特集 2016年3月23日

1年1便片道のみ、運行本数が少なすぎる「京都バス95系統」

春分の日だけ運行するバス、京都バス95系統
1日1便しか運行しないバス路線に乗りに行ったことがある。

運行本数が極端に少ないバス路線は、出入庫系統まで含めると地方だけでなく、都市部にもわりと存在する。

しかし、更にその上をいく1年に1便というバス路線が、京都に存在する。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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わびさびの極北

京都バスの95系統は、京都の大原から鞍馬までを結ぶバス路線だが、毎年春分の日だけに1便だけ運行する。しかもその上、大原から鞍馬まで運行したら折り返しの運行はなく、片道のみである。

おそらく運行本数の少なさは日本一だと思われる。
見やすくてかっこいい路線図。「京都バス運行系統図」より
路線図をよく見てみると、この95系統しか停車しないバス停が三つある。

「江文峠口」「江文神社前」「江文峠」である。

1年に1度しかバスが停車しないバス停。いったいどんなバス停なのか。時刻表はどうなってるのか。興味は尽きない。

興味が尽きないので実際に行ってみた。
江文峠
時刻がひとつしか書いてない
バス停の時刻表、時刻がひとつ書いてあるだけ。

わびさびの極北を感じさせてくれる時刻表。これ、この時刻表が見たかったのだ。わびさび、21世紀にも存在しました、バス停に。

1年で365便ある1日1便の時刻表とはわけが違う。1年1便だ。その重みをかみしめて欲しい。

このバス停で10時56分のバスに乗り遅れると、次は1年後。思春期の男子なら次のバスを待ってるうちに変声期を迎えちゃうかもしれない。

ちなみに、向かい側のバス停は、片道運行なので、休止中となっている。
さっきのバス停の逆方向のバス停
運行本数ゼロ

山道怖いのです

江文峠のバス停写真は、春分の日の前日に現地に赴き、歩いて峠を越えて写真を撮った。

江文峠は、恋につかれた女でおなじみの大原と、牛若丸が天狗に剣術を教えてもらったことでおなじみの鞍馬の間にある峠だ。

「峠」と名が付いているので、やはりそれなりの山道になっており、はっきり言って怖い。
曇っていたのもあって、薄暗くて不気味な山道
ただ、路がきれいに舗装されているので交通量はそこそこある。

猛スピードで走る自動車におびえながら、おのれを鼓舞し、精一杯の記念写真を撮った。
精一杯の笑顔
現地で、いい笑顔になるまで何枚も写真を撮り直したが、いま思うとこの写真あんまりいらないな。ということに気づいた。

免許維持路線

さて、この京都バス95系統、なぜこんなに本数が少ないのか?

じつはこの95系統、2011年までは春から秋の観光シーズンの日曜祝日に、1日6便のバスがあった。ところが、利用客の減少で、2012年以降は春分の日のみ1便片道のみに減らされてしまった。

大原と鞍馬という二大観光地を結ぶ路線であるため、将来、便数を増やす可能性も見据えて、毎年春分の日に1便だけバスを運行している。

こういう路線を「免許維持路線」という。

免許とは、路線バスを運行するための営業許可のことで、バス路線はいちど廃止してしまうと、再度許可をとるのが非常にむつかしい。

そこで、路線バスとして維持していますよ。という意味で1日1便のようなダイヤでバスを運行している路線は意外とある。

ただ、年に1便はさすがに日本中でもここぐらいではないだろうか?

というわけで、春分の日当日になった。ぼくは年1便のバスに乗るべく大原に向かった。
京都バス大原バスのりば
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行列ができていた

京都バスの大原バスのりばには、すでに年1便の路線バスに乗るバスマニアの方々の行列ができていた。
ざっとみて20人ぐらいは居た
しかも、バスマニアだけではなく、テレビの取材も入っていた。

