流氷、最高
なかなか見ることのできないと言われていた流氷だが、一度目にすると魅了されてしまう、そんな中毒性があった。
ドイツに戻り、ラトビア人の友人に流氷の話をすると「バルト海でも流氷見れるよ!」と言っていた。そうか、ヨーロッパにも流氷の見れる場所があるんだ。またまた流氷欲が掻き立てられた。
流氷ハイを求めて、また冬に寒いところに行きたくなりそうだ。
ことしの2月、2年ぶりにドイツから北海道の実家に帰った。
2月の北海道は冬真っ只中。せっかくだから冬にしかできないことをしようと、両親の提案で流氷を見に紋別に行くことにした。
36年間、流氷とは特に縁の無い人生を歩んできたが、一度見たらあれよあれよと流氷の魅力にハマってしまった。
「流氷」とは、一般的に海水が凍ってできた、移動する氷のことを言う。
北海道で見られる流氷は、シベリアからサハリンの東側を通り、海流に乗って南下してくるもので、北半球で見られる最も南の流氷である。
陸や島などに囲まれているオホーツク海では、太平洋からの温かい海水が入ってきにくいほか、シベリアからの寒い風によって海水の温度が下がり、凍りやすくなる環境であるそう。
また、アムール川からの淡水が海水と混ざることによってさらに凍りやすくなるため、流氷が出来やすい場所なのである。
子供の頃厚岸に住んでいた父によると、昔は太平洋側にも流氷が来ることが頻繁にあったそうで、流氷に乗って遊んでいたらしいが、最近ではほとんどオホーツク海側にしか接岸しなくなったそうだ。
それもそのはず、地球温暖化の影響でオホーツク海の流氷は年々減っているらしい。日本での流氷の観測は1892年から行われているそうだが、現在の流氷の量は100年前と比べて半分近くまで減ってしまったそうだ。
恰も流氷に詳しいように書いているが、これは帰ってきてから流氷について読み漁って分かったことで、今回紋別に行く前の流氷の知識はゼロであった。
ただ唯一知っていたことは、流氷はなかなか見れないものである、ということだった。
紋別で流氷が見れるのは1月下旬から3月ごろなのだが、海流や風などによって流氷が移動するため、シーズン中であっても確実に見れるものではないそうだ。
流氷好きの北海道在住の両親でさえも、ここ数年で一度しか見れていないそう。
ちなみに、その時は朝テレビで「今、根室に流氷が来てる」と言っていたので、片道4時間かけて見に行ったら見れたらしい。
また、2010年に北村ヂンさんが「もんべつ流氷まつり」に行った際も、流氷シーズン真っ只中であったにもかかわらず、流氷を見ることができなかったそう。
とにかく、流氷とはタイミングが合わないと見れない、希少なものらしい。そんなものを、果たして見ることができるんだろうか。
実家での滞在日数が限られているため、紋別へ行く日は1か月ほど前から決めていた。あとはその日に流氷が見れることを祈るだけである。
紋別に到着後、日没まで少し時間があったので、紋別市街から西の方にある流氷スポットに行ってみることにした。
果たして流氷は来ているんだろうか。期待に胸を膨らませながら海岸へ向かうと……
物凄い量の氷の塊が海に浮かび、浜に打ち上げられていた。なんか想像していたのと違うが、これも流氷なのだろうか?
実はこれは波にもまれて削られて出来た氷の塊の群れで、立派な流氷である。
こんな風に波にもまれて丸くなっていくのか。水平線も白く光っているので、ずっと沖の方にも流氷があるんだろう。
ネイチャービューハウスの売店の方に聞くと、一昨日は流氷は見えなかったが、昨日の強風で海岸まで流れてきたのでは、と言っていた。超ラッキーである。
紋別に到着した途端に流氷を見れてしまったが、今回のハイライトである砕氷船「ガリンコ号」に乗るのは明日なのだ。
明日の朝まで流氷は紋別にとどまってくれるだろうか。寝る時も流氷が心配だった。
果たして流氷は紋別にとどまってくれたのだろうか。次の日の朝、ドキドキしながらガリンコ号の乗り場へ向かった。
寝てる間にどこかへ流れていってしまったのか。期待がしぼむ中、ガリンコ号は沖に向かって出港した。
が、沖に出て少しすると水平線が白く光っているのが見えてきた。あれ、もしかして流氷じゃないか?
そして海岸から離れるにつれ、氷の塊が徐々に現れてきた。
こういう動画を1時間ぐらい見ていたい。
進めど進めど氷の景色が続くので、脳がトランス状態に入る。
ずっと流氷だけを眺めていると「もしかして私たちは北極まで来てしまったのでは」とも思えてきた。流氷ハイ状態だ。
それにしても昨日と今日と流氷が見れてなんと運が良かったのだろう。ホクホクした気分でガリンコ号の船員の方と話をしていると、彼がこう言った。
網走方面に流氷が移動しているという情報を得て流氷欲が掻き立てられた私たちは、紋別の観光はやめてすぐに網走へ向かうことにした。
紋別から網走方面に2時間ほど車を走らせ、網走から少し東の方にある北浜駅に向かった。
「オホーツク海に一番近い駅」としても知られる北浜駅には、オホーツク海を見渡せる小さな展望台があるのだ。そこから流氷が見られるかもしれない。
早速、駅の脇にある木製の展望台に登ってみるが、
分厚い流氷が海を覆った上に雪が降ったため、見渡す限り真っ白で、どこから海なのか。
しかも急に降り出した雪で空まで白く、海と陸どころか、空と陸の区別さえもつかない。
ただただ真っ白な世界だけが広がる中、思い切って海岸まで降りてみることにした。
海岸に降りてみると、目の前に広がっているのは海ではなく、氷と雪の世界だった。流氷がびっしりと海岸に密着し、見渡す限り白い景色が続いていた。
後で調べて見たところ、このように分厚い氷が浜と密着して、氷が陸の延長のようになっている状態のことを「氷野」と呼ぶそうだ。
北浜で見た流氷はその名の通り、まさに氷の大平原そのものだった。
氷野を見つめていると、氷河時代ってこんなんだったのかな、大陸ってつながってたんだなと、都会では考えたこともないような思いが掻き立てられた。
こんな非日常を体験できて、網走まで足を伸ばした甲斐があった。
それにしても、流氷の多様な姿とその動きの速さには驚いた。
短い間でこんなにも変化する流氷を見れて、もう一生分の流氷運を使い切ってしまったような気がする。
いや、やっぱりまた流氷を見たいから、全部使い切ってないといいな。
なかなか見ることのできないと言われていた流氷だが、一度目にすると魅了されてしまう、そんな中毒性があった。
ドイツに戻り、ラトビア人の友人に流氷の話をすると「バルト海でも流氷見れるよ!」と言っていた。そうか、ヨーロッパにも流氷の見れる場所があるんだ。またまた流氷欲が掻き立てられた。
流氷ハイを求めて、また冬に寒いところに行きたくなりそうだ。
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