特集 2021年11月13日

ささやかれる「若者のポテトサラダ離れ」? ドイツのポテトサラダ調査の裏側

ドイツのポテトサラダの立ち位置と地域別のレシピを集中的に調べた記事が話題だった、ドイツ在住のライターほりべのぞみさん

家庭のレシピを分類するという大仕事、その苦労や記事には書ききれなかった細かい情報を聞きました!

お相手は編集部の古賀及子です。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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多様ななかで状態を知ること

古賀:
9月、10月と、ほりべさんはドイツのポテトサラダ事情をめちゃくちゃに調べまくってくださいまして!

1本目の「ポテトサラダは『ドイツの文化遺産』」では、ドイツの食事にとってどれだけじゃがいもが、そしてポテトサラダが大事か、いかに家庭の味か、ということを。

友人が発したパワーワードがタイトルになった「ポテトサラダは『ドイツの文化遺産』

古賀:
2本目の「マヨ派 or お酢派?ドイツ国内のポテトサラダのレシピ調査」はタイトルのとおり、どうも大きくマヨネーズ味とお酢の2派あるようだぞ……というところからその地域性を調べる記事でした。

記事中で、マヨネーズというよりも「クリーミー味」と分類したほうが良さそう、ということも判明。「マヨ派 or お酢派?ドイツ国内のポテトサラダのレシピ調査」

古賀:
怒涛の前後編でかなり「ドイツのポテトサラダ」というものの大枠がつかめてきましたね……!

ほりべ:
そうですね、なんとなくですが見えてきた気がします! 軽い気持ちでポテトサラダ~と舐めてかかったら思ったより複雑でびっくりしました。記事公開ギリギリまで新しい情報が入ってきて、焦りました。

古賀:
ほりべさんが、複雑な食文化をねばり強く理解しようとする姿、奮えました。後編の地図の見やすさよ。

人に聞いて、レシピ集を読んで、調べに調べた末の大作

古賀:
わからないことって「ほぼ」こんなかんじ、「たぶん」こう、でまとめていかないといつまでたっても見えてこないところがあって、それが伝わりました。

ほりべ:
ありがとうございます! あの地図もいつかドイツ人に「これ全然違う!」って言われるんじゃないかとビクビクしています(笑)。

古賀:
あ~~っ、なるほどそういうプレッシャーありますね! でも異文化にふれるときってまずはステレオタイプに理解するところからじゃないと多様さにも触れられないですもんね、きっと大目にみてもらえるはず……!

ほりべ:
一旦理解して、当てはまらないものを見つけていくのは重要ですよね。

私の記事も本当にドイツのステレオタイプから入るものが多いんですが、気をつけないと「ドイツ人はこう」とか「ポテトサラダはこう」って決めつける記事になってしまうので、できるだけそうならないようにするのが一番難しいところかな…と思います。

あとドイツ人って言っても皆さんが白人なわけではないし……ちょっとそういうところももう少し見せられたら…と思っています!

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マヨネーズと酢に翻弄される

古賀:
今回の記事は、把握のしきれなさにしっかり翻弄されていたのが描けてて、そこが良かったと思いました。ほりべさんが右往左往してるのが手にとるように伝わって。

ほりべ:
何度も頭をかかえました! 最近知り合いに送ってもらったお酢ベースのポテトサラダでは、だし汁は使わず、コンソメをそのままパラパラと入れるそうなんです。液体がとても少なそうなレシピですよね。

かわいくデザインして送ってくれたというレシピ。官製の資料みたい~~っ

古賀:
多分それ、日本だと「ポテトサラダ」とは呼ばれないですよね。

ほりべ:
そうなんです! とにかく幅が広い。

あと、地域でレシピを分類するのも本当に難しくて。たとえば、旧東ドイツの州でテューリンゲンという州があって、そのテューリンゲン州の北西部出身の友人は「うちは絶対マヨネーズ」と教えてくれたんです。

調査の早い段階で、どうやらお酢派とマヨネーズ派がいるようだぞ、ということは突き止めた

ほりべ:
旧東ドイツはマヨネーズ派が多いと聞いていたので納得していたのですが、でも実はこのテューリンゲン州、お酢エリアであるバイエルン州と境を接しているんです。

古賀:
おおおお、シビれる~~っ。

ほりべ:
ハッとしてネットで調べてみると、テューリンゲン風ポテトサラダはお酢ベースのものが結構多い……! ということが記事公開ギリギリに分かって焦りました。

ほりべ:
記事でも紹介したザールラント州のレシピ本によると「ザールラント州風ポテトサラダ」はお酢ベースだったんですが、記事にもリンクした新聞社のアンケート調査によると、ザールラント州では半数以上の人がマヨネーズ派であると答えた、とあって「えっ!」ってなりました。

世界中どこでも同じですが、地域的な違いがはっきりしていたのは生まれた場所にずっと住み続けていた時代のことで、今は人の移動が多いので「この地方はこれ!」といは言い切れなくなっているのではと思います。

このように友人知人のみなさんから聞き取ったレシピを分解してまとめていた

古賀:
日本では味噌が食べ物として近いのかなー、みたいなことをちょっと思ったんですよね。

ほりべ:
そう、私も味噌っぽいなあと思っていました!

