Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

自分のロック感を作ったアーティスト(9)the Yardbirds

the Yardbirds [ザ・ヤードバーズ]

origin: London, England, U.K.


Five Live Yardbirds [ファイヴ・ライヴ・ヤードバーズ]

 1st studio album
 released: 1964/12/04
 producer: Giorgio Gomelsky

  • Side one
    1. Too Much Monkey Business
    2. I Got Love If You Want It
    3. Smokestack Lightnin'
    4. Good Morning Little Schoolgirl
    5. Respectable
  • Side two
    1. Five Long Years
    2. Pretty Girl
    3. Louise
    4. I'm a Man
    5. Here 'Tis

[comment]
 ブルーズやR&Bをカヴァーしたライブ盤で且つデビュー・アルバム。
 リード・ギターはエリック・クラプトン
 ライヴ盤をデビュー・アルバムにしたアーティストと言えば、MC5 [エム・シー・ファイヴ] や Jane's Addiction [ジェーンズ・アディクション] がいるのだが、その始まりは、この the Yardbirds なのではないだろうか?
 シンガーのキース・レルフは何かにつけ歌が下手だと言われるが、著しく音を外すようなタイプではなく、個性に乏しいタイプのシンガーなのだと思う。
 その代わりといっては何だが、ブルース・ハープは上手い。
エリック・クラプトンの若き日のライヴ演奏が収録されているので、ロックの史料として重要な価値を持つライヴ盤でもある。


For Your Love [フォー・ユア・ラヴ]

 compilation album
 released: 1965/07/05
 producer: Giorgio Gomelsky

  • Side one
    1. For Your Love
    2. I'm Not Talking
    3. Putty (In Your Hands)
    4. I Ain't Got You
    5. Got to Hurry (take 3)
    6. I Ain't Done Wrong
  • Side two
    1. I Wish You Would
    2. A Certain Girl
    3. Sweet Music (stereo, take 3)
    4. Good Morning Little Schoolgirl
    5. My Girl Sloopy

[comment]
 1曲目に収録されているヒット曲の "For Your Love" はサイケデリック・サーフ・ポップという感じであり、この曲での the Yardbirds はデビュー盤リリース時とは別のバンドになっている。
 米国では、1stスタジオ・アルバムという扱いなのだが、その実態は、アーティストの意向が反映された作品ではなく、米国市場向けに編集されたコンピレーション・アルバムだ。
 デビュー・アルバムがライヴ盤で、次がコンピレーション・アルバムというリリースの流れは何とも変則的だ。
エリック・クラプトンは "For Your Love" でバンドに嫌気が差して脱退しており、収録曲はクラプトンが弾いた曲と、後任のジェフ・ベックが弾いた曲が混在している。
 ブルーズっぽい演奏も残ってはいるのだが、確かにこの方向性に舵を切ったバンドに対し、クラプトンが脱退を決意したのは仕方のないことだと思う。


Having a Rave Up with the Yardbirds [ハヴィング・ア・レイヴ・アップ]

 compilation album
 released: 1965/11/30
 producer: Giorgio Gomelsky

  • Side one
    1. You're a Better Man Than I
    2. Evil Hearted You
    3. I'm a Man
    4. Still I'm Sad
    5. Heart Full of Soul
    6. The Train Kept A-Rollin'
  • Side two
    1. Smokestack Lightning
    2. Respectable
    3. I'm a Man
    4. Here 'Tis

[comment]
 米国では、2ndスタジオ・アルバムという扱いなのだが、前作に引き続きコンピレーション・アルバムだ。
 A面(Side one)はジェフ・ベック、B面(Side two)エリック・クラプトン、しかも、Five Live Yardbirds と被っている。
 めっちゃ中途半端な編集だが、"I'm a Man" がベック版とクラプトン版であえて被らせて収録されているのは逆に嬉しい。
 しかし、このアルバムの価値は "The Train Kept A-Rollin'" が収録されていることだ。
 今となっては Aerosmith 版の方が有名だが、Yardbirds 版の "The Train Kept A-Rollin'" を聴くと、これが後のハード・ロックの原点であることが理解できるはずだ。


Roger the Engineer [ロジャー・ジ・エンジニア]

 1st studio album
 released: 1966/07/15
 producer: Simon Napier-Bell, Paul Samwell-Smith

  • Side one
    1. Lost Woman
    2. Over Under Sideways Down
    3. The Nazz Are Blue
    4. I Can't Make Your Way
    5. Rack My Mind
    6. Farewell
  • Side two
    1. Hot House of Omagararshid
    2. Jeff's Boogie (Rechanneled)
    3. He's Always There
    4. Turn into Earth
    5. What Do You Want
    6. Ever Since the World Began

[comment]
 英国における正式な1stスタジオ・アルバム。
 リード・ギターはジェフ・ベック
 これは全2作のようなコンピレーション・アルバムではなく、the Yardbirds というアーティストの意向が反映されたアルバムだ。
 後の the Jeff Beck Group ~ ソロのようなベックを中心に据えたアルバムではなく、バンドの一員としてのベックの演奏が記録された貴重なアルバムだ。
 とは言え、やはり、ベックの自由奔放で切れ味の鋭いギターが目立つ曲が多い。
 このバンドお得意のブルーズだけではなく、当時の流行だったインド風の曲やサイケな曲もある。
 キース・レルフは声が細いのでブルーズには向いていないのだが、インド風の曲やサイケな曲にはけっこう合っている。


Little Games [リトル・ゲームズ]

 1st studio album
 released: 1967/07/24
 producer: Mickie Most

  • Side one
    1. Little Games
    2. Smile on Me
    3. White Summer
    4. Tinker, Tailor, Soldier, Sailor
    5. Glimpses
  • Side two
    1. Drinking Muddy Water
    2. No Excess Baggage
    3. Stealing Stealing
    4. Only the Black Rose
    5. Little Soldier Boy

[comment]
 英国における正式な2ndスタジオ・アルバム。
 リード・ギターはジミー・ペイジ!(というか、このアルバムでのギターはペイジ一人だけであり、4ピース・バンドになっている)
 Yardbirds 史上、ブルーズから最も離れ、且つ、最もポップなアルバムであり、最後のアルバムでもある。
 前作から引き続きインド風の曲があり、これが後に New Yardbirds を経て、Led Zeppelin にも引き継がれていくことになる。
 しかしながら、このアルバムに Led Zeppelin のプロトタイプ的な要素が有るかと言えば殆ど無い。
 このアルバムはポップな Yardbirds を楽しむためのものであり、Led Zeppelin の源流を求めるためのものではない。


