いつ見てもびっくりしてしまう景色
住んでいる大阪から奈良の方へと出かけることがよくある。大阪から奈良方面へは、電車だと、JRか近鉄電車に乗っていくことになる。もちろん行き先にもよるのだが、どちらかというと私は近鉄に乗ることが多くて、スマホを見たり本を読んだり、寝たりしている。
つまりだいたいぼーっとしているわけなのだが、近鉄電車に乗って奈良に向かうと車窓から見える風景がいきなり劇的に変化するので、よっぽど深く眠り込んでいない限り、「おっ」と驚く。
冒頭に書いた通り、近鉄奈良線の線路は大阪府と奈良県の境目のような位置にある生駒山地に近づくにつれて急勾配になって、具体的には「枚岡」という駅を過ぎたあたりから高い位置を走る電車の窓から、大阪の市街地がばーっと見晴らせるようになるのだ。
枚岡の次の「額田」という駅から次の「石切」という駅までが特に見ごたえがある。電車の窓にスマホをぴったりとくっつけるようにして撮った動画があるのでよかったらご覧ください。
ばーっと開けるでしょう。これにいつも感動して、見惚れてしまうのである。そして、お気づきになったでしょうか。この動画に、すごく見晴らしのよさそうな公園が映っているのを。
大阪の街並みが広がっているところにせり出すようにして公園がある。滑り台が見えて、そこからの眺めはいかにもすごそうだ。
「あの公園、すごいな」と思いながら、でも駅から歩いて簡単に行ける場所なのかもわからず、というか深く考えもせず、日々を過ごしてきた。「いつか、まあ行けたら」とぼんやり思っているだけ。
しかし、自分にとって、こういう時に背中を押してくれるのが「デイリーポータルZの記事に書けるかも」という思いである。実際に書けるかどうかは別として、「書けるかも」という気持ちが、これまで私を色々な経験へと導いてくれた。今回もまさにそうである。デイリーポータルZがあってくれてよかった。これからもあってください。
とにかく行ってみてから考えよう
JR鶴橋駅から近鉄電車に乗り換えて、あの公園へ向かってみることにする。
用事がのん気だし、幸い足も疲れていないし、そもそも外が見たくてたまらない状態なので、窓に近い場所に立って景色を眺めた。右手に生駒山が迫って来るのが見えて、わくわくする。
そして、額田駅から石切駅まで向かう間に、ちょっと前に貼った動画を撮ったのであった。
公園も見えて、私はその時ようやく、「なるほど、石切駅から割と遠くない場所にあの公園はあったのか」と知った。今までは「どこ駅ら辺にある公園か」ということすら考えていなかったのだ。我ながらぼーっとし過ぎていた。石切駅で電車を降りる。
車窓からの風景があんな感じなのからもわかる通り、石切駅は高い場所にある(調べてみると標高100メートル強あるようだ)。なのでもう、そこら辺の駐車場から眺めがよかったりする。
通り過ぎてきた額田駅と今降りた石切駅との間にあの公園は見えたのだから、線路に沿って引き返していけば近づけるだろう。高い位置から少しずつ勾配を下っていくようにして、できる限り線路沿いを歩いていく。
適当に歩いているけど果たしてあの公園に着けるのだろうか
今更だが私は石切駅に何度か来たことがある。石切には「石切劔箭神社」という、縮めて「石切神社」とか、親しみを込めて「石切さん」とも呼ばれたりする有名な神社があり、昔から腫れ物の治癒にご利益があると言い伝えられてきたそうで、それが転じて、病気やケガからの回復を祈願する対象となっている。
神社に続く参道は、飲食店や商店がたくさんあるような昔ながらの街並みで、また、占いをする店が目立つ。その独特の街の雰囲気が好きで、何回か散歩しに来たことがあった。
しかし今日は神社へ続く道をスルーして、あの公園を目指す。地図アプリはあえて開かず、勘を頼りに行く。線路沿いを駅から5分ほど歩いただろうか。あの公園らしき場所が目の前にもう見えてきた。
驚くほどあっけなく、公園に着いたのであった。一人で歩いていたが、本当に実際に「え、もうか」と声に出してしまった。通りを挟んだ公園の向かいにコンビニがあったのでまずはそっちに寄る。
そして改めて公園へ向かう。入口に置かれた石碑を見るに、ここは「東石切公園」のようだ。
入口付近にもう一つ石碑があって、そこにはこの公園の由緒が刻まれていた。“生駒山から西にのびる尾根の先端にあたるこの地は、かつて正興寺山と呼ばれる小円丘でした。”とある。
“ここからはナイフ形石器という約2万年前の石器が採取されています。”ともある。2万年前からここに人がいたということだ。たぶん、2万年前の人もどこからかここを見て、「あの辺、なんか見晴らしよさそうだな、行こう」と思ったのだろう。
それから2万年後、私がここに来た。