特集 2016年7月12日

お台場ででっかいエイを釣るぞ

あのお台場にエイがたくさんいるらしい。
えっ、あんな都心に、あんなに大きな魚が!それは面白い。捕まえに行ってみよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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お台場に多いのはアカエイという種類

さっそく「お台場 エイ」というワードで検索をかけてみると、なるほどたしかに多くの目撃報告がヒットする。
中にはその姿をカメラに収めてアップしているブログもある。それらを見る限り、お台場によく出没するエイは「アカエイ」という種類であることがわかった。
お台場の象徴たるフジテレビ社屋のなんか丸いアレ。僕のような地方の出身者に、必ずその勇姿を撮影させるという魔力を持った建築物だ。
東京湾にアカエイが多いという話は聞いたことがあったが、それにしてもお台場か。
個人的な話になってしまうが、僕は九州の出である。そんな地方出身者にとって、お台場は都会の象徴とも言うべき土地なのだ。
だって、よくあの「めざましテレビ」に映ってるあそこだよ?
ターゲットとなるアカエイ。よく見るとすごくかわいい。実を言うと東京湾は全国でも有数のアカエイパラダイスなのだ。
あの謎の球体がついたフジテレビ本社とか、自由の女神とかあって、レインボーブリッジまで見えるあの超有名スポットだよ?めちゃめちゃイケてるんだよ?わかってる?あそこにエイ、いるか?いていいのか?
ゆりかもめのホームに降りた時点でもう人多い!
ネットに情報が上がってこそいるが、あれはごく稀なケースが報告されているだけではないのか。訪問者の母数が大きすぎるがゆえの現象ではないか。

東京にはおかしな人が多いというが、それも人口密度の高さゆえに奇人変人というマイノリティーが目立ってしまっているだけだろう。お台場のエイ目撃もそういうことなのではないか。
いやー、コンクリートジャングルっすわー。ネイチャー感かなり控えめっすわー。本当にエイなんかいるのか。
だいたい、そんなにエイがうじゃうじゃいるなら、それこそ「めざましテレビ」でちょいちょい取り上げられるだろう。「きょうのわんこ」とか言ってる場合じゃないでしょう。今すぐ「きょうのスティングレイ」にすべきですよ三宅さん。

こんなとこでエイなんか釣っちゃっていいのか!?

…とにもかくにも、実際に足を運んでみよう。青島刑事も現場の重要性を叫んでいたしな。
自由の女神だ!これテレビで見たことある!
レインボーブリッジだ!封鎖できないやつだ!
そして、それらを撮影しまくる人だかり。おお、気圧される…。
お台場というところは、いつ来ても人が多い。特にカップルと、最近は外国人観光客が目立つ。
そして、ここでひとつの問題に気づく。
「デートスポットでエイ釣るってけっこう気まずいな……!」
お台場というところは、いつ来ても人が多い。特にカップルと、最近は外国人観光客が目立つ。 そして、ここでひとつの問題に気づく。 「デートスポットでエイ釣るってけっこう気まずいな……!」
そうなのだ。魚を、しかもよりによってエイという異様な形をした大物を釣るという目的でお台場を歩いてみると、これがなかなかやりづらい。

一応、エリアによっては魚釣りをすることが認められているのだが、なーんかこっぱずかしいのだ。
臨海公園のマップで釣り場をチェックしよう。
背後にカップルたちの視線を感じながら釣りをするのは嫌だ。デート中に、一人で黙々と釣りをしているアラサー男が視界に入ってきたら、相当うっとうしいのではないか。
…実際には誰も気にも留めていないのだろうが、こちらが妙に意識してしまう。
一人二人くらいは釣り人の姿もあるが、やはり彼らも同じ思いなのか、できるだけ人気の無い場所で竿を振っているようだ。
自由の女神付近の桟橋を境に、釣り禁止エリアと解放エリアに分かれている。
それにそもそも、仲良く休日を過ごしているカップルの眼前で、下手をすると座布団よりデカいエイを釣り上げてみせるというのは人としてどうなのだろうか。
せっかくの良い雰囲気が台無しになるのではないか。二人の関係に悪影響を及ぼしたりしないものか。
「デートはお台場がいいな☆」とか言っちゃう初心な彼女なんぞはトラウマを背負い込んでしまうかもしれない。
これは、やもすると、極めて非人道的な行いなのではあるまいか。
エイが好みそうな砂浜もあるのだが…。
残念ながらここは釣り禁止!水遊びの場になっているので、間違っても釣り針を投げ込まないようにしよう。まあ、この雰囲気の中で釣りをしようと思える猛者もいないだろうが。
お台場でエイを釣る。最高にエキサイティングな遊びを思いついたつもりだったが、我が国の晩婚化、少子化助長を避けるためにも控えておくべきか。

