外務省職員が誤って機密情報をマスコミへ! 「書く使命」を主張する記者と官僚のせめぎあいは実在する――「ジャーナリズムと権力」のあり方とは【書評】

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PR公開日:2024/11/13

記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀"
記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(佐藤優・西村陽一/中央公論新社)

 元・朝日新聞編集局長でジャーナリストの西村陽一さんと、元・外務省主任分析官で作家の佐藤優さんの対談による書籍『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(中央公論新社)は政治、外交の裏にあるメディアと行政の関係に切り込んだ1冊だ。ニュースでは分からない、情報戦の裏側が浮かび上がる。

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記者と官僚を超えた「ほんとうの友だち」

 西村さんと佐藤さんの付き合いは30年以上に及ぶという。初めての出会いは、1991年2月。当時、西村さんは朝日新聞政治部の記者として、佐藤さんは在ロシア日本国大使館の三等書記官として活躍していた。

 以降は、取材を「する側」と「される側」との垣根を越えて議論を交わし合う仲に。ロシア外交の最前線で働いていた佐藤さんが、東京地検特捜部に逮捕されてもなお、たがいの信頼関係は揺るがなかった。

 佐藤さんは本書の序盤で「社会人の友情について扱った作品でもある」と述べる。社会に出て、仕事でのつながりから友情を育むのは難しい。だからこそ、西村さんとの関係を振り返り「社会人になってからできた知り合いでも、稀だがほんとうの友だちになる人がいる」とする佐藤さんの記述には、自然と胸が熱くなる。

ずさんな情報漏洩が現実にある驚き

 佐藤さんと西村さんのような関係は、おそらく、まれなのだろう。本書では「国益」のために動く政治・外交の現場でせめぎ合う、記者と官僚の実態がつぶさに語られている。

 ひとつ驚いたのは、官僚から記者へずさんにも情報漏洩したケースがあるという、佐藤さんの証言だった。

 詳細は伏せられているが、外務省の職員が記者にうっかり機密書類を渡してしまったケースもあるという。そこで、外務省内で機密情報を手にした記者への対応として、職員同士で「脅しますか?」と会話があったとは、まるで、映画のような展開に驚きも隠せない。

 しかし、記者にも使命がある。外務省側から「間違えて渡してしまった」と告げられても、記者は「情報を得た以上は書かなければいけない」と食い下がる。

 結果、外務省側から「日本外交において本当に実害がある」と説得された記者が、新聞での扱いを小さくすることで決着がついたというが、国民の知る権利を背負う記者側と、国益に奉仕する官僚側には、常に悩ましい距離感覚もあるようだ。

 多岐にわたる視点で語り合う西村さんと佐藤さんは、本書でさらに「AI」の存在にも言及。「ジャーナリズムと権力」の距離がなおも揺らぎつつある時代で、我々もいかにして情報と向き合うべきかと、考えさせられる良書だ。

文=カネコシュウヘイ

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