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ブラジル経済に逆風!?レアルが過去最安値圏に沈んだ背景と転機の兆し

2024.12.09

2024年、ブラジル通貨レアルは外国為替市場で過去最安値圏に沈みました。対ドルで一時1ドル=6.02レアル、対円では1レアル=24.72円に迫る水準を記録。この記録的な通貨安は、ブラジル経済の構造的課題を浮き彫りにしました。

そこで今回は、ブラジル経済が抱える問題を多面的に分析しつつ、今後の行方について考察していきます。

過去最安値圏に至った背景:複合的な要因の絡み合い

2024年のブラジル通貨レアル安は、単なる財政政策の失敗にとどまらず、資源依存経済の限界、ルラ大統領に対する政治的不安、そしてグローバル市場の変化が複雑に絡み合った結果です。

主な要因としては下記の3つのポイントがあります。

【歳出削減案の市場の失望】

2023年に再任されたルラ大統領は、今後2年間で700億レアル(約1兆7500億円)の歳出削減案を発表しましたが、この額は2023年の歳出規模全体の3%に過ぎません。これにより、投資家は先行きが不透明なブラジル政府が本気で財政再建に取り組む意思がないと判断しました。さらに、低所得者層の税負担軽減を進める一方で、富裕層への増税を掲げていますが、この政策が経済成長に与える影響は不確実であると投資家が判断した結果と言えるでしょう。

【資源価格の停滞】

鉄鉱石や原油といった資源輸出がブラジル経済の生命線ですが、2024年のCRB指数(国際商品先物価格)は小幅な上昇にとどまり、資源価格の低迷が続いています。この資源依存構造が、ブラジル経済の外部要因への脆弱性を助長しているのです。

【中央銀行と政府の方針の不一致】

ブラジル中央銀行は、通貨防衛とインフレ抑制を目的に政策金利を大幅に引き上げた一方、ルラ政権は景気刺激策として利下げを求めており、両者の対立が株式市場の信頼を損ねる結果となり、投資家のレアル売りを加速させました。

ブラジル経済にも転機の兆し:複雑に絡み合うインフレと金利政策の行方

とはいえブラジル経済も決してマイナス材料ばかりではありません。

レアル安のブラジル経済は、高金利と物価高の共存が続く中、内需と外需の両面で課題を抱えていますが、その一方で悪材料の底打ちによる緩やかな経済上昇局面も期待され、その要因は下記のような条件があるからです。

【金融政策の変化と経済への影響】

ブラジル中央銀行はここ数年、インフレ抑制と為替安定を目的に一連の利上げを実施してきました。コロナ禍後の経済活動再開に伴い、輸入インフレが加速したため、累計で1175ベーシスポイント(bps)もの大幅な利上げを余儀なくされました。

多くの中央銀行が通常行う利上げ幅は25~50bps程度(0.25~0.50%ポイント)です。例えば、米国のFRB(連邦準備制度)は金利調整を行う際、通常25bps単位で動くことが多いです。

そのため、1175bpsの利上げは、短期間で政策金利を一気に引き上げる「異例の対応」と言えます。これは高インフレや通貨安といった非常事態に対処するための強硬な措置であり、物価の急上昇や経済の過熱を抑えることを目的としています。

この結果、実質金利(政策金利-インフレ率)は高い水準を維持し、実は投資家にとってブラジルの資産は魅力的な投資先ともいえるのです。

ただし、商品価格の高騰が一巡し、インフレが鈍化に転じた昨年以降、中央銀行は引き締め政策を緩和し、8月には利下げに舵を切りました。この金融緩和により、家計の債務負担が軽減し、消費支出が回復。さらに、企業部門の設備投資が活発化し、内需を押し上げる要因となっています。こうした動きは、ブラジル経済の成長を支える原動力となりつつあります。

【経済成長と内需の回復】

2024年上半期、ブラジル経済は内需の堅調さを背景に景気底入れの動きを見せています。第2四半期の実質GDP成長率は前期比年率で5.92%と力強い成長を記録。前年同期比でも3.3%の伸びを示し、堅調な経済活動が確認されています。

特に、家計消費の持ち直しが顕著です。インフレ鈍化による実質購買力の向上や雇用環境の改善が後押しとなり、消費支出は力強さを増しています。また、公共投資の進展や企業による設備投資の増加が固定資本形成を押し上げ、幅広い分野で内需が拡大しています。一方、輸出の伸びも堅調ですが、輸入の増加ペースがこれを上回っており、純輸出の成長寄与度は引き続きマイナスとなっています。

【政治と金融政策のせめぎ合い】

昨年発足したルラ政権は、景気下支えを目的に中央銀行に対してさらなる利下げを求める姿勢を強めています。しかし、インフレが再び上昇するリスクや財政状況の悪化への懸念があり、中央銀行は慎重な姿勢を崩していません。今年6月には利下げを一時停止し、7月の政策会合でも金利を据え置くなど、タカ派的な立場を維持しています。

さらに、ルラ大統領は中央銀行総裁の任命権をちらつかせ、圧力をかける姿勢を見せており、中央銀行の独立性に対する懸念が市場に影響を与えています。先月末、次期総裁に現職理事であるガリポロ氏を指名したことも注目されています。ガリポロ氏は当初ハト派と見られていましたが、近年の発言や政策姿勢を見る限り、タカ派的なアプローチを維持する可能性が高いとされています。

【ソーシャルメディアと政治リスク】

金融政策以外にも、ブラジル経済に影響を及ぼすリスク要因が存在します。その一つが、ソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)を巡る動きです。同社を率いるイーロン・マスク氏とブラジル最高裁判事のモラエス氏の対立が深まり、政治的な緊張が高まっています。

ブラジルでは、偽情報(フェイクニュース)の拡散が深刻な問題となっており、昨年には前大統領支持者による議会襲撃事件が発生しました。こうした背景から、モラエス判事は言論規制を強化する方向に動いていますが、これが行き過ぎた場合、民主主義の根幹を揺るがす恐れがあり、国内外の投資環境にも悪影響を及ぼす可能性があります。

おわりに

ブラジル経済は、高金利政策の緩和や内需拡大により回復の兆しを見せていますが、政治と経済政策の不一致や自然災害によるリスクが影を落としています。短期的には家計消費と設備投資の改善が景気を支える要因となる一方、長期的には構造改革と政治安定が経済成長の鍵を握るでしょう。投資家にとって、ブラジル市場はリスクが高いものの、適切なリスク管理を行うことで潜在的なリターンを得る可能性があるプロ向きの投資対象であり、戦略的な投資判断が求められるでしょう。

【参考資料】
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/2024/pdf/outlook241024.pdf
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/09/a14beb570b29283d.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN03DOG0T01C24A2000000/
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/09/0f03128bfb35d08c.html

文/鈴木林太郎

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