またも信憑性の無い数字

以前のエントリでも触れたECPATの事務局長とやらがまた何か言ってる件。

また、英米加豪などの捜査機関が情報を分析した結果、ポルノ所持で逮捕された者の40%が子どもへの犯行を実行、15%が計画したことが明らかになったという。

 「見る行為と犯罪の関連性がわかってきた。麻薬や銃と同様に、反社会的な使い方をされる危険性がある物は所持から禁止する必要がある。製造や流布の禁止だけでは十分ではない」とマドリナンさんは言う。

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20091205-OYT8T00253.htm?from=yolsp


あたかも、児童ポルノに触れることが子どもへの犯行の原因になっているかのように述べているけど、これ二重三重に数字のトリックが入ってますね。悪質な誘導です。

(1)母集団が既に絞られている

「ポルノ所持で逮捕された者」と記述されているとおり、この調査は児童ポルノの単純所持が禁止されている地域で行なわれています。したがって、この調査でわかるのは、「児童ポルノを所持する者」についての情報ではなく、「児童ポルノ所持が犯罪であり処罰されるものだとわかっていながらそれでもなお所持する者」についての情報です。つまり、犯罪だとわかっていながらやってるかどうかという点で大きな差があり、調査対象がもともと犯罪傾向の強い者に絞り込まれているでろう状態での調査になっていることに注意する必要があります。

(2)サンプリングに偏りがある

この統計を作るにあたって、どのように件数を数えたかについて考えてみましょう。
児童ポルノ所持は、たとえそれが法律で禁止されていても、なかなか顕在化しにくいものです。当局が密かに監視していた入手経路を使って新たに取得した際にはじめて摘発できる、というケースがほとんどで、隠し持たれていたりするものを直接発見するのは困難なはず。したがって児童ポルノを所持する者についての統計は全数調査にはなっていません。そもそも全体像に対して認知件数がどの程度の割合かすら確かではないでしょう。
他方で、子どもへの犯行で逮捕された人物は、必ず児童ポルノの所持についても調べられることになるでしょう。
事務局長の言う調査結果は、前者の数字と後者の数字を合算して出したものだと予想され、児童ポルノ所持と子どもへの犯行の関係性については、前者に対する後者の比重がどれだけ大きいかによって決まることになるでしょう。すなわち、前者の数字が後者の数字に対して少なければ少ないほど、もっと解りやすく言えば、警察が(能力の限界か人為的にか)前者による摘発を少なくすれば少なくするほど「児童ポルノと子どもへの犯行には関係性がある」という見方が強まるような計算になっているのです。
この数字でもって「児童ポルノと子どもへの犯行には関係性がある」かどうか評価するのは無意味でしょう。

(3)相関関係は因果関係ではない

これは前から何度か指摘していることだと思いますが、2つの事象の間に相関関係があるからといって、一方が他方の原因になっているとは言えません。例えば、「総額100万円以上のブランド品を購入していること」と「ブランド品の情報に頻繁にアクセスしていること」の間に相関があったからといって、「ブランド品の情報へのアクセス頻度が購入の原因になっている」とは言えないでしょう。もともとブランド品を買うつもりでいて、ブランド品の情報に数多くアクセスした後に購入している人というのが少なからずあるはずですから。
もし仮に事務局長の挙げた数字が信頼できるとしても、子どもへの犯行を実行した40%や計画した15%は、もともとそのような犯罪を犯す傾向がある者たちで、その性質ゆえに児童ポルノを収集していた、という可能性は否定できないのです。そしてその場合、(1)と合わせて考えると、もしかすると「児童ポルノの単純所持を禁止することによっては、子どもへの犯行を抑止することはできない」という結論になる可能性すらありえます。


なので、ここで挙げられた数字は、「児童ポルノが子どもへの犯行を惹起する恐れがあるから禁止すべき」という主張をいっさい補強しません。

表現の自由」の侵害が懸念されている点では、「多くの国で議論になったが、児童ポルノは重大な犯罪であり、まず子どもを守るのだと合意したうえで、各国とも両者のバランスをとる努力をしている」と紹介。「アニメやゲームなどの性的表現も『子どもを性的満足の道具にしている』という観点から、多くの国が処罰化を進めている」とし、日本での議論を促した。

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20091205-OYT8T00253.htm?from=yolsp


具体的な被害者がおらず人権侵害の形態を取っていないのに「アニメやゲームなどの性的表現も『子どもを性的満足の道具にしている』という観点から」ダメだっていうのは、明確に表現の自由の侵害だろうに。もっとハッキリと言ったら?俺らの倫理観に反する=俺らがキモいと思うから禁止したいだけなんだって。
そこでまた「多くの国が処罰化を進めている」から正しいとか言っちゃうのもいつもどおりと言えばいつもどおりだけどさ。


あと、こういうの取材してる記者は、表現の自由についてだけ質問するんじゃなくて、単純所持禁止してる各国で起きている冤罪についても連中に質問してよ。記者が表現の自由についてばっか質問するから、表現の自由のような理念的な側面(それもめちゃくちゃ大事なんだけど)しか問題が無いかのように捉えられて、冤罪のようなもっと直接的で誰にでもすぐに影響が出る問題が見過ごされてるんだからさー。