取材では、彫刻以外にも参考としてたくさんの現代マッチョを見たのだが、マッチョを見すぎたせいで、私も石川さんも「マッチョを見る目」が格段に養われてしまった。
特に海外ボディビルダーは衝撃的で、彼らを一度でも見てしまうと、もうダビデもヴィーナスもまったく目に入らなくなってしまう。
想像以上に奥が深いマッチョの世界。気になる方は、ぜひこれを機に足を踏み入れてみて欲しい。
最近(ちょっとだけ)筋トレを始めた。
それで思い知ったのだが、ミケランジェロのダビデ像はめちゃくちゃすごい。
もともとすごいと思っていたが、自分が筋トレを始めたことで、前はわからなかったダビデのすごさが見えてきた(ような気がする)。
あそこまで筋肉をつけるには、眠れない夜もあったはずだ。
ダビデの知られざる努力を知りたい。彼の磨き込まれた筋肉について、ジムトレーナーに解説してもらうことにした。
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今回のインタビューに登場するのはこの3人。
野田航平さん:女性専用パーソナルジムの店長。モテたいと思いトレーニングを開始。身長184cm・68kgから85kgまで増量しつつ、スタイリッシュな身体を維持。インスタはこちら。
まいしろ:エンタメライター。「腹筋」という言葉を聞くと気分が落ち込む。
石川さん:デイリーポータルZ編集部。人生で懸垂ができたことが一度もない。
まいしろ:今日は「ダビデ像」の筋肉についてお聞きしたいです。よろしくお願いします!
野田:せっかくなので、わかりやすいように資料を作ってきたんですけど...
野田:自分、ダビデとだいたい同じ体なんですよ
まいしろ:こんな身近にダビデがいるとは
野田:ダビデって素手で岩を投げて「ゴリアテ」という巨人を倒したらしいんですけど、私は岩を投げて巨人を倒せる自信はないです
まいしろ:同じぐらいの筋肉の人から聞くと重みがありますね
野田:ゴリアテが相当弱くないとむりだと思いますよ
野田:あとは、プロの指導を受ければ、男性なら誰でも1年でダビデになれると思います
まいしろ:誰でも1年でダビデに?!
石川:僕、かなりひ弱なんですけど、1年でダビデになれますか?
野田:はい、なれると思います!
まいしろ:夢ありますね!
野田:週5で1回40〜60分ぐらいのトレーニングでなれますよ!
トレーニングのすごいところは、全員に平等なことなんですよ。トップレベルだとマッチョの才能が必要ですが、ダビデなら才能がなくても絶対になれます
石川:マッチョにも才能があるんですね
まいしろ:ということは、ダビデってマッチョ界だとわりと普通の人なんですか?
野田:そうですね。ちょうどいいぐらいのマッチョで、「運動をする男性が好き」という女性にも好かれる体型です。
私はモテたくて筋トレを始め、今の体型になりました。ダビデもほとんど同じ体型なので、ダビデもモテたかったのかもしれないです
まいしろ:ダビデにもいろいろあるんだな
野田:ただ、ダビデは前側はけっこうバキバキですけど、背中の絞りが甘いんですよ
まいしろ:ダビデにまさかのダメ出しが。
野田:ダビデは前側に比べて、後ろに脂肪がつきやすい人なんですね。だからけっこうお尻もかわいらしいんですね
まいしろ:確かに、お尻はちょっと脂肪がある感じですね!
野田:あとは、意外と足に筋肉がない。なので、下半身のトレーニングはほぼせずに、上をメインで鍛えていると思います
まいしろ:そんなダビデにおすすめのトレーニングはありますか?
野田:下半身ですね。このままだと、自分より大きい敵と戦うときに、下半身で押し負けてしまうと思います。ぶつかったときに、踏ん張れないと思うんですよ
石川:そうなんだ
野田:なので、ダビデはスクワットとか短距離の走り込みをするのがおすすめです。
そしたら、岩を投げるときも下半身が安定すると思いますよ
まいしろ:安心してゴリアテが倒せるようになりますね!
まいしろ:せっかくなのでダビデ以外の彫刻についてもお聞きしたいんですが、まずは苦しそうな顔で知られるラオコーンです。
野田:ラオコーンはめちゃくちゃマッチョですよね!