Birdland [バードランド]

 studio album
 released: 2003/04/21
 producer: Ken Allardyce

  1. I'm Not Talking
  2. Crying Out for Love
  3. The Nazz Are Blue
  4. For Your Love
  5. Please Don't Tell Me 'Bout the News
  6. Train Kept a Rollin'
  7. Mr. Saboteur
  8. Shapes of Things
  9. My Blind Life
  10. Over Under Sideways Down
  11. Mr. You're a Better Man Than I
  12. Mystery of Being
  13. Dream Within a Dream
  14. Happenings Ten Years Time Ago
  15. An Original Man (A Song for Keith)

[comment]
 92年に再結成して活動を再開した Yardbirds が、35年振り、2003年にリリースしたスタジオ・アルバム。
 オリジナル・メンバーはクリス・ドレヤ (rhythm guitar) とジム・マッカーティ (drums) の二人だけだが、Yardbirds 往年の名曲が現代の録音技術で蘇っている(とは言っても録音は 2001~2003 なので今となってはけっこうな過去なのだが)
 この手のアルバムは深いことを考えずに、ただただ楽しんで聴けばいい。
 超有名なギタリスト達がゲスト参加しているのだが、注目すべきは "My Blind Life" でのジェフ・ベックの参加だ。
 個人的には "For Your Love" でのジョン・レズニック (Goo Goo Dolls) 、そして、"Shapes of Things" でのスティーヴ・ヴァイの参加が嬉しい。


~ 総括 ~

the Yardbirds と言えば、エリック・クラプトンジェフ・ベックジミー・ペイジという3大ギタリストが在籍していたバンドということばかりが取り沙汰され、バンドそのものの魅力が語られることは少ない。

 たぶん、その理由の1つはオリジナル・アルバムが少ないからではないだろうか?

 「自分のロック感を作ったアーティスト」と題して文章を書くにあたっては、そこそこ長い活動期間があって、リリースしたアルバムの枚数が多いアーティストを取り上げるようにしているのだが、あまりにも長すぎる場合は逆にちょっと取り上げにくい。

 例えば、the Ventures は、間違えなく「自分のロック感を作ったアーティスト」であり、大好きなバンドなのだが、あまりにもディスコグラフィが膨大なので、どのような切り口で取り上げたらいいのか分からない。

 今回取り上げた the Yardbirds は、64年にデビューし、68年に解散しているので、そもそもバンドの寿命そのものが短い。

 この時代のバンドは1年に2~3枚のオリジナル・アルバムをリリースするのが普通だった。

 そんな時代において、Yardbirds は、ライヴ・アルバムが1枚、スタジオ・アルバムが2枚という少なさである(コンピレーション・アルバムは除く)。

 ロックの歴史に燦然と輝くような名盤を残していないので、上述のとおりバンドそのものの魅力を語ることが極めて難しため、the Beatlesthe Rolling Stonesthe Kinksthe Who、Small Faces あたりと比べると、どうしても地味な印象がある。

 かと言って the Pretty Things のようなマニアックな人気があるわけでもない。

 しかし、演奏技術、特にギタリストの演奏技術に関しては他のバンドを寄せ付けない凄味がある。

 クラプトンもベックもペイジも、3人それぞれに上手いのだが、特にベックの上手さはこの時点で既に神懸っている。

 ギターの音には歪みが無く、細くて軽い録音なのだが、演奏技術に関しては、後の the Jeff Beck Group 以降と同じくらいのレベルで弾いている。

 もし、ベックは好きだけど、Yardbirds には手を出していないというのであれば絶対に聴くべきだ。

 一般的に60年代における英国の3大バンドと言えば、the Beatlesthe Rolling Stonesthe Who だと言われているが、筆者にとっての3大バンドは、Small Faces、the Pretty Things、そして、the Yardbirds なのである。

自分のロック感を作ったアーティスト(8)Jeff Beck [Beck, Bogert & Appice 期]

Beck, Bogert & Appice [ベック・ボガート&アピス]

origin: Pittsburgh, Pennsylvania, U.S.


Beck, Bogert & Appice [ベック・ボガート&アピス]

 1st studio album (the only studio album)
 released: 1973/03
 producer: Don Nix, Beck, Bogert & Appice

  • Side one
    1. Black Cat Moan
    2. Lady
    3. Oh to Love You
    4. Superstition
  • Side two
    1. Sweet Sweet Surrender
    2. Why Should I Care
    3. Lose Myself with You
    4. Livin' Alone
    5. I'm So Proud

[comment]
 第2期 Jeff Beck Group ではメイン・ギターにフェンダーストラトキャスターを使っていたが、このアルバムではギブソンレスポールに戻しているので、音色は第1期 Jeff Beck Group に近い。
 しかし、楽曲は、第2期 Jeff Beck Group で掘り下げたソウル・ミュージックやモータウンに傾倒した曲が多い。
 そもそもこのバンドは、元 Vanilla Fudge [ヴァニラ・ファッジ] のティム・ボガート(ba/vo) とカーマイン・アピス(dr) という強力ななリズム隊に、ロッド・スチュワート(vo) を加えた4ピースによるバンド結成を計画していたところから始まったのだが、ジェフの自動車事故が原因でバンド結成の中止を余儀なくされている。
 その後、第2期 Jeff Beck Group の解散を経て、ロッドを除く3人で3ピース・バンドとして結成されたのだが、ティムとカーマインの歌が予想以上に良い(ロッドの歌で聴いてみたい気もするのだが...)。
 いただけないのは、1曲目、"Black Cat Moan" におけるジェフのリード・ヴォーカルだ。
 新バンドによる大切なデビュー・アルバムの1曲目で、なんで歌っちゃったのかなぁ~とう感じである。


Live in Japan [ベック・ボガート&アピス・ライヴ・イン・ジャパン]

 live album
 released: 1973/10
 producer: The Boys (Beck, Bogert & Appice)

  • Side one
    1. Superstition
    2. Lose Myself with You
    3. Jeff's Boogie
  • Side two
    1. Going Down
    2. Boogie
    3. Morning Dew
  • Side three
    1. Sweet Sweet Surrender
    2. Livin' Alone
    3. I'm So Proud
    4. Lady
  • Side four
    1. Black Cat Moan
    2. Why Should I Care
    3. Plynth/Shotgun (Medley)

