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友人がメッセージボトルを拾った。
それだけでもビッグニュースだが、「拾ったのは20年ぶり」だという。
えっ、2本目?そんなことある??
友人の名前は後藤健太。いつも「健ちゃん」と呼んでいるので、今回もそう呼びたい。
健ちゃんがメッセージボトルを拾ったのは昨年11月。まぁ、けっこう前だが、メッセージボトルを拾うという出来事の前には時事性など些末ってことで。現場を案内してもらった。
メッセージボトルを探していた訳でもなければ、ゴミ拾いをしていた訳でもない。ただただ、友人たちと浜で遊んで、さて帰ろうとしたところで自然に見つけたのだとか(ちなみに拾った時の動画もあるので最後にリンクを貼っておきます)。
ネルソン
「なんでメッセージボトルだと気づいたの?」
健ちゃん
「ドル紙幣が入ってたんだよ、2ドル分。それで『メッセージボトルだこれ!』ってみんな騒然となって」
そうか、円だったら日本から海外に流そうとして失敗したボトルの可能性があるもんな。それはそれで人の手に渡っているけど、ドルなら本当に太平洋なりを渡って漂着した可能性が高い。
島には外国からゴミがよく漂着する(私は今沖永良部島というところに住んでます)。ゴミはゴミながらその国の商品棚に並んでいた様子を想像したりとおもしろ味があるが、漂着は偶然。意図的に流されたメッセージボトルは興奮するだろう。冒険のはじまり!感がある。
そして実際、ボトルには紙幣だけでなく意思を持って書かれた手紙も入っていた。そこに書かれた内容は?そしてどこから流された??なぜ1ドルではなく2ドル???それはそれでまた物語がある訳だが、その前に教えてほしい。「2本目」ってどういうことだ?
という訳で、1本目の物語を振り返りたい。
健ちゃんがはじめてメッセージボトルを拾ったのは2002年の夏。大学の無人島好きが集まる研究会メンバーおよそ30人で、沖縄の無人島で合宿したときのことだった。
ネルソン
「30人もいれば無人島じゃなくなるんじゃないの」
健ちゃん
「よく言われてたよそれ」
岩陰で用を足そうとした健ちゃんは、足元に転がったボトルを発見。
中に入ったポストカードには「McKernan(マッカーナン)」と人名が書かれてあった。これは、紛れもなくメッセージボトル!「拾ったらここに連絡してほしい」と、ニュージーランドにある、差出人の勤務先らしきホテルの名前も書かれていた。
それから健ちゃんはホテル名をネットで調べたが、当時は2002年とまだネット黎明期なこともあって、ヒット数はいまいち(めちゃくちゃ余談だが、デイリーポータルZはこの数ヶ月後に前身のコンテンツがはじまった。と言えば黎明期ぶりが個人的にはよく分かる)。
住所も書かれていたので返事を書くこともできたが、あえてワインボトルよろしく寝かせておくことに。
それから5年後、たまたま沖縄の離島への旅行計画を立てているときに、ふと思い立ちマッカーナンで検索すると…なんと新聞記事がヒット!「メッセージカードを拾った」という内容で、もちろん健ちゃんが拾ったものと同じマッカーナン発で、場所もその隣の島だった。
健ちゃん
「それで拾った人に会いに行ったんだよ」
ネルソン
「世にも珍しいメッセージボトル仲間!」
なんとかその人物を探し出し、会う約束を取り付けたものの前後の予定もあって話せるのはたった15分。しかも、サプライズ精神が高じてそもそもの用件を伏せていた。
ネルソン
「それ、説明、時間足りる?」
健ちゃん
「だから、会ってすぐにメッセージカードを見せたら、一瞬で伝わった(笑)」
同じメッセージボトル(カード)を拾った者にだけ伝わる合図。さしずめ「マッカーナン仲間」と言うべきか…。あ、これ、奇跡的に回文!逆から呼んでもマッカーナン仲間だ…!!