まいしろ:野田さんのテンションが上がっている
野田:筋肉量がすごいですし、マッチョの才能がありますよね。特に強いのは大胸筋です。ラオコーンって、喉までタテの線が入ってますよね?
石川:ほんとだ。喉まで線ありますね
野田:これは大胸筋なんですよ。大胸筋がここから見えているということは、ボリュームも厚みもすごいということなんです。だから、もしラオコーンが腕をおろしたら(胸が)相当盛り上がります。
まいしろ:こうなると、同じラオコーンの違うポーズも彫っておいて欲しかったですね
野田:しかも、ラオコーンは肩も強いんですよ!左の肩、大胸筋と肩の間にタテの線が入ってますよね。
野田:ここは大胸筋から肩の筋肉に切り替わるところで、ここの丸みがわかるということは、肩の筋肉も相当あるってことなんですよ。この時代に、どうやってここまでトレーニングをしたんでしょうね? ラオコーンはベンチプレスをやっていたとしか思えないです。
まいしろ:ラオコーンが日本のボディビル大会に出たら、何位ぐらいになるんでしょうか?
野田:いいところまではいきますよ!まず、ラオコーンは腹筋が4パックに割れているタイプなんです
まいしろ:え、腹筋って6パック以外の割れ方あるんですか?!
野田:そうなんです。よく言われる6パックの他に、4パック、5パック、8パックなどの割れ方があります。
遺伝で決まるので、人によって割れる数が違うんですよ
まいしろ:人生で腹筋が割れたこと一度もないので知らなかったです
野田:割れて初めて、自分のパック数に気づくことが多いんですよね
まいしろ:それって「8パックの人が4パックの人にパック数でマウント取る」とかもあるんですか?
野田:ないです笑
まいしろ:ないんだ
野田:ただ、パックが左右でずれているとマッチョ界ではコンプレックスになりがちです。でもマッチョはポジティブが多いので、そこまで深刻にはならないですよ
まいしろ:マッチョ強いな。
野田:でも、ラオコーンみたいに腹筋が左右対称で大きく割れるタイプだと、やはり大会での見栄えはいいですね。
野田:脇腹あたりもバキバキですし、大会ならかなりいいところまでいけますよ
まいしろ:ラオコーン、ぜひ大会に出て欲しいですね
野田:ただ、やっぱり現代マッチョに比べると、弱いところもありますね。
ラオコーンは右手を挙げていると思うんですけど、脇から変なの出てますよね?
石川:これなんなんですか?
野田:これは背中です
石川:背中なんだ?!
野田:背中の筋肉が大きすぎて、脇からはみ出してるんですよ。だから、腕をあげるとこうなるんです。現代のマッチョは、これがもっと大きいですね
まいしろ:えっ...モモンガみたいですね
野田:ラオコーンは、脇からはみ出す筋肉が、現代のマッチョよりも小さいんです。手足も細いので、大会だと不利ですね
まいしろ:こんなマッチョでもまだ上があるんだ
石川:ラオコーンになろうと思ったら、どれくらいトレーニングがいるんですか?
野田:だいたい3年ぐらいです。週5でトレーニングしたとして、ダビデになるまで1年、そこからラオコーンまで2年ですね
まいしろ:思ったよりもいけそうですね。やっぱマッチョ夢あります!
まいしろ:続いて円盤投げ像です
野田:見えにくいけど、彼はお尻に筋があるんです。これは相当しぼってますね
まいしろ:筋ひとつでわかるんだ
野田:腹斜筋も、ネコがひっかいたみたいに見えますよね?これはボディビル大会にすぐに出れるぐらいの体脂肪率です
まいしろ:マッチョの才能ありますね
野田:円盤投げの彼は本当に、努力が見える身体なんですよね。このためにベストなコンディションを作ってきてるし、食事もコントロールしてきたはずです。
自分の中では、円盤投げ像が一番かっこいいですよ
まいしろ:円盤投げの人の努力が、時を越えてめちゃくちゃトレーナーに褒められている
石川:円盤投げの人になるには何年ぐらいかかるんですか?
野田:これも3年ぐらいです
まいしろ:ラオコーンと一緒なんだ!
