オートマチック・バッド行儀
そういうわけで自動的に行儀がわるい様子を動画でご覧ください。
シチュエーションは、友人の家に招待してもらった玄関先、という設定です。
ややっ、最初は行儀よくおよばれできているのに、だいたい30秒あたりのところから急に行儀が悪くなったぞ。(説明口調)
行儀がよい
行儀が悪い
音もなくスーッと動いていく姿はもしかして心霊現象っぽくもある。夜道でこの靴が追いかけてきたら泣きながら逃げるしかない。行儀が悪い上に人を泣かす。そんなワイルドな俺の生きざま、どう?
ここからはこの靴がどうやってできたかをご紹介しよう。完成品だけ動画で見ればたったの1分だが、ここまでずいぶん長かった。
リメンバー、てこの原理
実はこれ、当初予定していたものと全然違うのだ。
当初の予定
最初はこういうつもりだった。木の棒を靴底に忍ばせて、それがかかとを支点に下方向にぐぐぐっと開くことで靴全体が押し上げられ、裏返って転げる→行儀が悪い!という展開。
それがなぜ、スーッ……になったのか。まあまずは靴本体の話から始めようか。
コンバースかと思いきやドンキホーテで960円
まず驚いたのは靴の安さ。続いて箱を開けると色違いの靴ひもまで入っていて、そのサービス精神にまた驚いた。
電子工作は前に同じものを作っていたので簡単だった
鼻歌交じりであった
順調に動いたぞ
はい、うまくいったのここまで!これ以降、ぜんぶ苦難の歴史となります。ちょっとでも失敗しそうな可能性のあるものが本当に全部失敗する歴史です。
モーターに棒をつないで、
靴裏に仮止め
固定する前に一応この仕組みで動くか試してみる。
まあ、ちゃんとモーターが動いてるんだからうまくいくだろ。普通に。
キュンッ……、キュンッ……、
キュンッ、っていうのは一生懸命頑張っているモーターに胸を打たれてキュンときているのではなくて、動きだしたモーターの動作音が一瞬で止まるようすを表現した擬音語である。ハハァン。
動かしてから気づいたのだが、モーターをつけた場所、てこの原理でいうと支点の部分で、ここに力をかけて動かすにはものすごく大きな力がいるのだった。
てこの原理、ふだんの頭の中では「便利な知恵」の引き出しに入っているのだが、工作で動くものを作る際はたいていこっちに牙をむいてくる。現実は理科の問題みたいに、自由に支点や力点を動かせないことも多いのだ。
さて、どうするかな…。
新しい部品
電子部品屋に行ったらギヤードモーターというのが売っていた。さっきのモーターはサーボモーターといって、回転角度を指定できるモーター。こっちのギヤードモーターは、回転がゆっくり、角度も指定できない代わりに、馬力のあるモーターである。(要はモーターとギアボックスが一体化してるやつです)
棒をつけたぞ!
馬力のあるこいつを靴に取り付ける。これなら重い靴も軽々持ち上がるはずだ。
一見成功してるように見えるが、実は「動かないので手でひっくり返したら、それまで抑え込まれてたモーターが急に動いた」シーンである。
置いた状態で全然動かないので、配線の確認をしようと裏返したら急に動き出した。心底驚いた。
驚いた、ですめばよかったのだが、つまり工作も失敗なのであった。よし、靴をひっくり返すのはあきらめた。
全部完成してから、ライター西村さん(冒頭の動画の家主役)が「(前後じゃなく)横方向にひっくり返せば軽かったのでは?」というアドバイスをくれた。時すでに遅し。
はしりだせ!!
こうして諦めたひっくりかえし案の、代案として編み出されたのが
ミニ四駆だ。
不要な部分を切断し
スイッチ部分を延長して外から制御できるように
いっぽう靴の方は、部品を埋め込むために靴底を削る
削った靴底には、ミニ四駆本体、電池ボックス、制御基板、といろいろ埋め込むものがある。
しかしまるで入らないのであった!
靴のさー、横から見てゴムが貼ってある部分さー、あれ全部靴底だと思ってたよ。実際削ってみると靴底のゴム部分は2ミリくらいしかなくて、その奥は厚紙(これ切っちゃうと底が抜ける)と中敷きなのであった。
埋め込むつもりが、単にミニ四駆を踏んでるだけ、という状態だ
アムラーってあったよね
仕方がないので底を厚くすることにした。90年代の後半くらいに厚底ブーツというのが流行ったが、もう15年も前の話。ところが今年あたりそろそろ厚底の再ブームが来るのでは、という噂もある。いま検索したらそう書いてあった。NAVERまとめに。
最近はプラットフォームシューズっていうらしいですよ
ことし流行るのはこんな靴
そうかー、数か月後にはみんな厚底はいてるかもな、と思いながらよく見たら、すでに半年前の記事であった。プラットフォームシューズ、今年はもう来ないかもな…。
「電池ボックスが下向きなのですぐ乾電池が落ちる」という致命的な欠陥にきづくのは、すべての接着が終わった後のことである
横から見ると厚底部分が明らかに見苦しい。ので
ビニールテープの重ね貼りでなんとなくごまかした
ちょっと工程を端折ったが、電子工作により、ミニ四駆はタイマーで動くようにした。スイッチオンから10秒後に、5秒間だけ動く。
端折り告白ついでに書くと、1ページのコンパクトな記事でテキパキ作業したように見えるが実は制作に4日かかっていて、しかもその間に風邪で2日寝込んでいる。口内炎も2個できた。作業3日目には編集部で作業していたら夜中に女性の泣き声が聞こえた。本当にいろいろあった一週間だった。
超難航した電子工作のメモ
難しいことやってないはずなのにぜんぜん動かず、超簡単なこと(断線とか)で何時間もつまづいたりしたのだが、今考えると全体に「風邪で頭がボーっとしていた」のが原因だったような気がしないでもない。夜中に聞こえた泣き声も鼻づまりの酸欠による幻聴だったか。
妖刀村正のごとく制作者の生命力をたっぷり吸い取って、ようやく動いたのがこちら
ちゃんと時間差で動いた!
最後の仕上げに、行儀よく揃えるとちょうど接触する位置に、銅板をつけてスイッチにした。
そういう紆余曲折を経て、完成した靴がこちらです
苦難の生い立ちを知ってから見ると、「こんなに元気に走って…」と親心もわいてくるというものだ。バカな子ほどかわいいというが、行儀の悪い子も同様にかわいいのである。
どの角度から見ても
申し分のない
行儀の悪さ
ところで、靴として、できるだけ「履ける」状態をキープしたかったため、中に機械を詰め込まずにわざわざ厚底にしたのだ。ところが体重をかけると即、荷重で壊れるため、やっぱり靴としての機能は果たさないのであった。
片足に体重をかけないように歩く。遠目で見てた人に「踊ってるのかと思った」とのコメントをいただきました
完成してよかった
映像の続編として、たくさん人が来た時の玄関で、ほかの人の靴を次々跳ね飛ばしながら一直線に走っていく俺の靴、というのも考えていた。
こちらは、実際に試してみたところサンダルの一足たりとも全く蹴散らすことなく、完全に押し負けて止まってしまったので動画は省略させていただきます。