「もっと出世したい」「もっと年収を上げたい」生き急ぐ人が支払う大きな代償写真はイメージです Photo:PIXTA

「もっとフォロワーがほしい」「仕事の生産性をもっと高めたい」など、生活のあらゆる場面で“もっと”を望む人は多いだろう。だが、生産性コンサルタントのクリス・ベイリー氏によれば、その欲望を突き詰めすぎると代償がつきまとうという。その真意を、クリス・ベイリー著、児島修訳『CALM YOUR MIND 心を平穏にして生産性を高める方法』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・編集してお送りする。

成果を求めすぎる姿勢は
心の平穏を遠ざける

 境界線のない成果マインドセット(編集部注/“多くを成し遂げるために常に努力すべき”と人を駆り立てる習慣化した態度や信念のこと)は、喜びを減らし、忙しさを増し、慢性ストレスをもたらし、燃え尽き症候群に陥る確率を高める――これらはすべて、心の平穏を遠ざけるものだ。もちろん、成果マインドセットだけがこうした悪しき状態の原因であるわけではないが、それはこの火に油を注ぐものになる。

 僕は、慢性ストレスや燃え尽き症候群、不安がいかにありふれたものであるかを観察しながら、さらに問題を深く掘り下げていった。成果マインドセットは人の行動の多くを左右するが、そもそも何が僕たちを成果マインドセットに導いているのだろうか?

 成果マインドセットの根底にあるのは、僕たちが「もっと」を執拗に追求することにある。それは、どんな状況でも、どんな犠牲を払っても「もっと」を求めようと僕たちを駆り立てる態度のことだ。僕はこれを「モア(もっと)・マインドセット」と呼んでいる。成果マインドセットは、この「モア・マインドセット」のひとつの現れにすぎない。

 このマインドセットが行き過ぎると、「もっと」が日々を測る物差しになってしまう。「もっとお金を稼げたか?」「もっとフォロワーを増やせたか?」「もっと生産性が向上したか?」。もちろん、人類が「もっと」を求めて絶え間なく努力してきたからこそ、今の世界は成り立っている。だが、人は「“もっと多く”を求め続けることは、本当に良い人生につながるのだろうか?」と立ち止まって考えようとしない。

 このマインドセットがどれだけ世の中に広く浸透しているかを示す証拠として、僕たちがどれだけ頻繁に矛盾するものを追い求めて、寝技でお互いの身体を複雑に絡ませ合う柔術の選手みたいに、不思議な二重思考に陥っているかを考えてみよう。

・もっと健康になって、6つに割れた腹筋(シックスパック)を手に入れたいが、お気に入りのフードデリバリーアプリを使ってもっと中華料理を注文したい。

・もっと大きな家に住んで、もっと質の良いモノに囲まれて暮らしたいと思っているが、優雅な老後生活を過ごすために、もっとお金を貯めたい。