電通企画演出WOWOW 30周年記念番組「ガチTube」の話No.1
広告クリエイターから「広告」を取ってみたらガチで最高!って話
2021/02/26
電通のクリエーティブ・ディレクター、中尾孝年です。本連載のテーマは、WOWOWで現在絶賛配信中の「ガチTube 」です。この「ガチTube」は僕たちが企画して、WOWOW30周年の番組コンペで約800案の中から見事に選ばれた番組です。
なかなかすごいことなので、初回は、なぜそんなすごい倍率を勝ち残って選ばれたのか?番組の企画に込めた思いとは何か?そこに電通の新しいコアとなる事業のヒントがあるんじゃないの?的なことを僕からお話しします。
あっ、第2回では、この企画を選んでくださり、今は仲間として「ガチTube」を最高の番組にすべく一緒に制作に取り組んでいるWOWOWの皆さんと対談するので、そちらもお楽しみに!
これから僕らが提供するソリューションは「広告」だけじゃない!
この番組企画のコンペに取り組むに当たって最初に考えたことが、単に面白いだけの企画を出すのはやめようってことでした。僕の本業は広告屋さん=広告クリエイターなので、その特色を思い切り発揮した番組企画にしたいな〜って思いました。
で、広告クリエイターの一番の特徴って何かな?
よく考えてみると……世の中に「クリエイター」と呼ばれる職種の人はたくさんいます。音楽家、画家、ダンサー、役者さんなどなど。彼らに共通してることって「今自分が世の中に訴えたいこと」を作品やパフォーマンスに込めて世の中にぶつけるんですよね。そして「あなたはどう思うか?」「共感するか?」って問題提起したり問いかけたりするんです。本当にすごいことだな〜って思います。
でも広告クリエイターって違うんです。自分のやりたいことや訴えたいことって、ぶっちゃけあんまりなくて(笑)。誰かにお願いされて表現するんです。お願いしてきた人の願い事をかなえるのに一番効果的な伝え方は何か?表現は何か?をクリエイトするんです。
もう少し別の言い方をすると……広告クリエイターは依頼人に対してソリューションをクリエイトするんです。世の中のいろんなクリエイターの中で、ソリューションを創造するのって僕ら広告クリエイターだけじゃない?って実はちょっと誇りに思ってます。
そこで考えたのが、広告屋さんとしてのソリューション能力を番組の企画でも発揮すること。単に面白い番組じゃなくて、コンペの依頼主であるWOWOWの課題を解決できる番組にしようってことです。普段は広告で課題を解決してますが、今のWOWOWに最も適切なソリューションは広告じゃなくて番組だ!番組を使って課題を解決しよう!!と思ったんです。
僕らが考えた、WOWOWが抱えていた課題は以下の三つでした。
課題①:今や動画サイトをメインで見るという人口は増える一方。こうした動画視聴層を取り込むことは、WOWOWに限らず各チャンネルの必須の課題であり今後の死活問題。
課題②:ところが、映画、音楽、スポーツというWOWOWが得意とするコンテンツでは、こうした動画視聴層を十分に取り込めていない。だから彼らが飛びつくコンテンツの開発が急務。
課題③:今後も動画配信への世の中のニーズはどんどん大きくなることが予想されるので、この分野で「キラーコンテンツ」と呼べるものを持つことも急務。
この課題を解決できて、しかも内容がめちゃめちゃ面白い番組にする……
まあ言うのは簡単ですが、実際に考えてみるとなかなか難しくって(笑)。悩みに悩みまくって、ついにたどり着いたのが、僕たちが提案した「ガチTube」という番組。
これは、「動画クリエイター×サバイバルリアリティーショー×教育ハウツー=次世代動画スター育成サバイバル!」という、今までなかった新しい番組です。スター動画クリエイターを夢見る老若男女7組が集まり、教官として迎えられたスター動画クリエイターが出す課題に合わせた動画を投稿。その結果で脱落者が決まり、最後まで生き残った者が勝者となる、という内容です。
まずは、面白さはどうか?というエンタメ性の話。
今、アイドルデビューを懸けた生き残りなど、サバイバルリアリティーショーは大人気のジャンル。そこに、世の中で大人気の動画配信を掛け合わせるんだから、絶対に面白くなること間違いなし!最もトレンディーな動画配信という題材を通じて友情あり、涙あり、裏切りありのリアルな人間模様と筋書きのないドラマが生み出されます。
