特集 2022年9月19日

漫画家を目指していた母親にインタビュー

私の母は絵が上手だ。若かりし頃、少女漫画家を目指していたらしい。

この夏実家に帰省した際に、母親が描いた漫画が大量に出てきたのだ。せっかくなので母親の漫画家ヒストリーを娘の私がインタビューしてみることにした。

実験と暇つぶしが大好きな会社員。顔芸が特技。

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実家から漫画が大量に出てきた

母が昔ノートに描き溜めていた漫画が大量に出てきたのだ。母親も取っておいたことをすっかり忘れていたようで驚いていた。

大量の漫画ノートがこちら
手書きでびっしり描いてある!
このノートの漫画はいつ頃書いていたの?
多分高校生ぐらいの時かな。中学の時も書いていたような気がするけど
文具ノートに書いてるね
学校の授業中とかも先生の目を盗んで書いてたよ
 
 
薄い文具ノートを数冊繋げてあるのがすごい
包装紙を使って表紙付けしてあるという凝りよう
​​​​​
漫画はいつ頃から描いてたの?
小学校低学年の時かな。広告の裏に描いてたのは覚えてる
きっかけはあったの?
元々絵を描くのが好きだったから。気がついたら描いてたなぁ
なんかプロっぽいな……
なかよしとかりぼんが大好きだった!高校生の時は別冊マーガレットも読んでた。少女漫画ばっかり読んでたなぁ
たしかに絵のテイスト的にそんな感じするね
母親が高校生の頃に描いた長編漫画「恋の一族」
絵がうまい…!王道少女漫画ってよりかは優雅な感じの作風だね
エースをねらえとかベルばら読んでたからそこから影響受けてるかも
なるほど。これはどんなストーリーなの?
ドジな女の子とお嬢様が、1人の男の子を取り合う恋の物語
絵に描いたような王道ラブストーリーだね…
そう。この頃描いてた漫画は大概ちょっとドジな平凡な女の子とお嬢様が出てくる
その当時ありがちな設定だったのかもね
恋の一族には”蘭様”というお嬢様が登場する
この子は蘭様。お城から出てきたお姫様風の髪型をなぜか高校生でやっているという
やばいね。これ本当に高校生なの?
一応。こういうお金持ちのお嬢様系の髪型はお蝶夫人をイメージして描いてたと思う。容姿はもちろん、名前も華麗な感じにしてたよ
なるほど!綺麗な女性への憧れみたいなのもあったのかな
そりゃそうよ、女だもの!
主人公と蘭様が恋をする相手こと草刈くん
草刈くんっていう男の子を取り合うんだね
当時、草刈正雄が好きだったから…
名前の由来、単純すぎないか?
懐かしそうに恋の一族を読む母
表紙の裏にはこんなものが。高2の夏休みから1年に渡って描かれた作品のようだ
絵は結構練習した?
練習っていうよりかは、好きで漫画描いてたら上達したって感じかも
四六時中描いてたとか?
うん。試験勉強しながら描いてたし、授業中も描いてたよ
熱量がすごい!
ノートの最初のページで勉強していても
最後のページになると必ず漫画になってる
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陸奥A子、一条ゆかりなど数々の漫画から影響を受けた

影響を受けた漫画家とかいる?
一条ゆかりの絵に憧れてたよ。砂の城とか読んでた!
へぇ〜!
陸奥A子も大好き!陸奥A子の漫画に出てくるような彼氏が欲しかった。黒のスリムが似合って足が長くて髪が長髪。昭和のボーイって感じ
たしかに出てくる男の子かっこいいね
あと単行本よく読んでたのは吉田まゆみ。アイドルを探せとか読んでた。あとは…くらもちふさこ、おおやちき!
本当にたくさんの漫画家から影響受けたんだね
高校生の頃に描いた長編「大っきらい…なあいつ」。確かに上記の漫画家からの影響を感じる
絵が強烈すぎて見入ってしまう娘
漫画のタイトルが「だいっきらいなあいつ」ってやばいよね
でしょ!タイトルはわざわざ墨汁つけて描いたのよ。主人公の女の子がかっこいい男の子に恋する話
王道学園ドラマだね〜
別マの影響が強いのか、高校が舞台の恋愛ものが多い

なぜか主人公が不幸になる過激な設定

題名は「無常の光」。両親が交通事故で亡くなり、ひとりぼっちになってしまった主人公
身寄りがない主人公をお金目当てに親戚に引き取られるが、預かり料が3万と破格で愕然
その結果、親戚にいじめられる
主人公が不幸な設定が多い!なぜこんな過激なストーリーになるんだ!
物語をドラマチックにするためにそうしてた。不幸な設定は当時ありがちだった気がするわ
主人公が軽率に事故に遭ったり
突然気絶して倒れたりする
設定が白々しく無理があるので思わず笑ってしまう母
軽率に不幸に遭うね…
この頃は結構物語の傾向がはっきりしてたかも。いつも似てる設定で描いてた
へぇー。例えばどんな?
少女が交通事故にあってバタって倒れて、その先に白い花を見つけるの。這いつくばって白い花を手に握って死ぬっていうパターンが多かった
どういうこと?
必ず「白い花のように」というタイトルをつけてた
一体何に影響を受けたんだ、、
わからない

