「東京ビルさんぽ」とはどんな会か?
ビルさんぽを行っているのは、「いいビルの世界」という本を書いた人たちだ。
「いいビルの世界 東京ハンサムイースト」東京ビルさんぽ・著(大福書林)
東京ビルさんぽのメンバーは、編集者、デザイナー、建築家など。今日のビルさんぽは、東京駅や日本橋周辺を見て回る予定とのこと。
東京駅に、メンバーが集合していた
待ち合わせの場所におじゃまして、同行させていただくことにした。
この日は雨だったので、このまま地下街を通って大手町へ。最初に訪れたのは大手町ビルだ。
大手町ビルヂング(1958年竣工)
名前の「ヂ」がかっこいい。地下街を上がって建物の中に入ってみるとこんなふうだった。
こういう感じのビル、たしかにある
古いビルにこういう雰囲気の通路あるな、という感じ。こういう場所で、ビルさんぽのみんなはどこを見るんだろうか。
まず見ていたのが床だ。
「ステン(レス)と真鍮を分けてるんだ、すごいな」
床に埋め込んである金属が、真鍮とステンレスを使い分けているという。よくそんなところに気づくなあ。
ステンレスのことをなにげなく「ステン」と略しているのもいい。ふだんから慣れ親しんでいるんだろうなーという感じがして、どきっとする。
――みなさんステンレスのことをステン、ていうんですか?
「いえいえ全然、マニアパレルさんだけです」
マニアパレルさんは、メンバーの一人だ。土木関係のTシャツを企画したりしている。
近くの壁にくぼみがあった。
「電話台跡だ」という
公衆電話を置いてあった跡にみえる。
「公衆電話を照らしてたんだ。上に照明があるから。さぞかしドラマチックな電話シーンだっただろうね」
言われてみると上に穴が2つある。これ、照明の跡か。
照らされながら、誰にどんな電話をしていたのか。見る目があれば、かつての景色も想像できるんだなと思った。
「うわーこれはいい!」
階段にやってきた一行が、口々に感嘆している。
「この色もよくない?」
「いいねー、この深緑」
「シック」
階段のふちが深い緑色になっていて、真鍮の金色、人造石の白との対比がきれいだ。
照明が埋まっている
「この間接照明、もとからだよね?」
「そうだね、建築化(けんちくか)照明だろうね」
建築化照明というのは、後から照明を置くんじゃなくて、設計の段階で建築の一部として隠す照明のことだそうだ。
「大手町ビル、たのしい」
そう言いながらずっと見ている。
なるほどー。つまり、知識さえあれば見る場所はいっぱいあるし、何を見てもたのしいっていうことなんだな。
外観のたのしみかた
地下鉄で日本橋にやってきた。雨が降っているので、傘をさしながらいいビルを探す。
大手町では、地下鉄から直結していたのでそのまま中を見ることになった。でも、ふつうはビルを外から見ることになる。
歩きながら、外観を見るポイントについて教わったことをまとめてみた。
窓と窓枠
六角形の窓
いまのビルの窓はだいたい四角だけど、古いビルはいろんな形のものがある。こんな六角形のやつのほか、丸いのもよく見かける。半円形のアーチみたいなのもある。だから見る楽しみがある。
アーチみたいな窓
まるで目のように、窓の形はビルの表情を作るのだそうだ。そういえば、「ちいさいおうち」の二つの窓は目みたいだなあと思ったのを覚えている。
昔のビルは窓の形が凝ってる。そのぶん、もし割れちゃったら交換するのが大変なんだそうだ。ぴったりの形の窓ガラスはなかなか売ってない。
くっきりとした窓枠
窓がふつうの四角いタイプだとしても、窓枠によっても印象はだいぶ変わる。このビルの場合、枠が [ ] みたいで素敵だ。
タイル
角がぐにゃりとしてる
ビル散歩の途中で出会ったタイル。
タイルがぴかぴかしてきれい。こういうのを陶磁器質タイルというらしい。微妙に色の違うタイルの配置に模様ができるし、タイル一枚を見ても焼きムラによって表情ができる。
このビルの場合、角のタイルがわざわざ曲げてあるのがすごい手間だ。みんな感嘆していた。
ガラスブロック
このたたずまい
ドアの左側にあるのが、ガラスブロック。たしかに味がある。いまだとあまり見かけないように思うけど、前面がガラス張りになってることが多いからか。
この水色のドアと、左隣で色を合わせた玄関灯も素敵だよねえ。ぜったいこの奥に服か、おいしいコーヒーを売ってそうな気がする。
ドアハンドル
透明できれい
こういうドアの取っ手をドアハンドルというんだそうだ。壁や床の色、材質などに合わせて考えて決められているとのこと。
