特集 2022年3月28日

間違えて買ったレンズレビュー

間違いフォトグラファー、KENJIがお送りします。

優れたレンズはその場の空気までも描写するという。では間違えて買ったレンズは何を写すのだろう。

焦点距離40mmのレンズを求めて入手したのは100mmのレンズだった。憧れのブランド、SONY G Masterを間違えて入手した間違いレンズフォトグラファーとして渾身の誌上レビューをお届けしたい。


 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー


「ZEISS Batis 2/40CF」

いわずとしれたドイツ生まれの名門 光学メーカー、カールツァイス社がソニーのミラーレスカメラシリーズ用に開発した「batis」シリーズのレンズである。

ZEISS Batis 2/40CF

ツァイスならではの解像度に加え、近接撮影にも対応したCF(クローズドフォーカス)仕様で風景やポートレイトだけでなくマクロっぽい撮影も可能。

40mm というやや広角寄りの万能レンズ、街歩きからハブ撮影まで、使用するイメージがぽんぽん浮かぶ。という事は手に入れたほうがいいに決まっている、物欲メラメラ。

かなり高額だが人気のレンズだけあってメルカリやヤフオクにも多く出回っている。ちょっといろんな事情で家計がめためたになっていたのだが、これでゲットしたるかと良品を狙って入札した。家計と物欲は別腹である。

仕事やら何やらでバタバタしているうちに無事落札したっぽい。

人気レンズの割には競合が一切なかった。なにげにオークション上手だなあ俺、すごくない?と自賛しながら確認した落札画面を2度見、いや、3度見した。

言っても信じないだろうが、カールツァイスじゃない。
(スターウォーズ・EP4でレイア姫の故郷、惑星オルデランにワープしたがそこに星がなかった時のハン・ソロみたいに)

 祝福の言葉と共に見た事のないレンズの画像がでかでかと表示されていた。間違えて別の商品をタップして入札していたのだ。こういうのはソファに寝そべってうつらうつらしながらやっちゃだめだ。

日本円で約10万円を入金し、届いたレンズはSONY FE100mm F2.8 STF GM OSS。

SONY交換レンズの最高級ブランド「G Master」、いつかは手にしたいと思っていた憧れのブランドだが、まさかこんなセルフサプライズな出会いになるとは。

ジャーン、間違えて買いました。2017年発売の「G Master」レンズ(すごくて高い)

買おうとしていたレンズの焦点距離は40mm、買ったレンズは100mmである。画角や焦点距離の細かい話は検索などしてもらうとして、わかりやすく写真で見てみよう。

40mmで撮影。こういうレンズを買おうとして......
実際買ったのがこれ、焦点距離100mm。焦点距離が大きくなるほど写る範囲は狭く、被写体は大きく写る。

 写り云々はさておき、用途としては求めていたものと全くもって違っている。

これだけの清々しい間違いはきっと、自分の想定していなかった何かを生み出してくれるに違いない。このレンズをレビューしてみよう。

俺は間違いレンズフォトグラファーだ!

ちなみに私はいいカメラにいいレンズを付けてシャッターを押せばいい写真が撮れると思っている程度の腕なのでレンズ選びの参考にはならないと思われる。悪しからず。

 

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経緯からして入手後にわかった事だがこの「 FE100mm F2.8 STF GM OSS」の最大の特長はとろけるように柔らかく美しいボケである。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

これはたしかに異次元。実はあまりボケとかに興味がなく、むしろ周辺まで解像させたい派だったのだが、ファインダーをのぞいてオートフォーカスでピントが合った瞬間にすっと後景が自然にとろけて被写体がグッと浮き上がるのが気持ちいい。眠っていたボケ欲が立ち上がる。

SONY α7Ⅲ,1/1000,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

これも入手後にわかった事だがボケのすごさの秘密は品名にも記されている「STF(Smooth Trans Focus)」というもので、レンズの周辺に行くほど光の透過量が少なくなる特殊フィルター(アポダイゼーションフィルター)が組み込まれており、これが二線ボケなどを抑えた滑らかなボケ味を実現している。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 160(画像クリックで拡大)

後景だけでなく前ボケも柔らか。ポートレートでも前ボケを活かしたくなる。私はそういうの撮らないので冬眠から目覚めたカエルだが。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 2000(画像クリックで拡大)

偶然、鬼滅の煉獄さんみたいになっているのがいたのでどさくさに紛れて公開しておきたい。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 250(画像クリックで拡大)

