特集 2023年1月13日

多摩川に埋まる遊具「孤独なライオン」に新事実が判明!

多摩川の河川敷にライオンの遊具が埋まっている。以前、この遊具の真相に迫ったが、その後多くの情報が寄せられ、さらなる進展があったのでここに報告する。

1992年三重生まれ、会社員。ゆるくまじめに過ごしています。ものすごく暇なときにへんな曲とへんなゲームを作ります。

前の記事:金属製のドーナツをくっつける無茶なパズル「The Wavelinks Puzzle」は答えを見てもなお強敵

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多摩川の河川敷にひっそりと埋まる孤独なライオン

前回、多摩川の河川敷にひっそりと埋まる孤独なライオンについて書いた。

多摩川の河川敷にライオンの遊具がぽつんと埋まっており、「なぜ孤独なのか」「いつから孤独なのか」という疑問があった。

前回の調査では、昔の地図や航空写真やブログなどを隈なく調べ、「2007年の台風9号によって多摩川が増水し、ライオン以外の遊具が流失した」という仮説にたどり着いた。しかし、確証を得るには至らなかった。

前回の記事公開時点で未解決の謎は次の3点である。

・本当に2007年以前にライオン以外の遊具があったのか
・ライオン以外の遊具が以前あったとして、それはどんな遊具だったのか
・ライオン以外の遊具がなくなったのは、本当に2007年の台風による流失が原因か

インターネットのみんなありがとう

そして記事公開後、じつに多くの情報が寄せられた。インターネットすごい。みなさん本当にありがとうございます。この記事ではみなさんから頂いた情報をもとに実施した追加調査結果について報告する。

もうすぐ孤独じゃなくなるからな。待っててくれ。

あいまいな記憶

まず寄せられたのは、あいまいな記憶の数々。

この横あたりに砂場があったかと思います。それは昔からあったが、ライオンの記憶はない…。
(るパンダ さん)
うっすら覚えがあるのは、同じようなのがこの箇所に何匹かいたということ。砂場があった記憶はある。
父いわく、10メートル以上離れたところに別の動物遊具があった記憶があるとのことです
(浜松マチ子 さん)

前回の記事では航空写真をもとに砂場の可能性を示唆していたが、実際に砂場を記憶している人が何人かいる。あいまいとはいえ、大きな進歩である。

前回は航空写真の情報だけで「これは砂場だ」と言い張っていたが、推測の域を出なかった。(国土地理院空中写真CKT893-C12-18を加工。)

砂場があったということは、周囲はれっきとした遊び場だったということだ。となると、ライオン以外の遊具があった可能性は高い

……というロジックの予定だったが、そんな回りくどいことをせずとも、そもそも「この箇所に何匹かいた」「別の動物遊具があった」といった重大証言が出ている。これはすごい。やはりライオンはもともと孤独じゃなかったのだ。

お前…。いろいろあったんだな…。

パンダがいたかもしれない

ライオンは孤独じゃなかった。ではそこには何が居たのか。実は、複数人からパンダの遊具に関する情報をいただいた。

45年ほど前にはパンダもいたと記憶してる…(中略)… 当初は3頭だったと思うんだけど、ライオンとパンダともう1頭はなんだったかな…
パンダ前後に揺れる遊具があったような気がします
(DMより)

この2つの情報を合わせると、ライオンパンダ前後に揺れる遊具の3つがあったようだ。 

そして次に、とても有力な情報が届いた。

手持ちの写真(2004/01/29)だと砂場くらいが残っている。
1970年頃だともう少し遊具があった記憶がある。
(AKIRA_TRYSTAR さん)

2004年の写真である。ついにお目にかかることができた。一人の力ではどうしてもたどり着けなかった2007年以前の写真。感無量である。

拡大してみると、確かに3つの遊具があるように見える。

遊具は3つで、一番右がライオンだ。かつてライオンが孤独じゃなかったことの決定的な証拠写真である。

さらに、同じ方が別アングルの写真も載せてくださっている。

同日の別アングル。写真にはライオンが入っていないですが、別の動物もありました。半分以上埋まっております。
(AKIRA_TRYSTAR さん)

黄色の遊具と黒の遊具だ。これまでの話を踏まえ、どちらかがパンダ、どちらかが前後に揺れる遊具だとすると、色的にこうなる。

黄色の遊具が前後に揺れる遊具で、黒の遊具がパンダと推測するのが自然だ。

黄色の遊具には耳が生えているように見えるので、これもなにかしらの動物であろう。またがりやすそうな形状で、前後に揺れるバネの遊具のように見える。…埋まっているが。

いっぽう、黒の遊具はパンダにしては黒すぎる気もする。塗料がはげ落ちた可能性もあるが、本当にパンダなのだろうか?

