そもそものところ、今回の記事を書くきっかけに「余ってるゲル化剤をもうちょい活用したい」という邪念が無かったとは言わない。だって全然減らないんだもの。
なんだけど、ゲル化剤は0.1g単位でしか使えなかったし、さらに新たに違う粉(大豆レシチン)までドンと増えてしまう結果になってしまった。どうしよう。
ひとまずゲル化剤は置くとして、レシチンを大量消費する方法を考える必要はありそうだ。
先日、とあるラーメン屋さんで「柚子と昆布だしのエスプーマ」をかけたラーメンを食べた。
エスプーマというのは、液体に窒素を吹き込んでムース状の泡にしたもので、しゅわしゅわした舌触りになったり、風味が強調されたり、といった効果があって、つまり美味しいのである。
これ自宅でもできないかなー……と調べてみたところ、醤油をふわふわの泡にする「泡醤油」という技法があって、これは自宅でも簡単に作れそうなのだ。
エスプーマを作る用の機械も普通に売ってるんだけど、だいたい2万円ぐらいするので、「なんとなく自宅でやってみたいなー」ぐらいで導入するにはハードルが高い。
ちなみに1万円以下のもあるっちゃあるけど、レビューを読む限り、炭酸水を作るのがせいぜいでエスプーマは無理っぽい。
なので、それならもう機械無しでできる「泡醤油」やってみようよ、という流れなわけ。
ちなみに泡醤油というのは、冒頭でも述べたとおり、醤油をふわふわに泡立てたもの。
祇園で舞妓さんがごはんを食べるときに着物を汚さないよう、垂れやすい液体の醤油を泡立てた……という説もあるらしいんだけど、真贋は不明だ。
とはいえ、液体のようにボタボタと垂れ落ちることがないので食べやすい、というのは間違いのないメリットだろう。
作り方はというと、①醤油を水で割る ②ゼラチンまたはゲル化剤を添加する ③泡立てる の簡単3ステップで完成する。
まず醤油と水は1:4ぐらいの比率で割る。理由はよく分からないんだけど、醤油が原液だと、うまく泡立たないのである。
ネット上で「濃度が濃すぎると泡立たない」と書かれているのは見たんだけど、なんの濃度かは言及されてない。塩分? とりあえずある程度は水で希釈しないと、確かに泡立ちは悪い。
で、ここにゼラチンまたはゲル化剤を入れるんだけど、これは単純に、泡を消しにくくするために粘度を高めよう、という話だろう。
ゼラチンの場合はお湯で溶かしておく必要があるが、この水分を加えてちょうど醤油と水の比率が合うように調整しておく。ゲル化剤はそういう手間も要らないので、どっちかというとゲル化剤のほうがラク。
なにより、我が家には過去記事「チューブ薬味の自由さに挑む」「 「とろみ vs 炭酸水」爽快感の境界を探る」で使用したゲル化剤が、まだまだ大量に残ってる。
これだけ遊べるんだから、一家に一袋あるといいな、ゲル化剤。めっちゃ持て余すけど。
で、あとはとにかく泡立てるべくかき混ぜる。
もちろん人力でやってもいいんだろうけど、電力を使ってラクができるならそっちのほうが良いと思う。100均にカプチーノのミルクを泡立てる用の電動ミルクフォーマーというのがあって、これがかなり手軽だ。(トルクめちゃ弱なので、液体の粘度が高いとすぐ止まるけど)
とにかくガーッと泡立てればふわふわの泡醤油になっちゃうよ、という流れである。
そのまま舐めてみると、舌の上にしゅわしゅわと軽く弾ける感じがあって、なかなか楽しい。(だいたい作って10分ぐらいはしゅわしゅわを保つ)
それと、舌に乗っている滞在時間が液体より長いからか、味を強めに感じる。水で5倍希釈してるのに、普通の醤油とそんなに変わらない塩味が感じられるのだ。
これは減塩醤油としても効果あるんじゃないか。
ひとまず醤油をダイレクトに使う料理といえば、刺身だろう。
ということでお刺身の上に、ちょんちょんと泡醤油を乗っけてやる。
普通の液体醤油だと、刺身の上からかけるとそのまま皿に流れてびしょびしょ。で、刺身に染み込みすぎてしょっぱくなってしまいがち。
なので、醤油は専用の小皿に注いで、そこに刺身をつけながら食べる…というのが基本システムとなる。
対して泡醤油はこぼれる量が少ないので、最初から必要量を刺身に乗せてそのまま食べることが可能だ。
しかも5倍希釈なので醤油の味が支配的にならず、魚の味がクッキリと分かりやすい。淡泊な白身の魚でも、醤油に負けずに旨味を感じられるのだ。
あれ、もしかして泡醤油、刺身用の最適解なのでは?
