Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

就職氷河期世代は、たぶん、世の中の都合で正規雇用と非正規雇用にわかれた、最初の世代だ。

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事業部長代理として採用面接に同席した。面接の実務は担当スタッフがやってくれるので、僕は逃亡した事業部長の代わりに厳格な顔をして座っているだけである。最近、募集を出しても反応が薄い。そのなかで応じてくるのは就職氷河期世代か高齢者が多い。本音をいえば30代までの若い人間を採用して若返りをはかりたい。今回、面接にやってきたのは就職氷河期世代の男性。アラフィフ。経歴を見ると、なんとも言えない気持ちになった。募集要項にマネージャー経験や営業経験がある人優先的な記載があったはずだが、経歴書にはそれに該当するものはなかった。2001年から約25年間、派遣社員や期間工として交互に働いていて、合間を埋めるようにアルバイトとしてコンビニなどで働いていた。半年から2年を派遣社員等、数か月から1年をアルバイト、そのパターンを繰り返していた。

就職氷河期世代は、たぶん、世の中の都合で、正規雇用と非正規雇用で真っ二つに別れた最初の世代だ。そして見捨てられたままだ。新卒として社会に出るときに厳しい雇用状況にぶち当たり、当時流行っていた働き方、派遣やフリーターに流れ、そこから脱出できず、救済されることもなく、ここまで来てしまった。業績の悪化した企業のために安い労力として都合よく使われてきた。僕も氷河期世代の一員なので、当時の新卒採用の苦しさはよくわかっているつもりだ。僕は、たまたま就職できたけれども、何人かの仲間たちは派遣やフリーターになり、そこから脱出した者もいれば、沈んだままの人や音信不通の人もいる。国や政治には期待できない。だから、もし自分が採用する立場になり氷河期世代の人が現れたら、出来る範囲で救いたいと考えていた。氷河期世代の痛みがわかるのは氷河期世代しかいないのだから。

しかし、これまでもそういう機会はあったけれども、現実問題として採用する側に立ち、中年になった氷河期世代になってみると、うーん、と唸ってしまう。氷河期世代の経歴を見るたびに、「これまで苦労しただろうなぁ」という同情と、「こんなに長い間はいあがるきっかけはなかったのかな」という疑問のふたつが沸き起こるのだ。これまでは同情の方が強かった。それは、氷河期世代救済という言葉をイージーに使っているように見える政治に対する怒りからでもあった。50歳になってから就職斡旋や職業訓練を救済措置として打ち出してくるのも馬鹿にしているようにしか見えなかった。そのうえ、選挙が終わる前にそれが数字につながらないとわかると誰も口にしなくなる。馬鹿にするどころか無視である。

そんな繰り返しを見てきたので、巻き込まれた人たちへの同情は強かったのだ。だが、自分が採用する側に立ってみると、違うものが見えてくるのだ。四半世紀のあいだ派遣期間工アルバイト派遣期間工アルバイトの生活から抜け出すきっかけはなかったのか、努力はしたのか、その生活の苦しさと気楽さを天秤にかけて気楽さを取ったのではないのか、と。面接に来るのだから、正社員として働きたいという気持ちがあるのは間違いないだろう。だが、企業は相応の経験やスキルのある人物を求めている。中途採用だからなおさらだ。残念ながら50歳の将来性を買って、育てることなんてできない。僕は51歳だ。能力や体力の下降を実感する日々だ。自分と同じ年代の人間の将来性のなさはいちばんよくわかっている。僕が勤めているような中小企業では余計な人材を抱える余裕はなく、超大手企業は求められるものが高い。落ちてしまった氷河期世代を正社員として雇用できない。残酷だけど、手遅れなのだ。手を差し伸べようという気持ちがあっても手を出せないのだ。もっと早く、せめて15年前くらいに救済措置がなされていれば間に合ったかもしれないけど。

彼は不採用になった。仕事がなくて困っているというので、主婦パート2名が辞めて欠員が出た老人ホームのパートを紹介した。先月から勤務している。勤務態度は上々らしい。微力ながら助けになれば…という気持ちから仕事を紹介したけれども、見方を変えれば、僕も、かつて氷河期世代を都合よく使っていたかつての社会と同じことしていることに気がついた。彼らの経歴にプラスにならない職歴を書き加えてしまった。どうにもならないとわかっていても、後ろめたい気持ちになる。救いたくても救えない、こういう人が何十万人もいると思うと本当に暗い気持ちになる。(所要時間21分)