特集 2018年11月20日

巨大サワラとその体内にいた寄生虫を食べる

これ、カジキでもマグロでもなくサワラなんです。お腹の中にはオマケまでついてるんです。

サワラ。おいしいよねサワラ。特にこれからの寒い時期は脂がたっぷり乗っててさ…。

しかし世界は広い。海は広い。この世にはとんでもなくデカいサワラが存在している。この度、我々はそんな巨大サワラの捕獲になりゆきで成功した。ここにその食味をレポートしたい。…やや刺激的なオマケつきで。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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小笠原は遊び半分でもとんでもないのが釣れてしまう

今回訪問したのは父島。美しさ的にも魚影の濃さ的にも、とにかく海のポテンシャルが高い。

小笠原に行ってきたんですわ。

ビーチでチャプチャプ泳いどるだけでもいろんな魚に出会えて楽しいんですわ。

でももっとたくさんの魚種を見たいねということでね、船釣りをしに沖へ出たんですわ。

疑似餌を沈めるとポコポコ魚が釣れる。これはツチホゼリというハタの仲間。おいしい。
アカハタも多い。小笠原ではアカバと呼ばれる。おいしい。
カッポレという愉快な名前のヒラアジの一種。おいしい。

そしたら帰る間際にサワラが釣れたんですわ。

普通、サワラって言ったら↓こんな魚じゃないですか。

東京湾で獲れた「普通の」サワラ。

ところが↓こんなんだったんですわ。

いや、デカいよ…。ファイトしてくれたMさん(写真中央)曰く「超キツかった…」らしい。そうだろうなぁ。ここまでの大物だと逆に釣りたいと思えないもんな。体力的に。

目測で少なくとも30kg以上。下手すると40kgに達しているのではないか。

船長によればこれまでこの船で釣り上げられたサワラの最大個体であり、「ゲームフィッシングの協会にでも申請すれば日本新記録やもしれない」という大物。

もちろん、これはよく魚屋さんで見かけるただの『サワラ』ではなく『カマスサワラ』という南方系の大型種である。地方によってはオキザワラとかテッポウサワラという名で呼ばれることもある。

またサワラとカマスサワラは体の大きさだけではない。歯並びが大きく異なる。

『サワラ』の歯

『サワラ』の歯は針のように細くとがっていて、根元は隙間が大きく空いている。これは獲物を取り押さえるためのスパイクとして機能するもので、食物を噛み切ったり咀嚼するのには向かない形状である。

一方でカマスサワラの歯はというと…。

『カマスサワラ』の歯

短いが刃物のように鋭い三角形の歯が隙間なく密に並ぶ。これは他の魚で言えばピラニアやメジロザメなどに見られるタイプの歯並びで、獲物を切り裂く、食いちぎるのに適している。

強豪ひしめく南洋で、より自分のサイズに対してデカい獲物を襲えるよう進化したのだろう。

解体は船長にお任せ。日本記録がなんぼのもんじゃい。計量などで時間をかけていては身が悪くなるので迅速に解体を進める。記録より祝杯の肴を優先するのが今回のメンバーだ。
胃の中からはバラバラになった魚が。断面は包丁で切ったようになめらか。
なんとエサの正体はカツオだった!ズッパズッパのザックザクに刻まれている。おそるべしカマスサワラの歯と顎!
と、船長が胃の中から何かをつまみ上げて見せてくれた。

……船上でカマスサワラの解体を進めていると、胃が大きく膨れているのに気がついた。開いてみると、細切れにされたスマガツオらしき魚が。そしてそのほかにも胃壁にらっきょうほどの肉塊がコロコロとくっついている。これは一体…?

なんだこれ!? 寄生虫?

手に取ってみると、ウネウネと動いている。カマスサワラの胃にとりつく『Hirudinella ventricosa(ヒルディネラ ヴェントリコサ)』という寄生虫らしい。

頭部(?)の先端とその後方に一つずつ穴が空いている。これは吸盤で、手のひらに乗せるとかなり力強く吸い付いてくる。後方の吸盤を腹吸盤、先端のものを口吸盤というらしい。カマスサワラの体内にもこれで吸い付いているのだろう。  

臓器が独立意思を持って蠢動しているようで見ようによっては多少気味が悪いが、韓国などで賞味される『ユムシ』にどこか似ている。ユムシは貝に似た旨味と歯ごたえを備えた珍味である。

もしかしたらこの寄生虫も美味いかもしれない(※ヒルディネラは扁形動物門、ユムシはユムシ動物門に属し、分類学的にはかなり縁遠い生物)。

船長さんには「やめとけそんなもん!俺は止めたからな!」と言われたが、自己責任でジップロックへ海水とともに回収。宿へ持ち帰ることにした。

釣り餌などに使われるユムシ。人間が食べてもおいしいのだが……なんかこの寄生虫と雰囲気似てない?ということは…。

さあ、宿に着いたらすぐカマスサワラの試食会!…とはいかず、より美味しく食べるために丸一日寝かせて熟成させる。その間、寄生虫も冷蔵庫で保管する。

寄生虫はすぐ絶命するかと思いきや、いつまで経っても生きている。

すぐに海水が血なまぐさく茶色に濁ってしまうので定期的に交換していたが、最終的に面倒臭くなって水抜きで保管することに。それでも24時間以上元気に生き抜いた。さすが魚の胃の中という過酷な環境で生きているだけあるなあ。

