわ。尋問の時間よ。」
P「唐突に始まる僕らの人権侵害」
早苗「何よ人聞きの悪い……」
P「事実では?」
早苗「違うわよ。人権遵守に限りなく高い意識があるからこそ白滝で縛ってあげたんじゃない」
P「その思考回路ほんとわけわかんなくて好き」
早苗「……とにかく。最近美優ちゃんとアンタの進展がどんなんかなーって思って誘ったら飲みすぎちゃったのよ。今日は瑞樹ちゃんたちがいなかったからサシ飲みだったんだけど、オンナ二人だとどうしてもその、ねぇ?」
P「俺は何の同意を求められているんですか?」
早苗「察しなさいっての。オンナ二人だとどうしても深いとこまで聞きたくなっちゃうのよ。しかも美優ちゃんとアンタの話なんだし。」
P「いや、別に面白い話はないですけど……」
早苗「初夏の軽井沢のペンション」
P「貴様何をどこまで知っている」
早苗「美優ちゃんが顔真っ赤にして話してくれたわよー。『俺にとっての星は…こんなに近くにいたから。やっと気づいたんです。』」
P「ヤメロォぉぉ!?!?」
早苗「アンタ昔からそういうポエミーなとこ変わんないわよね。大多数の女が聞いたら着拒決めてラインブロックよ、こんな発言」
P「お互い盛り上がってたんだから良いでしょォ!?」
早苗「限度ってもんがあるじゃない、何にでも。とんかつに唐揚げ乗っけてエビフライ頼んだりしないでしょ。胃もたれすんのよ。」
P「い…いや、だって美優さんは…」
早苗「この子は少数派だから基準にしちゃダメよ。顔真っ赤だったわよ話してくれた時。私真っ青だったけど。」
P「お腹痛かったんですか?」
早苗「子供か。てか一緒に遊びに行ってたみくちゃんドン引きしたって言ってたわよ。」
P「前川、すまない……」
P「ちゃうねん……星の光に照らされた美優さんの笑顔が、このまま世界に溶けて行きそうで抱きしめておかないとって思ったんだ…」
早苗「…まぁ美優ちゃんも『抱きしめてもらって、身体どころか顔まで熱くなってしまいました』って言ってたけど。次。」
早苗「河原で見た花火 in 夏祭り」
P「そんなことまで!?」
早苗「『花火は一瞬輝いたら消えて行きますけど……僕たちの絆はずっと消えませんから。(キリッ)』」
P「ぎゃあああああぁぁぁ!?」
早苗「何が(キリッ)よなにが。もうこれっきりにしなさいよ。隣でチョコバナナ食べてたみくちゃんドン引きしたって言ってたわよ」
P「前川、すまない……」
P「ちゃうねん……美優さんの横顔があまりに素敵すぎてつい目を奪われてしまったんだ……青春が走り出そうとしていたんだ……」
早苗「…まぁ美優ちゃんも『繋いだ手に、私たちが築いてきた確かな絆を感じました』って言ってたけど。次。」
早苗「9月の水着撮影」
P「ねぇほんともう許して?」
早苗「『季節外れで少し寒いでしょう美優さん…ほら、温めてあげるから…おいで。』」
P「うおおおおおおおおおおおおおおお!?!?ヤメロォおおおおおおおおおおお!!!!!」
早苗「もうセクハラ一歩手前というか、私ならセクハラで訴えるわよこんなの。一緒の現場にいたみくちゃんドン引きしたって言ってたわよ」
P「前川、すまない……」
P「ちゃうねん……美優さんに溢れる大人の魅力の中にふと顔を覗かせる少女らしさが俺の心を掴んで離さないんだ……」
早苗「…まぁ美優ちゃんも『少し恥ずかしかったですけど…温もりを感じさせてくれる相手がいるって、いいですよね』って言ってたけど。次。」
早苗「……九州の撮影。」
P「え…それは美優さん寝てたはず……ってまさか!?」
