特集 2016年3月14日

日本酒は長期保存しても酢にはならず逆にうまくなる

龍力純米熟成古酒。1999年醸造。17年寝かせた日本酒です。
ウイスキーやワインではXX年物のように、長い年月寝かせて熟成されたものがよくあります。実は日本酒にも何年も寝かせて作る熟成古酒といわれる物があります。

そんな何年も置いておいたら日本酒が腐ってしまうのでは?酢になってしまうのでは?なんていう人もいますが、そんな事は起こりません。

逆に出来たばかりの日本酒では味わう事の出来ない、新しいうまさが生まれます。今回はその中でも特に貴重な熟成古酒を体験すると共に、酒造の方に話を聞いてきました。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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熟成古酒を飲みに姫路へ

熟成古酒を体験するのに訪問したのはこちらの酒造。
山陽本線網干駅から5分。本田商店。代表銘柄は「龍力」。
兵庫県姫路市の本田商店です。創業1921年。全国新酒鑑評会金賞を9回。燗酒コンテスト金賞、World Wine Championshipsプラチナメダル獲得など数々の賞に輝く伝統ある蔵です。
本田社長。いつも笑顔の気さくな方です。
お話を聞くのは本田商店代表取締役社長の本田眞一郎さん。1985年に設立された長期熟成酒研究会の会長でもあります。
本田商店秘蔵の熟成古酒の数々。今回試飲したものは多くが通常売っていない貴重な物でした。
長期熟成酒研究会は、日本酒の熟成古酒の普及と製造技術の向上を目指し、酒造や酒販、流通など様々な日本酒関係の者が集まり設立された団体。熟成古酒に関する科学的探究や普及活動に取り組んでいます。
こちらは本田商店の通常の商品。熟成古酒だけでなく、高品質の酒米を使い香り高い大吟醸酒を作るのも得意としている蔵です。
今回は長期熟成酒研究会が開催する熟成古酒を体験する会に参加する形で取材をしています。こんな機会でもなければこれだけの熟成古酒を一度に飲み比べる事はなかなか出来ません。

そもそも熟成古酒とはどんな日本酒?

さて、「何年も寝かせて作る熟成古酒」と書きましたが、そもそも熟成古酒とはどんなものなのか。
イベントでは蔵の中を詳しく見学出来ました。熟成古酒を保存しているタンク。
実は「古酒」と言った場合あまり厳密な定義がありません。一応、今年仕込んでしぼられた新酒が1年経ち、次の年の日本酒が出来るとその日本酒は新酒に対して古酒ということになります。
平成17年度と平成18年度に仕込まれたタンク。日本酒の年度の変わり方はちょっと特殊なのでそれは後程。
長期熟成酒研究会では、熟成古酒を「満3年以上蔵元で熟成させた日本酒」と定義しています。冬に出来た酒を一度だけ加熱処理(火入れ)をした後に半年ほど熟成させて秋頃に出荷する「ひやおろし」などとは違い、十分に寝かせて熟成された物が熟成古酒とよばれるのです。
タンクの下には下部には注ぐ口が二つ。上側の注ぎ口を「上呑み」、下が「下呑み」。試飲(呑み切り)にはオリが出てこない上を使う。
もちろん長期熟成させる間は温度や光、雑菌の侵入などに細心の注意が払われ、時々熟成具合がチェックされます。酒は生き物。丁寧に熟成が行われます。
こちらも熟成酒貯蔵蔵。蔵内は夏場でも28度ぐらいまでにしかならないそうです。
また、長く置いておくと日本酒が酢になってしまうと言う人が時々いますが、そんな事はありません。酢をつくるには、種酢を入れて酢酸菌を植え付け、酢酸発酵させる必要があります。
瓶詰後に熟成させている物もあります。写真は明るさを調整してありますが、この一角はほぼ暗闇でした。日本酒は光に弱い。
通常そのような事が起こることはなく、熟成で新たなうまさが生まれてくるのです。更に、日本酒には賞味、消費期限というものはありません。保存さえちゃんとしておけば、風味は変化していくものの、いつまでも飲めます。

その歴史は江戸時代から始まった

続いては、熟成古酒の歴史について。本田社長に解説していただきました。
こちらは本田商店の通常のタンク。タンクが二重になっていて温度調節用の水が外側を流れている。
本田社長の話によると、熟成古酒に関しては江戸時代と明治時代に大きな変化があったそうです。まず江戸時代。その頃は基本的に一年中日本酒が作られていました。