それからさらに3年後の2010年、ボトルを拾ってから8年。
「そろそろいいだろ」と、いよいよ差出人であるマッカーナンさんに会いに行くことを決意した健ちゃん。ニュージーランドの前に周っていたアジア旅行で、これまた奇跡的な出会いが起こる。
健ちゃん「旅先で会ったアンナという子がニュージーランド出身で、『(マッカーナンさんの勤務先がある)ワイヒって町に行くんだ』って話したら、『地元だわ』って言うんだよ」
そんなことある?でも、あった。さらにアンナのお母さんのリンさんは「そのホテルのパブでよく飲んでたわ」という。メールのやりとりでリンさんとも仲良くなり、偵察に行ってもらったところ、名前が書かれたドアを発見。マッカーナンさんの存在を確認した。
いよいよワイヒへ飛んだ健ちゃんを空港で待ち受けていたものは、なぜか現地のテレビクルー。着くなり質問攻めにあったあと、掛けられた言葉は「明日、ホテルに行くからね」。
そのクルーはニュージーランド全土で夕方に放映しているニュース番組のスタッフで、どこからか話が伝わって、本人が知らない間に健ちゃんは地元ニュースの主役に内定していたらしいのだ。
健ちゃん
「えー!?だよ。ワイヒでは三週間くらいいるつもりで、気持ちを落ち着かせてからマッカーナンさんに会いに行こうと思ってたから…」
8年寝かせた話のクライマックスはドタバタ劇に。健ちゃんと愉快なテレビクルーはホテルに乗り込み、作業中だったオーバーオール姿のマッカーナンさんを直撃。出会い頭でカメラを向けられたマッカーナンさんは、「まずはそのカメラを下ろしてくれ」とちょいギレ。
健ちゃん
「まぁ、いきなりカメラを向けたこっちが悪いよね。マッカーナンさんはイギリス生まれの英国紳士で、作業中の姿を撮られることをよく思わなかったんだと思う。まさかのリアクションに逆サプライズだったけど、話すと本当に紳士的でロマンに溢れた人だった」
そうしてもろもろが落ち着き、マッカーナンさんも事態を飲み込んで、カメラもOK。そのニュースはニュージーランド全土で知られるところとなり、健ちゃんがその半年後にケニアで会ったニュージーランド人の方に「あなた、テレビで見たわ!」と言われるほどだったという。
後日、マッカーナンさんの計らいで彼が経営するホテルに泊めてもらうことになった健ちゃん。「ちょうど2本あったんだ」と、健ちゃんがボトルを拾った2002年と同じ年産のワインを開けて二人は語らった。一本はその場で飲み干し、もう一本は日本に持ち帰って今も大切に置いてあるという。うーん、ドラマや。
健ちゃん
「もう一本、いつ開けようかね?」
ネルソン
「タイミングむずかしいよねそれ…」
ちなみにマッカーナンさん、メッセージボトルを流した2001年当時は船乗りとして働いており(ホテルの権利を買って経営を人に任せていた)、毎晩同僚たちとワインにカードを入れて流していたという。その数ぜんぶで207本。これまでに返事が返ってきたのが9本で、内8本は手紙で、内1本は本人(健ちゃん)がやってきた、ということだ。
余談だが、計算するとメッセージボトルの返答率は3.3%ということか…。船で移動しながら流したこともあって、手紙が返ってきた場所は、フィリピン、モロッコ、ハワイ、アメリカ、バハマ、そして日本とさまざま。マッカーナンさん、おもしろい実験してるなぁー。
そして話は、現在。
健ちゃんとマッカーナンさんとの出会いから11年後、1本目を拾った年から数えると19年後。健ちゃんは再びメッセージボトルを拾った。拾ったときの感想はシンプルに、「こんなことある!?」。
1本目と比べて、差出人探しはラクだった。一部消えかかっていたものの、手紙にあった名前とメールアドレスを頼りに検索すると、間もなくそれらしき人物を発見。差出人はアメリカのミズーリ州に暮らす二人の女性。2019年8月、ハワイ旅行中に船から投げたもの。
ちなみに中に入っていた2ドルはもともとウエートレスに渡したチップで、メッセージボトルを詰めてると「これも」と入れてくれたという。なんか小粋なコミュニケーション。
なお、なぜそこまで知っているかというと…
Zoomで直接話したからだ。
今や、情報さえ揃えれば本人と連絡をとり、リアルタイムで話もできる。メッセージボトルという軸で、思いがけずインターネットの進化っぷりを感じるとはだ。余談だが、マッカーナンさんはITは縁遠くSNSはやってないそうだが、それはそれでまたいい。
最後に、ちょっとでもオチを引き出そうという下心から「メッセージボトルを探すノウハウを教えてくれ」と無茶振りな質問をしたところ、「『メッセージボトルが落ちてるんじゃないか?』っていう、ロマンを持つこと」だと、思いがけず含蓄のある言葉が返ってきた。
確かに、最初からゴミだと思ってたら気づく訳がない。意外と世の中はメッセージボトルだらけで、100人のロマンチストたちで浜を捜索したら、すんなり見つかるものなのかも。
健ちゃんがメッセージボトルを拾う瞬間の動画はこちら
ニュージーランドで放映されたニュース映像
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