「あのボタン」の石像がお出迎え
たぶん、ほとんどの国民が手にしたことがあるんじゃないかと思うのだ。
これらの商品を作っているのが、今年で設立40周年を迎える株式会社パシフィック湘南さんである。
「あのボタン」の会社に来たのだと実感する。台座に彫られた「男の口約束は実印なり」は先代の社長の座右の銘だそう。なんと力強い言葉だろうか。
取材では実機を存分に触らせていただいた。
サイゼリヤで何度も聞いたあの音が会議室に響く……!
押された番号が左から順に表示され、2回以上押された番号は点滅する。「早く」のサインである。
と言っても、今日はいくら押しても店員さんは来ない。連打し放題だ。でも大人なのでグッと我慢する。
そうか。数字を表示するボタンもあれば、数字を消すための装置もあるのだ。
坂本さん お客様には「番号を消してからテーブルに向かってください」とご説明しています。そうしないと、同じテーブルに店員さんが集まってしまいますから(笑)
「行ってから消す」だと、数字を見た店員さんたちが「25番テーブルが呼んでるぞ!」と集まってきてしまう。だから「消してから行く」。
言われてみれば当たり前の話なのだけど、飲食店で働いた経験がないので考えたこともなかった。早くも「へ~!」が止まらない。
全然売れてないのに「100セット売る」と言い切った
パシフィック湘南さんが呼び出しベルを売り始めたのは、1985年のこと。当時は輸入商材などを扱う販売店で、呼び出しベルも商材の一部だった。
「これは面白いぞ」と売り出したものの、最初は全然売れなかったという。便利なのになぜ??
坂本さん 当時の飲食店は、目配り気配りでサービスをするのが当たり前。だから「ボタンで人を呼ばせるなんてとんでもない」と、拒否感がすごかったんです。年に6セットくらいしか売れませんでした。
売れないのは他の販売店も同じ。しばらくして、販売店同士で「これどうする?」と話し合うことになった。
こんなに売れないなら扱うのやめようかな……と、消極的な販売店が多いなか、「これは売れる」と確信を持つ人物がいた。
先代の社長である。
坂本さん 社長はその場で「100セット売ります」と言い切っちゃったんです。退路を断つために、それまで扱っていた商材もすべてやめてしまって。
「先ほど、ご覧になりましたよね……」と、坂本さんが入口のほうを指差す。あ!あの言葉ですか……。
年間6セットしか売れてないのに「100セット売る」って言っちゃった。男の口約束は実印なり。もうやるしかない。
先代の社長は考えた。いきなり大手は狙わず、地域の食堂やローカルチェーンから売り込もう。市場で名が轟けば、大手も振り向くはず。
その作戦は大当たり。1993年、あの大手から声がかかる。
坂本さん ちょうどファミレス業界が伸びてきた時期に、すかいらーくグループから「ガストに全店導入したい」とお声がけいただいたんです。
呼び出しベルは、従業員が少ない深夜営業にピッタリ。そこから夢庵やサイゼリヤなど、ファミレスでどんどん採用が進む。時代が追いついた。
もう年間100セットどころじゃない。先代の社長は約束を守ったのだ。