[comment]
スティーヴィー・ワンダーがら送られた "Superstition"(迷信)は、スタジオ盤ではA面ラストという重要な位置に収められていたが、このライヴ盤ではA面トップを飾っている。
 スタジオ盤とは、曲の始まり方が全然違うので(ライヴ盤ではトーキング・モジュレーターを使っている)、初めて聴いたときは "Superstition" だと気付くのに一瞬遅れたのだが、筆者はライヴ盤の方が好きだ。
 続く2曲目の "Lose Myself with You"(君に首ったけ)は、10分を超えるインプロヴィゼーションの応酬であり、バンド名のとおり Beck, Bogert & Appice を堪能できる(ちなみに、スタジオ盤では3分ちょっと)。
 日本公演という特殊な環境がそうさせたのか、このライヴ盤はジェフ・ベックが演奏を楽しんでいる姿が目に浮かんでくる。


~ 総括 ~

ジェフ・ベックの長い活動歴の中で、Beck, Bogert & Appice は一瞬の通過点のようで、それほど重要な位置付けをされていないような気がする。

 しかし、ジェフにとって、BBA という存在は、その後の活動に大きな影響を与えたのではないだろうか?

 ジェフは、第1期 Jeff Beck Group でロッド・スチュワートという稀代のシンガーと出会っている。

 そして、その後、BBA でティム・ボガート、カーマイン・アピスという個性的で凄腕のベーシストとドラマーに出会った。

 BBA の解散以降、ジェフの活動はパーマネントなバンド活動は無くなり、ソロが中心となった。

 一緒に演奏するミュージシャンは流動的になり、楽曲もインストゥルメンタルが中心となった。

 これは、即ち、BBA の解散を経て、ロッドのようなシンガー、ボガート&アピスという強力なリズム隊がなければ、バンドは成立しないと悟ったのではないだろうか?

 たった1つのパートでも、自分から見て「上手い」と認められないメンバーがバンドの中にいるのが耐えられなくなったのではないだろうか?

 しかし、それほどの腕を持つミュージシャンと長期にわたるバンド活動は難しい。

 それなら、自分を中心に据えて、そのとき最高と思えるメンバーと一緒に演奏をするソロというスタイルをとるようになったのではないだろうか?

 もしそうなら、おこがましいかもしれないが、そんな気持ちが筆者にも少し分かる。

 筆者の仕事は技術職であり、他の技術者と一緒に仕事をすることは多々あるのだが、下手な技術者と一緒に仕事をするときは精神的なストレスが滅茶苦茶大きいので、四六時中いらいらしてしまうのである。

 繰り返しになるが、BBA はジェフにとって、大きな転換期となった重要な時期だと思っている。

 第1期と第2期の Jeff Beck Group、そして、BBA は取り上げたので、今後は折を見てソロ・アルバムも取り上げていきたい。

自分のロック感を作ったアーティスト(7)Bob Seger [the Bob Seger System ~ Solo]

the Bob Seger System [ザ・ボブ・シーガー・システム]

origin: Detroit, Michigan, U.S.


Ramblin' Gamblin' Man [ランブリン・ギャンブリン・マン]

 1st studio album
 released: 1969/01
 producer: The Bob Seger System & Punch Andrews

  • Side one
    1. Ramblin' Gamblin' Man
    2. Tales of Lucy Blue
    3. Ivory
    4. Gone
    5. Down Home
    6. Train Man
  • Side two
    1. White Wall
    2. Black Eyed Girl
    3. 2 + 2 = ?
    4. Doctor Fine
    5. The Last Song (Love Needs to Be Loved)

[comment]
ボブ・シーガーと言えば「ハートランド・ロックの雄」というのが彼のイメージだと思うのだが、the Bob Seger System 名義でリリースしたデビュー・アルバムは、そんなパブリック・イメージとは全く異なるので初めて聴いたときは戸惑いを覚えた。
 酩酊感の漂うサイケデリック・ロックや、歪んだギターが荒々しく鳴るガレージ・ロックなど、この時期のボブ・シーガーは同郷 (ミシガン州) の the Stooges [ザ・ストゥージズ] や MC5 [エム・シー・ファイヴ] に近い。
 ただしアングラ感は稀薄であり、後に米国の国民的シンガーに登り詰める彼のメジャー感は、この時点で既に感じることができる。


Noah [ノア]

 2nd studio album
 released: 1969/09
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Noah
    2. Innervenus Eyes
    3. Lonely Man
    4. Loneliness Is a Feeling
    5. Cat
  • Side two
    1. Jumpin' Humpin' Hip Hypocrite
    2. Follow the Children
    3. Lennie Johnson
    4. Paint Them a Picture Jane
    5. Death Row

[comment]
 A面1曲目、アルバムのオープニングを飾る "Noah" だけが全体の中で異様に浮いている気がする。
 A面2曲目からB面5曲目までの9曲は同質の緊張感を備えているのだが、"Noah" だけは牧歌的な曲であり、何故この曲をオープニングに選んだのか謎だ(逆に "Noah" だけが、ちょっとハートランド・ロックっぽい)。
 A面ラストに入れて、B面への切り換えとして使うなら納得できるのだが、アルバムのタイトルチューンなので思い入れが深い曲なのかもしれない。
 しかし、A面2曲目の "Innervenus Eyes" をオープニングに持ってきた方がリスナーの心を掴めると思うのだが...


Mongrel [モングレル]

 3rd studio album
 released: 1970/08
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Song to Rufus
    2. Evil Edna
    3. Highway Child
    4. Big River
    5. Mongrel
    6. Lucifer
  • Side two
    1. Teachin' Blues
    2. Leanin on My Dream
    3. Mongrel Too
    4. River Deep, Mountain High

[comment]
 the Bob Seger System というバンド名で、且つ、歌っているのがボブ・シーガーなので彼のワンマン・バンドであることは否めないのだが、このアルバムは the Bob Seger System としてリリースした3作の中で最もバンド・サウンドを感じさせてくれる。
 とりわけボブ・シュルツのオルガンは印象深く、このアルバムでの the Bob Seger System は、Vanilla Fudge [ヴァニラ・ファッジ] や 第1期 Deep Purple [ディープ・パープル] に通じるアート・ロック的側面もある。
 これを最後にバンドは解散となり、ボブ・シーガーはソロ・アーティストになるのだが、成り行きとしてソロになったものの、本当のところボブ・シーガーはバンドとして活動したかったのではないだろうか?


