2023.03.09
ドラゴンボールを彩るメカニックのなかで、ストーリーにも大きな影響を与えるスカウター。
離れた位置から相手の生体情報を計測できる、といった便利さやデザインの洗練度から、ファンの間でも非常に人気の高いアイテムです。おもちゃで発売されていたものを買ったことがある、あるいはペーパークラフトなどで再現したことがある、という方も多いでしょう。
実はこのスカウターに似たデバイスが、畜産業の現場で活用されているそうなのです。
「ブタの体重をカメラ越しに計測する」という機能を備えた、その名も「スカ豚〜」は一体どのような背景で生み出され、どのような使われ方をしているのでしょうか。
今回は開発者である宮崎大学の川末紀功仁(かわすえ・きくひと)先生にご登場いただき、気になる「スカ豚〜」のスペック、併せてドラゴンボールのスカウターを支える技術やスカウター“爆発”のメカニズムについても伺いました。
これを読めば、スカウターに対する、戦闘力ならぬ「解像度」が上がること間違いなしです。
川末紀功仁(かわすえ・きくひと)さん:宮崎大学工学部工学科教授。1996年、長崎大学で博士号(工学)を取得。20年ほど前に和牛の体重を判定するシステムを開発していたが、当時はまだAI技術が発達しておらず、実用化に至らなかった。今回開発した「ブタの体重が見えるメガネ」は、農林水産省が選ぶ「2021年農業技術10大ニュース」にも選出。
聞き手・加藤まさゆき:理科教員でライター。専門は生物学。ドラゴンボールが『週刊少年ジャンプ』に連載していた10年間、6〜16歳だった生粋のドラゴンボール世代。
※取材はリモートで実施しました
早速ですが、先生の開発した「ブタの体重をカメラ越しに計測する」デバイスとはどんなものでしょうか?
3Dカメラとスマートグラス(メガネ型ディスプレイ)をヘルメットに取り付けたデバイスです。スマートグラスには、カメラで撮影した風景がリアルタイムに表示されます。
デバイスの構造(川末さん提供)
カメラでブタを撮影すると、その体重がスマートグラスに表示される、という仕組みですね。
スマートグラスに表示される映像(川末さん提供)
すごい! 半透明のディスプレイに透けて表示されるところなんか、スカウターそのものですね……。でも、体重を測るだけならブタを体重計に乗せればいいんじゃないか、とも思うのですが、なぜこの形に?
ブタの体重は豚衡(とんこう)機という体重計で数人がかりで測るのですが、その際、ブタが体重計に乗るのをいやがるんです。出荷に最も適した体重は115kgくらい(編注:一般的にブタは体重に応じて出荷価格が決まる)ですが、その頃になると体も大きくて、力も強い。そんなブタを養豚業者は1日に100頭近く、四苦八苦しながら体重計に乗せているんですね。大変な作業です。でもこの装置を使えば、「カメラでブタを映す」だけで体重を測れるので、作業がずいぶん楽になります。
なるほど。でも、まだすっきりしないのですが、なぜわざわざ頭に装着するんですか? 例えば、自撮り棒のように手に持ったカメラでブタを撮る、というスタイルでもいいように思うのですが。
最初はそういう形状を想定していたんですが、ブタって想像以上に素早く動くので、自撮り棒に装着したカメラだとアングルを合わせるのが難しくて。
でも、人間は本能的に対象を目で追いますから、カメラを頭につけた方がブタのスピードに対応しやすい。撮影する位置も高くなるし。
では、ディスプレイをスマートグラスにする、という仕様も後から……?
はい。最初は普通のディスプレイを使っていたのですが、スマートグラスの存在を知った瞬間に「これは使える……!」と思いましてね。カメラもディスプレイも頭にまとめると両手が空くので、ブタを誘導したり数値をメモしたりと、他の作業も同時にできて効率が良いんです。
確かに、両手が使えると作業効率が段違いです。そう考えると、スカウターも戦闘員用の設計なんでしょうね。フリーザ一味が、片手に自撮り棒付きのカメラ、片手に大型ディスプレイを持っていたら、威圧感ゼロですから。
カメラで撮影したブタの体重が分かる、という機能はどういう仕組みで成り立っているのでしょう?
