特集 2016年1月28日

紛失したiPhoneを走って捕まえるまでの話

なぜか動いてる。
今回の記事は、東京でなくしたiPhoneの現在地を検索してみたら、なぜか移動していて、それを走って追いかけて捕まえるまでの顛末です。

こんな日記みたいな内容を記事にするのはどうなのかなと思ったのですが、ここ10年でイチバン人の温かみにふれることができたので、ご報告させていただきますね。
父は数学教師。母は国語教師。姉2人小学校教師という職員室みたいな環境で育つ。普段はTVCMを作ったり、金縛りにあったりしている。(動画インタビュー)

前の記事:【新提案】クリスマス釣りー


ことの発端

大阪から東京への出張。仕事が終わり、宿に行こうかなと思って歩いていたら、気づいてしまった。
iPhoneがない。
ポケットやカバンをいくら探ってみても見つからない。
出張中なのに、やってしまった。トボトボと今夜の宿に向かう。
仕方なくネットで対策を調べる。

救世主あらわる

なんと、現在地が遠隔でわかる、「find iPhone」というアプリが標準で入っているようだ。 持っていたiPadで起動してみる。
おお、地図上にピンが立った!
ここになくしたiPhoneがあるのか!技術スゲー!
……ん……?
アプリは、600m先を示している。
でもそんなところに今日は行ってない。
GPSの誤差だろうか。
もしかして、今もカバンのどっかに入っているのかなと思い探してみるが、やはりない。 もう一度、GPSを起動してみる。
あれ?iPhoneの現在地が移動している。 もう一度GPSを起動する。
iPhoneがホテルにどんどん近づいてきている!怖い。
「私、リカちゃん」のくだりみたいだ。
次は一瞬で、100メートルも移動した。
小さくヒャっと声が出た。怖い。 人間の移動速度ではない。
これは……車?
もしかして、午前中に水道橋あたりでタクシーに乗ったのだが、その車内に置き忘れたのではないか(ちなみに今は新橋にいる)

東京を舞台にした追いかけっこスタート

そのタクシーがたまたま、このホテルの近くに来たのではないだろうか。
次第に遠ざかっていくiPhone。動きを観察してみると、このあたりをグルグル回遊していることがわかった。
この動き、やはりタクシーだ!
とはいえ、領収書ももらっていないし、会社名はもちろん、車両の情報として覚えているのは車体が「黒い」ことぐらい。
どうしたものかなぁと悩みながら、ひとまずスマホをロックしてiPhoneを遠隔で鳴らし、落としたiPhoneのディスプレイに、会社のケータイの電話番号と折り返し電話をもらえないかメッセージを表示させる。しばらく待ってみるも、電話はない。
仕方がないので、風呂に入り、メールを打ちつつ、時折iPhoneの動きをチェックする。すると……
せわしなく動きまわっていたiPhoneの動きが止まった。
地図をズームしてみると病院で止まっていることが判明。病院にはタクシー乗り場がある。
どうやらiPhoneを乗せたタクシーは病院でお客さんの出待ちをしているようだ。そういえばさっきもこのタクシー、この病院に来ていたぞ。
病院が運転手さんのお気に入り客待ちスポットなのかもしれない。
これはチャンス!
ビジネスホテルから病院までの距離は1kmちょっと。
事態は一刻を争うが、あたりにタクシーはいない。
仕方ない。走って追いかける。

全力ダッシュでiPhoneの確保に向かう

ゼエゼエ息がきれる。
タクシーの現在地をチェックする。
よし、まだ動いていない!
もうちょっとで病院!
あと300メートル!
もう一度、現在地チェック!
……おおおおお……タクシーが動き出した!
取り逃がす。

無情にも爆速で離れていくiPhone

どこまで行くんだ、僕のiPhone。
荒んでいく気持ち。
何が楽しくて朝5時に起きて仕事行ってヘロヘロになって帰ってきたあとに都内を走り回らねばならぬのか。かいたばかりの汗が冷たい。
ふてくされて飯屋に入る。
ハンバーグをほおばり、味噌汁をすすりながら、現在地を検索してみると、再びiPhoneがこちらに向かっているではないか!

追跡、再開

味噌汁とご飯をかっこみ、店を出てタクシーが通るルートに向かう。
しかし、そこは大通り。
大量の黒いタクシーが通りすぎていく。
東京、タクシー走りすぎじゃないですか?
今、目的のタクシーが見えているはずなのに!どれだか分からない。
とりあえず目の前にある黒いタクシー数台の会社名と番号を必死にメモする。この中の一台に我のiPhoneがある!
しかし、無情に東京の闇へと消えていく黒いタクシーの群れ。
でも、よく考えたらお客さんを乗せている可能性も高いわけで、いきなり飛び出してってタクシーを止めて、「その車に私のiPhoneがあるんです!」とか言えない。
三億円事件じゃないんだから。
風邪ひきそうだし、宿に戻ろうか……と思いながらもう一度調べてみる。
……あれ?
またさっきの病院にiPhoneが戻っている!
やっぱり運転手さんのお気に入りスポットなんだ!
その距離、400m。いける!
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見せるぜ!帰宅部の意地!