……だが待て。
本当に目の前でエイを釣られることが、一般的なカップルにとっては招かれざる悪しきイベントなのだろうか。
一方の釣り解放エリアは「磯浜(ROCKS)」と表記されている。
うわー、敷石だらけ。あんまりエイが好きそうな感じじゃないが…。
たしかに、時に大胆に!時に搦め手から!策を弄してムードを盛り上げ、嗚呼!あわや接吻!…というタイミングで足元にエイが降ってきたりでもしたら、それはもう目も当てられない空気になるだろう。
だが、そんなもんはレアケースもレアケース。そうそう起こる事態ではあるまい。まあ、もしそうなったら野良犬に噛まれたくらいに思っていただくしかない。
むしろ非日常的なサプライズとして、なんだかんだ喜んでくれるカップルの方が多いのでは?
代わり映えしない夜景を見続けるより、ビッタンビッタンしてるエイという予期せぬ要素の乱入に遭う方が、よほどエンターテイメントである。
空が暮れ、夜景がロマンチックに浮かび上がってきた。夜行性の強いアカエイが活発になりはじめる頃合いだ。
…となると、「すみません、そのエイ…。写真に撮らせてもらってもいいですか?」と来るはずだ。
そして、スマートフォンで撮影されたそのエイの写真は小さな思い出の結晶として数年後、同じ屋根の下に暮らす二人に「ああ、こんなこともあったね。お台場で!」と微笑みとともに懐かしまれるのだ。
…これは完全に善行じゃないですか。やるべきですね。釣るべきですね、エイ。
なんか本気めのヘッドライトを装着しているだけで職務質問される気がしてきた。杞憂だったが。
ポイントは自由の女神像のすぐそば。フジテレビ社屋のほぼ真正面。

勝負は終電を跨いで

と、いうわけでエイ釣りを始めた。エサはスーパーで買ってきた魚の切り身。
釣り座はお台場海浜公園が定めるところの「釣り開放エリア」。安全に竿を振れて、かつカップルたちの目に付きそうなところを選ぶ。
色んな意味で釣れる気がしないポイントだなー…。
だが、問題が。
釣り開放エリアはだいぶ沖まで岩がゴロゴロしているのだ。
アカエイはこういう地形を好まない。むしろ、砂浜や泥底でエサを漁ることが多いのである。
まあ、いくら不満があってもエリアを指定されている以上、気まぐれなエイが現れることを願ってここで頑張るしかないのだが。
なお、エサはマルエツお台場店にて調達。営業は22時までで、あまり遅い時間に行くとエイが好きな魚介類は売り切れていることが多い。
エイが好きなエサとは生のサンマやサバ、アジ、イワシなどのいわゆる青魚が最高。新鮮なイカも良い。写真のような塩サバでも一応釣れる。
…夕方から釣りを始めて、完全に日が落ちても、エイからのコンタクトは無い。エイは夜行性が強いので、いい時間帯に突入しているはずだが。
観覧車で良い雰囲気になっている恋人たちよ、待っていてくれ…。君たちのために俺、きっとエイ釣るから…!
お台場でエイを見たことがあるという友人にSNS経由で話を聞いてみる。
友人いわく、間違いなくお台場にはエイがたくさんいるらしい。
あまり活動的でない日中ですら、水面近くをふわふわ泳いでいるというのだ。
…ん?それって、水底のエサを食べずにひたすら移動してるってことじゃないの?
夜景を見ながら語らう恋人たちよ。君たちの思い出を、より重厚なものにしてあげるからね…!
たしかに、お台場周辺で海底が砂泥になっている場所(若洲や葛西臨海公園周辺など)では、とても頻繁にエイが釣れて大変(やたら大きくて尻尾に毒針があるから)だと聞く。
もしかして、お台場海浜公園周辺はエイたちにとって、そうしたエサ場への遊泳ルートでしかなく、だからこそ人目につきやすいのでは……?
まずい!どんどん疑心暗鬼になってくる!すべての要素を後ろ向きに捉えてしまう!
エイとの記念撮影もさせてあげるからね…!さっきからサンマ臭くてごめんね…!
でも大丈夫。肝心のエイ自体は確実にたくさんいるようだからなんとかなる。
気まぐれに変な場所でエサを漁る個体もいるだろうし、もしかしたらこの辺りにも良いポイントが隠されているかもしれない。
夜はまだ始まったばかりだ。
終電がとっくに出てしまった後も、対岸の夜景は煌々としている。夜通し頑張っているのは自分だけではないのだ。なんか心強い。…対岸の人たち的には一緒にしてほしくないだろうが。
…と思っていたら、あっという間に夜中になってしまった。
とっくに終電は出てしまった。
でも、こうなることはうすうす感じていたから問題は無い。

ついに釣れた!が、しかし…!