Bob Seger [ボブ・シーガー]

origin: Detroit, Michigan, U.S.


Brand New Morning [ブランド・ニュー・モーニング]

 4th studio album (1st solo album)
 released: 1971/10
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Brand New Morning
    2. Maybe Today
    3. Sometimes
    4. You Know Who You Are
  • Side two
    1. Railroad Days
    2. Louise
    3. Song for Him
    4. Something Like

[comment]
 the Bob Seger System 解散後、ソロ・アーティストとなってリリースされた本作は、ボブ・シーガー自身が弾くギターとピアノの上に憂いのあるヴォーカルを乗せただけのシンプルな弾き語りアルバムとなった。
 バンド時代とは明確に音楽性を変えているのだが、この時点でも、まだ後の「ハートランド・ロックの雄」というイメージからはかけ離れている。
 個人的には、ここに収められているちょっとローファイな曲は好みなのだが、当時リアルタイムでバンド時代からボブ・シーガーを追いかけていた人にしてみれば「全然違うやん」と感じたのアルバムだったのではないだろうか?


Smokin' O.P.'s [スモーキンO.P.’s]

 5th studio album
 released: 1972/08
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Bo Diddley
    2. Love the One You're With
    3. If I Were a Carpenter
    4. Hummin' Bird
  • Side two
    1. Let It Rock
    2. Turn on Your Love Light
    3. Jesse James
    4. Someday
    5. Heavy Music

[comment]
 A面はボ・ディドリー、スティーヴン・スティルス、ティム・ハーディン、レオン・ラッセルのカヴァー、そして、B面の1曲目がチャック・ベリーのカヴァー!
 強烈に米国を感じさせる選曲であり、ボブ・シーガーのロック・シンガーとして力量が存分に発揮されたアルバムだ。
 自作曲は2曲だけ最後にひっそりと収められており、カヴァーを前面に押し出した構成は、ここで一区切り付けようとした印象を受ける。
 筆者は煙草を吸わない(というより煙草に嫌悪感がある)ので、このアルバム・カヴァーが有名な煙草の銘柄をモチーフにしていることを永年に渡り気付かなかった。


Back in '72 [バック・イン・72]

 6th studio album
 released: 1973/01
 producer: Punch Andrews, Bob Seger

  • Side one
    1. Midnight Rider
    2. So I Wrote You a Song
    3. Stealer
    4. Rosalie
    5. Turn the Page
  • Side two
    1. Back in '72
    2. Neon Sky
    3. 've Been Working
    4. I've Got Time

[comment]
 これまでのアルバムも名盤揃であり、個人的にボブ・シーガーのアルバムにハズレは無いと思っているのだが、このアルバムは一皮むけた感じがする。
 前作ほどではないが、the Allman Brothers Band [オールマン・ブラザーズ・バンド] の初期の名曲 "Midnight Rider"、ヴァン・モリソンの "I've Been Working"、そして、筆者が愛する Free [フリー] の "Stealer" といった秀逸なカヴァーが収録されている。
 そして、逆に、Thin Lizzy [シン・リジィ] にカヴァーされることになる名曲 "Rosalie" も収録されている。
 シーガーの熱唱に胸が絞めつけられる切ないバラードの "Turn the Page は永遠の名曲だ。"


Seven [セヴン]

 7th studio album
 released: 1974/03
 producer: Punch Andrews, Bob Seger

  • Side one
    1. Get Out of Denver
    2. Long Song Comin'
    3. Need Ya
    4. School Teacher
    5. Cross of Gold
  • Side two
    1. U.M.C. (Upper Middle Class)
    2. Seen a Lot of Floors
    3. 20 Years from Now
    4. All Your Love

[comment]
 the Bob Seger System 時代から数えて7枚目のアルバムだから Seven なのだろうか?
 今回は全曲、ボブ・シーガーのペンによるオリジナルであり、カヴァー曲は無い。
 前作から、その兆候はあったが、いよいよハートランド・ロックっぽくなってきた。
ハートランド・ロックというジャンル名は日本では浸透していないので分かりにくいかもしれないが、70年代から80年代を通して人気を博す典型的なアメリカン・ロックなのだが、このアルバムはその原型である。


Beautiful Loser [美しき旅立ち]

 8th studio album
 released: 1975/04
 producer: Bob Seger, Muscle Shoals Rhythm Section, Punch Andrews

  • Side one
    1. Beautiful Loser
    2. Black Night
    3. Katmandu
    4. Jody Girl
  • Side two
    1. Travelin' Man
    2. Momma
    3. Nutbush City Limits
    4. Sailing Nights
    5. Fine Memory

[comment]
ボブ・シーガーが本格的にブレイクするのは、Bob Seger & the Silver Bullet Band [ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド] としてリリースした、次作 Night Moves からだが、このアルバムはチャート成績では次作に及ばないものロックの歴史に刻まれた名盤である。
ハートランド・ロックには「男らしい」とか「勇ましい」というイメージを持たれがちだが、実は意外と弱々しいのである。
 メロディーや歌詞も繊細であり、このアルバムも正にそのとおりのアルバムだ。
 タイトルの「美しい敗者」のとおり、敗れっ去った者たち向けた優しがある。


~ 総括 ~

ハートランド・ロックの四天王と言えば、Bruce Springsteen [ブルース・スプリングスティーン]、Tom Petty [トム・ペティ]、John Mellencamp [ジョン・メレンキャンプ]、そして今回取り上げたボブ・シーガーである。

 はっきり言って、ブルース・スプリングスティーン以外、日本ではあまり人気が無さそうである。

ハートランド・ロックというジャンル名が日本では浸透しておらず、ロックを聴いている人でも「何それ?」って感じなのではないだろうか?

