知らない灯りを目指す旅
「インターネットに存在しない動画を撮ってやるぞと気合を入れて撮影しました」というてらさんは、ビンロウ屋のLED以外にも知らない灯りを探しに足を使って回っていたという。
灯りは視覚に訴えてきて良い。VRもARも動画サイトもみな視覚で未来を感じさせてくれる。ビンロウLEDで飾るメタバース空間でよさを共有できる未来がいずれやってくるかもしれない。
台湾に味のある照明がある。
台湾の街中には、イメージどおりの渋い漢字の看板の照明もあるけど、そうではなくまるで夜空に打ち上げられる花火のような照明もあるそうだ。
そんな「ビンロウLED」の沼にはまって旅をしたテラさんに話を聞いていろいろ見せてもらった。
「これを見てください!」
てらさんは「台湾孔雀燈」と書かれた小さな扇型の電子製品を見せてくれた。
通電すると青緑赤のLEDライトが点滅しだした。しかも意思をもつかのようにイキイキと様々なバリエーションで点滅する。「おぉぉぉ!」と思わず声が漏れる。
「これは日本のビンロウLED好きの方が販売しているのですが、これと全く同じものが台湾のビンロウ屋にあるんです!」
ビンロウとは。
ビンロウで検索するとLEDではなく、ヤシ科の木の幹にたわわになった黄緑色の実の写真が出てくる。この種子を噛みたばこのように服用するのだ。健康に害があることも指摘されている。
そのビンロウを扱ってるのがビンロウ屋だ。ドライバーのおじさん方がドライブスルーのように立ち寄り、ワンカップを飲むようなノリで一服するのに使われていて、そこでは店をアピールする花火のようなLEDがお決まりのように光っている。
このLEDに魅せられて、てらさんは旅をしていた。どうやってみつけるのだろう。
「GoogleMapをビンロウで検索すると出てきます。
いろいろ調べた結果、国道沿いに密集してるんです。台北、台中、高雄に結構ありました。全ての店にLED看板があるわけではないので、ビンロウ屋が集まってるところをしらみつぶしにストリートビューで探して、LEDを確認します。
一番密集していたのが台中の国際空港の近くだったんです!」
日本でいうなら、パチンコ屋の密集地点を見つけたうえで、レビューには載らない外観をストリートビューでひとつひとつ確認していくような作業だろう。なんだか恐ろしい情熱なのはわかった。
「そこで、実際に台中の国際空港の近くに行ってみることにしたんです。
調べたところ台中から空港まで行くバスがあるらしいのです。LEDを見に行くなら行くなら夜のほうがいいだろうと、9時から10時くらいを狙ってバスに乗り込みました!」
「そしたらもう、バスから見るとすごいんですよ。
国道沿いの暗闇の中で、その場所にやってくるとビンロウ屋、ビンロウ屋、ガソリンスタンドときて、またビンロウ、ビンロウ……エンドレス感がすごくないですか?」
ビデオに「おおーっ!」と声が出る。台湾のおっさんを寄せ付ける、まぶしくも妖艶なライトが延々と続くのだ。
同じ店をこれでもかと作る様は、シムシティでボタンを連打して同じ店を作ってしまったような、あるいはダメなAIがデザインした街の感がある。
ドライバーのハートを射止めんばかりのビンロウ屋だけが並ぶ国道
「このビンロウ国道を抜けると空港に着きました。この時点で帰りに乗る最終バスまで40分くらい。歩いて見に行こうと思ったらシェアサイクルがあって、これはチャリで見て回るしかないなと。自転車で走りながら端から順番に鑑賞していくわけです。むしろ40分しかいられなくて辛かった」
……その気持ち、わかりますとも!
「6店舗が連続であったので、1店舗ずつ鑑賞して撮りました。
ドライバーに伝えるのを最優先で片面しかライトがついてないものとか、扇形ではなくて360度光るものとか、龍の形のものとか。形だけでなく光り方にもそれぞれ個性があって、オリジナリティがを感じました」
てらさんは次々と動画を見せてくれた。光の情報の洪水だった。
「インターネットに存在しない動画を撮ってやるぞと気合を入れて撮影しました」というてらさんは、ビンロウ屋のLED以外にも知らない灯りを探しに足を使って回っていたという。
灯りは視覚に訴えてきて良い。VRもARも動画サイトもみな視覚で未来を感じさせてくれる。ビンロウLEDで飾るメタバース空間でよさを共有できる未来がいずれやってくるかもしれない。
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