ちょこまかと仕掛けを打ち込むポイントを変えていくと、ひときわ深くなっている場所を見つけた。なんだか雰囲気がある。電車の始発まであとわずか、最後は狙いをここに絞って頑張ろう。
…と思った矢先!竿が水中に引き込まれそうな勢いで、ガッコンガッコン揺さぶられはじめた!
興奮しながら糸を巻き取ると、ずっしりと重い。確信とともに竿を立てると、大きな座布団が「バッショ~ン!」と水面に浮いた。
エイだー!!お待ちしておりました!
おお~!アカエイだ!本当にお台場にいたんだ!
地元である長崎の海にいくらでもいた魚だけど、こういう形で出会うとすごく新鮮な嬉しさがこみ上げてくるものなのだな。
9キロもある立派なアカエイ!夜明け寸前のドラマだった。のだが……。(写真は後ほど明るくなってから撮ったもの)
さあ、カップルたちよ!観光客たちよ!存分にキャーキャー言うがいい!
生きた、でっかいアカエイだよ!
カップルも観光客もいない!ですよねー!始発前だもんねー!
…だーれもおらん。
まあ、そうだよね。深夜を通り越して、もう早朝だもんね。しょうがないよね。
結局、カップルを驚かせる!という目標は叶わず終いだったが、こんなかっこいい生物をこんな街中で獲れたというだけで十分満足だ。実に素晴らしいお台場観光だった。
アカエイの尻尾には毒針が生えている。お台場デート中にうっかり釣り上げてしまったら注意だ。だが同時に、彼氏的にはサバイバルっぽい知識で男を上げるチャンスな気もするぞ。ドヤ顔で彼女に教えてあげよう。
アカエイは食べることもできる。体表のぬめりをよく落として…
唐揚げや煮つけにすると、なかなかおいしい。現場での血抜き処理が重要だが、お台場でこなすのはなかなかハードルが高かった。血をその辺にこぼそうものなら、それこそ多くの来園者たちをモヤモヤさせることになるだろう。
実は、東京湾はエイだらけ!これは都内の公園を流れる水路で釣ったもの。尻尾が切られてしまっているが、これは他の魚を狙っていて混獲してしまった漁師や釣り人が毒針を恐れて尻尾ごと切り落としたものだろう。かなり邪険に扱われているようだ。こんなにかっこいいのに。
ちなみに、釣ったアカエイを持ち帰って食べるため、早朝の波打ち際で血抜きをしていたところ、現場を中国人観光客の団体に見つかってしまった。
が、予想に反して「あーエイか。」「うん、エイだね。」くらいのリアクションしか頂戴できず、大陸特有の懐深さに感服した次第であった。
神戸市ではナルトビエイの大群にも遭遇。都会の海はエイにとって住みやすい条件がそろっているのかもしれない。そして、エイを持って記念撮影すると必ず同じポージングになることに気付いた。

実際は三度目の正直です

…どうだろう。タイムリミット直前の逆転劇。ずいぶんドラマチックな一夜であるように感じた方もいるかもしれない。
が、それは間違い。騙されている。実は種を明かすと、この一匹のエイを釣るために僕は去年の春~秋に都合三回もお台場に通った。
一度目は道具立てが悪くて手も足も出せずに撤退。二度目はポイントを定められず海浜公園内とその周辺を右往左往。三度目でようやく釣れたのだが、あまりにグダグダすぎたので記事中では端折ったのだ。
きっと、お台場やその周辺なら、適当な場所でエサを放り込んでひたすら待っていれば割と簡単にエイは釣れるはずなので、興味のある人はぜひチャレンジしてみてほしい。大都会の夜景を見ながらこんなに大きな生き物を捕まえるなんて、とても贅沢な遊びだろう。…でも毒針には本当に気を付けてね!
お台場にもセミはいる。よし、今年の夏はセミ捕りでお台場カップルをドン引きさせよう!
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