古賀:
ただ、味噌は作る家よりもいまは買う家が多いですよね。だからわりと地域性が残りやすいのかなって。一方、ポテトサラダは料理の「味付け」の話で。お酢とマヨネーズってどこにでも売ってるから、レシピも流動しますよね。

ほりべ:
そうですね、今回調べていて、好みによって別チームに乗り換える人もいて。実家はマヨネーズだけど、マヨネーズが好きじゃないから大人になってからはお酢で作るようになったと言う人も結構いました。

古賀:
あっ! うち、磯辺餅の味付けはずっと醤油だけだったんですが、愛知県では砂糖醤油で作ると聞いて、それが美味しいんですよ! 今や砂糖醤油派です。それと同じだ。

ほりべ:
そうそう! そういうこと、ありますよね。

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ささやかれる「若者のポテトサラダ離れ」

古賀:
めちゃくちゃ良い研究ですねこれは……。これからもっともっと混沌としていくのかなー。

ほりべ:
そうですね。あとは若者のポテトサラダ離れ……という話も耳にしました。これも世界中で同じことが起こっていると思うんですが、食の多様化でポテトサラダの人気も下がってしまったようです。

古賀:
若者はもはやすべてのものから離れていくものになってますが、「若者のポテトサラダ離れ」もあるのか……!

ほりべ:
じゃがいもの消費量自体も1950年代は一年間で1人あたり約180キロだったのが、現在は60キロほどまで減少したそうです。

これでも減ったほう!(年間ひとり180キロの時代がすごいといえばすごい)

古賀:
へぇ~~っ。じゃがいもの代わりに何が伸びてるんだろう。

ほりべ:
多分パスタの影響が大きいのではと思っています!

古賀:
パスタ……! イタリア料理の強さってすごいですよね……。おいしさで世界を席巻してる。

ほりべ:
夫はブレーメン育ちのドイツ人なんですが、子供の頃よく食べた「おふくろの味」的なものを聞いたら「ピザとパスタ」って。

古賀:
いい話だな~~~っ!

ほりべ:
イタリアンの強さ、本当にすごいです。

古賀:
日本でもいまパーティーで何食べる? ってなったら寿司とピザですもんね。会社の納会とか。長机に寿司とピザが並びますわ。

ほりべ:
あははは! なるほど! 分けやすいですしね! 恐るべしピザの影響。

古賀:
あのピザ切り用の丸いカッターが世界中の家にあるんですもんね。すごいことですよね。

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ドイツ語には「空腹を満たす副食」という単語がある

古賀:
日本ではポテトサラダってコンビニのサンドイッチの定番の具ですよね。

ほりべ:
そうですよね! 私も母がよくポテトサラダサンド作ってくれました。ドイツに来てポテトサラダサンドのことをすっかり忘れていました。

ドイツではポテトサラダは炭水化物扱いなので、パンに挟む人はいないんじゃないかなと思います。カレーのじゃがいも + お米とか、ポテトサラダ + パンのような、炭水化物 on 炭水化物の日本食は結構驚かれます。

古賀:
あっ!そうか、ドイツの人にとって、ポテトサラダのサンドイッチは「パン丼」みたいなことなのか。

ほりべ:
パン丼! 全くその通りだと思います。

日本のじゃがいもの立ち位置と、ヨーロッパでのじゃがいもの立ち位置に差があるんだと思います。日本ではじゃがいもはどちらかというと野菜扱い、ドイツではお米の代わりのような炭水化物扱いなのかな、と思います。

古賀:
炭水化物を何ととらえるか、ありますね……! 豆とかとうもろこしの粉を炭水化物とする地域もありますもんね。

ほりべ:
おおお、なるほど! そうですねー!
あとじゃがいもについて調べている際気付いたのですが、日本でいう主食ってお米ですよね。

私の中では炭水化物のお米が主役で、おかずはそのお供と思っていたんですが、ドイツ、と言うかヨーロッパでは「おかず」の方がメインで、炭水化物がサイドディッシュ扱いであることに気付いて。日本でのお米の立ち位置ってすごい! と思いました。

