デジタルリマスター 2022年3月6日

幻の岩茸、1パック600円(デジタルリマスター)

キクラゲじゃないですよ。

テレビのバラエティ番組で岩茸という食材を採っているシーンを何度か見たことがある。それはもれなく山奥にある断崖絶壁をロープ一本で降りていき、ほぼ垂直の岩にへばりつくようにして採るという映像だ。それを見ながら、崖だけに命懸けなんだなと毎回思う。

そんな岩茸を一度食べてみたいと思っていたが、大変貴重なものなので特別なルートでしか流通していなくて、しかも超高級なんだろうなと諦めていた。

しかしだ、それが1パック600円で売っていたのだ。

2007年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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岩茸、売っているところには売っている

岩茸が売っていたのは、長野県にある産直市場グリーンファームという、道の駅の原型みたいなお店。クマやロバがいて動物園みたいでもある。

そこのきのこコーナーでマイタケやエノキダケと並んで、「幻のきのこといわれる」という自己申告付きで売られていたのが岩茸だ。「といわれる」部分の文字が小さいところに好感を覚える。

骨董品からザザムシまで豊富なラインナップがたのしいお店。
しばらく見ていたけど、岩茸は誰も手にとろうとしていなかった。

岩茸がどれくらい貴重なものなのかをテレビを通じて刷り込まれていたので、何千円、いや何万円とかするのかなと思ったけれど、そこに書かれた値段は600円。日替わり弁当か。

岩茸はここからさらに数キロ先のゴツゴツした山肌に生えているのだ。というイメージ写真。実際は当サイトのライター木村さんがお堂を見にいった写真。

手のひらサイズになるのに100年掛かるともいわれる岩茸が、隣に並んだ栽培物のマイタケやハナビラタケといい勝負の値段なのである。私がテレビの情報を鵜呑みにしているだけで、長野だと一般的な食材なのだろうか。

6,000円かと思ったら600円だった。それなら買える。
ポップ代わりにサライが貼られていた。「仙人の食べ物」だそうですよ。

店員さんの話だと、本当はこんな値段で売るものではないのだが、専門に採っている人がどんどん持ってくるので、だんだん安くなってしまったらしい。仙人の食べ物は、需要より供給の方が多いのか。

しかしサライに載っているお取り寄せ情報でも、100グラム1,000円(2001年の情報)らしいので、松茸やトリュフみたいにもともとが特別高いものではないようだ。

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まずは水に戻す

岩茸というのはキノコの仲間ではなく、地衣類という菌類らしい。それほど匂いはなくて、うっすらとコケっぽい香りがする程度。この段階では食欲をそそる要素は一切なく、台所に出しておいたら捨てられそうだ。

これを料理するには他の乾物同様に、まずは一晩水に漬けて戻すところから始まる。

黒い裏側は毛の生えていないキウイフルーツの皮みたいな質感で、緑の表側はゴム手袋のようだ。
この状態だと、捨てる部分にしか見えない。

大抵の乾物は、戻す前と戻した後で見た目がだいぶ違うものなのだが、岩茸は元々水分をあまり含んでいないものらしく、「戻った」というよりは「濡れた」という感じ。ワカメやヒジキのように膨張はしない。

それでも手に持って触ってみると少し厚みが増していて、黒い部分は使いこんだ野球のグローブのような毛羽立った質感になっていた。そして香りはコケっぽさがちょっとアップ。

一晩経って変化がなさすぎてガッカリ。戻す前と同じ写真でもばれないと思う。
珍しくて貴重なのに値段がそれほどでもない理由がだんだんとわかってきた気がする。

 

よく揉み洗いをする

一晩水に漬けて柔らかくなったところで、ミカンのヘタみたいな石突き部分をハサミでカット。水が濁らなくなるまで指先を使って丁寧に揉み洗いする。思った以上に水が真っ黒になってびっくり。

揉み洗いなんかしたらボロボロになってしまいそうなものだが、さすが何十年も掛かって育っただけのことはあって、けっこう丈夫で驚いた。

どれくらい洗えばいいのかがよくわからない。
ここまで水が汚れる食材というのも珍しいな。

水を変えながら何度も洗っているうちに、岩茸の表側が緑と白の迷彩柄に変わってきた。この緑の部分、スクラッチカードみたいにこするとはがれるのか。

これはおもしろいと夢中になって緑の部分を全部はがすと、ザ・両生類っていう感じの質感になった。

「50年間で失われた熱帯雨林の地図」みたいだ。
文字通り、一皮むけたという感じ。洗うだけで30分掛かった。

 

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茹でて料理をする

きれいになった岩茸を水から煮て、沸騰してから二分間茹でて水洗い。茹ですぎは厳禁らしいのだが、茹でてもそれほど変化がないので加減がよくわからない。

茹でたらいっそう両生類っぽさがアップしたが、一応これで食べられる状態になった訳だ。ここまでくるとコケっぽい匂いがほぼなくなった。かといってうまそうな匂いがしてくる訳でもない。無臭。そしてたぶん無味。

今回は地味な写真ばかりですね。
本物なのに食品サンプルっぽい。食べられるゴム。

小学生の頃、コオロギを育てていた。チョウやカブトムシだと、幼虫からサナギを経て成虫になるので観察していて変化が大きいのだが、コオロギは脱皮を繰り返してもちょっとずつサイズアップとマイナーチェンジをするだけで、それほど変化がなかった。

岩茸の下ごしらえはそんな感じだ。

味はほとんどないけれど、なんとなくおいしい

三杯酢をくぐらせたものと、さらにクルミをプラスしたもので試食してみた。

薄っぺらいけれどクニュクニュした食感が独特。キクラゲのようなワカメのような。味があるようなないような。仙人の食べ物というだけあって、10万倍に濃縮して固形化した霞を食べているような気分だ。

食べたぶんだけ長生きしそうな気がしてきたが、それは岩茸がどういうものかを知っているから、そう感じるだけなのかな。

ほぼ調味料の味だけど、この食感は好きです。

続けて天麩羅。岩茸の天麩羅を塩で食べると、奥に隠れていた深い山の香りがうっすらと感じられた。なんていって、黙って出されたら、これが海のものなのか山のものなのかすらわからないと思うけど。

海苔とか紫蘇とかの薄っぺらくて腹の足しにならないような天麩羅が好きなので、岩茸の天麩羅もその同列でおいしい。

山菜そばにこれを乗せたい。

岩茸の栄養成分とか薬効はよくわからないので純粋に食材として見た場合、その繊細な味や香りを楽しんでやろうという前向きな姿勢で挑む分には楽しめると思う。ご飯のおかずには不向きだが、ムニュムニュした独特の食感は楽しい。

ただ、消化はあまりよくないようなので、もし大量に食べる機会があったなら、よく噛んで食べないと翌朝びっくりすることになるかもしれない。


値段は需要と供給のバランス次第

600円で売っていた岩茸、希少価値に対して安すぎやしないかと思ったのだが、実際に料理をして食べてみると、下ごしらえの面倒臭さ、味のわかりにくさからして、ちょうどいいくらいの値段なのかなと思った。普通の主婦はあまり買わないと思う。

ただこれが珍しもの好きのセレブが集う高級食材店だったら、数倍の値段で売っていてもおかしくないとも思う。その場合、ある程度高い方が売れる気がする。

カロリーや栄養以上に、珍しいものが高いのではなくて売れるものが高いのだという、経済の基本を吸収した気分だ。

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