少女漫画だけでなく忍者ものやホラーにも挑戦

生まれた時間・体重・身長が全く同じでありながら、貧乏人とお嬢様と対極の環境で生まれるというおかしな設定
これまた奇抜な設定ね
運命的な女の子同士のライバル設定って、憧れるのよねぇ
そして主人公が突然忍者になる
忍者!?全然ついていけないんだけど!(笑)
才能があるのにそれを発揮できずにいる主人公が、忍者になる修行に出て素晴らしい人間になって帰ってくる話
ヒューマンドラマだね
強くなるために忍者の修行に行くの面白いかなって思って。スーパーウーマンになって帰ってくるっていう展開に憧れてた
恋愛ものだけじゃなくて色んな物語を描いてたんだね
なんとホラー漫画も描いていた!タイトルは「恐怖の館」
いきなりホラー漫画!?
そうなの。楳図かずおが好きだったから!
なるほど!だからこんなに怖い顔が上手いのか…
とある女の子が友達を連れて館に住む叔母を尋ねると、叔母が化け物に豹変する話
食べたディナーが友達の肉だったという展開に。泣きそうになる
描写がリアルすぎて怖い
頭の漬物!!(笑)
若干下手なのが逆に怖いね……
少女漫画の可愛らしいタッチから恐怖の描写になるのが恐怖を倍増させている気がする
展開が怖すぎて笑っている母。途中から来た父親も漫画をみて吹き出していた
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別冊マーガレットで入賞した話

これは20〜23歳のあたりで描いてたと思う。市役所に勤めながら夜描いてたよ
社会人になってから描いた作品「ちょっとだけ ミス・マッチ」
すごい!前より格段にうまくなってる!!
これは別冊マーガレットに送ったやつだからしっかりペン入れしてある
ここまでくるとプロっぽい!
当時は漫画家デビューの倍率も高そうだね
うん。でも2つ応募して、2つとも賞をとったよ
ええー!凄いじゃん!
期待賞とC賞を1作ずつとったのは覚えてる。別マに私の漫画載ったんだよ!
マジか……!!
一つは恋愛もので、これは女の子同士の友情もの。期待賞は別冊マーガレットの表紙に名前と絵が載るのよ
その時の別マは今持ってないの?
ちゃんと取っておいたはずなんだけど、どっかいっちゃったのよね……
クラスメイトが万引きをしているところを目撃したことをきっかけに仲が深まっていく話
満更でもない顔で漫画を眺める母
そういえばこの原稿用紙、別冊マーガレットって文字が描かれているね
原稿用紙に”別冊マーガレット”の文字が
この原稿用紙は集英社からもらった。なんで貰ったんだっけ?この作品の前にも別の漫画で小さい賞にひっかかって、その時に貰ったのかな?うろ覚えだからわかんない!
(編集注:初出時に社名が違っていたので直しました!)
女子同士の友情をコミカルに描いていて、怒ると蛇女のような表情になるキャラが登場する。ここでも楳図かずおの影響が出てしまっている……
そんなに賞にひっかかったなら、漫画家デビューの話もあったはずだよね。どうしてならなかったの?
賞を取った時に編集部の人から「高校生の恋愛ものじゃなくて、会社を舞台にしたブラックユーモアを描いてほしい」ってコメントが来てたの。でも私が描きたいのはTHE少女漫画の高校生同士の恋愛だったから、正直OLの話とかあんまり描きたくなくて
なるほど、方向性の違いね……
それでテンション下がっちゃったの。でも、よく考えたら高校生ものを描くのも年齢的に厳しいのかなって思って、スパッとやめちゃった
なるほどね〜。もったいない!
今思えば、あの時東京に暮らしてて編集部の人から直接話を聞いてたらもしかしたら描く気持ちになってたかもしれない。でも地方に住んでたし、若かったから直筆のコメントを鵜呑みにしちゃったね
そればっかりは仕方ないよね
親子で漫画を眺めながら談義
 
スクリーントーンを初めて使った時「いちいち描かなくても貼るだけで背景ができるなんて!!」と感動したそうです
今でも絵は得意だもんね。せっかくなら何か描いてよ
可愛い女の子だったらすぐ描けるよ!
得意げに書き始めた母親
すらすらと女の子を描いている
完成!ものの3分ほどで完成!今でもすぐかけるのがすごい

漫画から伝わる母の創作の姿勢

母が描いた漫画を眺めていると、"ただ楽しいから描く"という純粋な創作意欲こそ大切だということに改めて気づかされた。自分の親がこんな風に愉快な作品を残していることは嬉しいし、時代を超えて母の漫画をここで紹介することができてよかった!

母親が高校生の頃に書いたポエムを読んでいると確実に遺伝子を継いでいるなと感じる
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