点光源のボケ具合も美しい。間違えて買った事を忘れさせてくれる。

SONY α7Ⅲ,1/60,F5.6,ISO 2000(画像クリックで拡大)
SONY α7Ⅲ,1/200,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

 ピントの合った部分の描写はG Masterの名を冠するだけあって開放から息を飲む解像感。間違えて買ったレンズとは思えない。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 1000(画像クリックで拡大)
SONY α7Ⅲ,1/640,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

 葉っぱの1枚1枚からばっつり切られた幹、野生化したムックのような枝の山の手袋までしっかり解像。画質はともかく、ムックこわかった。

SONY α7Ⅲ,1/200,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

 

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 1250(画像クリックで拡大)
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買おうとしていたレンズ(ZEISS Batis 2/40 CF)はマクロ撮影にも対応していたが、なにげにこのレンズも最大撮影倍率0.25倍のマクロ域での撮影が可能だ。これを活かした花の写真が作例として多数アップされている。

私は石垣の苔の上でうとうと春眠している、お前は孟浩然(もうこうねん)かという子トカゲを見つけたのでそっと撮影した。

SONY α7Ⅲ,1/125,F9,ISO 500(画像クリックで拡大)

胴体の長さ4cm程、これくらい小さいともう少しクローズアップ撮影したくなるところ。昆虫などはやはり等倍のマクロレンズを使ったほうがよいだろう。

それでもトリミングしてみるとシャープさにほほうと声が出る。

F9まで絞るとカリッカリ。しかし気持ちよさそうだな。

 画質でいったら間違いレンズの中でも最高峰といえるのではないか。どんなカテゴリーなのかよくわからないが。

こんなのてきとうにシャッター押してもいい感じになるのではないかとやってみたら普通にてきとうな写真になった。

SONY α7Ⅲ,1/125,F5.6,ISO 200(これも画像クリックで拡大)

 一方、操作系統などがなかなかにマニアックなレンズで、間違えて買った場合は戸惑う事も多いかもしれない。阿呆のようなコメントで申し訳ないがレンズ自体にボタンやリングが多いのだ。

ピントリング・絞りリング・マクロ切り替えリング・回すとこ3つもあるのかよ!

 マクロ域撮影が可能と述べたが、1mぐらいを境に近くの被写体にピントを合わせるには手動でリングを回し切り替える必要がある。これが慣れないとわけがわからなくなって近寄ってもピントが合わなかったり、突然犬が駆け寄ってきたりした時にわちゃわちゃしてしまうのだ。

猟師とはぐれたビーグル(かわいい)がとことこ寄ってきて対応できずピントをはずす。(飼い主はすぐ見つかりました)

 また、開放で撮ってるのにF5.6って表示されてなんなのよ、F2.8なんじゃないのと思ったが例の光の透過量を抑えてボケをいい感じにする特殊フィルターの影響で、開放でもF5.6相当の明るさとなるのだ。(レンズ側ではF値ではなくTナンバーと呼んでいる)なので、「思いのほか、暗いレンズ」となる。

ちなみにSTFならではのいい感じのボケの効力はF8まで。それ以上絞るとボケは普通の「解像度高い中望遠レンズ」となる。写真はF14で撮った寝トカゲ。いや全然いいでしょ。(画像クリックで拡大)

この変態的に優れた描写性能とそれにこだわった故のマニアックな操作性、FE 100mm F2.8 STF GM OSSは「間違いレンズとしては極上だが、間違えて買うレンズではない」といえるだろう。高い買い物は慎重にしたい。あたりまえの結論になってしまった。

しかし、間違いは出会いであり、人間讃歌である。この「なんかハマるとすごい画が出てくる」描写に取り憑かれた私はこれからも後景をとろかすだろう。

SONY α7Ⅲ,1/200,F5.6,ISO 100(画像クリックで拡大)

「間違えて買ったレンズをつけたファインダー越しの私の世界」はある日突然、姿を現す。この新鮮な驚きに満ちた出会い、「間違いレンズ沼」はきっと存在する。


実はレンズを間違えて買ったのはこれがはじめてではない。数年前に18-35mmの広角ズームを探していて、間違えて55mmを購入した。どうしてこんな間違いをしたのかわからないが、実際したし、2回目もした。

間違いレンズレビュー、続編もあるかもしれない。
 

間違えなかったレンズにも会いたい(もういいでしょという感じだが画像クリックで拡大)
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