野田:ダビデが2年間がんばったら、トレーニングの内容次第で、ラオコーンか円盤投げの人になるというイメージですね
石川:そんなマッチョの分岐があるんだ!
まいしろ:最後ですが、女性の筋肉についてもお聞きしたくて、ミロのヴィーナスを持ってきました
野田:ミロのヴィーナスは最近の日本人女性の体型ですよね
まいしろ:最近の日本人女性ってミロのヴィーナスなんですか?
野田:彼女は下半身が布で隠されていますが、たぶん足はそこまで細くないんです。日本人女性と同じく、上半身が華奢で、下半身は安定しやすいタイプですね
まいしろ:ミロのヴィーナスがいまの日本にいたら、体型に悩んだりしてたんですかね?
野田:あり得ますね。「Tシャツとロングスカートだったら細く見えるけど、スキニーデニムだと体重があるように見えてしまう」っていう悩みとか抱えてたかもしれないです
まいしろ:現代日本だとミロのヴィーナスすら悩むんだな
野田:現代女性って基準がめちゃくちゃ細いんですよ。本当にガリガリなんですよね
まいしろ:ミロのヴィーナスって、ジムには行ってないんですか?
野田:それがですね。ミロのヴィーナスって体脂肪率は高いんですけど、腹筋は割れてるじゃないですか。だからめちゃくちゃ腹筋だけしてるんですよ
まいしろ:新しい視点すぎる
野田:そうとしか考えられないですよね。顔・足腰・下半身はだいたい同じぐらいの体脂肪なのに、腹直筋だけめちゃくちゃ強いんですよ。
もうクリスティアーノ・ロナウドばりに腹筋やってたんだと思いますよ。横線入ってますからね
石川:「運動に興味がない人が同じトレーニングをずっとやる」って結構多いと思うんですけど、そんな感じでミロのヴィーナスも腹筋だけやってたんですかね?
野田:絶対そうだと思います。よく使うところや、トレーニングが得意なところは(他のところより)脂肪が落ちるのが早いんですよ。
これだけ腹筋が強いということは、ミロのヴィーナスは腹筋が好きだったんだと思います。筋肉がそう語ってます。
まいしろ:服装も腹筋を見せるために選んだんじゃないかと思えてきましたね
野田:それでいくと、彼女はわざわざ腹直筋に力を入れやすいポーズをとってます。トレーニングの成果を見せるために、背中を丸めて腹直筋に力を入れてるんですね
まいしろ:完全に腹直筋に振り切ってますね
野田:もう腕がないとかそれどころじゃなくて、腹筋にしか目がいかないです
まいしろ:そんなミロのヴィーナスにおすすめしたいトレーニングはありますか?
野田:腹筋以外もやった方がいいです
まいしろ:それはそう
野田:お尻が垂れてしまうタイプだと思うので、お尻や太もものトレーニングがおすすめですね。そしたら全身のバランスがもっとよくなると思いますよ
取材では、彫刻以外にも参考としてたくさんの現代マッチョを見たのだが、マッチョを見すぎたせいで、私も石川さんも「マッチョを見る目」が格段に養われてしまった。
特に海外ボディビルダーは衝撃的で、彼らを一度でも見てしまうと、もうダビデもヴィーナスもまったく目に入らなくなってしまう。
想像以上に奥が深いマッチョの世界。気になる方は、ぜひこれを機に足を踏み入れてみて欲しい。
この記事が書籍になりました〜!ミロのヴィーナスだけでなく、サモトラケのニケやモナリザにもなれる最高の筋トレ本です。アート作品を目指している方はぜひ!(まいしろ)
本のメイキング記事もあわせてよんでね→突然「筋トレ本」を出すことになった私の実録ドキュメンタリー
さらにさらに、イベントではさらなる専門家が登場。美術史学者による解説で、筋肉だけでなく美術の知識までついてしまうという、頭脳と肉体どちらも鍛えられる贅沢なイベントになっております!
日時:2021/12/16(木) OPEN18:00 START18:30
場所:東京カルチャーカルチャー
出演:
松浦弘明(多摩美術大学 教授)
野田航平(パーソナルジム店長)
まいしろ(ライター)
石川大樹(デイリーポータルZ編集)
チケット:
会場チケットはこちら オンライン試聴チケットはこちら
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