特集 2023年11月6日

あの「ウミガメのスープ」を食べる。ついでにウミガメフルコースも食べる

スープの色は真っ黄色。

友達のそのまた友達が小笠原のウミガメ漁師と知り合いであるという話を聞いた。夏の終わり頃のことである。私はかねてより一度ウミガメを食べてみたいと思っていたので、さっそく頼み込んで連絡先を教えてもらった。

電話に出たウミガメ漁師は気さくな人で、お金さえ払えばウミガメの肉を送ってくれるというではないか。これはすごい。こんなにあっさり夢が叶ってしまってよいものだろうか?大喜びでお願いすることにした。

漁師はいろいろなレシピを教えてくれたけれど、やっぱり一番気になるメニューは有名な水平思考クイズに登場するウミガメのスープだ。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

前の記事:「円」も「丁寧」も実は略字だった。漢字のプロに聞いた略字のあれこれ

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ウミガメ、届く

ウミガメをとって食べる習慣はかつては日本各地にあったそうなのだが、今でも続いているのは小笠原諸島だけだ。この地域では戦前からアオウミガメの孵化養殖と放流に取り組んでいて、その甲斐あっていっときは減少した生息数も現在では安定しているという。気兼ねなく食べられるのはありがたい。

そんな小笠原からウミガメが届いた。配達員は何を思っただろうか?

日本近海で見ることのできるウミガメは何種類かいる。珍しすぎて発見されただけでニュースになるオサガメなどは論外として、他のウミガメは食用にしないのだろうか?

そう思って漁師に聞いてみたところ

「アカウミガメは肉が臭い。タイマイ(鼈甲の素材になるウミガメ)は肉に毒があって、南太平洋では毎年のようにこれを食べて死ぬ人がいる。だから小笠原では昔からアオウミガメだけを食用にしている」

と教えてくれた。

つまり臭みも毒もなかったアオウミガメだけが捕食され続けているのである。正直者がバカを見るとはまさにこのことだ。

送られてきた肉たち。左上の3つが刺身用の胸肉、右上の2つが煮込み用の詰め合わせ、右下は手羽、左下が卵、そして真ん中にあるのが卵管だ。

ここには入っていないが、アオウミガメのレバーもたいへん美味しくて食べ応えがあるという。ただ、一度でも冷凍してしまうと凄まじく苦くなるから島の外には出せないそうだ。

「いまどき産地まで行かないと食べられない珍味があるのだなあ」

などと電話口で感心していると、漁師は気をよくしたのか

「気に入ったら、ウミガメ漁のシーズンに遊びに来てよ。レバーも食べてもらえるしカメの解体にも参加させてあげる」

と言ってきた。

ウミガメの解体!なんと素敵なお誘いだろう。

剥がした甲羅をかついで「亀仙人!」などといってはしゃぐ自分を想像して恍惚としていた私の頭に漁師が発した次の一言が冷水をぶっかけた。

「定期船が週に一回しか来ないから、最低でも1週間はいてもらわないといけないけどね!」

なかなかハードルは高そうだが、いつか実現したいものである。

これはおまけで入れてもらった頭骨。
大きくて立派なので自分の頭と並べて記念撮影。
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胸肉は刺身とローストに

同封されていた手書きレシピ(のコピー)。

届けられたウミガメの肉には、重厚な手書きレシピが添えられていた。今回はこれを参考に調理していくことにする。

まずは流水解凍。
あ、「刺身」の略字だ!!

斬新な略字に興奮しつつビニールを切って中の肉を取り出す。

開封を見守る人々。ウミガメを食べるよーといって声をかけるとデイリーポータルZのライター(自分を入れて3人)を含めてなんと8人も集まった。
きれいなピンク色。

ビニールから取り出された胸肉はきれいなピンク色をしていて、美味しそうだが見た目は普通だった。

「青海亀肉」と漢字で書くとなんだか不老不死の霊薬みたいないかつさがあるが、別に七色に光っていたりはしないのだ。

薄く切り分けて、
盛りつけたら完成。見た目は鳥刺しみたいだ。
刺身にしなかった分は胡椒と砂糖をふってから表面を軽く焼いてローストに。
こちらもスライスしたら完成だ。おいしそう!
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煮込み用の肉はいろいろな部位の詰め合わせ

刺身とローストを早々に作り上げた我々は、続いて目玉料理であるウミガメのスープに取り掛かることにした。

煮込み用肉。

見た目は普通だった胸肉と違って、煮込み用と称された肉のパックにはウミガメの体のいろいろな部位がぶつ切りにされて入っており、七色にこそ光っていないものの表皮(黒)、脂肪(黄色、青緑色)、筋肉(赤色、肌色)が混じり合って抽象画を見ているような気分になった。

中の方はまだ凍っていたが時間がないので手で解きほぐしていくことに。

この棘が生えた肉はおそらく食道。アオウミガメの食道には口に入った餌を胃の方へ押しやるために棘がたくさん生えているのだ。
ばらし終えた。
水と酒を入れてひたすら煮込む。

レシピには酒を少しだけ入れて加熱すると肉から出てきた水分と合わさっていい感じの煮物になると描かれていたが、今回はスープにしたかったので適当に水を足して煮込むことに。

沸騰するとすぐにアクと脂が出てきた。
ライターのまこまこまこっちゃんが味見をしてみた。

まこっちゃんは一口飲んで

「うーん、カメの味ですね」

と言っていた。

私も飲んでみた。

「うーん、カメの味だ」

と思った。

もう少し丁寧に解説しよう。

煮始めてからさほど時間がたっていないのにすでにコクのある脂と旨味成分がべらぼうに放出されていた。そして、その脂と旨味の嵐の向こう側に、カメの風味があるのだ。カメの風味と言われても想像がつかないと思うが、カメの風味としか説明できないのだからどうしようもない。スッポンを食べたことがある人なら、あれに近いといえばわかってもらえるだろうか。

「煮込めば煮込むほどに美味しくなるに違いない」と無邪気に信じて最低でも1時間くらいは煮込むつもりだった我々は、加熱しはじめてからたった10分ほどでこの濃厚な味を突きつけてきた鍋を前に恐れおののいたのだった。

⏩ 手羽はそのままウミガメの手

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