STI Hz Vol.9, No.2, Part.7:(ほらいずん)ダイヤモンドOA:APCによらないオープンアクセスの国際動向STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00335
  • 公開日: 2023.07.12
  • 著者: 西川 開
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.9, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
ダイヤモンドOA:
APCによらないオープンアクセスの国際動向

科学技術予測・政策基盤調査研究センター 研究員 西川 開

概 要

オープンアクセス(OA)の進展に伴い、論文をOA化するために著者が出版社に支払う費用であるAPC(Article Processing Charge)の高額化が重大な課題として顕在化している。こうした状況の中、APCに依存しないOAの方法であるダイヤモンドOAへの注目が国際的に高まっている。ダイヤモンドOAとは研究機関、公的助成機関、出版社、学会等が資金提供することにより、APC等の形で著者や読者が費用を負担することなくOAとなっている論文やそうしたOA化の方法を意味する用語であり、ゴールドOAの特殊な場合であると位置づけられる。ダイヤモンドOAを実現するには様々なビジネスモデルがあり得るが、その中でも特に近年の国際動向では、研究者が主導し、コミュニティが運営の主体となり、出版に際してオープンなインフラに依拠するというOAコモンズというモデルに焦点が当てられている。本稿では、こうしたダイヤモンドOAに関する国際動向やその背景にある考え方、近年欧州で進められているダイヤモンドOA推奨のための施策について概説する。

キーワード:オープンアクセス(OA),ダイヤモンドOA,書誌多様性,OAコモンズ

1. はじめに

2000年代から各国において(公的助成金による研究成果としての)論文をオープンアクセス(以下OA)として公開することを要請・義務化する政策が実施されるようになり、OA論文の数は増え続けている。例えば、2010年に出版された総論文(1,121,368本)のうちOAとして公開されているのは約20~32%であったが、2020年に出版された総論文(1,895,750本)のうちOA論文が占める割合は約43~51%へと上昇している注1

こうしたOA化の着実な進展の一方で、林(2014)1)で論じられていたように、論文をOA化するために著者が出版社に支払う費用であるAPC(Article Processing Charge)の高騰が重大な課題となってきている。2011年から2021年にかけてのAPCの推移を推計したMorrison et al.(2022)2)によると、ジャーナル当たりの平均APCは906ドルから958ドルへ、論文当たりの平均APCは904ドルから1,626ドルへと上昇している(USD)。また、大学図書館コンソーシアム連合の試算3)によると、日本のAPC支払推定額は2012年の1,031,732,000円から2020年の5,723,450,000円へと上昇している。

このようにAPCの負担が増加する中、近年ではAPCを課さずにOAを実現するダイヤモンドOAと呼ばれる方法に対する注目が国際的に高まりつつある。以下本稿では、ダイヤモンドOAとは何かというところから始めて、現在国際的にダイヤモンドOAが着目されるようになった背景や具体的な動向を概観していく。

2. ダイヤモンドOAとは

ダイヤモンドOAに関する公式の定義は存在しないが、概してダイヤモンドOAは、APC等の形で著者や読者が費用を支払うことなくOAとなっている論文やそうしたOA化の方法を意味する用語として使われている。また、Eve(2021)4)を踏まえると、ダイヤモンドOAはゴールドOAの特殊な場合であると考えられる。ゴールドOAはOA誌やOA出版プラットフォーム上で論文を公開するというOA化の方法であり、このとき著者が出版社にAPC等の費用を支払うことなくOA化が実現される場合がダイヤモンドOAとなる。

2020年から2021年にかけて、欧州の研究機関・研究助成機関から構成されるScience EuropeとOAに関する国際的なコンソーシアムであるcOAlitionSの出資により、ダイヤモンドOA誌に関する大規模な実態調査が実施されている。同調査から、ダイヤモンドOA誌について例えば下記が明らかとなっている5)

  • 2020年時点で、世界におけるダイヤモンドOA誌の数は17,000~29,000誌と推計される
  • ダイヤモンドOA論文の数は、非OA論文を含む総論文の8~9%を占めると推計される
  • APC型のゴールドOA誌の約半数は西欧諸国から出版されているのに対して、ダイヤモンドOA誌の場合その約半数は中南米や東欧諸国から出版されており、西欧から出版されるジャーナル数は2割程度にとどまる
  • APC型のゴールドOA誌と比べて、ダイヤモンドOA誌には人文学・社会科学分野のものが多い
  • APC型のゴールドOA誌と比べて、ダイヤモンドOA誌は英語で書かれているものが相対的に少なく、かつ複数の言語で書かれているものが多い
  • 概してダイヤモンドOA誌の著者は当該ジャーナルの出版国出身の者が多い傾向にあるが、ダイヤモンドOA誌の主な読者層は自国内に限定されず、国外からも多く読まれる傾向にある