でもそれだけじゃないんです。もう一つこだわったのが、知的で教養のある「役立つ番組」にすること。
これだけ世の中で人気になっているにもかかわらず、今までちゃんと動画配信のノウハウを紹介した教育系番組ってなかったんですよね。英会話とか園芸とか釣りとかDIYとかいろんな教育系番組があるのに。
そこで、この番組は、スター動画クリエイターの方々が教官として登場し、みんなの動画を採点、講評してくれるシステムにしました。トップ動画クリエイターが持つ超貴重な配信動画制作のノウハウや独自のこだわりを、たっぷりと学ぶことができちゃいます。
実際撮影してみると、やっぱり業界をリードしているトップランナーなので、彼らも動画配信の未来を真剣に思ってくれていて、えっ、こんなことまで話して大丈夫?なんてノウハウまで伝えてくれています。本当にこれだけでも十分に見る価値ありです。
そしてもう一つ、大切なソリューションの話。
この番組を配信すれば……
①動画視聴層をWOWOWに呼び込むことができる
②動画サイトからWOWOWという新しい流入経路ができる
③配信動画と番組が融合するという他局にない新しいコンテンツ(=キラーコンテンツ候補)ができる
④ WOWOWがコンテンツ配信の先駆者として業界を一歩リードできる
と、WOWOWの課題をきちんと解決できる企画になっています。
ポイントは、動画サイトと次代の覇権を懸けて勝ち負けを競うのではなくて、共存共栄して次の映像文化をつくるという発想です。
「番組の世界には今までになかった斬新な企画力」×「広告に負けない課題解決力」。この二つの掛け算だからこそ、800案もの中から選んでいただけたんだと思います。
広告クリエイターが「広告」の縛りを捨てて、広告の外側に出たからこその勝利であり、誕生した番組企画です。
でもこれは、ほんの一例。これからの広告クリエイターは、いろんなところで「広告」という縛りを捨てなくちゃダメだと思います。今回は、ソリューションから「広告」という縛りをとっぱらってみた、という話ですが、他にも僕らが「広告」という縛りを外せるところはたくさんあります。
人のためにつくる「広告」のノウハウで、自分のための「コンテンツ」をつくってみよう!
最近、僕はいろんなところで「広告クリエイターの力を広告以外でも」って叫んでいるのですが、なぜそんなことを意識するようになったのか?
ソリューションを創造するという意味で広告クリエイターは特殊だって話を先ほど書きましたが、広告には他にも特殊だな〜ってつくづく感じることがいろいろあります。
まず、広告は自分のお金じゃなくて人のお金でつくります。改めて考えるとこれってすごく特殊なことですよね。他のクリエイターって普通は自分でお金払って何かをつくります。だから有名になるまで、たいていのクリエイターはすごく貧乏。だって自分の創作にお金をつぎ込んでいるから。自分でお金を払っているからこそ、自分が世の中に訴えたいこと主張したいことを作品に込める権利があるのだ、ともいえますね。
でも、僕たち広告クリエイターは人のお金で広告をつくってます。だから、自分の主張したいことを表現するんじゃなくて、お金を出してくれたその人の言いたいことを表現しないとダメなんですね。すごく納得。
そしてさらに、万が一その広告が失敗したときに損をするのは、僕らに広告制作を頼んでくださったクライアントだけなんです。その商品が売れなくても僕ら広告クリエイターは損はしない(あっ、もちろん大切な信頼を失っちゃいますけどね)です。
だから僕は、広告をつくるときは自分のことを考えるとき以上に真剣に考えてつくらないとダメだと思うし、その広告の成否に自分の人生を懸けるつもりで責任を感じてつくらないとダメだと思ってます。はい、広告クリエイターって、特殊な広告ならではの仕組みに守られているんです。
でも、でも、実はその代わりに、つくった広告の権利はクライアントに帰属します。そして、その広告が大ヒットして、商品が売れまくっても、僕らに直接お金は入ってきません。もうかるのはクライアントです。つまり僕らは、今まで「広告」というルールに守られる代わりに、つくったものの権利とそれがヒットしたときのリターンを放棄してきたんです。なぜなら、それでも十分にやっていけたから。
でもそれは、広告制作という打席がたくさんあったときの話。近頃は、いよいよそうもいかなくなってきて、広告制作はどんどん減る一方の打席の取り合いになっています。
