大林宣彦監督、最新作は「映画になっているかわからない」と胸中吐露
2012年5月12日 15:30
[映画.com ニュース] 大林宣彦監督が被災地復興の願いをこめて製作した映画「この空の花 長岡花火物語」の初日舞台挨拶が5月12日、東京・有楽町スバル座で行われ、大林監督をはじめ、富司純子、原田夏希、主題歌を手がけた伊勢正三が登壇した。
舞台は2004年の新潟県中越地震から復興をとげた新潟県長岡市。熊本の地方紙記者・玲子(松雪泰子)は、音信不通だった元恋人から届いた「長岡の花火を見てほしい」という便りを胸に、東日本大震災の被災者をいち早く受け入れた同市を取材する。玲子が体験する人々の出会いや体験が、大林監督ならではの幻想的なタッチで描かれ、4月7日から新潟県で先行上映されている。
大林監督は「ありがとうの一言。戦争や災害を忘れたり、風化させたりしてはいけない。そんな願い、悼み、希望を未来に生きる命に伝えるために、この映画をこしらえた」と感慨深げ。2時間40分の長編で「もっと明瞭でウェルメイドな作品がつくれればいいが、そんな平和で余裕がある時代は、昨年の3.11で終わってしまった。悩み、もがき、考えながら作ったので、映画になっているかもわからない……」と複雑な胸中を吐露した。
それでも「このようにしかつくれなかったし、映画がもつ役割を果たせたんじゃないかと思う。この映画にはエンドマークをつけていない。ずっと終わらない物語なのです」と熱弁し、74歳にして踏み込んだ新境地に胸を張った。
原田は記者役を演じるため、10数年間伸ばし続けた髪をバッサリ切り「せっかくだから、髪を切るところを撮影させてもらった」(大林監督)、「周りの皆さんからも『切ったほうが似合う』と言われ、最初は複雑でしたが、今はとても気分がいいですね」(原田)。富司演じる老婦人には、実在のモデルがいるといい「戦争のさなか、亡くなった自分の赤ん坊を抱きながら、どんな気持ちで過ごしていたのか」。その女性からは方言のアクセントなどを指導してもらったが、今年3月に死去したそうで「完成を待ってくれて、映画を見てくださったので良かった」と神妙な表情を浮かべた。