ウソでもいいから承認されたい
もし明日から遊んで暮らせるようになったとしても多くの人はなんらかの仕事についてるとイメージができる。それくらい人は誰かの頼りでありたいし、承認欲求の力の強さは想像に容易い。
私は主宰してる舞台の評判を検索する。良い評判を見つけるとそんな承認欲求を満たすことができる。でもそんな良い思いはいつまでも続かない。評判の数には限りがある。それだけが残念だ。
SNSのタイムラインに他の舞台の良い評判が流れてくると「あ~、この舞台、おれがやったことにできないかな~」と思う。
待てよ、本当にできないのだろうか。
すればいいのである。脳は、理性は「やめておけ」と言うかもしれないが、体は愛と承認を求めている。ウソでもいいから承認されたい。
他人を自分と考えてエゴサーチみたいなことができないだろうか。古典に似せた擬古典のように、エゴサーチを模した擬ゴサーチである。はたしてそんな都合よくことは運ぶのだろうか。擬ゴサーチをしようとデイリーポータルのライター藤原と安藤を呼んだ。
大北:
演劇は基本的に良い評判なんですよ。好きだから見に行くって人が多いから。団体名を検索するといい評判が出てきて気持ちいい。でも限界がある。なので擬ゴサーチ。
安藤:
他者を自己と思えるかどうかが心配ですね。
大北:
今主宰する舞台「明日のアー」に出たと思ってやってみましょうか。問題として「明日のアー写楽しみ」ってよく出てくるんですよ。
安藤:
えっ…「明日のアー写」?? なにそれ
大北:
明日アーティスト写真を撮影するアーティストの人とか明日のアー写公開を楽しみにしているファンの人とかね、とにかく楽しみにしている。
安藤:
ほんとだ。
藤原:
僕も出ててよく検索するんですけど、みんなほんとに明日のアー写を楽しみにしてますよね。
大北:
この明日のアー写も俺たちだと思えるようになれば体感2倍になるのに…と普段思ってます。ここまでいけたら今日は上がりかなー。
安藤:
自分だと思い込まなきゃダメですよね。1回頭の中で変換作業が起きると気持ちよくないですよ。
大北:
自分の属性に近いとこから練習していきましょうか。劇団四季みたいなビッグネームを自己と思い込めるのかどうか。
安藤:
もうライオンキングは俺たちの公演なわけだ
大北:
ちょっと降ろす時間を作りましょう。劇団四季を体に降ろす。wikipedia見ながらちょっと。
安藤:
情報もないし経験もないけど一回憑依させるんだ。
大北:
700名以上の俳優、スタッフにも700人以上。株式会社化していて、演出家の浅利慶太さんが中心となって作った。そのうえ専用の劇場が常設である。銀行からお金を借りて回している。
安藤:
俺たちは劇団四季の上層部なわけだよね。1500人を食わしてるわけだ。胃が痛いな。
大北:
痛いですよ。じゃあ擬ゴサーチいきますよ。
安藤:
え、怖くない? 悪評ばっかりだったらもうやめようかなってなりますよね、やばい。
大北:
でも70年近く続いた劇団の歴史はぼくらにかかってますから。悪評も改善点ととらえて勉強しないといけない。いきます!
安藤:
うわ。はい。
大北:
お……お……おお、いいですね!
安藤:
ああ、みんな見に行ってくれてるんだ~!
大北:
おれたち劇団四季のアナ雪をね、いいですね
安藤:
評判いいじゃん「見に行きたいな」って。……リポストしとこう。
大北:
あっ、おれのアカウントが……
大北:
今100%良い評判じゃないですか。
藤原:
昔の四季のほうがよかった、みたいなのないですね。
安藤:
「修学旅行で見たライオンキング感動しました」
大北:
あー、修学旅行でね、俺たちが演じたライオンキングが
安藤:
作るの大変だったからね。入んなかったらどうしようと思ったけどやってよかったよ
大北:
「大阪離れたくない、劇団四季を見に行きたいから」「美女と野獣楽しみ」いろんな芝居をみんな気に入ってくれてるな。あ、「5000円の返金してほしい」って……
安藤:
あ、ごめん。
大北:
返金のシステムの問題であって俺たちのせいじゃないんですけどね。
安藤:
おれたちのバック・トゥ・ザ・フューチャー期待されてるね。「どう再現されるか楽しみすぎるわ」頑張んなきゃいかんね、これ。バック・トゥ・ザ・フューチャー。
藤原:
……ご期待ください!