撮影した画像をAI(人工知能)に解析させてブタの体長・体高・胸囲などのデータを弾き出し、そこから体重を予測しているんですね。もちろん、ただ撮影しただけでは計測できません。体長・体高・胸囲などと体重を紐付けられるように、養豚業者の皆さんからブタ数千頭の体型と体重のデータを集めました。
ブタの体長・体高・胸囲と体重を紐付けるためのデータ処理過程(川末さん提供)
数千頭! 業者さんの協力がないと実現できませんね。
養豚大国・宮崎の地の利もあり、どんどんデータが集まりました。
もともと計測作業が大変過ぎるので、見た目で体重を予想して出荷しているベテランの業者さんもいるくらいですから、作業効率化に対する現場のニーズも高かったのだと思います。
経験と勘に頼っていた部分を、この装置が一気に解消してくれると。
はい。ちなみに、国際的に展開する目的(編注:スマートグラスを活用したリアルタイムの計測システムは世界初)で、海外の養豚業者さんにも使っていただいているのですが、結構反響があって。
ドイツの豚舎で使われている様子(川末さん提供)
近未来感がすごい!
先生はやはりスカウターをイメージしてこの装置を作られたのでしょうか?
作る前から知っていたわけではありません。ただ、作った後、学生らがこの装置を見て「スカウターだ!」と言うんです。それがきっかけでスカウターの存在を知って、ドラゴンボールの原作も読みました。
スカウターに形状や機能が似ているので、今では、 この装置を「スカ豚〜」という愛称で紹介しているくらいです。
最高のネーミングです。
漫画の中でスカウターが描かれたのは、原作を読む限り、1990年ごろでしょうか。
当時の技術レベルを考えると、この機能や形状は、読者の方々にとても斬新に受け止められたのではないか、と思います。
僕は当時小学生でしたが、クラスで大流行していましたね。みんな厚紙とセロハンでオリジナルのスカウターを作っていた。
インターネットもスマートフォンもない時代に通信機能もある、小さなPCを内蔵した装置を想像できたのはすごいです。つくづく、鳥山明さんの先見性には驚かされます。
そう、ものすごく多機能なスマートデバイスなんです。現代のスマートフォンのように。「はるかに進んだ技術」の到達点がああいう形になるのを30年以上前に見通していたのは、メカ愛に満ちた鳥山先生ならではですね。
そうですね、予知能力がある、と言ってもいいくらいだと思います。
ところで「スカ豚〜」の機能は、ブタの体重を測る場面以外にも応用できそうですよね。例えば、人の体重は測れないんですか?
それは真っ先に聞かれますが、服を着ている状態だと撮影対象の形が変わるので正確な体重を測れなくて。そもそも人の体重を勝手に測るような装置を開発していいのかという倫理的な問題もありますし。
でも、赤ちゃんの体重を測ることに応用する研究は今進めているところです。
赤ちゃんは体重計で測らない方がいいメリットがあるんでしょうか?
簡単に手で触れられない場合があるんです。体重が1000gにも満たないまま産まれてしまった赤ちゃんは、超低出生体重児と呼ばれます。極めて脆弱なために、ちょっと触るだけでも赤ちゃんにとっては大きなストレスになります。
宮崎大学附属病院で新生児の体重計測に活用されるスカウター(川末さん提供)
なるほど、生まれたばかりの赤ちゃんなら服を着ていないことが多いからこの装置を使えると。では他の家畜、例えば牛の体重を測ることはできないんですか?
牛はブタよりも、出荷価格に及ぼす体重の影響が少ないので、厳密な体重管理はそこまで必要ないんです。なので、ブタほど体重計測のニーズはありません。あと牛は肉質に価格が左右されやすいので、肉質の良し悪しを外見だけで当てる「目利き」の人がいて、彼らの存在感が大きいんですよね。
なるほど、装置でも測れないパラメータがあるわけですね。スマートグラスで牛を見ていると、その目利きの方に「スカウターをはずせ、そんな数字はあてにはならん」なんて言われそうですね。
そういえば、この間誰かに言われたのが、競走馬のレース前の状態を測って調子を分析する装置を作ったら競馬ファンに売れるよ、と。
それは間違いない! となると、近い未来、競馬場のパドックにスカウターを装着した人がずらっと並ぶ可能性もあるわけか……。
その場合、もし出願済みの特許との関連が認められたら、私のところにガッポガッポと特許料が入ってくることになりますが(笑)。
先生、意外と現実的ですね。
スカウターのスペックもぜひ掘り下げていきたいのですが、「スカ豚〜」の開発者として、スカウターにはどんな技術が詰まっていると推測できますか?
やはり「スカ豚〜」と同様に、AIは間違いなく導入されていると思います。
併せて、そのAIは対象を世界から切り出す「分類」の機能と、対象を分析して数値を出す「回帰」の機能を持っていると言えそうですね。
なるほど。それぞれの機能について、もう少し詳しくお伺いしたいのですが、「分類」と「回帰」の機能は「スカ豚〜」だとどのように組み込まれているのですか?
