特集 2019年5月28日

重層型海苔弁への挑戦

見よ、この重なりっぷり。海苔弁はかくあるべし。

海苔弁は階層化していてこそだ、と思う。

高校時代、通学路上にあった非チェーン系の弁当屋の海苔弁が二層型(上から海苔・おかかごはん・海苔・おかかごはん)のものだったんだけど、上段からほじくって食べていると新たに海苔の層が出てくるのが頼もしく、喜ばしかったのだ。

ところが今のチェーン系弁当屋の海苔弁は「海苔・おかかごはん」以上!という単層タイプばかりで全然つまらない。海苔弁は海苔が主役なのに、そんなに少なくていいのか。

もっと複雑な層構造を持つ、いわば重層型海苔弁があってもいいんじゃないだろうか。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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海苔弁の喜びは「あ、まだ海苔があった」だ

改めて確認しておくが、これが現時点での「海苔弁のデフォルト」だろう。

おかずは白身魚のフライとちくわ磯辺揚げで、あとはごはんとおかか、海苔、という構成。

ごはんの下はどこまでも白いごはんであって、海苔は目に見える分しかない。「あっ、まだ海苔があった!」という意外性の喜びは皆無だ。

弁当チェーンの海苔弁。ベーシックでいいんだけど、やっぱり単層なのが物足りない。

シンプルでいい、という意見もあるだろうし、最安値で買える海苔弁に無駄なコスト負担を強いるな、というのも分かる。

それでも、米を掘ったら海苔が出た、というあの発掘の喜びは忘れがたい。あれをもっと楽しみたいのである。しかも二層と言わず、もっと掘りたい。

じゃあ自作しかないよな、という自然な流れで重層型海苔弁の制作に取りかかろう。

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徹底的に海苔を重ねる試み

まずは、弁当用パックに最下層のごはんを敷き詰める。

今後の積み上げを考えて、ごはん層は可能な限り薄く。この薄さが、将来的な目標達成のカギになるはずだ。

まずは最下層ごはん。単分子ならぬ単めし粒層まで薄くしたいけど、さすがに無理があるので早々に諦めた。

で、上におかかをパラパラと散らして、上から海苔を敷いてまず一層目が完成。

ちなみに海苔は水分を吸うと縮むので、その縮み分を考慮して分断した海苔を重なり合うようにして敷くのがコツである。

おかかをぱらり。これだけでも美味いのは分かってるんだけど。
これで一層目が完成。あとはこれをどこまで繰り返せるかだな。

続いてまたごはんをできるだけ薄く敷き詰めたら、今度はおかずの登場となる。

まずは海苔弁ダブルエースの一角、ちくわの磯辺揚げだ。

本来であればごはんの横に添えられているのが正しい有り様なんだろうが、今回はどうせならおかずも海苔弁の層として活躍してほしい。ので、おかずも敷く。

とはいえ、ちくわ丸ごとの状態でごはんの上に乗せてしまうと、厚みがありすぎて層を重ねられなくなってしまうのも自明のこと。

ちくわ、薄くスライスしちゃえばいいじゃん。

そこで思いついたのが、以前に書いた、理研究家の平野レミ先生リスペクトな「パン粉ぶっかけで揚げ物が作れる」という記事の再利用である。

つまり、結果的にちくわの磯辺揚げになったらええねん、という方法論だ。

そして天かすと青のりぶっかけたら磯辺揚げになるじゃん。

ちくわを薄く切ってフライパンで軽く炒めたら、それをごはんに乗せる。そこに天かすと青海苔をパラッと散らして海苔でフタをすれば、“結果的ちくわ磯辺揚げ”層の完成である。

いてもいなくてもいいよな、と思いつつ、ないと結局寂しいきんぴらゴボウ層。

続いては、海苔弁界の鈴木浩介的バイプレイヤー、きんぴらゴボウ層。

こちらは何の工夫もなくごはんの上にきんぴらを乗せて海苔乗っけで完成だ。

海苔弁においては特にあってもなくてもどうでもいい感のあるきんぴらだが、無いなら無いでまた寂しい気がするし。あとは唯一の野菜成分ということで。

その上層では、いよいよダブルエースのもう一方、白身魚フライを配置したい。

ちくわ磯辺揚げと同様、こちらも平野レミ方式の結果的白身魚フライである。

焼いてほぐしたタラをタルタルソースで和える。この時点での味は「小じゃれたツナマヨ」的な感じ。
ごはんの上にタラタルを塗ったら、上からパン粉どばーっと。これで白身魚フライになるはず。