大北:
おれたちのバック・トゥ・ザ・フューチャーを…
一同:
ご期待ください!!
大北:
ということで一回区切ります。けっこう入り込めましたね。
安藤:
サーチする瞬間、超プレッシャーだったけどね。ほんとネガティブなコメントって他人のでも見たくないですね。わりとすんなり入れたからなんでもいける気がするよ。
大北:
じゃ劇団は組織でしたが今度は個人いきましょうか。サッカーのスタープレイヤー三笘薫いきましょうか。
安藤:
三笘薫さんはエゴサーチしないだろうな。
大北:
wikipediaで一回憑依しましょう。はい、おれでありおれたち三笘薫は26歳、川崎フロンターレで大車輪の活躍をして海外へ。で、今や世界でもトップかというほどのドリブルを武器に日本代表の超絶エース。もういい評判しかない。
安藤:
これは劇団四季みたいな怖さないわ。だって1500人抱えてないもん。
大北:
最高にイケイケのキャリアですから。サッカーが楽しくてしょうがない時期。いきましょう。
安藤:
全然ウキウキな気持ちで検索できるな。
大北:「久保より三笘の方がいい」「三笘の判断はよかったと思うけどな」おれの判断ですね。
安藤:
そうだよおれは間違ってないよ
安藤:
期待が高いですね、やっぱりみんな。「三笘ゴボウ抜き」おれのゴボウ抜き見てくれたんだ
大北:
ありがとう。「三笘のターン」おれのターン!!「三笘おまえはダメだ」なんだと、お前はサッカーを分かってない。「三笘くんかっこいい」そうだ、おれはかっこいいんだ
大北:
「三笘のカード出ない」。俺のカード集めてんだな。
安藤:
おれのトレーディングカードが巷には出てるのか。「拡散お願いします」ってあるからリツイートしとこう。
大北:
本物の三笘もリツイートしないでしょ…あっ!
安藤:
期待されてるなあ「三笘の読み方知らなくて」……ブロックだろ。
大北:
おれのアカウントなんですよ。
安藤:
この大北ってやつおれのことブロックしやがった、と。
大北:
三笘のカード集めてるツイをリツイートしてるしな、と。
安藤:
さっきは劇団四季リポストしてたしな。
藤原:
これまだ1時間前の投稿じゃないですか。これだけさかのぼって見てるのに。
大北:
ということはすごい数、永遠に擬ゴサーチできる! 飽きるかもしれないですけど。
安藤:
でもやればやるほど嬉しくなってくる気がするな。
大北:
ぼくはでもちょっと個人には乗りにくかったかもしれない。組織の方が一員感ありました。ちょっと変えてみましょうか。秋田犬とかやってみますか。評判が良さそうだから
安藤:
そっちでもいいんだ別に。
大北:
じゃまたウィキペディア見て一回秋田犬を自分の中におろしてきましょう
安藤:
……はい、やりましょう。
大北:
「かわいい」おれのぬいぐるみだ。「かわいすぎる」うんうん。「肉厚の耳、たまらん」うん、おれのね。でも三笘よりは褒めが少ないですね
安藤:
秋田犬って柴犬がライバルでしょう? だから秋田犬になった上で柴犬の検索してライバルの悪評があったら気持ちいいんじゃないですかね
大北:
擬ゴライバルサーチ。
大北:
あーでもだめですね。柴犬はアカウント名に柴犬って入れてる人が多すぎて評判が出てこない。でも柴犬可愛がられてるな。褒めって感じじゃないしあんまり乗れないですね
安藤:
擬ゴサーチは人に対してのものなんでしょうね