古賀:
確かに……「一日で玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」ですもんね。めちゃめちゃに米が好きだし実際に米を食らいがち。

ほりべ:
ドイツ語で、ポテトサラダやご飯などを表す "Sattigungsbeilage" という言葉があるんですが、Beilage は副食で、Sattigung は空腹を満たすと言う意味があって。直訳で「空腹を満たすための副食」みたいな意味なんですよ。

古賀:
ポテトサラダと米、かさ増し要因みたいに呼ばれてるんだ!

ほりべ:
超脇役でかわいそうになりました(笑)。

古賀:
「空腹を満たす副食」という単語の存在自体が興味深い~~っ。

ほりべ:
安くてお腹がいっぱいになる……ということなんでしょうね。

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日本の誇る「ポテトサラダ定食」をドイツのみなさんに知ってもらいたい

古賀:
そうそう、古い定食屋で「ポテトサラダ定食」というのを出している店をめぐって取材した記事があって。

この定食だとポテトサラダが完全に主役になってるんですよね。で、ポテトサラダにソースをかけて食べたりしてるんです。もはやトンカツみたいな扱い。

ほりべ:
そうだ! 大北さんのこの記事、大好きです。この写真とか白すぎてすごい。

記事のタイトルも「その圧倒的白さ!ポテトサラダ定食めぐり

ほりべ:
最高ですね……日本に行ったら食べたいです。それにしても、じゃがいもが本当に滑らかですね。

古賀:
そうそう、それ思いました。ドイツのポテトサラダのレシピ、ふかしたじゃがいもをスライスするんですよね。積極的にマッシュしない

クリーミー派も……
お酢派もスライスした芋の形がしっかり残っている

ほりべ:
そうみたいです! 手元にあるレシピはどれもスライスの状態が残ったものばかりですね。歯応えが重要なので、茹ですぎないこと、と念を押している人もいるので、マッシュ系はあまりないのではと思います。

古賀:
「茹ですぎないこと」……!

ほりべ:
でも今回よく分かったように、ポテトサラダには例外しかないので……、きっとどこかで日本風のマッシュされたポテトサラダを食べている人もいるはず…。とはいえご飯のおかずにして食べている人はいなさそうですが……。

古賀:
日本、業務用で1キロとか2キロのパックで猛烈にマッシュされた味の濃いポテトサラダが売られてますよね。じゃがいもよりもマヨネーズの量のほうが多いのでは? くらいの勢いの。お弁当のつけあわせとかに使われて、安い居酒屋さんとかでも出てきて。

ほりべ:
おお、いいですねー。

古賀:
日本の業務用ポテトサラダは芋を食べるという姿勢がちょっと甘すぎないか? とは私も思うところがあるんですよね……。

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スーパーの惣菜のポテトサラダが1キロの国、ドイツ

古賀:
そういえば、ドイツにもスーパーでパックに入った出来合いのポテトサラダが売られている様子の写真がありましたよね!

物量の様相がおかしい

古賀:
これもちゃんと芋感は残ってるんですか?

ほりべ:
そうですね! 芋です。ベルリンのスーパーではベルリン風とか、南ドイツ風とか、いろいろな種類を取り揃えているみたいでした。でもこれ、業務用並みに量が多くて500gとか、1キロの単位で平気で売っています。

パーティーなどでよく出される物なので、手軽に買ってみんなで分けて食べる用ではないかと思います。

古賀:
なるほど……。

ほりべ:
今回は人のレシピを自分で作るだけだったので、市販のものも食べてみたいです!

古賀:
市販品のレビュー、ぜひまた記事にしてもらいたいです! しかし一度買ってしまうと大量のポテトサラダを得ることになると思うと、おいそれと挑戦できませんね……。

ほりべ:
そうですね、ポテトサラダパーティーを開くしかないですね……。

古賀:
芋の量が調査の障壁になるとは。

ほりべ:
今回ドイツの知り合いにわりとしつこく取材して、最後の方は「ポテトサラダの話しかしない日本人」だと思われていたんじゃないかなと思うんです。

古賀:
人が変わったようにポテトサラダの話しかしなくなったほりべさんが、今度は大量のポテトサラダを買ってきて食べさせるパーティーを開こうと……。

ほりべ:
妖怪みたいですね(笑)。


ほりべさんの記事は引き続き毎月2本掲載の予定です! どうぞお楽しみに~~っ。

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