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ものすごい写真が送られてきた

そんな中、TwitterのDMですごい写真が送られてきた。

世田谷出身の母親のアルバムを見ていたところ、当時子供だった母が公園で野毛のものと思われるライオンとパンダの遊具に跨っている写真を発見しました。

添付されていた写真がこちらである。撮影年は1984年とのこと。

まぎれもなくパンダである。

後ろの赤い橋は第三京浜である。位置関係からしても、間違いなく「孤独なライオン」の辺りだ。たしかにパンダはいたのである。

そして、ライオンの写真も。 

ついに会えた…。若かりし頃のライオンの姿。

このあたりの公園(多摩川遊園)はおそらく1984年前後に出来たと推測されるため、このライオンは出来立てほやほやの姿である。いまと違いすぎてびっくりする。

こんなにも生き生きとしたたてがみだったとは。まるで別ライオンである。

これまでの調査であの手この手をつくしても見ることのできなかった、ライオンの若かりし頃の姿。ついに見ることができた。「感動」という言葉では表しきれない。やっと会えた……。

また、 これにより「2004年の写真にうつる黒い遊具は本当にパンダなのだろうか。」という疑問も解決した。1984年のパンダとライオンの写真をつなげると矛盾なく説明できるのだ。

1984年の2つの写真には同じポールが写っておりつなげることができる。

このライオンとパンダの位置関係は、2004年の写真とも矛盾しない。

先ほどの2004年の写真。ライオンの位置は別アングルの写真から推測。​​​1984年の写真の位置関係からして、黒の遊具はパンダと断定して良さそうだ。

晴れて遊具の種類と場所を特定することができた。

こうして、前回の調査で残っていた3つの疑問のうち、2つが解決した。

・本当に2007年以前にライオン以外の遊具があったのか
→YES
・ライオン以外の遊具が以前あったとして、それはどんな遊具だったのか
パンダの遊具と、前後に揺れる黄色い遊具があった
・ライオン以外の遊具がなくなったのは、本当に2007年の台風による流失が原因か
→依然不明

残す疑問はあと一つ

残された疑問はあと一つ。「ライオン以外の遊具がなくなったのは、本当に2007年の台風による流失が原因か」だ。

そんな中、有力な情報を見つけた。

Google Earth Pro過去のイメージを見ると、1997年12月にはライオン以外にも何か見える
(lovepsy さん)

Google Earth Proでは過去の航空写真が見られるようだ。Googleストリートビューで過去の画像が見られることは知っていたが、それとは別の仕組みがあるとは知らなかった。これは使えそうだ。

さっそく確認した。Google Earth Proの画像をそのまま載せることは権利の都合上できないので、抽象化した図で結果をお伝えする。

Google Earth Proを見ると2007年1月1日の写真では、パンダも「前後に揺れる遊具」も確認できる。
2009年10月1日の写真では、「前後に揺れる遊具」は無くなっている。しかし、パンダはうっすら見える。砂場も残っている。

前回の記事では、ライオン以外の遊具は2007年の台風9号で流された説が濃厚だったが、Google Earth Proを見ると、2009年10月1日の写真にうっすらとパンダが写っているのだ。もしかすると流されていないのかもしれない

しかし、2009年9月のGoogleストリートビューだとパンダが写っていない。矛盾しているように見えるが、正直、画像が不鮮明ではっきりしない。(なお、前回の記事で「2009年には砂場が無くなっている」と書きましたが単に見落としているだけでした。お詫びして訂正します。)

これまで得た情報やGoogle Earth Pro、Googleストリートビューの情報を時系列で整理すると次のようになる。

2007年の台風9号で「前後に揺れる遊具」は流失した可能性があるが、パンダは流されていない可能性もある。正直、Google Earth ProもGoogleストリートビューも画像が不鮮明でよくわからない。

じゃあ結局パンダはどうなったんだろう。可能性は次の3つだ。

やっぱり2007年の台風9号で流失した説 (2009年のGoogle Earth Proの航空写真にうっすら写るのはその跡に過ぎない説)