そんな今だからこそ、僕らはここでも「広告」という縛りを外すべきではないか?と思うんです。つまり……勇気を持って「広告」という仕組みの加護から踏み出そう!ってことです。
今回の配信番組というコンテンツもそうですし、地上波のテレビ番組、ドラマ、アニメ、映画、ゲーム、アイドルやアーティストなどなど。今までの広告制作で培ってきたノウハウを生かして、自分たちのアイデアで自分たちのものを、コンテンツを、キャラクターを、スターをつくる時代が来たんです。
共同出資、製作委員会制度など、やり方はいろいろですが、お金の面のリスクは自分たちも受け持って、その代わりにつくったものの権利と、それがヒットしたときのリターンをもらう権利をちゃんと自分で所有します。一言で言うと「自分でつくって自分でもうける電通」ですね。
映像、ゲーム、キャラクター、アーティストなど、コンテンツのマーケットは、これからもどんどん大きくなります。そして何より、メディアやコミュニケーションが変化・進化しても、コンテンツを何で消費するか?の方法が変わるだけで、コンテンツそのものに対するニーズは半永久的に続きます。
さらに、withコロナ、アフターコロナの世の中では、コンテンツ消費のニーズはさらに高まり、新しいコンテンツに対しての欲求も旺盛になります。つまり、そこには非常に大きな可能性と将来性を秘めたマーケットが存在していて、これこそが電通の新しいコア事業になるのでは?って思いがしてならないんです。
これからも、自分たちの経験やスキルをクライアントのために惜しみなく使って広告はつくっていきます。でも、その経験とスキルを、そろそろ自分たちのためにも使っていいんじゃないでしょうか?
広告という打席が少なくなって打席に立てなくなってる広告クリエイターの皆さん!もっと外の世界にも目を向けて、広告じゃない別の打席に立ってどんどんバットを振ればいいんじゃないでしょうか?
もちろん、広告以外の世界に踏み出すと、今までいなかった新しいライバルとの勝負になるんですけど、実は広告クリエイターって外の世界の人ともめっちゃいい勝負ができると思ってます。
実際、一足お先に広告の外に飛び出してる僕が、このコラムのタイトルにあるように、いろんなところで勝利して、いろんなところで面白がってもらえて、いろんなところでいろんな仕事ができていますからね。
なぜかって?
はい、話は最初に戻りますが、世の中にいるいろんなクリエイターの中で、僕ら広告クリエイターってすごく特殊な存在だからです。人のことを考えるのが得意で、解決策を考えることができて、しかも規制されたり制限されたり何かを課せられたりした方がアイデアを考えやすいっていう。こんな変人みたいなクリエイター、他の世界にはなかなかいませんから(笑)。だから僕たちは広告じゃない別の世界に行ってもめちゃめちゃ活躍できちゃうんです。
あっ、もう一つどうしてもお伝えしたいことがありました。
例えば今回のテレビ業界とCM業界。同じ映像を扱う仕事だけど、それぞれのつくり方とか文化が全く違うんですね。15秒という短い尺で視聴者が何度も目にすることを想定してつくっている僕らからすると、長尺ベースで一回放送を前提とした番組の世界の人と一緒にお仕事をするだけで、映像に対する違う価値観や視点、新しいノウハウなどが学べてむちゃくちゃ刺激的、かつ自分を成長させてくれる貴重な機会となります。
そういう意味でも、ぜひ広告の外側に飛び出していくべきだと思います。今こそ「広告クリエイターの力を広告以外でも!」です。
いかがでしたか?広告クリエイターから「広告」を取ってみたら「ガチ」で活躍できるフィールドがめっちゃ広がって、新しい学びと成長にもつながって、さらには新しいビジネスの可能性まで切り開けて「ガチ」最高!ってことが伝わったでしょうか?
広告会社が「広告」だけを駆使する時代は、もう終わりました。僕らが「広告」という呪縛から自分を解放したとき、目の前に広がるのは無限の可能性だけです!共に広告の外側に踏み出しましょう!!!
次回は……「ガチTube」を採用してくれたWOWOWとガチで語り合う、です。お楽しみに!
【番組概要】
「ガチTube~次世代動画スター育成サバイバル~」
配信日:毎週土曜21時 (一部生配信) 全12回
MC:チョコレートプラネット
【視聴方法・出演者情報は番組公式サイトをご覧ください】
https://www.wowow.co.jp/extra/gachi_tube/
※WOWOWオンデマンドで過去エピソードも視聴可能