もういちどおさらいしておきたいが、このバス路線、乗客が少なくなって便数を年1便にまで減らした路線である。

しかし、「年1便」という希少性が逆に話題を呼び、数年前からは噂を聞きつけたバスマニアが年1回のバスに乗るべくおしかけるようになった。

そのため、通常運行するバスだけでは乗客を乗せきれず、臨時バスを出して二台体制の運行となっている。

乗客が減ったために便数を年1便にしたのに、逆に人気がでてしまったという、本末転倒な状況である。
大原から鞍馬まで410円
待つこと数十分、95系統として運行されるバスがやってきた。
高野車庫から大原までの車両送り込みのバスが到着。実はこの送り込みダイヤも年1便のバス路線である
方向幕が……
95系統になった!
95系統は小型のマイクロバスで運行されるが、本便、臨時便、どちらも始発から超満員である。
1年にいちどしか見ることができない方向幕
もう満員
ぼくは、バスに乗り込んだとき、運良く後部座席がひとつ空いていたのでなんとか着席することができた。が、車内はこのありさまである。

乗客はおそらく100パーセントバスマニアと思われるが、一緒にバスに乗り込んでたテレビのリポーターとカメラマンはおそらくバスマニアではないので98パーセントぐらいかもしれない。

年1回しか使われないバス停から乗り込むひとたち

バスマニアを満載したバスは定刻よりすこし遅れて出発。
満員なわりにものすごく静かな車内
きのう訪れた年に1回しか機能しないという江文峠のバス停。

この年に1回しかバスが停まらないバス停からわざわざバスに乗るのもいいかもなあ、なんて思っていたけれど、みんな考えることは一緒で、わざわざそのバス停から乗り込むバスマニアもやっぱりいた。
年に1回しか使われないバス停からバスに乗り込むひと
バスは山道を越える
後ろからついてくる臨時便のバス
ようやく撮れた運賃表示板
バスのいちばん前に付いている運賃表示板に、年に1回しか使われない江文峠の表示もされるはずなのだが、うっかり最後列の席にすわってしまったので、写真がとれなかった。が、なんとか「江文峠」の表示は写真にとることができた。
あらゆるところにバスを撮影しようとするひとたちがいる
そして、車内は実に静かである。

あっという間の40分

バスマニアを満載した95系統は、山道をぬけ、静原の集落を横目に山道を走り、40分ほどで鞍馬に到着。
これは臨時便の方のバス
あっという間の40分である。

バスの路線自体はとくに変わったこともなく、普通だ。

ただ、峠越えの路線バスはあまりないので、そういう意味ではダイナミックな風景であった。

と、テレビのインタビューに答えたら、しっかり使われていた。
取材を受ける
取材に行ったつもりが、逆に取材されるパターン、多いな。

渋滞がひどくて運行をやめた

へぇーこれがあの後の義経こと牛若丸が修行したという鞍馬寺かぁ~
地元のおばちゃんにきいたはなしによると、この大原から鞍馬までのバスは渋滞がひどく、特に大原は観光客だけでなく、滋賀県の堅田から京都市内への近道として走る車も多いので、バスが時刻通りに動かなかったらしい。

そのうえ、三千院が拝観料を500円から700に値上げしたのがけっこうダメージ大きかったようで、大原の観光客の数はひところに比べるとずいぶん減ったらしい。

おばちゃんは、それに比べて鞍馬は電車が走っているので、時間が読めて便利だし、鞍馬寺の入山料は300円だ。と、遠回しに大原をディスっていたような気がしたのは気のせいか。
鞍馬名物の木の芽煮とちりめん山椒。こういうのがおいしいと思える年齢になってきました

果たして復活するのか?

大原と鞍馬、どちらも京都市内より奥まった場所にあるため、どちらかにお参りしようと思うと。丸一日潰れてしまう。

しかし、その2つを結ぶ95系統のようなバスが日中にあれば、けっこう便利なんじゃないか? なんで廃止寸前なんだろう? と思っていたが、渋滞がひどいというのは思いもよらなかった。

ただ、95系統があると、朝早く大原で三千院や寂光院を参拝してから、午後はバスに乗って鞍馬寺へ……という曲芸みたいなスケジュールも可能なので、ぜひ復活してほしい。

……という気持ちもあるが、復活せずにこのまま1年に1便のバス路線として残って欲しいという気持ちも正直ある。
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