ハートランドとは、米国の中西部地域のことらしいのだが、上記した四天王のうち、ジョン・メレンキャンプインディアナ州の出身なのでハートランドだが、ブルース・スプリングスティーンニュージャージー州トム・ペティフロリダ州ボブ・シーガーミシガン州の出身なのでハートランドではない。

ハートランドには「心のふるさと」という意味もあるようなので、ハートランド・ロックは地域を指したジャンル名ではなさそうにも思えるのだが、未だによく分からない。

 よくわからないのだが、筆者にとっては、ロックン・ロール、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル、サザン・ロックと並んで好きなロックの上位に位置するジャンルである。

 「ブルース・スプリングスティーン以外、日本ではあまり人気が無さそうである」と書いたが、その中でも日本ではボブ・シーガーが最も知られていないと思われる。

 今まで「ロックが好き」という人には何人も出会ってきたが、「ボブ・シーガーが好き」という人には出会ったことが無い。

 筆者がボブ・シーガーを聴く切っ掛けは、80年代に購読していた「音楽専科」という雑誌でボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンドが86年にリリースした Like a Rock というアルバムのレビューを読んだときである。

 当時、ブルース・スプリングスティーンBorn in the U.S.A.トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズSouthern Accentsジョン・クーガー・メレンキャンプScarecrow で、この手のロックに嵌り始めていた筆者は、上記のレビューを読んで「次はこれだ!」と直感的なひらめきを感じ、Like a Rock を購入したのである。

 当時のレコードの価格は2,500~2,800円くらいであり、10代の筆者にとっては大きな買い物なので一か八かの大博打だったのだが(当時は視聴できるような環境は殆どない)、結果は「勝ち」であり、その後、現在に至るまで何十年も聴き続ける愛聴盤となった。

Like a Rock 以降、他のアルバムも徐々に聴いていったのだが、今回取り上げた初期のアルバムは、筆者が好きな80年代のボブ・シーガーとあまりにも違っていたので取っ付きにくかった。

 しかし、これは大金を払ってレコードを買っていた時代の良さだと思うのだが、払った分を何とか取り返そうと思い、何度も何度もレコードを聴くのである。

 そして、何度も聴いているうちにレコードの中に好きな音が見つかり始め、そのレコードが好きになるという現象が起きるのだ(もちろん、時にはどうしても好きになれないケースもある)。

 現在の筆者は配信サービスで音楽を聴いており、レコードやCDなどを全く買わなくなったので、もうボブ・シーガーの初期のアルバムを好きになったときのような音楽の聴き方はできなくなってしまった。

自分のロック感を作ったアーティスト(6)Free

Free [フリー]

origin: London, England, U.K.


Tons of Sobs [トンズ・オブ・ソブス]

 1st studio album
 released: 1969/03
 producer: Guy Stevens

  • Side one
    1. Over the Green Hills (Pt. 1)
    2. Worry
    3. Walk in My Shadow
    4. Wild Indian Woman
    5. Goin' Down Slow
  • Side two
    1. I'm a Mover
    2. The Hunter
    3. Moonshine
    4. Sweet Tooth
    5. Over the Green Hills

[comment]
 このアルバム・リリース時のメンバーはの年齢は、ポール・ロジャース (vo) 19歳、サイモン・カーク (dr) 19歳、ポール・コゾフ (gt) 18歳、アンディ・フレイザー (ba) に至っては 16歳である。
 日本で言うところの未成年から成るバンドなのだが、渋いという言葉では表現しきれないほど大人びた曲ばかりが収録されていて、特にロジャースのヴォーカルの上手さと色気はとても19歳とは思えない。
 ブルーズと言えばブルーズなのだが、本場米国のブルーズとは異なるブリティッシュ・ブルーズ・ロックであり、強烈に湿り気を帯びている。
 今となっては愛聴盤なのだが、最初に聴く Free のアルバムとしては向いていない。


Free [フリー]

 2nd studio album
 released: 1969/10
 producer: Chris Blackwell

  • Side one
    1. I'll Be Creepin
    2. Songs of Yesterday
    3. Lying in the Sunshine
    4. Trouble on Double Time
    5. Mouthful of Grass
  • Side two
    1. Woman
    2. Free Me
    3. Broad Daylight
    4. Mourning Sad Morning

[comment]
 アルバム・カヴァーが前作の不気味なデザインとは真逆の美しいデザインに変っており、楽曲の方もブリティッシュ・ブルーズ・ロックであることに変りわないのだが弾むようなしなやかさが増している。
 8曲がポール・ロジャース (vo) とアンディ・フレイザー (ba) のコンビによって書かれ、残りの1曲はメンバー全員によって書かれており、カヴァー曲がないのも前作との大きな違いだ。
 次作のようにビッグ・ヒットを含むキャッチーなアルバムではないのだが、ロジャース/フレイザーの楽曲の基本はここにあるので、このアルバムから Free を聴き始めるのも有りだと思う。
 最終曲 "Mourning Sad Morning" で聴けるクリス・ウッドのフルートの音色が切なくて悲しい。


Fire and Water [ファイアー・アンド・ウォーター]

 3rd studio album
 released: 1970/06
 producer: Free

  • Side one
    1. Fire and Water
    2. Oh I Wept
    3. Remember
    4. Heavy Load
  • Side two
    1. Mr. Big
    2. Don't Say You Love Me
    3. All Right Now

[comment]
 ブリティッシュ・ロックを掘り下げていくと必ず辿り着き、そして、絶対に避けて通ることのできない名盤中の名盤。
 筆者が18~19歳頃(87~88年頃)にバイトしていたレンタル・ビデオ店に、ブリティッシュ・ロックのミュージック・ビデオを集めた VHS があったのだが、それに収録されていた "Mr. Big" に衝撃を受けたことが Free に深入りする切っ掛けだった。
 サイモン・カークの手数少な目ながら絶妙の8ビートでグルーヴを醸し出すドラム、それとシンクロしながらリード楽器のように動き回るアンディ・フレイザーのベース、良い意味でヴィブラートの効かせ方がえげつないポール・コゾフの泣きのギター、そして、誰が聴いても文句の付けようがない歌唱力を持つポール・ロジャースの艶のあるヴォーカル。
 そのような高水準の演奏で高水準の曲を、最初から最後まで聴き続けることができる奇跡のようなアルバム。


Highway [ハイウェイ]

 4th studio album
 released: 1970/12
 producer: Free

  • Side one
    1. The Highway Song
    2. The Stealer
    3. On My Way
    4. Be My Friend
  • Side two
    1. Sunny Day
    2. Ride on a Pony
    3. Love You So
    4. Bodie
    5. Soon I Will Be Gone

[comment]
 Free の最高傑作と言うと、ヒット・シングル "All Right Now" を含む Fire and Water というのが通説なのだが、筆者が最高傑作を選べるならこの Highway を挙げる。
Highway が、前作までと大きく異なるのは「米国感」、というか「カントリー感」のある牧歌的な曲が含まれており、ブリティッシュ・ブルーズ・ロックという枠から飛び出したイメージがある。
 曲も粒ぞろいで、ポール・ロジャースは前作よりも更に抑揚を効かせて歌っている。
 中でも "Be My Friend"、"Love You So" というバラードにおけるロジャースの歌唱力は尋常ではなく、「誰もカヴァーできないぞ」というレベルに達している。