早苗「『おやすみ、僕のプリンセス…』」
P「やめろおおぉおぉぉぉぉぉおおぉっっっっっっ!!!!!!」
早苗「やめて欲しいのはこっちなんだけど……」
P「違うもん!部屋まで運んでベッドに寝かせたら美優さんが寝ぼけて抱きしめてきたんだもん!」
早苗「成人男性の必死の赤ちゃん言葉は悲しくなるほど見苦しいわね。まあ美優ちゃんも『あれは夢だったと思うんですけど……ほんとだったら、な、なーんて!』って顔赤くして言ってたけど。」
P「美優さん!やはり寝ぼけてたんですね……よかった……」
早苗「次の日一緒に部屋から出てくるところにバッタリ遭遇したみくちゃんドン引きしたって言ってたわよ」
P「前川、すまない……」
P「でもあれは未遂というか実際俺は何もしてないし!?最後のアレは事故みたいなもんだし!?」
早苗「……うわぁ。」
P「素の反応やめて。俺自身わかってるから。痛いほどわかってるから。」
P「アイドルとプロデューサーなのに、そんなことできない!」
早苗「本音は?」
P「手を出す寸前で頭が沸騰しそうになって鼻血がでて意識が飛ぶ」
早苗「アンタ本当にね……そういうとこいい加減直さないと、いつまでたってもこのまま進展しないわよ?」
P「わ、わかってますよ!でも、実際俺と美優さんはプロデューサーとアイドルっていう立場があるし……」
P「俺みたいなペーペーが、美優さんみたいな素敵なアイドルを自分だけのものにしていいのかなって考えると、怖くて…でも、悔しくて…!」
P「俺、自分でもどうしたらいいかわかんなくなっちゃって……頭ん中ぐちゃぐちゃで……!なあ、早苗さん……俺、どうすればいいと思う?」
早苗「御託を減らしてヤることさっさとヤったらいいと思う。」
P「身も蓋もない」
早苗「ピーピーピーピーうっさいのよアンタは。小学生の時からそうだったでしょうが。理屈捏ねんのもいいけど、いざって時はドーンって行かなきゃいけないのよ、行きなさいよ。バーンって。」
P「…早苗ちゃん!」
早苗「ほら、美優ちゃん連れて、もう行きなさい。お姉さんはもうちょっと飲んでくから、ね。」
P「……!うん!早苗ちゃん、俺、頑張るよ!じゃ、じゃあ、美優さんの分は俺が払っとくから…」
早苗「今日はいいわよ。そのかわり……」
P「……?」
早苗「式には呼びなさいよ。ブーケの予約はしておくからね。」
P「…うん!これ以上行き遅れないようにね!」
早苗「おんどれ明日覚えておけよ」
私はそれを見送って、もといたカウンター席に戻ると、頼んだ覚えがないシリシリの小皿が一皿。
乾いていたはずのおちょこには透明な液体がなみなみと注がれていた。鼻腔をくすぐる、芋と土の匂い。
あ、これ、オヤジさんが秘蔵だって言ってた日本酒だ。
オヤジさんと目が合うと、ふっと表情が和らいだ気がしたけど、すぐにそっぽを向いて調理場の方へ入っていく。
私も少しおかしくなって、一人だって言うのに吹き出しそうになる。
弾けそうな気持ちを、自らの中へ凝縮させるように、日本酒を喉まで押し込み、息を吐く。
喉の奥から耳にかけて、熱がゆたゆたと伝搬する。
その伝搬を妨げるように、人参を一口。歯で軽く切れ目をつけた後、舌を入れて、二つに割く。一つは喉の奥へ、一つはもう一度奥歯で噛んで、次の一杯と一緒に流し込む。
はふ。
熱燗で、もういっぱい。
みく「…恐ろしい事件だったにゃ。」
みく「女子寮での美優さんの部屋はみくの一つ上。あの日、みくはお仕事もすごくうまく言って、ご褒美に李衣菜ちゃんが大好きなハンバーグを作りにきてくれたにゃ。」
