真実を葬る“捜査”


PC遠隔操作の一件で、警察の取調べ手法が問題視されつつある様子。今までもこの手の行き過ぎた捜査みたいな話が出るたびに、本件でも報じられてるような取調べ手法が明るみになってきたわけですが、いつも思うのは、こういう取調べの実態ってのが、カルト宗教や先鋭的思想集団あるいは一部の詐欺商法などの現場で見られる、いわゆる洗脳の手法に非常に酷似してるんじゃないかなあ、ということ。誰一人味方のいない状況に相手を長時間拘束し、こちらの主張を受け入れるよう強く迫り続ける、こんなことやられたら、たとえ濡れ衣であっても、どんな人でも心が折れちゃうでしょ。しかも警察は法の後ろ盾があるため合法的にこういうことができてしまうから、カルト宗教とかよりもよっぽどタチが悪い。
そういう意味では、こういった取調べ手法は犯人を「作り出して」いるのであって「捜し出して」いるわけではない、と言えます。まさに取調室のその場で、被疑者を洗脳することにより犯人を作り出しているような構図。もちろん被疑者が本当に真犯人であれば、結果的に口を割らせた、ということにはなりますけど、真犯人で無かった場合にすら被疑者を犯人に仕立てあげかねない。本件はその怖さが露骨に表面化しただけであって、水面下には類似事例がとてつもなくたくさんありそうな気配がある。


こういう問題点は、大学とかで心理学なりを触りだけでも勉強したことのある人ならすぐに気付きそうなことだと思うんだけど、それを指摘する声が出ないまま、あるいは黙殺され続けて、このような全く合理的でないどころか有害な取調べが続けられてきてるんでしょうね。それも、“検挙率の高い実績のある手法”としてありがたがられながら。現場の警察官は真犯人を突き止めるためとてこういう手法を採っても、むしろ犯人をデッチあげるだけで真犯人を取り逃がしかねない危険の高い手法だと気付いてないなら、これほどバカげたこともない。
さながら、スポーツ医学に無知な運動部顧問が、非効率で危険な練習を生徒にやらせて、前途ある生徒の選手生命を毀損していることに無自覚なような、そういう状況。


したがって、自白を引き出すにしても、もっと心理学等の学術的知見に基づいた誤謬の少ない方法を確立し、研修などを通して警察内部で広く共有・徹底する必要がある。
あるいは、そもそも有罪を立証できるだけの物証があれば、わざわざ自白を引き出す必要もないはずで、裏を返せば、現状では十分な物証を集めていないがゆえに自白に頼ろうとしているのだから、いっそのこと取調室での自白は(捜査の手がかりにはしても)裁判における証拠能力を認めないようにしてしまって、物証の収集を最優先に促すように制度を変える、とか。


単に取調べ可視化を進めるだけではなくて、取調べ可視化が実現した後にどのような捜査手法を認めていくべきかを考えておかないと、改善は難しそうな気がします。