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カマスサワラは淡白で万人受けするお味

カマスサワラの断面(※今回釣られたものとは別の個体)。腹身だけ見ると脂ノリノリに見えるが、それ以外の部位は非常にさっぱりしている。サワラとは全くの別物だと思って扱ったほうがいい。

翌日の夕餉。ついにカマスサワラが食卓に上る時が来た。

あまりにも大きすぎたため、切り身をあちこちに配りまくったがそれでも十分すぎる量が手元に残った。サワラの食い放題だ。

調理はカマスサワラについて勝手知ったる宿の人に任せることにした。小笠原ではよく食べられている魚なのである。

しかし、そんな島民の皆さんでも「デカいサワラだねぇ〜!」と感嘆していたのでやはりなかなかみないレベルの大物ではあるらしい。遊び半分でそんな魚に巡り合えてしまっていいものか。

ヅケにして握る『島寿司』を宿のオーナーさんに作っていただいた。
島寿司は伊豆七島の各地で受け継がれている郷土料理。小笠原の島寿司はワサビの代わりにカラシを使うのが特徴だという。

味はマグロやカツオの赤身をグッと淡白にしたような印象で、クセがまったくないのでどんな料理にでも合うし万人に受け入れられるものだった。ただし、刺身で食べると味がやや薄く身もやわらかく歯ごたえに欠けるため少々物足りなさを感じる部分もある。脂の甘みを楽しむサワラとは真逆の評価となる。

ただし、同じ生食でも島の人が「カマスサワラならコレ」と勧める定番メニュー、刺し身をヅケにして握る『島寿司』はタレの味がよく沁み、身も余計な水分が抜けて締まるため「ご馳走感」が一段上がる。さすが地元の方は地元の食材の活かし方をよくわかっている。

脂のノリが薄い魚だからこそ、油を補える揚げ物が合う。これは醤油ダレで下味をつけた唐揚げ。白米が進む。
天ぷらもふわふわ。塩でもよし、思い切ってマヨネーズをドベッ!といっちゃってもよし。
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寄生虫が意外とイケる!!さながら◯◯!

さて、本体の賞味が済んだら次はいよいよ寄生虫の試食である。

宿主は安定したうまさだったぞ?お前はどうだ?

冷蔵庫で24時間過ごしてなおウネウネしているヒルディネラ。捕獲時にも感じたが、どうも独特の血生臭さが鼻につく。触った手も臭くなってしまい、水ですすいだ程度ではなかなか落ちない。

彼らが何を食べているかは判然としないが、おそらくカマスサワラが食べた魚の残渣、あるいはカマスサワラ自身の血液や分泌物が主食となっているのだろう。どのみち生臭くなることは必至だ。

見た目はさておき、血なまぐさい。鉄っぽい、青魚の血のにおい。これはなんとかしないと。
ストックしておくとすぐに水が茶色く濁る。カマスサワラから吸い上げた血液を排泄しているのか?

このままではとても食べられまい。切開して内部をよく洗う。が、なかなか思うようにいかない。

ヘドロ状の内容物は排泄物と臓器の区別も曖昧であり、爪を立ててゴシゴシとしごかなければ内壁から剥がれもしない。

しかし、力任せのクリーニングをある程度行うと、鼻を近づけてもほとんど臭わなくなった。よし、イケる!

とにかく洗浄しなくては…。ハサミで切れ込みを入れ…
靴下のように裏返して内部をよく洗う。泥状の内容物と黒い内臓をしごき出すように剥がしていくと、なぜか内壁が…紅だぁーー!!
中身を洗い落とすとペラペラに。色も薄くなった。
いただきまーす。背後では宿のオーナーや他のお客さんたちが化け物を見るような顔で見守ってくれている。ありがとな。
あれっ!期待通り、予想通りの味来ちゃったよ!貝だこれ!

口に含んで咀嚼すると、ギョリッ!ギョリッ!と弾力に富んだ歯ごたえ、そして噛むほどに甘みと旨みがジワッと染み出て来て…。

あっ、これ貝だわ。ミルガイあたりの二枚貝だわ!ユムシにもやはりよく似ている。アレアレアレ、なかなかどうして悪くないぞ。独特の血生臭さはやはり感じられたが、二匹目以降は歯ブラシを用いてより丁寧に洗浄することで気にならないレベルにまで消臭することができた。

…これ、新手の珍味としてはアリなんじゃない?どうですか小笠原の人?

「他に美味いものいっぱいあるからいらねえよ!」だって?

それもそうか。

その後は他の魚種も卓に並べて宴会開始。寄生虫の味も面白かったが、やはり食欲を満たす上ではありふれた魚料理が一番落ち着く。「普通においしい」って素敵なことだよな。

実はさらにデカいサワラもいる

ところで今回紹介したカマスサワラだが、海外では過去に70kgを超える超大物も捕獲されているという。今回釣り上げた個体のさらに倍近いサイズ。もはや想像もつかない。

さらにさらに、そんなカマスサワラをも凌ぐ超巨体を誇る『ウシサワラ』なるサワラもいる。サワラ界、少年漫画の敵役さながらのインフレーションを起こしてやいないか。

しかしそれでも、やはり一番食べておいしいのはあの『サワラ』であるように思う。個人的には。ひょっとしてあのサワラなら、寄生虫だってもっと美味いかもしれないな…。

これは普通のサワラの刺身。この脂でトロッと濁った身も…やっぱたまんないよな〜。

 

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