Free Live! [フリー・ライヴ]

 1st live album
 released: 1971/06
 producer: Andy Johns

  • Side one
    1. All Right Now
    2. I'm a Mover
    3. Be My Friend
    4. Fire and Water
  • Side two
    1. Ride on Pony
    2. Mr. Big
    3. The Hunter
    4. Get Where I Belong

[comment]
 解散を決めた Free の「解散記念」的な意味でアイランド・レコードがリリースしたライヴ盤であり、たぶんバンド側の意向は反映されていない。
 それでも、この時期の Free のライヴ演奏を収録した正規盤は貴重であり、「ありがとう!アイランド・レコード」と言いたい。
 7曲("Get Where I Belong" のみスタジオ録音)というのは、正直なところ物足りなさを感じるのだが、バンド絶頂期のライヴ演奏、特に "Be My Friend" と "Mr. Big" を聴けるのは、このバンドのファンとして幸せである。
 ヒット曲を出し、バンドが成功してからの Free はメンバーどうし、特にポール・ロジャース (vo) とアンディ・フレイザー (ba) の関係が険悪だったらしいのだが、このライヴ盤からはそれを感じることは無い(さすがプロ!)。


Free at Last [フリー・アット・ラスト]

 5th studio album
 released: 1972/05
 producer: Free

  • Side one
    1. Catch a Train
    2. Soldier Boy
    3. Magic Ship
    4. Sail On
    5. Travellin' Man
  • Side two
    1. Little Bit of Love
    2. Guardian of the Universe
    3. Child
    4. Goodbye

[comment]
 解散していたバンドが、レコード会社の思惑に操られるように再結成してリリースしたアルバムなのだが、前向きな再結成ではなく、アルバム・タイトルどおり、これで本当に Free を終わらせようとして制作されたアルバムだ。
 71年に解散し、翌72年に再結成というのは、あまりにも節操が無いように思われるが、アーティストと言えども売り上げを期待できる活動をするのは当然のことであり、この選択は正しい。
 普通、この手の再結成によるアルバムは駄作になるのだが、またもや新たな名盤を作ってしまうところが、このバンドの凄いところだ。
 これぞ Free と言える泣きのメロディーが印象的な曲が多く、この時期のポール・コゾフはドラッグに蝕まれていたと思うのだが、このアルバムでの彼のギターからは、まだ衰えを感じることはない。


Heartbreaker [ハートブレイカー]

 6th studio album
 released: 197301
 producer: Free & Andy Johns

  • Side one
    1. Wishing Well
    2. Come Together in the Morning
    3. Travellin' in Style
    4. Heartbreaker
  • Side two
    1. Muddy Water
    2. Common Mortal Man
    3. Easy on My Soul
    4. Seven Angels

[comment]
Free at Last というタイトルのアルバムをリリースしておきながら、更にもう一枚というのが、この時期のバンドのグダグダ感を物語っている。
 不安定な状況で制作されたとは、とても思えない名盤であり、Free 史上最もマイルドで歌もの嗜好のアルバムだ。
 ただし、ポール・コゾフはドラッグのオーヴァードーズにより安定した演奏が困難だったため、アディショナル・ミュージシャン扱いであり、彼が弾けなかった分のギターはポール・ロジャースやサイモン・カーク、ゲストのスナッフィーが弾いている。
 そして、ベーシストのアンディ・フレイザーが脱退したので、日本人の山内テツが正式メンバーとして参加しており、米国人キーボーディストのラビットも正式メンバーとして参加している。
 アルバム・タイトルになっている Heartbreaker だが、「他者を傷つける人」という言葉がカッコいいと感じるのか、ロック・ミュージシャンにチョイスされがちな言葉である。


~ 総括 ~

 Free は、最初に聴いたとき、とても分かりにくいバンドだった。

 英国におけるハード・ロック黎明期のバンドの1つだが、他のバンドに比べると圧倒的に派手さに欠けるのである。

 筆者は、ハード・ロックを勉強するつもりで、Deep Purple in RockLed Zeppelin (1st)を、同じ日に聴いたのだが、Deep Purple の曲、特に速くてラウドな曲はド派手で分かりやすく、すぐに好きになった。

Led Zeppelin の方は想像していたよりも難解で、良さが分かるまでに時間が掛かった。

 一発で気に入ったのは "Communication Breakdown" だけだったのだが、難解ながらも華があったので聴き続けることができ、その後、Led Zeppelinの凄さを分かるようになった。

 Free のアルバムは、能動的な聴き方ではなかった。

 当時(80年代後半)、仲良くしていた10歳以上年上のバンドマンのお兄さんが「勉強しなはれ」と言って、段ボール箱に詰った50枚ほどのレコードを貸してくれたのだが、その中に Heartbreaker があったのだ。

 50枚ものレコードを無料で聴けるというだけでも嬉しかったのだが、「あの有名な Free のアルバムを聴ける」ということが更に嬉しくて、かなり期待して Heartbreaker を聴いたのだが、速い曲が1曲も入ってなかったので残念ながら当時の筆者にはピンとこなかったのである。

 結局、Heartbreaker は数回聴いただけで段ボール箱の中で眠らせてしまった。

 その後、筆者が Free に対し、再度興味を持った切っ掛けは、上述した Fire and Water のコメントに書いたとおり、バイト先のレンタル・ビデオ店で "Mr. Big" のミュージック・ビデオを見たときだ。

 先ずは、ポール・ロジャースの歌の上手さに引き込まれ、続けて、ポール・コゾフ (gt)、アンディ・フレイザー (ba)、サイモン・カーク (dr) の演奏にも引き込まれた。

 Free の演奏の上手さは、ロックを聴き始めた人にとって、分かりにくい上手さだと思う。

Deep Purple のように、聴いた瞬間に分かる上手さではなく、職人的な燻し銀の上手さなのである。

 Free のアルバムは、一枚まるごとギター、ベース、ドラム、それぞれの楽器を主役にして聴き続けることができる。

 中でも、アンディ・フレイザーのベースを主役にして聴き続けると、Free の曲の別の魅力が聴こえてくる。

 Free の音楽性は、ブルーズ・ロックと言えば確かにそうなのだが、同時代の英国3大ブルーズ・ロック・バンド、Fleetwood Mac、Chicken Shack、Savoy Brown あたりとは明確な違いがある。