きれいな赤
このドアハンドルなんか、まるで差し色みたいだ。なるほど、こういう楽しみ方があるのか。
階段室と窓
ピサの斜塔みたい。傾いてないけど。
階段室というのは、階段だけがある部分だ。一定のリズムで明かりとりっぽい窓が空いているので、それと分かる。
このビルは残念ながら閉まってたので確認できてないんだけど、この白い円筒の部分がきっと階段室だろう。もしかして螺旋階段だろうか。いろいろと想像がふくらむ。
年代のちがいによるビルのちがい
「いいビルの世界」にはこういうページがある。
「ビルだまりをさがす」というページ
「ビルの年代を意識してみる。高度経済成長期(60~70年代)のビルの特徴がわかったら、それより前と後がわかってくるよ。」
これは今回ぜひ知りたいところだった。ビルさんぽのメンバーたちは、ビルを見た感じでだいたいの年代が分かることも多いんだそうだ。すごい。ぼくも分かるようになりたい。
1960年代は直線的でシュッとしている
まずは1960年代のビルについて聞いてみた。
「直線的なイメージがある」
「シュッとしてる」
「男らしい」
「外壁がスチール」
まっすぐでかっちりしているイメージだろうか。1960年代のビルをいくつか探してみた。
ユニゾ八重洲ビル(旧:常和八重洲ビル) 1967年
新橋駅前ビル 1966年
高度成長の初期ということで、遊びとかは後回しにして、しっかりしたものをちゃんとつくるということだろうか。竣工50年を超えて、そろそろ壊されるものも多いらしい。この新橋駅前ビルも2022年には壊される予定だそうだ。
1970年代は遊びがあってタイルのイメージ
同じように1970年代のビルについて聞いてみた。
「タイルを使ってるイメージがある」
「遊びがある」
「アールの窓を使ってる」
なるほどアールの窓。
帽子会館 1972年
金成ビル 1971年
たしかに遊びがある。窓が六角形だったり、丸かったり。しっかりしたビルを作れるのはもう分かったから、特徴を出したいよという感じか。
「まとめると、60年代はかっこいい、70年代はかわいいっていうことかな」
これは分かりやすい。
もちろん、それぞれの年代のビルが必ずすべてそうだというわけじゃない。でもそういう傾向があるということを頭に入れておけば、ビルを見るときの参考になる。
1980年代はバブル
ビルさんぽのメンバーが見るのは、主に60年から70年代のビルだそうだ。80年代のビルっていうのはどうなんだろうか?
「バブル」
「ゴージャス」
「ごてごてしてる」
あまりいいイメージがない。この時期には人件費が高くなったために、例えばタイルに釉薬を使うようなこだわった建築が減ったんだそうだ。
駐車場がかっこいい
見かたを教わって、ひきつづき日本橋でビルを見ていく。
駐車場で何かを見ている
駐車場にある操作盤が気になるようだ。
「奥にあるパネルがめずらしいので、写真を撮ってもいいですか?」
と管理人さんに許可をもとめて、奥に進んでいく。
見ていたのはこれ
たしかにこれはかっこいい。
「これ、光ってるのは埋まってるっていうことですか?」
「そうそう、そういうこと」と管理人さん
ビルをみるとき、そのビルの人に取材ができればたしかに一番いい。分からないことも教えてもらえるかもしれない。
電話もかわいい
この電話もいい。ピンク電話とよばれる、ちょっと古いタイプの公衆電話だ。素敵。
かわいいビル
こじんまりとしたかわいいビルにもいくつか出会った。
雨にぬれた装飾テント(装テン)
入り口をおおうテント。いろんな形があってふだんから味わい深いけど、雨の日はテカテカしてこんなにきれいとは知らなかった。
細いビル
間口がずいぶん細いビル。これはすごい!と思ったんだけど、実際には全体がT字型になっていて、横から入る部分が細く見えているようだ。
藤井第二ビル
階段室のワッペンみたいなところと丸い窓がかわいい。生まれて初めて電柱が邪魔だと思った。
詳しい人と歩くと楽しい
ビルの見かたがちょっと分かった。60年代はかっこいい、70年代はかわいい。ドアの取っ手はドアハンドルだ。言葉を知ると、見えるようにもなってくる。
大手町ビルで、床や照明、階段のふちを見てみんなが感動しているのが、ぼくには感動的だった。そんなところふだん見ないし、見方も分かっていなかった。ふだんから見てる人と歩くと、新しい見方がインストールされる。だから楽しい。
東京ビルさんぽのみなさん、ありがとうございました。