特集 2018年4月3日

海に棲むナマズ『ハマギギ』を食べてみる

世の中には大きく分けて二つの魚がいる。

海水魚と淡水魚。日本人にとって前者の代表格がマグロやマダイ、イワシあたりだとすると、川魚の代名詞となるのはコイ、ドジョウ、それからナマズといったところだろう。

だがしかし、世の中にはそんなジャパニーズコモンセンスを覆してくる魚もいる。海に棲むナマズ、『ハマギギ』である。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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ナマズはめっちゃ種類が豊富!

日本人ならば多くの人がナマズと聞いて黒くて頭がデカくてヒゲの生えたあの魚を思い浮かべるだろう。ニョロニョロしてて地震を予知するとかしないとか言われるアレね。
みなさまご存知のナマズ。川や田んぼの用水路にいるヌメヌメニョロニョロしたヒゲ面フィッシュ。他種と区別してマナマズとも呼ばれる。
実際には日本には複数種のナマズが古来より生息している。しかし、純日本産ナマズの種数は両手で数えられるか数えられないかくらいのもんである。

これは世界的に見ると相当に少ない方である。ナマズの仲間は南極を除くすべての大陸に分布しており、その種数は2500種を超えるとも3000種に迫るとも言われている。ナマズ一族は魚類の中でも最大手クラスの巨大グループなのだ。
世界にはいろんなナマズがいるのだ。※これは香港で釣ったもの。ただし原産はアフリカ。
こんな奇抜なカタチをしてるのもいる。これはブラジル産。
たいていのナマズにはヒゲが生えている。やっぱりこれがナマズファミリーのシンポルだよね。
それだけバリエーションに富みまくると、「自分、淡水出て海攻めるっす!」というさながら組の鉄砲玉みたいな進化を遂げる奴らが出てくるらしい。

淡水産のものに比べると圧倒的に少ないが、海にも多少ながら適応しちゃったナマズがいる。

その中で日本人にとって一番身近なものは漁港で見られる毒魚ゴンズイだろう。刺されると痛いやつ。
海にナマズが…?いるんです!
日本にはもうひとつ、海に暮らすナマズが分布している。表題のハマギギ類だ。

海産ナマズとしてはナンバー2の知名度を誇るはずだが、たぶんほとんどの人がハマギギなんて名前すら聞いたことがないと思う。魚が好きな人なら名前は知っているかもしれないが、実物を見る機会はほとんどないはずだ。

というのも日本の沿岸においてハマギギの仲間は偶発的に発見されることが多く、漁獲対象になっていないのである。そもそも採れたとして市場に並ぶのかも怪しい。

でも、僕はハマギギを食いたい。海魚の味なのか、川魚の味なのかを確かめたい!

外国にはたくさんいる

…というわけで「日本に分布している!」と言いつつ、ここから先は完全に海外で取材してきたお話になる。

外国ではわりとイージーに採れるのだ。

たとえば東南アジアでは河口の砂浜や干潟で釣ったことがある。しかし小さいのばかりで食べる気になれずリリース。試食はまたの機会に持ち越した。
タイで釣れたハマギギの一種。サイズが…。
南米では市場にハマギギの仲間が並んでいるのを見かけた。しかし鮮度が悪く、味を公正にジャッジできないと判断。調理する環境もなかったのでまたスルー。

でもこの調子ならいつかまた良い条件の下で巡り会えるだろう。
ハマギギ類は海外だと普通に食用になっている。写真は東南アジアの汽水域で採れる種。
ちょっと話がそれるが、ハマギギの「ハマ」はもちろん「浜」の意。砂地の沿岸でよく見られることから付いた名だ。じゃあ「ギギ」とは何かというと、淡水に棲んでいる小型のナマズの一種である。このギギに姿が似ているため「浜にいるギギ」、ハマギギとなったのだ。
これが日本の川に棲んでるギギという魚。ちょっと似てるでしょ?

願いはオーストラリアでかなった

話を戻すが、なんとこのたびついに!この原稿に取りかかる数日前に理想的なカタチでハマギギと再会を果たすことができた。おっさんミーツハマギギの舞台はオーストラリア北部のやはり砂浜であった。
ハマギギがいるビーチ。今の時期はちょうど雨季で景色がドンヨリ…。
実を言うと、今回はまったく別の魚を取材するためにこのビーチを訪れていた。

地元の漁師たちが「キャットフィッシュもたまにいるよ」と教えてくれていたが「おー、そうなんだ。ついでに採れたらいいな。」くらいのスタンスで釣りを始めた。
まず浜辺でウミヘビ(魚類)を捕まえた。刻んでエサにするのだ。
ハマギギは夜行性。たまたま本命の魚と生活時間帯がかぶっていたのが功を奏した。
いやー、嬉しかったね。釣れると思ってなかったけど。
結果、本命の魚よりも先にハマギギが釣れた。おお、嬉しい誤算。

大きさは40センチくらい。味見をするにはちょうどいい大きさ。しかも今回はキッチンつきの宿に泊まっている。これはしめた!ついにハマギギが食べられる!