更に同調査では、ダイヤモンドOA誌の運営に関する状況も下記の様に明らかとされている。

  • ダイヤモンドOA誌への資金提供者は研究機関が最も多く、公的助成機関、出版社、学会等が続く
  • ダイヤモンドOA誌の資金調達の仕組みとしては、当該ジャーナルの母体となる組織からの現物支給やボランティア労働によりジャーナル運営のコストを直接補填する場合が特に多く、次点で助成金や共同出資モデル、寄付等が続く
  • 調査対象ジャーナルの49%が所有権を定めた法的文書がないか若しくは不明である

3. ダイヤモンドOAの事例

ダイヤモンドOAを実現するに当たっては、様々なビジネスモデルが試みられている。例えば英国王立化学会の旗艦誌であるChemical Scienceでは、同会が出版コストを負担することで、著者や読者による支払を受けることなく、ダイヤモンドOAを実現している。

こうした単一の運営機関がコストを負担するという方法のほかに、近年では複数の機関がコストを分担することでダイヤモンドOA誌を運営するという、共同出資モデルが注目されている。例えばAnnual Reviews社が開発したSubscribe to Open(S2O)というモデルでは、購読料を利用することで購読型雑誌をダイヤモンドOA誌に転換している。S2Oの対象となる購読型雑誌について、購読を希望する機関は購読契約を結ぶ際にS2Oに参加するかどうかを選択できる。期日までにS2Oに参加する機関数が所定の数を超えた場合は当該の購読型雑誌はダイヤモンドOA誌として公開されるとともに、バックファイルへのアクセスも可能となり、下回った場合は従来通り購読型雑誌のままとなる。S2Oの詳細は公開されており6)、現在はAnnual Reviews社以外の出版社もS2Oを採用するようになっている。

また、人文学分野のダイヤモンドOA誌専門の非営利出版社であるOpen Library of Humanities(OLH)では、共同出資モデルとオープンソースの出版システムを組み合わせることで、28のダイヤモンドOA誌を刊行している。OLHは、多数の図書館から少額の出資を募ることでダイヤモンドOAを実現する図書館協力補助金モデル(Library Partnership Subsidy model, 以下LPS)という共同出資モデルを運用しており7)、2023年4月現在300を超す機関が同モデルに参加している。これに加えて、Janewayというオープンソースの出版システムを開発し8)、同システム上で投稿の受理から査読、出版までを行っている。更にOLHは、LPSに加えてJanewayのホスティングサービスや助成金の獲得により複数の収益源を確立し、APCや購読費によらない安定的な運営を実現している。

LPSとJanewayには収益源の確保以外の狙いも存在する。LPSに参加する図書館は、ライブラリー・ボードのメンバーとなることができる。ライブラリー・ボードは、OLHのディレクター(OLHの拠点でもある、ロンドン大学バークベック校の研究者が就任)及び人文学の諸分野の専門家から構成されるアカデミック・アドバイザリー・ボードと共同して同社の運営に携わることになる。これにより、特定の個人ではなく、研究者等により構成されるコミュニティが意思決定の主体となる多極的・分権的なガバナンスが実現されている。また、外部のサービスプロバイダーが提供する出版システムではなく、Janewayというオープンソースのシステムを自ら開発することで、OLHの理念にそぐわない企業によってサービスプロバイダーが買収されるというリスクを回避している9)

4. なぜダイヤモンドOAか:書誌多様性とOAコモンズ

OA運動の方向性を示した国際声明であるBudapest Open Access Initiative(以下BOAI)が公開された2002年から20年が経過した2022年、新たにBOAI20という声明が発表された。2002年のBOAIがOAを実現する方法としてゴールドOAとグリーンOAという2つの道を示していたのに対して10)、BOAI20ではゴールドOAの中でもダイヤモンドOAか若しくはグリーンOAという、APCに依存しない方法を優先的に支援することが推奨されている11)。また、ユネスコが2021年に発表したオープンサイエンスに関する勧告においても、ダイヤモンドOAという語が使用されているわけではないが、APCを課さない方法によるOAへの支援を推奨している12)