焼いた白身魚(今回は安かったタラを使用)の身をほぐしたら、それをタルタルソースで和えて、ごはんにべたーっと塗り広げる。

その上からキツネ色になるまで乾煎りしたパン粉をパラパラとふりかけてしまえば、極限まで薄く層になった白身魚フライと言って過言ではない。

見た目はしょぼいが、実は海苔弁の要素を全て満たした重層型海苔弁。それにしても分厚くなりすぎたか。

最後にもう一層、ごはん+おかか層を重ねて、海苔でフィニッシュ。

これで、上から海苔・おかかごはん・海苔・白身魚フライ・ごはん・海苔・きんぴら・ごはん・海苔・ちくわ磯辺揚げ・ごはん・海苔・おかかごはん、という重層化された海苔弁の完成である。

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重層型海苔弁解剖図

せっかくここまで重ねたんだから、やはり断面は見ておきたいだろう。

ということで、パン切り用の電動カッターを使ってズバッと切ってみた。

刃が高速振動して、焼きたての柔らかいパンもスパーッと切れるカッター。もちろん海苔弁だってスパーッだ。
みっちみちに詰まった見事な断層。

こうやって断面を見ると、期待通りの立派な層が形成されている。

海苔をそれぞれ境界にして、5層の海苔弁。単純計算で一般的な単層型海苔弁の5倍は楽しいという計算である。

うおー、これは早く掘りたい。

これならどこまで掘っても海苔が出てくるわけで、発掘の楽しみが何度も味わえるに違いない。

だって最初の海苔から食べ始めて「あっ、まだ海苔があった」って4回も言えるんだぞ。実質、もう無限の海苔と言ってもいいんじゃないか。

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海苔また海苔の悦楽

さて、実食である。

せっかくのお弁当なので、雰囲気を出すためにも実食は近所の公園で行った。

気温は高いが湿度は低めなので、木陰に入ると風が爽やかで、まぁ間違いのないお弁当日よりである。

改めて写真で見るとかわいそうな弁当っぽいけど、食べる本人はすっごいワクワクしてます。
ぐわっと掘って、ぐわっと食べるダイナミズム。

あー、これですわ。まず、海苔とおかかごはんの一段目を掘っていくと、またすぐに箸が海苔に突き当たる。もう、ほんとにすぐ海苔なのだ。嬉しい。気分的には、これはもう海苔長者の食事である。

しかも、おかかごはんというやや空疎な段を掘り抜いた後には、なんと一面に白身魚フライ層が広がってるわけで、それはもう喜ばしいという他はない。

一気に掘りすぎたけど、まだ下に海苔が見えてる!という喜び。

さらに嬉しい誤算というか、“結果的白身魚フライ”が予想以上に立派な白身魚フライなのである。

パン粉のサクサク・タルタルソース・白身魚が全体に均質に行き渡っているので、味もブレが無く、どこを食べてもごはんのおかずとして不足がない。素敵だ。

白身魚フライ層、見た目はひどいけどマジで白身魚フライ味。

箸休め的なきんぴらごはん層を抜け、“結果的ちくわ磯辺揚げ”層(これまた笑うぐらい間違いなくちくわ磯辺揚げ)をクリア。最後に「従来の海苔弁の食べ終わり期に来る、おかず足りない感」を演出するおかかごはん層を食べて、フィニッシュ。

感想としては、これもう楽しいとしか言いようがない。

面に対して深掘り・浅堀りと深度を変えることで平行していろんなおかず味が感じられるので飽きないし、しかもその発掘の都度に海苔がババーンと現れるのだ。これがつまらないはずがないだろう。

ただ、冷えてくると水分を吸った海苔が固くなって、掘削作業に腕力が必要になってくる。無理して掘っていると割り箸が折れそうになったので、できるだけ早めに食べ終わるのが正解かもしれない。

自宅で試食につきあわされた妻は、途中で海苔の固さに耐えかねてナイフ導入。海苔弁を食べる姿勢ではない。

実際、撮影後に妻にも味見をしてもらったのだが、冷えて海苔が固まっていたため、非常に食べにくかったようだ。最終的には、ナイフで切り分けて食べるというややエキセントリックな食事になってしまった。

サンドイッチ感出してきた海苔弁。もうちょいおしゃれにラッピングすれば次世代あるぞ。

ただ、ナイフで層ごと切り出してラップに包むとサンドイッチのようになり、これはこれで片手で食べられるフードとしてワンチャンある気もした。つまめる海苔弁として展開、いけるかも。

 

ところで我が家の猫は海苔が異常なまでに好き(人間が手巻き寿司を食ってると、魚ではなく海苔だけを狙ってくるタイプ)なので、今回は制作中から足元をうろうろし続けるわ、ニャーニャー甘えた声で催促されるわで非常に可愛かった。

さすがに塩分過剰なので与えるわけにはいかないが、彼には叙々苑弁当の焼肉がごはんの上で多層に重なってる的な魅惑の存在に見えていたのではないだろうか。

ナイフで海苔弁を切る妻の横で分け前を待ち続ける海苔好き猫。
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