After Civilization

どうやら科学文明というのは意外に脆かったらしい。


科学技術の相互補完により発展してきた文明は、それ故にかつてない勢いで成長したが、またそれ故に一箇所の消失で全体の崩壊へと繋がってしまった。
アキレス腱となったのはコンピュータ技術。
将軍閣下は思ったよりも戦略眼のあるお方だったらしい。彼が死の間際に放った大陸間弾道ミサイルは稚拙な代物ではあったが、防衛網を擦り抜けて目標を半壊させるには充分程度の数によって欠点を補われていた。なにより各国にとって盲点だったのは、それが都市機能でも軍事施設でもなく、半導体製造施設及び世界最大の検索データベースへ向けられたこと。
これにより先進諸国は深刻なダメージを受けた。今や何をするにも検索エンジンなしでは成り立たなかったし、それを回復しようにも工場は向こう24ヶ月は稼動不能な状況にあり、機材が調達できない。
更に、事前に共謀していたのか機に素早く便乗したのか、複数の組織によると見られる大規模な電子的攻撃が相次ぎ、情報ネットワークそのものが壊滅的な被害を受けた。利便性と信頼性は完全に失われ、残存した情報の繋ぎ合わせも絶望的と思われた。なにしろ情報の相互参照性は複雑を極め、とても人間ひとりの頭で全容を把握しておくことなどできなくなっていたからだ。これまでは関連性の処理に優れたコンピュータがそれを補佐していたが、もはやその助けを借りることはできない。


さて、コンピュータ技術という情報連鎖の核を失った世界は、高度に発達していた筈の科学技術を一気に喪失した。紙メディアは失われて久しく、僅かに好事家のコレクションとしての古書が残存していたに過ぎない。電子メディアが意味を失った今、人類は最早文字記録すら覚束なくなっていたのだ。
ほどなく国家は崩壊し、人々は暗黒期に突入した。労働者の大半が生活の糧と無縁な仕事に就いていた先進国ほど状況は悲惨で、大規模農業も管理の手が回らなくなり全国的に飢餓が蔓延、医療もエネルギーも失った人々の死亡率は一気に上昇し、30年ほどで地球の人口は1/10にまで減少。


それから1000年。ひとたびは石器時代近くにまで逆戻りした文明レヴェルは漸く中世程度まで回復。徐々に科学というものを「再発見」しつつあるが、ひとつだけ大きく違うのは「古代超文明」の存在である。林立する高層建築群の残骸は森に呑まれたが、時折密閉を保った空間からまだ変性の進んでない謎の道具が発見される。
いつの日か、かつて遠い祖先が到達したという外宇宙へ再び進出する日が来るのだろうか。