冬場に作る物が味も安定しているいい物が出来る事は分かっていたものの、保存方法がまだ確立されていませんでした。そのままにしておくと発酵が進み過ぎたり、腐ってしまったりしたのです。その為、祭りのとき、正月など、飲みたい時に合わせて年中作られていたのです。
こちらは吟醸酒用の麹を作る麹室。全部手作業。
しかし、江戸時代の頃になると、日本酒に指を入れて熱いと手を引くぐらいの温度(65度程度)に加熱(火入れ)しておけば酒が腐らず保存出来る事が分かってきます。パスツールが低温殺菌法(パスチャライゼーション)を始めるおよそ300年前の話です。

更に、大型の樽の登場により一度に大量の酒を作れるようになります。また、幕府が米価を安定させるため、冬場しか酒を作ってはいけないとの令を出すなど、酒を保存する需要も出てきました。
兵庫県産特A山田錦。高級酒米の山。これだけあれば結構いいお値段するはず。
この頃の日本酒は精米技術が低く、吟醸酒を作るような低温発酵の技術も無かったため、雑味が多く、香りや味がかなり濃い物でした。

その為、出来たすぐを飲むよりも、熟成させて味や香りをまろやかにさせた物の方が珍重されたのです。こうして熟成古酒の文化が育っていきます。
精米器。食用の白米は90%程度になるまで磨く(10%糠など削り取る)。酒の場合は60、50%ぐらいまで取り除きます。

ところが、明治時代になり地租改正など税制が変化し、酒に対しても造石税が課せられることとなりました。しぼって酒が出来たところから出来た量に応じて税が課されることになった酒造は、熟成させている間はタンクが使えず税金だけがかかるよりも、直ぐに売ってお金に変えるようになってしまったのです。

醸造技術の向上による大吟醸酒のような香り高い酒の登場など諸説はありますが、こうして熟成古酒の文化は衰退したと言われています。
右から平成17年度、11年度、9年度の熟成古酒。こんなに色が変わってきます。味はいかに。
そして、現代となり再び熟成古酒が見直されています。そもそも紹興酒、ワインなど熟成させて美味しい酒は多くあります。日本酒も熟成させると美味しくなるのです。フレッシュで果実的で綺麗な日本酒もいいですが、熟成には熟成の良さがあります。

歴史や文化が分かったところで、続いては肝心な味の話です。
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熟成古酒はナッツやキャラメルやチョコレート

それでは熟成古酒を飲んでいきます。一口に熟成古酒と言っても、熟成の年月や酒の種類などによって色や香り、味などは大きく変わってきます。

まずは色。
今年のしぼりたて新酒。27BY(この「BY」についてはのちほど解説します)になります。
こちらは今年の新酒。薄く黄色がかった透明です。本来日本酒は完全な無職透明ではなく、薄く黄色がかっています。メロンのような甘く爽やか香りがします。
9BY。平成9年度醸造。18年古酒。
こちらが18年寝かせた熟成古酒です。琥珀色に色づき、焦がしたナッツを思わせる熟成香を感じます。

飲んでみると、しぼりたての物は果実的な甘味や酸味を感じてスッキリとキレていくのに対し、熟成古酒の方は柔らかい旨味を穏やかに感じ、厚みのある酸味で引き締められて緩やかに引いていく。
平成15年醸造の純米雄町熟成古酒。ビタータイプのチョコレートのような香りや甘味があります。
このように、通常の日本酒の香りや味を表現するときは、メロン、バナナ、リンゴ、ナシ、ライチなど果実的な物で例えられる事が多いです。

それに対し、熟成古酒はナッツ、ココア、チョコレート、キャラメルなどで表現される事が多く、かなり方向性が違います。
平成10年醸造の純米雄町熟成古酒。15年度物よりも香りも味も力強い。
かといって、全ての熟成古酒がナッツやチョコ風味かというとそうでもありません。

例えば全く加熱処理をしていない生酒を10度以下の冷蔵状態で5年、10年と熟成させた生熟成と言われるものだと、ここまで色がつくことは少ないです。風味も元の果実的な部分を残しつつ、丸みを帯びたまろやか味わいになっています。
こちらは純米吟醸酒の熟成古酒。12年熟成。ココアを思わせる香りと甘味がありながら、吟醸酒的スッキリとした味わい。
また、純米酒や吟醸酒など酒の種類によっても濃く熟成されたり、淡く熟成されたりと風味に違いが出ます。仮に全く同じ酒でも、保存しているタンクによっても違いが出てきます。その変化や違いを楽しむのも熟成古酒の醍醐味です。

