特集 2020年8月11日

ポケベル打ちでTwitterしたい

ポケベル打ちのTwitter専用端末を開発しました

その昔、公衆電話などからポケットベルにメッセージを送るための「ポケベル打ち」という入力方法があった。

もし30年前にTwitterがあったなら、きっとみんなポケベル打ちでツイートしていただろう。想像していたら楽しくなってきたので、実際にマシンを作ってみた。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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Twitter専用端末を使ってみよう

スマホなんて影も形もなく、携帯電話さえ高嶺の花だった30年前。みんなどうやってTwitterをしていたかというと、ご家庭にある専用端末を使っていた。

これが当時のTwitter専用端末である。愛称はたしか「つぶやき二郎」

電話機みたいなプッシュボタンが付いていて、いわゆる「ポケベル打ち」で文字が入力できる。入力した文章が液晶でプレビューできるのは当時画期的であった。

002.gif
とその前に、初回起動時にはWiFiのSSIDとパスワードを入力する必要がある。いつの時代も面倒だ
無事につながったみたい
あとはポケベル打ちで文字を入力するだけの簡単操作

入力できる文字は、カタカナと英数字のみである。後年には、漢字入力もできる機種が発売されたとか。

ちなみにポケベル打ちとは、数字の組み合わせで文字を入力する方式。例えば「1 2」と押せば「イ」、「1 3」と押せば「ウ」になる。限られたボタンでいろんな文字が打てる工夫である。暗号みたいで楽しい。

この端末のポケベル打ち対応表。このほか、*ボタンはバックスペース、#ボタンは大文字・小文字の切り替えになっている
入力が終わったら、手元の赤いボタンをポチッと押す
確認画面が出るので、ここで「##」と押せばツイート完了だ
本体上部には、自分のアカウント名をメモしておける欄もある

一連の流れを動画でもどうぞ。

 

――30年前の端末というのはもちろんウソだけど(そもそもWiFiなんてない)、あの時代にTwitterがあったら……と妄想するのは楽しい。こういう端末を買ってもらえない家庭では、きっと公衆電話からツイートしていたに違いない。休み時間には、学校の公衆電話に長蛇の列ができていたとか何とか。

そしてカタカナしか打てない不自由さを逆手に取って、独自のTwitter文化が育っていたりして。そういう世界線もあって欲しい。

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パーツを組み上げる話

こういうマシンを作るには、まずは必要なパーツを買い集める必要がある。料理と同じで、作りたいものから原材料を逆算してお店へと向かう。

メインの部品であるプッシュボタンは、電子パーツショップでジャンク品として売られているのを100円で捕獲してきた。

バネがむきだしで、メカメカしいボタン。いい具合に色あせていて時代を感じる

見た目からすると、おそらく本物のプッシュ電話で使われていたボタンだろう。少し固めの押し心地と、押したときのカチッという音が最高だ。いいものが手に入った。

キャラクター液晶と呼ばれる表示器は、文字を表示するのに特化した液晶

これも古くからあるもので、枯れた技術といえるかもしれない。1文字が5x8ドットしかなく、ファミコン時代の文字を思い起こさせるカクカクした表示が可能。カーソルを点滅させれば、コンソール画面みたいな表現ができる。個人的には、昔シャープのポケコン(ポケットコンピュータ)を使っていたので、お馴染みの見た目である。

それをESP32という、WiFi機能付きのマイコンに接続している。ここだけモダンである。写真は開発中の様子
外装は3Dプリンタで出力したものをスプレーで塗装し、
中に先ほどのパーツを詰め込んだ
最後はタミヤのウェザリングマスターという塗料を使って、全体を汚していく
パタパタパタ……と筆を乗せていく
ウェザリング作業が思いのほか楽しくて、全体的に汚しすぎてしまった。ゴミ捨て場から拾ってきたような雰囲気に

入力したツイートは、WiFi経由でIFTTT(イフト)というウェブサービスに送られ、あらかじめ紐づけているTwitterアカウントに投稿される仕組みである。

古い家電製品は分解すると何となく動作原理が見えるのだけれど、近年の家電はひとつのICチップ内でいろいろやっているため、何をしているのか分かりにくい。今回もESP32マイコンだけでほぼ全動作が完結しているし、おまけに無線LANやウェブサービスなども経由しているため、見た目に反して仕組みは相当モダンである。

やっていることはポケベル打ちなんだけど、30年分の技術の進化が詰まっている装置、新旧技術の融合マシン……と言えなくもない。

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ところでポケベル打ちである

ポケベル全盛期に私は小学生だったので、ポケベル文化を端から見ているだけの立場だった(こんな装置を作っておいてなんだけど)。せっかくなので、ここでポケベル打ちを練習しておきたい。

印刷した対応表を片手に……
現代人は意外とポケベル打ちに馴染みやすいかもしれない。母音の位置はフリック入力と同じなので、あとは子音の位置だけ把握しておけばいいのだ

しばらくやっていると、カナ入力はそれなりにできるようになってきた。

 

半角カナだけで打った文章は、カタコト感が出ておもしろい。30年前からやってきた(みたいな)、時を超えたツイートである。

とはいえ現役だった方からは、「いや、遅っ!」という声が聞こえてきそう(すみません)。速い人は、読む速度と同じくらいで入力できたという。よく考えてみると、一文字打つのにボタンを二回押すだけでいいので、作業量としてはキーボードのローマ字入力とほぼ同じである。

ポケベル打ち専用のテンキー型キーボードがあれば、片手で操作できるし、フルキーボードみたいに机を占有することもない。いいかも。

右手にマウス、左手にテンキー(ポケベル打ち)というスタイル。5本指でタッチタイピングする

いまこそポケベル打ちを見直すときかもしれない。

 

そのあともう少し練習して、ようやく人並みの速度になれた……だろうか?

本物のポケベル打ちだと、入力した文字も見えないしバックスペースもできない。今からすれば相当の緊張感だけれど、それを難なくこなしていた当時の方々のすごさを改めて思い知ることとなった。


*2*2

「『*2*2』はないんですか?」と聞かれそうなので先回りして答えておくと、残念ながら今回は再現できず……(作り終わってから思い出した)。ちなみに「*2*2」とは、カナ入力する前に必要なコマンドで、これを入力しないと数字がそのまま送られてしまうというもの。

ポケベル打ちも、知らない人から見ればただの暗号だけれど、使っていた人から見ればかつての日常である。いまだと絵文字やスタンプみたいなものが、当時は数字の組み合わせから生み出されていたのだ。送信側と受信側の双方で共通認識(プロトコル)があれば、どんな方法でも人間はコミュニケーションできてしまう。少ない情報量であるほど、想像をふくらませる余地が残されていて、これはこれで豊かだなぁと思う。

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