2009年以降の洪水で流失した説

まだいる説(茂みに埋もれているだけに過ぎない説)

普通に考えると①か②だが、万が一、③だったらこわい。ぞくぞくする。しかし、考えられなくもない。その根拠がこちらのツイートである。

一番埋まってるのは2019年台風の直後だった

Tadashi Fukui さん) 

2019年の台風19号の直後、埋まったライオンの周囲が掘り起こされているのがわかる。多摩川の河川敷の遊具は台風で埋まるのだ。これと同様に2007年の台風9号のときもライオンとパンダは埋まったかもしれない

そしてそのとき、ライオンだけ掘り起こされてパンダだけ埋まったままだったとしたら?

もしそうだとしたら、2009年のGoogle Earth Proの写真でパンダの姿がうっすらとしか確認できなかったのも説明がつく。

だいたい、ライオンもパンダも同じ材質のコンクリートの上に乗っているのに、ライオンだけ流されなかったというのもおかしな話だ。

コンクリートごと流されるということがあるのだろうか。しかもパンダだけ。

 ライオンのすぐ近くで、いまもパンダが埋まっているかもしれない。もしこれが本当なら大変なことだ。この目で確認せねば。

こんな風になっているのかもしれない。
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パンダを掘り起こしたい

パンダは流されたのかもしれないし、まだ埋まっているかもしれない。こうなったら掘り起こして確かめるしかない。

しかし、公園で勝手に穴を掘ってもいいのだろうか。玉川公園管理事務所に確認の電話をした。すると、「基本的に公園内で穴を掘る行為はお断りしている」とのこと。残念。

ところが、前回の記事について伝えたうえで、「追加調査の結果、ライオンの近くにパンダが埋まっているかもしれない」という旨を話したところ、事態が動き出した。

記事を読んでくださり、なんと、調査を検討していただけることに。(社交辞令ではなくけっこう前向きな感じ。)進展あればまた記事にしたいと思います。

おまけ①

というわけで、孤独なライオンの追加調査報告本編は終了。

ここからはおまけ。実は記事公開後、当サイト編集部宛てにこんなメールが届いた。

初めまして、 例の孤独なライオンなのですが、 おそらく工業デザイナーだった父がデザインした公園遊具だと思います。 父はもう他界しているのですが、その時勤めていた会社に資料などあるかも知れません。
(木全さん)

すごい…。いよいよ遊具を作った方のご家族と連絡が取れた。さっそく詳細を訪ねると、お父様はマスセット株式会社という遊具メーカーにお勤めになっていたようだ。

そこで、マスセット株式会社にライオンの遊具について問い合わせた。しかし、「当時弊社で取り扱いがあった製品と比較させた頂きましたが、若干表情や身体の向きも異なるのではないか」という返答だった。

マスセット株式会社取り扱いのライオンの遊具。すでに販売は終了しているとのこと。
比較してみると、たしかに顔の向き口の形しっぽのデザインが微妙に違う。別物だ。

実は前回の記事公開後、「似たライオンを別の場所で見た」という報告を複数いただいていた。しかし、いずれもマスセット社製のものだ。

京都伏見稲荷に「孤独なライオン」の兄弟を発見。
CUBE(K5) さん)
練馬区都営貫井一丁目アパート公園でも同じタイプのライオンを見かけました。
やまうち? さん)

情報をお寄せいただいた皆さま、ありがとうございました。これはこれでとても興味深かったです。木全さんのお父様の設計されたライオンは全国各地でいまも遊ばれています。

おまけ②

多摩川のライオンは洪水のたびに埋まる。前回の記事公開後、いろんな埋まり具合のライオンの写真をツイートいただいたので、Togetterにまとめた。よかったら見ていってください。(記事公開前のツイートも含んでいます。)

 


インターネットの集合知、恐るべし

前回の記事公開直後から、本当にものすごい数の情報が集まった。おかげさまで追加調査ができたし、ついには昔のライオンの姿仲間のパンダの姿を見ることまでできた。大大大満足である。

ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました。これからも "良いインターネット" の世界で持ちつ持たれつ生きていきましょう…。

(2023年1月24日追記)発掘調査の記事を公開しました。
その後、本当に公園管理事務所によって発掘調査が行われることになり、その模様を記事にしました。
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