もうひとつ最適なのが、お寿司だ。
ほら、寿司ってネタの側に上手く醤油をつけるのが難しいし、シャリ側に醤油がつくとしょっぱいしで、意外と難しいだろう。
でも泡醤油なら、そのままネタの上にスプーンでちょいと乗せてやればそれでOK。
ネタから垂れないし、シャリに染みないしで、メリットしかないのである。
舞妓さんの着物を汚さないように泡立てた、という説、たぶんウソだな。単純に、醤油は泡にした方が旨いからに違いない。
食感も新しく、泡ならではの味わいもあって、しかも減塩効果まである。これは間違いなく未来調味料だぞ。
泡醤油に未来っぽさがあるとしたら、そりゃ他の調味料だって泡立ててみるべきじゃないか。
ほら、たとえば泡ウスターソースとかどうだろう?
と思ってやってみたんだけど、どうしたことか、まったく泡立たない。
いや、まったくというと語弊があるな。ウスターソース(5倍希釈)にミルクフォーマー入れてかき回すと、表面に粗い泡がちょっと立つ。だけど、すぐに消えちゃう。ゲル化剤を入れてもほぼ結果は変わらずだ。
うーん、これでは泡調味料にならんじゃないか。どうしたどうした。
醤油とウスターソース、何が違う?(違うっちゃ、いろいろと違うけど)
……と考えていくと、ひとつ思い当たるのが、醤油の原料・大豆に含まれているレシチンやサポニンという乳化成分だ。
大豆を煮るとやたらと泡が出るんだけど、これはレシチンとサポニンによるもの。つまり原材料に泡成分の有無がある、というわけ。
そしてレシチンなら、サプリ的なものとしてドラッグストアでも購入可能である。
改めてネットで検索してみると、エスプーマをレシチンで作るレシピもわりと見つかった。よし、これは正解っぽいぞ。
ということで、買ってきた顆粒のレシチンをすり潰して粉にして、ゲル化剤と共にウスターソースに投入。分量はひとまずゲル化剤と同量、0.5gで。
それをミルクフォーマーでかき回すと、おおー、泡立つ泡立つ!さっきまでとはあきらかに別物の泡っぷりである。これはいけるんじゃね?
うーん、これなら泡ウスターソースといって間違いないだろう。
ただ、熱いコロッケに乗せた瞬間から結構な勢いで泡が消えていくので、泡ならでは的な楽しさはほとんど感じられない。
あと、水で希釈したことによって、ウスターソースのパンチがかなり損なわれてしまったような気もする。これは正直、泡じゃなくてもぜんぜん大丈夫です。
いきなりウスターソースは一足飛びに過ぎたか。とりあえずもうちょっと醤油系で足固めをしてから進んだ方が良かったかも。
例えば泡めんつゆとか、どうだろう。冷たい麺に泡めんつゆが乗っかると、ビジュアル的に涼しげに見える気もするし。
こちらもレシチンを添加してガーッと。おお泡立つ泡立つ。やっぱりレシチンは楽しいな。
茹でた素麺をザルに盛って、その上からふわふわの泡めんつゆをぽてり、と乗せる。
ぶっかけでもなく、つけでもなく、乗せ。パスタに近いヌードルオンソース・スタイルだが、素麺としてはなかなかに新しいのではないか。
食べてみると、泡まみれの麺が口にトゥルトゥルッと入ってくる。ツルツルではなく、トゥルトゥルだ。なにかこう、泡が麺にぬめりを加えてしまう感じというか、冷たい麺ならではのシャキッとしたキレの良さが感じられないのである。
めんつゆの味は麺全体に絡んでいるので食べやすいんだけど、どうしても「旨い」と感じづらい。
あともうひとつ、泡醤油と泡酢を組み合わせた泡酢醤油というのも考えてみた。
醤油は問題なく泡立つし、酢も水割り+レシチンの効果でふわふわの泡になってくれる。これを餃子のタレにすると、なにか従来とは違った扉が開くのではないか。
餃子のタレであれば、酢と醤油を混ぜてしまうべきだろうが、せっかくのアワアワ状態を少しでも保ちたいので、別々で餃子に乗せてみた。
実はこれが期せずして良い感じで、餃子を食べ進めるごとに「ちょっと醤油強めゾーン」「酢が主体ゾーン」「うまく混ざったゾーン」などが程々に入り交じって、食べ飽きないのである。
これは、液体のタレでは実現が難しそう。泡調味料ならではの楽しみと言えるだろう。
泡調味料、料理によって確実に合う・合わないがありそうだし、微妙に「わざわざ泡にせんでもええやろ」というものまであるのは把握できた。
ただ、それはそれとして泡立てるのが面白くなっちゃってるので、しばらくはいろいろな調味料を泡立てて遊んでみようと思う。
そもそものところ、今回の記事を書くきっかけに「余ってるゲル化剤をもうちょい活用したい」という邪念が無かったとは言わない。だって全然減らないんだもの。
なんだけど、ゲル化剤は0.1g単位でしか使えなかったし、さらに新たに違う粉(大豆レシチン)までドンと増えてしまう結果になってしまった。どうしよう。
ひとまずゲル化剤は置くとして、レシチンを大量消費する方法を考える必要はありそうだ。
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