その後、本命の魚も無事に釣れて喜び二倍で帰路についた。
今回釣れたハマギギの一種。シュッとしててなかなかスタイルが良い。
顔は正面から見たほうがかわいいかな。ヒゲは上顎に2本、下顎に4本。
尾ビレは二叉型。フォークテールとも呼ばれる形状で、マグロやアジなどよく泳ぐ魚によく見られる。

ヒレのトゲに注意!

ところでこのハマギギ、言われてみれば確かにギギにも似ているが、もっとずっとよく似た魚がいる。

霞ヶ浦水系や琵琶湖水系などで繁殖しているチャネルキャットフィッシュだ。
これがチャネルキャットフィッシュ。日本ではアメリカナマズと呼ばれることも。
チャネルキャットフィッシュもハマギギも、どちらも遊泳に特化した体型をしている。

また、胸ビレに鋭く硬いトゲがあって扱いに困るところまでよく似ている(このトゲは淡水のギギにもある)。
上がチャネルキャットフィッシュ、下がハマギギ。よく似てるでしょ?
ハマギギは釣り上げるとビチビチと身体を振って暴れるため、うっかりつかむとこの胸ビレのトゲが手に突き刺さって痛い目に遭うので注意が必要だ(チャネルキャットフィッシュ、ギギ、それからゴンズイも同様)。

それから、背ビレにまで同じようなトゲがある。素手では触らないのが懸命だ。
胸ビレと背ビレに注意!痛いぞ!刺さるぞ!毒があるという噂も。
さて調理開始。代表のヌメリを包丁でこそぎ落とし、ヒレのトゲをペンチでクラッシュ。頭を斧で叩き落として三枚におろしたら下ごしらえ完了。

身はやわらかいが色合いはほんのりピンクでキレイだし臭みも無い。なかなか美味そうだ

※血抜きとエラ・内臓の除去は海で済ませてきた。
まず最初に各ヒレのトゲをペンチでへし折ります。
頭を落とす。骨がメタクソ硬いので包丁を刃こぼれさせないよう注意。僕は旅行カバンに入っていた斧でたたき切った。
あとはふつうにおろすだけ。独特のナマズ臭があるので包丁である程度こそぎ落としてもいい。
身の色は薄くピンクがかった白身。

ピラニアやイワトコナマズに似てます

まずは刺身でいただく。…刺身でいただくには身がやわらかすぎる気もするが、味は悪くない!

無理やり他の魚に例えるとすればイワトコナマズをさっぱりさせた感じ。あるいはクセのないピラニア?
とりあえず刺身で!
あっ、この味はピラニア!いや、イワトコナマズか?
ちなみにこちらがイワトコナマズ
イワトコナマズの刺身。日本産のナマズではぶっちぎりで一番美味いとされている。刺身のほかにすき焼き風の鍋でも食べられる高級魚。
こっちはピラニアの刺身。肉色も味も似ているが、こちらはもう少し肉質が引き締まっている。
丸ごと刺身で食べてしまってもよかったのだが、やはり加熱した料理も試しておきたい。

地元の釣り人に調理法を聞いたところ「油で揚げるとgood!」とのことだった。…あんたら魚と見るやすぐ揚げるよな。まあ揚げれば間違いない味になるもんな。気持ちはわかるよ。

しかし、油で揚げてしまうと味の個性がボヤけるから嫌だ!それにオーストラリアは物価が高いので使い切れもしない油は買いたくありません!というわけで妥協案として残りの身はバターでソテーすることに。
バターソテーも美味し。加熱するとチャネルキャットフィッシュに似てくる。というか、あの魚も刺身で食べるとあんな感じなのかな?
…火を通してもうまい!でもこの味はどこかで…。あっ、学生時代によく食べてたチャネルキャットフィッシュのソテーの味だ。ただし、あちらにありがちな川魚特有の泥臭さはみじんもない!チャネルキャットフィッシュの上位互換だ。これはいい。

半分はフィッシュバーガーにして明日の取材に持って行こう。

しかし、やはり姿が似ると味も似るのだなあ。
アメリカではチャネルキャットフィッシュをフライにしてフィッシュバーガーに使うことがある。ソテーをバンズに挟んで翌日の弁当にしてみた。
おいしかったのでその日も一日がんばれた。

余談 : オーストラリア人は魚のフライにうるさい

文中で「オーストラリア人はすぐ魚を油で揚げやがる」的なことを書いたが、それは彼らの魚料理の引き出しが少ないということではない。

向こうの人たちはフィッシュアンドチップスが好きすぎるのである。まさに彼らのソウルフード。あちこちに専門店があり、それぞれ衣や魚の質にこだわっている。使用する魚の種類も多く、「やはりサメが一番」「いやいや、コチだろう」「いいや、ヒラメだ!」と各人が一家言を持っているらしい。…揚げちまえばどれも大差ないのではと思ってしまった僕はまだまだ素人だ。
サメ肉のフィッシュアンドチップス。残念ながらハマギギを使ったものは見つからなかった。アメリカ南部だとチャネルキャットフィッシュで作るんだけど。
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