 3大バンドは、かなり忠実に米国のブルーズを再現しようとしていたと思う(ただし、どうしても英国らしさが出てしまう)。

 それに対し、Free は、ブルーズ・ファン以外も自分たちのファンに取り込もうとしていたような気がする。

 そして、それを明確に打ち出していたのは、ポール・ロジャースのヴォーカルだ。

 緩やかな「こぶし」の効いた彼の歌は万人向けであり、誰が聴いても上手いと感じるシンガーだ。

 筆者は、「一番好きなロック・シンガーは?」と聴かれたら、迷わずスティーヴ・マリオット(Small Faces ~ Humble Pie)の名を挙げるが、「一番歌が上手いロック・シンガーは?」と聴かれたらポール・ロジャースの名をあげる。

 スティーヴ・マリオットもポール・ロジャースも、歌の上手さでは拮抗しているのだが、万人受けを考えるとポール・ロジャースを選ぶことになる。

 正に、ポール・ロジャースの歌は、英国の国宝なのである。

 Free 解散後、ポール・ロジャースとサイモン・カークは、Bad Company を結成するのだが、このバンドも筆者のロック感を作ったバンドなので、いずれ取り上げたいと思っている。

自分のロック感を作ったアーティスト(5)Small Faces

Small Faces [スモール・フェイセス]

origin: London, England, U.K.


Small Faces [スモール・フェイセス]

 1st studio album
 released: 1966/05
 producer: Ian Samwell, Kenny Lynch, Don Arden

  • Side one
    1. Shake
    2. Come on Children
    3. You Better Believe It
    4. It's Too Late
    5. One Night Stand
    6. Whatcha Gonna Do About It
  • Side two
    1. Sorry She's Mine
    2. Own Up Time
    3. You Need Loving
    4. Don't Stop What You're Doing
    5. E Too D
    6. Sha-La-La-La-Lee

[comment]
 デッカ・レコードからリリースされた Small Faces のデビュー・アルバム。
 自らのバンド名をアルバム・タイトルにしているのだが、これが後にややこしいことになる。
 R&Bやソウルをルーツに持つモッズ・バンドなのだが、この時代としては異例なくらいハードな演奏と、スティーヴ・マリオットのパワフルなヴォーカルにガツンとやられる。
 モッズ的なスタイリッシュさもあるのだが、後のハード・ロックに繋がる激しさが際立っている。


From the Beginning [フロム・ザ・ビギニング]

 compilation album
 released: 1967/06/02
 producer: Ian Samwell, Kenny Lynch, Steve Marriott, Ronnie Lane

  • Side one
    1. Runaway
    2. My Mind's Eye
    3. Yesterday, Today and Tomorrow
    4. That Man
    5. My Way of Giving
    6. Hey Girl
    7. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?
  • Side two
    1. Come Back and Take This Hurt Off Me
    2. All or Nothing
    3. Baby Don't You Do It
    4. Plum Nellie
    5. Sha-La-La-La-Lee
    6. You've Really Got a Hold on Me
    7. Whatcha Gonna Do About It

[comment]
 デビュー直後に人気バンドになった Small Faces がイミディエイト・レコードに移籍したため、デッカ・レコードが Small Faces でもう一稼ぎするために制作したコンピレーション・アルバム。
 それ故、アーティスト側の意向は無視されていて、デビュー・アルバムとの曲の重複もあるのだが、「これが正式な 2nd でもえぇやん」と思えるくらい充実した内容だ。
 筆者は、これに収録されている "All or Nothing" を the Dogs D'Amour [ザ・ドッグス・ダムール] がカヴァーしたことにより、このバンドを知った。
 コンピレーション・アルバムだが、"All or Nothing" も含め、このバンドがデッカ・レコード時代に残したアウトテイクを聴けるため、非常に重要なアルバムでもある。


Small Faces [スモール・フェイセス]

 2nd studio album
 released: 1967/06
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?
    2. Something I Want to Tell You
    3. Feeling Lonely
    4. Happy Boys Happy
    5. Things Are Going to Get Better
    6. My Way of Giving
    7. Green Circles
  • Side two
    1. Become Like You
    2. Get Yourself Together
    3. All Our Yesterdays
    4. Talk to You
    5. Show Me the Way
    6. Up the Wooden Hills to Bedfordshire
    7. Eddie's Dreaming

[comment]
 イミディエイト・レコードに移籍してリリースされた 2nd アルバムなのだが、デッカ・レコードからリリースされたデビュー・アルバムと同じタイトル(=バンド名)なので紛らわしい。
 そして、"My Way of Giving" と "(Tell Me) Have You Ever Seen Me?" は、デッカ・レコードがリリースした編集版 From the Beginning と重複している(権利関係はどうなってるの?)。
 デッカ時代に比べるとR&Bやソウルなどのブラック・ミュージック色が後退しており、時代の影響なのかフォーク風の曲が増えた。
 ロニー・レーン (ba) のリード・ヴォーカル曲が増えており、これにより1枚のアルバムにおけるコントラストが鮮やかになった。


There Are But Four Small Faces [ゼア・アー・バット・フォー・スモール・フェイセス]

 1st studio album (U.S.)
 released: 1968/03/17
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. Itchycoo Park
    2. Talk to You
    3. Up the Wooden Hills
    4. My Way of Giving
    5. I'm Only Dreaming
    6. I Feel Much Better
  • Side two
    1. Tin Soldier"
    2. Get Yourself Together
    3. Show Me the Way
    4. Here Come The Nice
    5. Green Circles
    6. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?