このようにダイヤモンドOAが推奨されるようになっている背景の一つには、書誌多様性(bibliodiversity)の保持という問題意識がある。書誌多様性とは、出版の世界における文化的な多様性を意味する概念である13)。APCが高額化している現状では、発展途上国の研究者や研究資金の少ない分野・機関に所属している研究者、キャリアの初期段階にいる研究者等は論文をOA誌に投稿することが困難となりつつある。また、OA出版に際して私企業が管理するインフラ(ここでは、投稿や査読、編集、組み版、保存といった諸プロセスを支える諸サービスを意味する)への依存が深まることは、小規模な分野や国・地域に特有の研究慣行が無視されたり、経営判断により将来的にOA誌へのアクセスが制限されたりするといったリスクを伴う。更に今日では、大手学術出版社が買収等の手段を通じてOA出版にかかるインフラの囲い込みを進めていることも指摘される11)。こうした状況の下ではOA出版の流通経路から締め出される研究者が出てくる―換言すると、書誌多様性が損なわれることが懸念される。

このとき、書誌多様性を保持しつつOA化を進めるための手段として、ダイヤモンドOAが期待されるようになっている。3章においてダイヤモンドOAを実現するには様々なビジネスモデルがあり得ることを述べたが、その中でも特に着目されているのは、OLHの例にみられるような、研究者が主導し、コミュニティが運営の主体となり、出版に際してオープンなインフラに依拠するダイヤモンドOAである。こうした方法によるダイヤモンドOAのことを、特にOAコモンズ(OA commons)と呼ぶこともある14)。また、先述のBOAI20やユネスコのオープンサイエンスに関する勧告においても、私企業による学術情報のコントロールの増大というリスクを抑えるという観点から、(必ずしもダイヤモンドOAには限らないが)非営利で研究者が主導するコミュニティによって運営されるオープンなインフラへの支援・投資が推奨されている。

5. ダイヤモンドOAに関する施策

ダイヤモンドOAには以上のような期待が寄せられている一方で、先述の実態調査5)から、ダイヤモンドOAが抱える課題も明らかとなっている。同調査によると、調査対象のダイヤモンドOA誌の60%がボランティア労働に依存しているほか、経営状態に関しても赤字若しくは財政状態が不明であるジャーナルが過半数を占めている。加えて、68%が保存ポリシーを策定していないことを踏まえると、ダイヤモンドOA誌の多くはその持続可能性に不安を抱えていると考えられる。また、半数程度は利用統計を提供していないなど、その可視性にも課題がみられる。

こうした課題を踏まえて、ダイヤモンドOAに関する推奨事項をまとめた報告書14)も上記実態調査と合わせて公表されている。この報告書は、①研究助成機関、②研究機関、③学会、④インフラ提供組織の4グループに対して、ダイヤモンドOA推進のために取り組むべき事項を5トピック・20項目に整理して示している(図表1)。同報告を受けて欧州では(OAコモンズとしての)ダイヤモンドOAを推進するためのアクションプラン15)が2022年3月に公開され、同年9月にはHorizon Europeより助成を受けたDIAMAS(Developing Institutional Open Access Publishing Models to Advance Scholarly Communication)と呼ばれる3年間のプロジェクトが始動している。DIAMASは欧州研究領域(Europeana Research Area)におけるダイヤモンドOAを推進することを目的としており、上記アクションプランの一部はDIAMASの下で実施されるという15)

図表1 ダイヤモンドOAに関する推奨事項図表1 ダイヤモンドOAに関する推奨事項
*日本語訳は筆者による
出典:Becerril, A., Bosman, J., BjØrnshauge, L., Frantsvåg, J. E., Kramer, B., Langlais, P.-C., Mounier, P., Proudman, V., Redhead, C., & Torny, D. (2021). OA Diamond Journals Study Part 2: Recommendations. https://doi.org/10.5281/zenodo.4562790

6. 終わりに

2010年代後半より、Plan Sに代表されるようにAPC型のOAの抱える諸課題の解決に向けた取組が進められているが、2020年以降にみられるようになった(OAコモンズとしての)ダイヤモンドOAへの注目の高まりは、OAに関する新たな潮流の兆しであると考えられる。このとき、前者が主に焦点を当てていたのは大手学術出版社が手掛けるSTEM分野の英語で刊行されるジャーナルであったのに対して、後者に関する取組では人文学・社会科学分野における英語に限らないジャーナルに焦点が当てられることも多い。特に最近では、論文にとどまらず、学術的な単行書をダイヤモンドOAとして公開するための大規模なプロジェクトも登場している16)