「スカ豚〜」は撮影しているものがブタかブタ以外かを形状から判断します。これが「分類」です。
同じように、スカウターもまずは撮影対象がサイヤ人かナメック星人か、データベースを参照しながら「分類」しているのではないか、と思います。
「分類」した後は、何らかのパラメーターを読み取り、戦闘力として数値化します。これが「回帰」の機能です。この2つが組み合わさってスカウターの計測システムは成り立っていると予想できます。例えば、最初に超サイヤ人だと「分類」した後、「小さくても戦闘力は強そう」と判断して計測する、とか。
ということは全宇宙生命のデータがあそこに詰まっているのか。さすが、惑星の侵略を繰り返すフリーザ軍が発明した装置だけのことはあるな……。戦いへの執着がすごい。
スカウターのようなAIとデータベースを組み合わせた機器は、データ数が多いほど性能が向上するのも特徴です。いまも私の研究室には宮崎県内外の畜産農家さんからブタのデータが次々と集まってきています。このデータによって「スカ豚〜」の精度はどんどん向上しているわけです。
ではいつか、見た目でブタの体重を推測するベテランよりも、「スカ豚〜」で測定する方が誤差が少ない、ということになるんでしょうか。
そう思いますね。そういえば、原作の中でも想定を超える戦闘力が計測されたときに「スカウターの故障」だと決めつけるシーンがよく登場しますが、実際には一回も故障はしてないですよね。いつかそれに似た状況が現れるのではないかと思います。
それは楽しみです。そのときはぜひ、ベテランの方に「そいつはスカ豚〜の故障だ!」と叫んでもらいたいですね。
先生はスカウターに近い装置を開発されたわけですが、実際のスカウターのような、計測も通信もできる多機能なウェアラブルデバイスは近々実現するものでしょうか?
スカウターを作るための技術はそろってきているので、私の研究室の学生であれば、すぐにでも作れると思います。
無線通信技術や無線でのデータ転送技術は一般普及していますので、そこも大きな障壁にはならなさそうです。
ただ一点、安全性を担保するなら、PCはスカウターと異なり、頭部以外に取り付けた方がよいと思いますね。「スカ豚〜」は腰に取り付けています。
頭部以外に取り付けた方がいい理由はなんでしょう?
スカウターって、計測不能になるほどの戦闘力を測ろうとすると、爆発しますよね。頭部で爆発すると命の危険もありますから。
確かに。「スカウターの爆発」は「故障」と並んでサイヤ人・フリーザ編に欠かせない、ストーリーの華です。実はずっと「スカ豚〜は爆発しないんですか」と聞きたかったのですが、聞いたら明らかに「バカ」だと思われそうで、今まで聞けなかったんですよね。
そんなことはありません。スカウターがなぜ爆発するのか、という問いはスカウターのスペックを推測する上で重要なポイントだと思いますよ。
「スカ豚〜」の動力源は高容量のリチウムイオン電池ですが、スカウターも同じであったなら、発火や爆発の危険があるからです。
なるほど、電池。
スカウターのデザインを見たところ、独立電源でバッテリーも内蔵されていそうですよね。なので、動力源はリチウムイオン電池と見て、まず間違いないと思います。
確かに、リチウムイオン電池は飛行機の「預け荷物」にできませんし、条件によっては「機内持ち込み」もできないですよね。
スカウターの爆発もおそらく……PCの演算処理装置に高い負荷がかかって本体が異常に過熱してバッテリーが破裂し、起きている現象ではないかと思います。
なんと! 「想定外の高負荷からの爆発」という流れは作品の中だけでなく。現実でも十分にありえる状況ですよね。その視点はなかった………。
先生、今日は面白い話をありがとうございました。いちドラゴンボールファンとして、小学生の頃、空想上のテクノロジーだと思っていたスカウターが、ここまで実用化されていることに驚き、そしてうれしさを感じました。
公式サイトとして最後にお聞きししたいのですが、「スカ豚〜」を作ってから読んだ原作で、一番好きなキャラクターは誰ですか?
何をやっても許される、憎めないキャラクターが好きなのですが、そういう意味ではやはりウーロンですね。他に考えられない。
僕の研究でも、彼のような茶目っ気を大切にしたいです。
やっぱり最後は「ブタ」で繋がるんですね。キレイなまとめ、ありがとうございます。
このサイトは機械翻訳を導入しています。わかりにくい表現があるかもしれませんが、ご了承ください。
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