ここで醸造年度についてちょっと解説

ところで、先ほどから9BYとか17BYとか出てきますが、この「BY」は日本酒の醸造年度を表す表記「Brewing Year (Brewery Year)」のことです。9BYだと平成9年度に醸造(しぼって清酒になった)の意味になります。
「BY」こんな感じで記載されています。
ちなみに、日本酒の醸造年度は3月ではなく7月に変わります。そして、瓶に記載される製造年月は瓶詰された時です。
こちらの講座の資料より。ちなみに私の店の名前「BY」は日本酒の店なのでこれからとっています。私の名前ではありません。
その為、世の中はもう年度が替わっていて、既に醸造から1年経っているようにみえる事があります。また、熟成古酒だと製造と醸造年が大きく離れていたりして混乱することがあります。ご注意ください。

どのように飲んだらいい?相性のいい料理は?

では、最後に熟成古酒の飲み方や合う料理について。
H1BYの純米吟醸山田錦。26年古酒。濃醇な旨味に穏やかな酸味。ゆったりと流れていきます。
飲み方としては、濃醇な風味の物が多いので、常温や燗で飲むのがオススメです。しかし、吟醸酒が熟成された物など、淡く熟成しているものは少し冷やして(10~15度ぐらい)飲むのもオススメです。かなり熟成の進んだものならば、ロックで飲むのもアリです。

色を見るならば透明なグラスがいいですが、燗ならば香りを楽しめるように上が開いた白系のお猪口などもいいでしょう。

飲み方は自由。自分の合う飲み方で楽しんでください。
煮豚なんか最適です。
相性のいい料理は、濃醇な味わいなので焼肉やチャーシューなど肉料理はオススメです。燗ならばブルーチーズや香りの強いウォッシュタイプのチーズもいけます。

物によってはチョコやカレーなどもアリです。逆に刺身などは、料理の味や香りが負けてしまうのであまり向いていません。通常の日本酒とはかなり異なります。
まあ、飲めでしまえば楽しい。思うがままに合わせて飲んでください。
しかし、必ずこうという訳ではないので、一通り飲んだ後は色々試してみてください。意外な組み合わせが見つかるかもしれません。

みつけたら試しに飲んでみよう

熟成古酒について色々かきましたが、実はまだまだ書き足りません。かといって全部書くととんでもない量になりそうなのでこのぐらいで。まずはなにより飲んでみてください。

やはり年月を経ているだけあって、値段はどうしてもやや高めになります。また、味もかなり独特なので好き嫌いがハッキリ分かれるところです。ただ、ハマればこのマニアックな味が忘れられなくなるでしょう。

そして、自分で熟成させてみるなんて事に手を出し始めたりするかもしれません。いや、私はやっていませんよ。目の前にある日本酒を3年も待てないからなー。
今回の熟成古酒イベントでは自家熟成用の日本酒をお土産にもらった。さて、3年以上開栓せずにいられるのか。答えは3年後。

お知らせ

あのイベントが再び開催されます!

鏡開きをして参加者全員から祝われ、全員を祝う日本酒イベント「開いて!祝って!日本酒会 人生一度は鏡開き」を4月17日に開催します。

前回の様子
鏡開きをやりながら日本酒を飲みまくるイベントは楽しい


場所は前回同様、東村山の豊島屋酒造。一人一回鏡開き保証。樽酒の他、蔵の日本酒、発酵食を使った酒の肴、蔵見学、酒粕のお土産付き。

イベントの詳細、参加申し込み方法は以下になります。

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「開いて!祝って!日本酒会 人生一度は鏡開き」

【開催日時】
2016年4月17日(日) 13時~16時

【会場】
東村山市 豊島屋酒造内東京都東村山市久米川町3-14-10
西武新宿線 東村山駅 徒歩約15分

現地集合、現地解散となります。

【参加費】
5500円
※鏡開き体験、蔵見学、日本酒、酒の肴、酒粕付き。

【定員】
30名

【連絡先】
酒と醸し料理 BY
〒174-0072
東京都板橋区南常盤台1-29-6 シブヤビル1F
03-6325-9874
[email protected]

【協力】
しずく屋 http://tarusake.com/
豊島屋酒造 http://www.toshimayasyuzou.co.jp/

【申し込み方法】
参加申し込みは以下のメールアドレスの本文に名前、住所、電話番号、参加希望人数を記載し、件名を「鏡開きイベント参加希望」として以下のアドレスに送付してください。

[email protected]

折り返し参加代金振込先と振込金額をお知らせします。振込手数料は参加者の方の負担とさせていただきます。振込確認後参加案内と参加確認の番号をお知らせします。

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皆様の参加を心よりお待ちしています。
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