武内P「専務の笑顔、ですか」
武内P「いえ……見た事が無いので、何とも」
専務「ふむ、そうだったか」
武内P「何故、そのような事を?」
専務「私が笑いかけると、アイドル達が表情を硬くするからです」
武内P「……」
武内P「……なるほど」
武内P「……」
専務「だが、過度な緊張は良い影響を及ぼさない」
武内P「そう……ですね」
専務「そして、何よりも――」
専務「……地味に、ショックでした」
武内P「……」
武内P「……はあ」
武内P「え、ええ……概ね」
専務「そこで、君に仕事を頼みたい」
武内P「えっ?」
専務「笑顔の力――パワーオブスマイル」
専務「それを私に習得させなさい」
武内P「……」
武内P「えっ!?」
専務「ふむ……断ると言うのか?」
武内P「業務と言うには、強引すぎます!」
専務「成る程、確かに君の言う通りだ」
専務「所で、君が出社しなかった最後の日はいつだ?」
武内P「只今より、専務スマイルプロジェクト、始動となります」
武内P「専務、宜しくお願いします」
専務「ああ、君には期待している」
武内P「……」
専務「何?」
武内P「現在の、専務の笑顔がどの様なものか、確認を」
専務「ふむ……良いでしょう」
専務「――こうだ」…ニィッ!
武内P「……専務」
武内P「何を企んでいるのですか?」
専務「何も企んでなどいない」
専務「そう言ったでしょう」
武内P「……私を陥れようと、していませんか?」
専務「愚問だな」
武内P「っ!?」
武内P「やはり……!?」
専務「違う、そちらの意味では無い」
武内P「では……その想定で、話を進めます」
専務「……まあ、良いでしょう」
武内P「専務、先程拝見した笑顔の感想を……正直に申し上げても?」
専務「許します」
武内P「獰猛な肉食獣の様でした」
武内P「一瞬でも気を抜けば、喉元から食いちぎられる、と」
武内P「……そう、思いました」
専務「……ふむ」
専務「君、少しは気を遣いなさい」
専務「ほう?」
武内P「専務の笑顔は……それ以上かも知れません」
専務「……そこまで言うのなら、君の笑顔も見せてみなさい」
武内P「……わかりました」
武内P「――こうです」ニ゙ゴォッ!
専務「……ふむ」
専務「先程の言葉は、取り消して貰おうか」
武内P「えっ!?」
専務「何故、驚く?」
武内P「私の笑顔が……専務よりもひどいと!?」
専務「……私の足元を見なさい」
専務「恐怖で、震えているのがわかりますか?」プルプル…!
武内P「……!?」
専務「……まあ、今は君の笑顔の事は良い」
武内P「……そう、ですね」
専務「だが、私は言われっぱなしでいられる程、大人しくはない」
武内P「えっ?」
専務「何人も手にかけてきた殺し屋の様だった」
専務「ありとあらゆる手段を用い、対象を死に至らしめる」
専務「……そして、殺しを終えた後に浮かべる笑顔」
専務「それが――君の笑顔だ」
武内P「待ってください!……あの、待ってください!」
武内P「……そんなにも、ですか……!?」
武内P「…………そうですね」
専務「君は、どうやって私の笑顔を改善するつもりだ?」
武内P「そう……ですね」
武内P「専務……貴女は今、楽しいですか?」
武内P「心の底から、笑顔になれていますか?」
専務「ああ、勿論だ」
武内P「……」
武内P「あ、はい」
専務「――よくやった、さすが346の看板に相応しい者たちだ」
専務「――私は、君達というアイドルを誇りに思う」
専務「……と、そう思いながら笑顔を向けている」
武内P「……なるほど」
武内P「では、彼女たちが……トップアイドルになった時は?」
専務「……」
専務「フッフッフ……!」ニイィィッ!
武内P「……よく、わかりました」
専務「? 何だ」
武内P「申し訳、ありません」
専務「? 何を謝る」
武内P「万策尽きました」
専務「待ちなさい、諦めるのが早すぎます」
武内P「しかし、私では……とても……!」
専務「君は……とても、サービス精神に溢れているらしいな?」
武内P「最後まで、諦めずに頑張りましょう」
武内P「そうすれば、きっと道は開けます」
専務「何をするつもりだ?」
武内P「あ、いえ……先程の専務の笑顔が、アレでしたので」
専務「君、アレと評するのはやめなさい」
武内P「携帯に保存してある、動物の画像を見て回復しよう、と」
武内P「……そう、思います」
たぷたぷ
専務「私の笑顔は、そんなにも攻撃的か?」
専務「……」
専務「君、いやに手慣れているが……普段からそうして……?」
専務「ふむ、確かにそうだな」
武内P「……」
専務「? 何を見ている」
武内P「……いえ、何でもありません」
専務「しかし、犬猫の画像に癒やしを求めるとは……」
武内P「……専務」
武内P「私は、犬と猫では、癒やされません」
専務「……あ、ああ……そうか」
専務「な、ならば……何の動物だ?」
武内P「宜しければ……専務も、ご覧になりますか?」
専務「何?」
武内P「本当に、癒やされますので……」
専務「ふむ……君がそこまで言うのなら、一見の価値はありそうですね」
武内P「……どうぞ」
専務「どれ……」
武内P・専務「……」
武内P・専務「……」ホッコリ!
専務「ペンギン、か」ホッコリ!
武内P「ええ……ペンギンさんです」ホッコリ!
専務「……君、早く次を見せなさい」ホッコリ!
武内P「はい、了解しました」ホッコリ!
専務「……」ホッコリ!
武内P「……動画も、ご覧になりますか?」ホッコリ!
専務「早くしなさい。私は、あまり気が長い方では無い」ホッコリ!
武内P・専務「……」
武内P・専務「……」ホッコリ!
武内P「……とても、癒やされましたね」
専務「ああ……悪くない気分だ」
武内P「……専務」
専務「? 何だ」
武内P「無理に……貴女の笑顔を変える必要が、あるのでしょうか?」
専務「……」
専務「……何?」
武内P「いえ、そうではありません」
武内P「私達は、アイドルの方を笑顔にするために居ます」
武内P「私も……あまり、笑顔が得意ではありません」
武内P「ですが――アイドルの方達は、星の様に輝いています」
武内P「それさえ見失わなければ……例え、星の周囲が夜闇であろうと」
武内P「……何の問題も無いと……そう、思います」
専務「私に、笑顔は諦めろと?」
武内P「……」
武内P「有り体に言えば、そうです」
専務「無理?」
武内P「鳥の羽は、大空へと羽ばたくためだけの物ではありません」
武内P「笑顔もまた、アイドルの方達とは違った方向性もあっても良い、と」
武内P「……そう、思います」
専務「彼女達――アイドルとは違う笑顔で良い、と?」
武内P「はい」
武内P「大空ではなく……海を飛ぶ、ペンギンさんの様に」
専務「……」
武内P「あの……今回は、どんな用件でしょうか?」
専務「前回の、笑顔に関してですが――」
専務「君に言われた様に、笑顔を向ける時――ペンギンさんを意識した」
武内P「……待ってください」
武内P「あの、専務……そういった意味で言ったのでは……!」
専務「すると、アイドル達が緊張する事は無くなった」
専務「むしろ、妙にフレンドリーすぎて……問題になっている」
武内P「……」
武内P「えっ?」
専務「アイドル達に慕われて困っている」
おわり
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