翻って日本では、APCの支援や対出版者交渉力の強化といった、APC型のOAに関する議論や取組が進められているところであるが17)、ダイヤモンドOAに関する国際動向についてはまだ十分に認識されていない向きもあるように思われる注2。もちろんダイヤモンドOAはOAが抱える諸問題を解決する万能薬などではなく、すべてのジャーナルにダイヤモンドOAが適しているわけでもないが、OAを実現するにはダイヤモンドOAという選択肢もあり得ることを知り、その意義や方法、課題、支援の在り方について理解を深めていくことは、今後の日本の学術情報流通政策を検討する際に有益であろう。


注1 クラリベイト社Web of Science XML(SCIE, 2021年末バージョン)を基に筆者集計。ここでいう「総論文」は、ArticleとReviewを指す。

注2 ただし、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営するJ-STAGEを介してOAとして公開されている論文の中には、2章で述べたダイヤモンドOAの要件を満たすものも含まれている。こうした、分野横断的に自国内の科学技術刊行物を公開することを目的として公的機関が一元的に管理するプラットフォームを活用することでダイヤモンドOAを実現するというモデルは、コミュニティ志向のOAコモンズとはまた異なるアプローチ方法であると考えられる。

参考文献・資料

1) 林和弘.(2014). オープンアクセスを踏まえた研究論文の受発信コストを議論する体制作りに向けて.科学技術動向,7・8月号,19–25. http://hdl.handle.net/11035/2964

2) Morrison, H., Borges, L., Zhao, X., Kakou, T. L., & Shanbhoug, A. N. (2022). Change and growth in open access journal publishing and charging trends 2011–2021. Journal of the Association for Information Science and Technology. https://doi.org/10.1002/asi.24717

3) 大学図書館コンソーシアム連合.(2022). 論文公表実態調査報告2021年度.
https://contents.nii.ac.jp/sites/default/files/justice/2022-03/2021_ronbunchosa_0.pdf

4) Eve, M. P. (2021). Diamond Mining. Plan S. https://www.coalition-s.org/blog/diamond-mining/

5) Bosman, J., Frantsvåg, J. E., Kramer, B., Langlais, P.-C., & Proudman, V. (2021). OA Diamond Journals Study Part 1: Findings. https://doi.org/10.5281/zenodo.4558704

6) Crow, R., Gallagher, R., & Naim, K. (2020). Subscribe to Open: A practical approach for converting subscription journals to open access. Learned Publishing, 33(2), 181–185.
https://doi.org/10.1002/leap.1262

7) Open library of humanities. (n.d.). A better path to open access for the humanities. Retrieved September 12, 2022, from https://www.openlibhums.org/media/files/olh_prospectus.pdf

8) Eve, M. P., & Byers, A. (2018). Janeway: a scholarly communications platform. Insights the UKSG Journal, 31. https://doi.org/10.1629/uksg.396

9) Eve, M. P., Vega, P. C., & Edwards, C. (2020). Lessons From the Open Library of Humanities. LIBER Quarterly: The Journal of the Association of European Research Libraries, 30(1), 1–18.
https://doi.org/10.18352/lq.10327

10) https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read/

11) https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai20/

12) UNESCO. (2021). UNESCO Recommendation on Open Science OPEN SCIENCE.
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379949.locale=en

13) International Alliance of Independent Publishers. (2014). International Declaration of Independent Publishers 2014: To Promote and Strengthen Bibliodiversity Together.
https://www.alliance-editeurs.org/IMG/pdf/international_declaration_of_independent_publishers_2014-2.pdf

14) Becerril, A., Bosman, J., BjØrnshauge, L., Frantsvåg, J. E., Kramer, B., Langlais, P.-C., Mounier, P., Proudman, V., Redhead, C., & Torny, D. (2021). OA Diamond Journals Study Part 2: Recommendations.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4562790

15) Ancion, Z., Borrell-Damián, L., Mounier, P., Rooryck, J., & Saenen, B. (2022). Action Plan for Diamond Open Access. https://zenodo.org/record/6282403#.YxhQlXbP0uU

16) https://www.copim.ac.uk/

17) https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20230302/siryo1-1.pdf