実はレンズを間違えて買ったのはこれがはじめてではない。数年前に18-35mmの広角ズームを探していて、間違えて55mmを購入した。どうしてこんな間違いをしたのかわからないが、実際したし、2回目もした。
間違いレンズレビュー、続編もあるかもしれない。
優れたレンズはその場の空気までも描写するという。では間違えて買ったレンズは何を写すのだろう。
焦点距離40mmのレンズを求めて入手したのは100mmのレンズだった。憧れのブランド、SONY G Masterを間違えて入手した間違いレンズフォトグラファーとして渾身の誌上レビューをお届けしたい。
「ZEISS Batis 2/40CF」
いわずとしれたドイツ生まれの名門 光学メーカー、カールツァイス社がソニーのミラーレスカメラシリーズ用に開発した「batis」シリーズのレンズである。
ツァイスならではの解像度に加え、近接撮影にも対応したCF(クローズドフォーカス)仕様で風景やポートレイトだけでなくマクロっぽい撮影も可能。
40mm というやや広角寄りの万能レンズ、街歩きからハブ撮影まで、使用するイメージがぽんぽん浮かぶ。という事は手に入れたほうがいいに決まっている、物欲メラメラ。
かなり高額だが人気のレンズだけあってメルカリやヤフオクにも多く出回っている。ちょっといろんな事情で家計がめためたになっていたのだが、これでゲットしたるかと良品を狙って入札した。家計と物欲は別腹である。
仕事やら何やらでバタバタしているうちに無事落札したっぽい。
人気レンズの割には競合が一切なかった。なにげにオークション上手だなあ俺、すごくない?と自賛しながら確認した落札画面を2度見、いや、3度見した。
祝福の言葉と共に見た事のないレンズの画像がでかでかと表示されていた。間違えて別の商品をタップして入札していたのだ。こういうのはソファに寝そべってうつらうつらしながらやっちゃだめだ。
日本円で約10万円を入金し、届いたレンズはSONY FE100mm F2.8 STF GM OSS。
SONY交換レンズの最高級ブランド「G Master」、いつかは手にしたいと思っていた憧れのブランドだが、まさかこんなセルフサプライズな出会いになるとは。
買おうとしていたレンズの焦点距離は40mm、買ったレンズは100mmである。画角や焦点距離の細かい話は検索などしてもらうとして、わかりやすく写真で見てみよう。
写り云々はさておき、用途としては求めていたものと全くもって違っている。
これだけの清々しい間違いはきっと、自分の想定していなかった何かを生み出してくれるに違いない。このレンズをレビューしてみよう。
俺は間違いレンズフォトグラファーだ!
経緯からして入手後にわかった事だがこの「 FE100mm F2.8 STF GM OSS」の最大の特長はとろけるように柔らかく美しいボケである。
これはたしかに異次元。実はあまりボケとかに興味がなく、むしろ周辺まで解像させたい派だったのだが、ファインダーをのぞいてオートフォーカスでピントが合った瞬間にすっと後景が自然にとろけて被写体がグッと浮き上がるのが気持ちいい。眠っていたボケ欲が立ち上がる。
これも入手後にわかった事だがボケのすごさの秘密は品名にも記されている「STF(Smooth Trans Focus)」というもので、レンズの周辺に行くほど光の透過量が少なくなる特殊フィルター(アポダイゼーションフィルター)が組み込まれており、これが二線ボケなどを抑えた滑らかなボケ味を実現している。
後景だけでなく前ボケも柔らか。ポートレートでも前ボケを活かしたくなる。私はそういうの撮らないので冬眠から目覚めたカエルだが。
偶然、鬼滅の煉獄さんみたいになっているのがいたのでどさくさに紛れて公開しておきたい。
点光源のボケ具合も美しい。間違えて買った事を忘れさせてくれる。
ピントの合った部分の描写はG Masterの名を冠するだけあって開放から息を飲む解像感。間違えて買ったレンズとは思えない。
葉っぱの1枚1枚からばっつり切られた幹、野生化したムックのような枝の山の手袋までしっかり解像。画質はともかく、ムックこわかった。
買おうとしていたレンズ(ZEISS Batis 2/40 CF)はマクロ撮影にも対応していたが、なにげにこのレンズも最大撮影倍率0.25倍のマクロ域での撮影が可能だ。これを活かした花の写真が作例として多数アップされている。
私は石垣の苔の上でうとうと春眠している、お前は孟浩然(もうこうねん)かという子トカゲを見つけたのでそっと撮影した。
胴体の長さ4cm程、これくらい小さいともう少しクローズアップ撮影したくなるところ。昆虫などはやはり等倍のマクロレンズを使ったほうがよいだろう。
それでもトリミングしてみるとシャープさにほほうと声が出る。
画質でいったら間違いレンズの中でも最高峰といえるのではないか。どんなカテゴリーなのかよくわからないが。
こんなのてきとうにシャッター押してもいい感じになるのではないかとやってみたら普通にてきとうな写真になった。
一方、操作系統などがなかなかにマニアックなレンズで、間違えて買った場合は戸惑う事も多いかもしれない。阿呆のようなコメントで申し訳ないがレンズ自体にボタンやリングが多いのだ。
マクロ域撮影が可能と述べたが、1mぐらいを境に近くの被写体にピントを合わせるには手動でリングを回し切り替える必要がある。これが慣れないとわけがわからなくなって近寄ってもピントが合わなかったり、突然犬が駆け寄ってきたりした時にわちゃわちゃしてしまうのだ。
また、開放で撮ってるのにF5.6って表示されてなんなのよ、F2.8なんじゃないのと思ったが例の光の透過量を抑えてボケをいい感じにする特殊フィルターの影響で、開放でもF5.6相当の明るさとなるのだ。(レンズ側ではF値ではなくTナンバーと呼んでいる)なので、「思いのほか、暗いレンズ」となる。
この変態的に優れた描写性能とそれにこだわった故のマニアックな操作性、FE 100mm F2.8 STF GM OSSは「間違いレンズとしては極上だが、間違えて買うレンズではない」といえるだろう。高い買い物は慎重にしたい。あたりまえの結論になってしまった。
しかし、間違いは出会いであり、人間讃歌である。この「なんかハマるとすごい画が出てくる」描写に取り憑かれた私はこれからも後景をとろかすだろう。
「間違えて買ったレンズをつけたファインダー越しの私の世界」はある日突然、姿を現す。この新鮮な驚きに満ちた出会い、「間違いレンズ沼」はきっと存在する。
実はレンズを間違えて買ったのはこれがはじめてではない。数年前に18-35mmの広角ズームを探していて、間違えて55mmを購入した。どうしてこんな間違いをしたのかわからないが、実際したし、2回目もした。
間違いレンズレビュー、続編もあるかもしれない。
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