全力で走って追いかける。
もうちょっと……
あと100メートルのところで再び動き出すiPhone。
泣きそう。
その瞬間、目の前を黒いタクシーが横切る!
見逃してなるものか!
一瞬だったが会社名は覚えることができた。
このあたりに黒いタクシーは、他にない。
さっきメモったリストと会社名を照合する。
あった!
車両番号は◯◯◯◯っ!
おそるおそる、タクシー会社の忘れ物センターに電話をかけてみる。
忘れ物をしたことを話すと、「領収書はありますか?」と聞かれた。
ない。
領収書はないが、車両番号はわかるんです(走って追いかけてたから)
そんな怪しい奴に対しても、丁寧に対応してくれるオペレーターさん。
僕がメモした車両番号のタクシーは今、六本木にいるという。
僕のiPhoneの現在地を検索すると……
……六本木っ!

ついに、タクシーの特定に成功

はい、やりました。
私、この戦いに勝利しました。
「その車両、〇〇病院でお客さん何回か拾われてますよね」と気持ち悪いことを言う。
「もし病院に戻られるようでしたら、その時にiPhoneをお渡しいただけないですか?」とお願いすると、なんとすぐに来てくださることに!
「ありがとうございます!」と伝えると、「でも、15分かかってしまうんです……寒いですから、病院の待合室でお待ちいただけますか」というふたつの意味であたたかすぎるお気づかい。
やさしい!やさしすぎる! 全部僕が悪いのに!
……東京の人って、話し方昼ドラみたいだし、なんか冷たそうとか勝手に思ってました。 めっちゃ優しいやないか。
待つこと10分。

iPhone、帰還中

少しずつ地図上で近づいてくるiPhone。
なんて心地よい時間。あぁ、愛しのiPhone。
そして、一台のタクシーが闇夜を切り裂き近づいてきた。
iPhoneの現在地をチェック、あれだ!
降りてくる運転主さん。
走っていってお礼をいう。

運転手さんは、何度も頭を下げながら「何度かアラームが鳴っていたのですが、スマホの操作が分からなくて、何もできなかったんです。申し訳ないです……」 と謝っておられる。全部僕が悪いのに!
申し訳ない。(私は自分のスマホが見つからないことにイライラして遠隔アラームを10回くらい鳴らしてしまったアホです)
お仕事中なのにスーパーご迷惑だったに違いない。

せっかくなので再度タクシーにのせてもらう

申し訳無さすぎるので、現在地の病院から宿まで初乗り料金でいけちゃう距離ではあるのだが、「タクシーにのせてもらえませんか?」とお願いする。
いいですよ、と運転手さん。
よく考えると一日のうちに同じタクシーの運転手さんに二回乗せていただくことなんてそうそうない。貴重な経験だ。
「お客さんのスマホ、ドアの隙間にはさまっててねぇ、鳴るまで全然わからなかったんですよ、ごめんなさいね」とまたもや謝っておられる。
激しく申し分けない。
途中で、東京から西成まで乗せてった客がお金を払わなかった話をしてくれた(19万かかったらしい)
宿に到着。

申し訳なさすぎるので、なにかしたい

僕がスマホを忘れたばっかりに、運転主さんのお仕事の邪魔をしてしまったのが申し訳なさ過ぎる。
お金で解決できる問題でもないけれど、他にできることもない。
五千円札を渡して、お釣りはいいですと伝える(一万円札も財布にあったが、出し惜しみしてしまった器の小さい人間です)
でも、運転手さんは、「それは受け取れないですよ」と言ってくるんですよ皆さん。
なんなんですか、これは。
日本のタクシーのレベルはどうなってるんですか。
タイに行った時のタクシーの運ちゃんなんて、「メーターの料金はひとりぶんの値段、お前ら2人だから2倍」とか言ってきましたからね。
インドの運ちゃんは、なんか知らんヤツを「閉じ込め要員」として新たに乗せてきて、法外な金を出すまで出れないようにしてきましたからね。
どういうことなんですか、これは。
でも、ここはふんばりどころだと思って五千円札を引っ込めずに出し続けていたら、「じゃあ千円札いただけますか?おつりの分で缶ジュース買います。ありがとうございます」っておっしゃるんですよ。
わたくし、体の穴という穴から何かしら出ました。

失われたiPhone求めて

画面がバリバリなのはもともとです。

こちらがその見つかったiPhoneである。
東京中を大捜索した結果、みつかったのはiPhoneだけではない。
タクシーの運転手さんのあたたかい心である。
そんなカリオストロの銭形警部みたいなことが言いたくなるほど、タクシー会社の方々はやさしい人たちばかりだった。
本当にありがとうございました。
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