スシ、刺し身が消える……11月17日からクロアチアで、高級魚クロマグロなどの漁獲規制強化を議論する「大西洋まぐろ類保存国際委員会」が開かれた。刺し身・すしネタとして馴染み深いマグロが、庶民の口、食卓から遠のくとマスメディアからも注目を集めている。しかし、遥かに深刻な研究発表が米科学誌「サイエンス」に11月初めに掲載されたのだ。ネイチャー・ニュースはこの研究を"Sayonara, sushi..."の刺激的なタイトルで伝えた。
「スシが食べられなくなる 2048年までに世界の海産食品資源が消滅-新研究」(農業情報研究所)がカナダ・米国・英国・スウェーデン・パナマの国際研究チームによる仕事を紹介している。
「研究者は、生物多様性の喪失が海洋生態系にどれほど影響を与えるかを検証するために、世界各地の経験と50年以上の長期にわたる地域と世界の漁獲データを分析した。計算結果は、過去200年、沿岸の生物多様性は、汚染による水質悪化、有害藻・沿岸の洪水・殺魚の急増に伴い、急速に低下していることを示した。海産食品資源についても、1950年に利用できたものの29%が2003年時点で失われており、残ったものも2048年までにはすべて消えてしまうだろうという」。一部にはもっと早い商業漁業崩壊もありそう。
「魚が食べられなくなる日…」(侏儒の言葉)はこう指摘する。「確かに、食卓にのぼる魚は次々と主役が変わりつつある。最盛期の漁獲量と比べると、1割にも満たない魚種が増えているのは、魚を食べつけている人ならとうの昔に気付いている。今や、モロッコの蛸どころではなく、ナミビアの赤魚、南アフリカの金目、ペルーの穴子、と世界中から魚を集めないと需要に対応できないのが実情である」「さらに入手難になると、似たような魚をどこからか見つけてくる。そんな努力があるから、我々は魚を食べ続けることができるが、こんなことが何時までも続けられる筈がないのは明らか」
今年1月には英科学誌「ネイチャー」に、1970年代から始まった深海トロール漁が、一人前に成長するまでに数十年もかかる深海魚を絶滅の危機に追い込んでいるとの研究も出された。資源の豊富な海山あたりの深さに網を入れて根こそぎにしてしまう漁法だから、素人目にも納得できる結果だ。
あちこちリンクをたどって行くうちに、1960年代と90年代で比べて世界の海で種の豊かさが失われたことを実感させるマップ
「Declines in the number of species found on a standard longline in the 1960's and 1990s.」に行き当たった。豊かな暖色から貧しい寒色に変わる海。日本付近の太平洋はまだ良い方であり、インド洋や大西洋には悲惨な印象を持つ。
「海の食物連鎖の王者は?」(ラジカル コミュニケーション)は食物連鎖の頂点は誰かとの考え方から、国際的な海洋資源保護の進め方が恣意的ではないか、と疑問を呈している。「水産資源は枯渇の道をまっしぐらである……実は海のKINGは鮫ではなく鯨グループの鯨や鯱なのだ……何て事でしょう!鯨グループは動物愛護団体等から手厚い保護を受けているではありませんか……彼等の旺盛な食欲を皆は知っているかい?」「将来海に生きる生物は鯨グループに限定される……鯨 鯱 イルカだ……そして彼等も居なくなる……何故かって?人間が食べるからだ」
マグロの資源や消費については
「責任あるまぐろ漁業推進機構」のページにデータがある。今回、地中海を含む大西洋ブロックで問題になっているのは、漁獲量が規制されているのに各国が守らないためばかりではない。マグロ稚魚を捕らえて巨大生け簀で太らせる「蓄養」が広まったために、そこから出荷されるマグロがどの国の分かも判然としなくなっている。尻抜け規制の結果として、大西洋・地中海のクロマグロは、種を維持する繁殖に必要とする頭数すら危うくなってしまった。
マグロ乱獲の一番の原因は世界のマグロ漁船が多すぎることにあると思う。過剰な現状はこうして形成されたと、事情通らしい
「マグロの漁獲枠が半分に…どうしてかな…」(どうせ一度の人生なのよ…)は説いている。
「マグロの延縄漁は日本人が考えた手法で、遠洋マグロ船は元々日本にしかなかったのよね。荒波に耐える頑丈な船体とマイナス60度の冷凍庫、そして延縄」「バブル景気の頃、マグロ船の新造ブームがあって、どんどん高性能の船が建造されたのよ。で、それまで使っていた船は解体されずに台湾などに売られていったのね」「台湾に売られていったマグロ船に延縄などを売ったのは日本の商社。中古だけど頑丈な船と道具を手に入れた台湾の船主たちは自分たちでマグロを獲ろうとするけど失敗ばかり……で、どうしたかと言うと、日本から日本人漁労長を高い賃金で雇いマグロを獲ったのさ。なかなか賢いけど、日本のマグロ船業界にとっては困った問題なのよね。安いマグロがどんどん輸入されるために、日本船は漁に出る度に億の赤字が出ることもあったそうな」「さらに台湾船の他にベリーズやホンジュラスなどの船籍のマグロ船も登場。全世界にはたくさんのマグロ船が操業することになる」
今年は、近海のマイワシが激減して、高級魚並の値段に跳ね上がった。一部のメディアは漁業近代化と称して新鋭船を導入し、世界の漁業資源獲得競争に負けないようにしようと主張している。しかし、マグロ船業界の歴史が示す通り、それは地球規模の資源枯渇にしかつながらない。巨大人口で巨大な胃袋を持つ中国、インドの経済発展が立ち上がった今、国際的、包括的な漁獲規制の枠組みに向かうしか漁業を生き残らせる道はない。もう一つ、国内的には養殖漁業の問題があり、9年前に私の連載
第28回「養殖漁業に吹く世界化の風」を書いた。現状をネット上でサーベイしてみると、陸上養殖など歩みは遅々としている。