みく「ご飯を食べたら李衣菜ちゃんとスマブラをして、夜も遅くなったからバイバイして、そのあとは学校の宿題をしていたにゃ。」
みく「そして日が変わる数十分前、だったにゃ……みくが寮の大風呂から帰ってきた時、美優さんのPチャンが美優ちゃんを背負って階段を上るのが見えたんだにゃ。」
みく「当然プロデューサーといっても男だから本来は女子寮には進入禁止なのにゃ。でも、寮母さんや、他の寮生もみんな、みんな気づいてたんだ。『ああ、やっと美優さんが報われる日が来たんだ』って。だから、本当はダメなんだけど、止める人は誰もいなかったにゃ。」
みく「誰もが祝福していたにゃ。中には涙を流している子もいたにゃ。万雷の拍手の中、美優さんを背負ったPチャンは、一段一段階段を登って行ったにゃ。」
みく「寮にはエレベーターがあったんだけど、そんな野暮なことを言う子は誰もいなかったにゃ。とにかく、みんなの優しいお姉さんが、これで本当に幸せになれるんだって、みんな、みんなが祝福していたんだにゃ。」
みく「誰もが、自分の部屋に戻ったにゃ。息を潜め、ただひたすらに過ぎる時を数えていたにゃ。」
みく「問題はその後だよ」
みく「ピー、ガチャって。確かに、あの電子音が聞こえたんだにゃ。」
みく「その音が聞こえるのを、みくは、ううん、寮にいるみんな、いや、違うにゃ。プロダクションのみんなが心待ちにしていたと思うにゃ。」
みく「ドアが閉まり、ゴソッって音がしたにゃ。多分、美優さんをベッドに寝かしたんだと思う。」
みく「その後────再びドアが開く音がしたにゃ。」
みく「数分後───今度は下で寮母さんが叫ぶ音がしたにゃ。これはただ事ではないと思い、みくを含め、何人かがすぐに寮母さんを助けにすっ飛んで行ったにゃ。」
みく「そこには、叫ぶながら座り込む寮母さんと───」
みく「──────血だらけになって泣きながら倒れていた、Pチャンがいたんだにゃ。」
みく「Pチャンは──────Pチャンは。」
みく「今から行うであろう行為を妄想しすぎて、鼻血を吹き出していたにゃ。」
みく「ベッドを汚してはいけないと動転して慌てて部屋から出てしまったんだにゃ。でも、鍵は部屋にあるもんだから、中から鍵を開けないと、もう部屋には入れないにゃ。」
みく「どうしようもなくなったPチャンは、泣きながら階段を降りてきて、下で待っていた寮母さんと鉢合わせたのにゃ。」
みく「みくは分かりたくなかったけど、不思議と全部わかってしまったにゃ。と言うか、あの場にいた人はみんな察せたと思う……あまりにも悲惨だったから……とにかく、みくは近くにあったティッシュをPチャンに渡したにゃ。」
みく「Pチャンは一層泣きながら、『出直します』と行って、再び夜の闇の中へ消えて行ったにゃ……」
みく「寮生の視線が、みくに注がれたにゃ。そして、みくはこう言うしかなかったの。こう言うしか、なかったのにゃ……」
みく「──────失敗!!!!!撤収!!!!!!」
みく「てかホントいい加減にしろよって最近思ってきたにゃ。いい加減にしなくてもいいけど、そのお鉢がみくに回ってくるのは納得いかないにゃ。」
みく「従って、次回以降の作戦───『みゆみゆラブラブ大作戦まっくす☆はーと』の責任者は誰か代わってほしいにゃ。」
──え?代役?それこそ、この作戦の名付け親のはーとチャンがやるべきじゃ…え?ツッコミがうまくできない?そんなのみくだってキャラじゃないのにゃーーー!!!
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