[comment]
 Small Faces の米国でのデビュー・アルバムであり、はっきり言って、彼らのディスコグラフィの中では重要視されていないアルバムだと思うのだが、米国でのブレイクを狙って曲が厳選されており、筆者はけっこうな頻度でこのアルバムを聴く。
 何よりも素晴らしいのは、名曲 "Itchycoo Park" がアルバムの冒頭を飾っていることだ。
 この曲は彼らの名曲のなかでもスティーヴ・マリオットの歌の上手さが際立つ曲だ。
 Small Faces のシンガーはマリオットだけではないので、彼だけを持ち上げるのは他のシンガーに申し訳なのだが、マリオットの歌が上手すぎるので、こればかりは如何ともしがたい。


Ogdens' Nut Gone Flake [オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク]

 3rd studio album
 released: 1968/05
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. Ogdens' Nut Gone Flake
    2. Afterglow
    3. Long Agos and Worlds Apart
    4. Rene
    5. Song of a Baker
    6. Lazy Sunday
  • Side two
    1. Happiness Stan
    2. Rollin' Over
    3. The Hungry Intruder
    4. The Journey
    5. Mad John
    6. HappyDaysToyTown

[comment]
 リリースが68年であり、サイケ感漂うその音楽性は、前年にリリースされた the BeatlesSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band の影響が強いと言われている。
 筆者は、60年代のバンドの中では the Beatles よりも圧倒的に Small Faces の方が好きなので贔屓目があるのかもしれないが、スティーヴ・マリオットの熱いソウルフルなヴォーカルが聴けるこのアルバムの方が上だと思っている。
 イアン・マクレガンのキーボードがサウンドの要になっている曲が多い。
 全英1位を獲得したこのアルバムの後、マリオットはバンドを脱退し、結成からデビューに向けて試行錯誤中の Humble Pie に合流する。
 そして、Small Faces は、元 the Jeff Beck Group のロッド・スチュワートロニー・ウッドを迎えて Faces となる。


Playmates [プレイメイツ]

 4th studio album
 released: 1977/08
 producer: Kemastri; Shel Talmy on "Lookin' for a Love"

  • Side one
    1. "High and Happy
    2. Never Too Late
    3. Tonight
    4. Saylarvee
    5. Find It
  • Side two
    1. Lookin' for a Love
    2. Playmates
    3. This Song's Just for You
    4. Drive-In Romance
    5. Smilin' in Tune

[comment]
 奇しくも時期を同じくして解散した Humble Pie と Faces。
 スティーヴ・マリオット (vo/gt)、イアン・マクレガン (key)、ケニー・ジョーンズ (dr) による Small Faces の再結成・復活作。
 残念ながら、ロニー・レーン (ba) は本作リリース前に脱退したので不参加であり、Roxy Music のツアー・メンバーや、後に Foreigner のメンバーとなるリック・ウィルスが参加している。
 「枯れている」と言うと、鮮烈な印象を残さないものへの遠まわしの表現として使われることが多いのだだ、このアルバムの楽曲は本当に良い意味で枯れている。
 「こういうのいい」ではなく「こういうのいい」、そんな一枚である。


78 in the Shade [78イン・ザ・シェイド]

 5th studio album
 released: 1978/09
 producer: Kemastri

  • Side one
    1. Over Too Soon
    2. Too Many Crossroads
    3. Let Me Down Gently
    4. Thinkin' About Love
    5. Stand by Me (Stand by You)
  • Side two
    1. Brown Man Do
    2. Real Sour
    3. Soldier
    4. You Ain't Seen Nothing Yet
    5. Filthy Rich

[comment]
 再結成 Small Faces の第二弾。
 この時期の Small Faces の活動期は、英国におけるパンク/ニュー・ウェイヴの勃興期と重なっており、当時は良くも悪くも素人臭いバンドが多かったのだが、このアルバムにはそれと対局にある玄人芸と呼ぶべき完成度の高い歌と演奏が収められている。
 ベースは前作に続きリック・ウィルス、"Thinkin' About Love" と "You Ain't Seen Nothing Yet" では、Wings のジミー・マカロックがリード・ギターを弾いている。
 前作もそうだったのだが、今作でもスティーヴ・マリオットは Humble Pie 時代の泥臭いヴォーカルは封印し、都会的な洗練された歌を聴かせてくれる。
 上手いだけでなく、実に器用なシンガーなのである。


~ 総括 ~

 the Dogs D'Amour [ザ・ドッグス・ダムール] が93年にリリースしたアルバム ...More Unchartered Heights of Disgrace (邦題: 許されざる恥辱) にボーナス・トラックとして収録されていた "All or Nothing" を聴いたのが Small Faces を知った切っ掛けだった。

 否、厳密に言うと、当時の筆者はロックを聴き始めてから、既に10年くらい経っていたので Small Faces 自体は知っていたのだが、Small Faces を意識したのが上述した "All or Nothing" のカヴァーだったのだ。

 とにかく、曲の良さに打ちのめされ、the Dogs D'Amour、というより タイラ (vo/gt) の書く曲とは明らかに印象か違っていることに気付き、クレジットを見て、それが Small Faces (スティーヴ・マリオット/ロニー・レーン) の曲であることを知った。

 その後、Small Faces のオリジナルを聴いてみたところ、the Dogs D'Amour のスリージーR&Rな印象とは全く異なるものの、キーボードの効いたスタイリッシュな演奏と歌に魅了された。

 そして何よりも筆者が Small Faces に惹かれたのはスティーヴ・マリオットの歌の上手さだった。

 英国のバンドのシンガーには、以外と歌の上手い人が少ない。

 どちらかと言うと、技術的な上手さではなく、独特の個性で聴かせようとする人の方が多い。

 そんな英国において、スティーヴ・マリオットは、ポール・ロジャース(Free、Bad Company)、ロッド・スチュワート(the Jeff Beck Group、Faces)、スティーヴ・ウィンウッド(tSpencer Davis Group、Traffic、Blind Faith)あたりと並ぶ、技術的に上手い歌を聴かせることのできるシンガーだ。

 やはり、貴重な時間を使ってヴォーカル入りの曲を聴くなら、上手い歌を聴きたい。

 歳を取ってからは、それが顕著になった。

 若いころに好んで聴いていたポストパンク、ニュー・ウェイヴ、ローファイあたりは、ヴォーカルの弱い曲が多いので、ちょっと聴くのが辛くなってきた。

 人は歳を重ねると嗜好がコンサバになっていく傾向にあるというが、筆者はモロにそれである。

 最近は、ほぼ 100% くらい、音楽を聴くとなると YouTube Music を利用しているのだが、ヴォーカル入りの曲をピックアップするときは上述した上手いシンガーの曲を無意識に選んでいる。

 この傾向は、この先、自分が認知症などで音楽への興味を失わない限り、深化してゆきそうな感じだ。

 スティーヴ・マリオットのもう一つのバンド、Humble Pie も、Small Faces とは一味違うマリオットの泥臭いヴォーカルが楽しめるアルバムが多いので、いずれ取り上げたいと思う。