【硝材の製作】
すばる主鏡用の硝材(ガラス材料)は、わずかな変形も嫌うため、できるかぎり熱膨張係数が小さい材料が求められます。実用温度域において、熱膨張係数0の硝材が2種類実用化されています。コーニング社のULE、ドイツ・ショット社のゼロデューワです。どちらを使うか、天文台内で技術検討を経て、コーニング社のULEに決定になりました。その決定理由に、大口径材の製造実績があったように思います (kamakuraufuさんのご回答)。
熱膨張0の硝材は、特殊用途で、それほど需要が大きくありません。日本の技術力が現在のように高くなる以前からULEとゼロデューワが実用化されており、需要を満たしているため、新たに日本製の熱膨張0の硝材を開発しようとする動きはないようです。
【主鏡の製作】
まず経緯を説明すると、
径8mの主鏡研磨を受けてくれるかどうか、世界中のメーカーに打診したところ、米国のアリゾナ州立大学とコントラベス社の2社のみが受けても良いとの回答を返しました。その中から、コントラベス社に決定されました。
コントラベス社は、大きな径の研磨加工の経験は無かったようなのですが、技術的に克服したようです。その詳細は、kamakuraufuさんご説明の通りです。
アリゾナ州立大学というと不思議に思うかもしれませんが、米国では、大学が会社を所有している事例が少なくありません。
米国の会社になったのは、産業構造の違いにあります。
日本では、1個生産の特殊用途品の市場が大きくなく、単品で高精度な特殊品を製作する産業が育っていません。一方で、米国は宇宙関係など1個生産の特殊用途品の市場が大きく、それに対応する会社が何社もあります。
米国の会社だと、すばる以降も別のところからの注文が期待できますが、日本の会社だとまず次の注文は期待できないでしょう。
製作は米国の会社に委託しましたが、設計と製作仕様の決定は日本です。
また、不確実な情報ですが、米国内に設置するのに米国の会社に何も発注しないのはまずい、という配慮も働いていたようです。
技術面では、高精度研磨加工において、ニコンとキヤノンは世界トップクラスの技術を有する数社のうちの2社です。この技術は、半導体製造装置の生産に実用化されています。
【その他】
主鏡、副鏡を除いては、すばるは日本のメーカーによって製作されました。
メインコントラクター ・・・ 三菱電機
※コーニング、コントラベス社への発注も三菱電機が発注したものです。
周辺光学系 ・・・ ニコン、キヤノン
※主鏡、副鏡以外の光学系、すなわち観測機器用の光学系を、すばるでは「周辺光学系」と呼んでいます。「周辺」という名称でも、望遠鏡が大きいだけに、その種類、数は多く、どれも簡単には作れないものです。
鏡筒およびドーム回転機構 ・・・ 日立造船
※日立造船の大阪の造船所で製造されましたが、すばる鏡筒を最後の出荷物として造船所は閉鎖され、跡地は現在ユニバーサルスタジオとなっています。
ソフトウェア ・・・ 富士通
主鏡成膜装置 ・・・ 日本真空
※ドーム1Fに設置されていて、年に1回、ミラーを成膜しなおします。
ドーム建設 ・・・ 大成建設
主鏡運搬 ・・・ 日本通運
※米国では、TV中継されるイベントでした。
例えばsittakariderさん 回答の主鏡形状補正ですが、形状検査装置:キヤノン、ソフトウェア:富士通、形状補正駆動および全体システム:三菱電機です。
キヤノンが製作した主焦点補正光学系は抜群の性能で、それを搭載した主焦点カメラSuprime-Camは広視野で高分解能で、他の大型望遠鏡にはない、すばるの特長になっています。
主焦点補正光学系をさらに広視野に作り変え、ダークエネルギーの研究に役立てようとするプロジェクトがスタートしています。