冊子のようにすれば簡単だ
テレビでタイタニック号のドキュメンタリーを見た。そこに登場した研究者が自作のタイタニック号の冊子のような模型を作っていた。
それは船の形をしていて、タイタニック号の1階層が1ページになっている。ページをめくるとどの部屋の上下になにがあったかが分かるのだ。紙は厚紙のようなものでできている。
船をぱかっとひらけるわけだ
おもしろい。
これは船だけでなくビルにも応用できるだろう。渋谷駅地下のダンジョンもこうなっていれば立体として把握できるだろう。これだ。しかもこれなら立体模型よりも簡単だ。
簡単じゃない
簡単だと思ってはじめたことが簡単だったことはない。デイリーポータルZ 10年で分かったことである。しかも難しいと思って始めたことは予想通り難しいのでフェアじゃない。
いま誰に文句を言っているのかというと、人生である。
最初の難関は渋谷駅の地下を表した地図が斜めからの図ばかりだったことである。
これをどうやって上から見た図にしたらいいのか。
Yahoo!地図には地下通路の地図があったががダンボールで作るには細かすぎる。文句を言っていても進まないので(ポジティブ!)両者を見ながらダンボールを切ってみた。
ゴミができました!
ポジティブシンキングも一瞬で蒸発するゴミっぽさである。ゴールデンウイーク中、編集部に出てきて作業して目の前にこれがあらわれた絶望感は相当なものだった。
帰り際、とりあえずゴミだけど家に持って帰って考えようと袋に入れて持ってたら、それをゴミと勘違いしたコワーキングスペースのスタッフが気を利かせて「それ捨てておきましょうか?」と言ったのがするどくて笑った(泣いた)。
ダンボールをあきらめる
ダンボールで作っている限り、ゴミ感は払拭できない。アクリルだ。レーザーカッターで切って超かっこいいものにしてしまおう。
アクリルを買うのはもちろん東急ハンズ!(さっきのダンボールもハンズで買ったんだけど)
今回、東急ハンズとのコラボ企画なのでこのような写真を入れているが、ふだんの工作記事もたいてい東急ハンズで材料を買っているのでどの工作記事にもこのような状況がある。
どの店員さんがなにに詳しいのかも分かっているので聞く人を選んでいるぐらいである。
東急ハンズ渋谷店から渋谷駅の無料送迎バスも乗っちゃうぜ(意外な道を通るのでおもしろい)
ここまでやっておいてなんだが、素材ではなく形状が問題であることに気づいた。渋谷駅の地下はフロアごとに形がバラバラなのでタイタニックのように冊子にならないのだ。留めるところがない。
渋谷駅の地下はひとつとして同じ形がないので冊子にならない。なんでそんなに複雑!
冊子はあきらめた。冊子が評判になって東急で採用されてロイヤリティ収入を得るのもあきらめた。それでマンション買うのもあきらめた。そーっと乗っけるぐらいの感じにしよう。素材もダンボールでいいや。家も借家でいい。
アクリルはただのやったけどダメだったというエピソードで終わる。ただ、カットしたアクリルにすきまがあったのでふざけて作った寛永通宝が意外に良くできた。
ダフトパンクみたいな銭形平次が投げる
軽い気持ちで投げた球がストライク決まるものである。
データを作って歩いて調べる
元の地図はパソコン上でちゃんと作ることにした。複雑な形はダンボールで切るとガビガビになってゴミになるのでなるべく単純な形にした。
2行ですませたが、この作業はひと晩かかった。
それから地下を実際に歩いてデータがずれてないか、そこになにがあるかを書き込んだ。
真剣な眼差し(写真撮ってもらうのでポーズ決めた)
で、歩いてみたらデータはずれずれであった。このデータを作るためのあの晩はなんだったのか。
「試験勉強してないってみんな言うけどさー、おれは正直に言うよ、すげー勉強した」
と宣言してテストが24点だったときだったことを思い出した。高校1年生の話だ。
24点アゲイン
ひとりゼンリン
この内容をもとにデータを修正。ひとりゼンリンみたいな作業だが、楽しい。
データを出力ショップでA1サイズで出力。深夜の出力ショップは東京じゅうの追い詰められたデザイナーが集まっていて店内の空気はゼリー状だった。
バーベキューの写真が並ぶゴールデンウイークのfacebookと対極の世界がそこにあった。
そしてメリメリと切る
カッターはダンボールを切っているとあっというまに切れ味が悪くなる。ダンボールを切るときはちょっとでも切れ味が悪くなったらカッターの刃を躊躇なく折ってくのが秘訣である。
秘訣というか、取扱説明書に書いてある。
型紙をはがして、地下の情報を書き込んでゆく
こういうちまちました作業は楽しく、あっというまにゾーン(リラックスしながら集中力が高まっている状態)に入る。小さい仕事が得意である。
完成したのがこの地図
地下1階はふたつにわかれている
じゃーん
地下2階を持ち上げて地下3階の半蔵門線ホームを見る(進撃の巨人感覚!)
1枚1枚はがしてゆけば階層構造がわかる。わかる。わかるのだがちょっと地味である。
ゴミではないが、端材っぽい。進化はしたがまだ「これ捨てておきましょうか」と言われかねない。そこでこのようなパーツを作った。
いちばん上の隙間に地下1階を挟み、次に地下2階…ときて地下5階まで
渋谷駅の地下を恵比寿側から望む
こういう位置関係になります
地下3階から5階まで通じる吹き抜けも再現
地下5階が東横線・副都心線、地下3階に田園都市線・半蔵門線。あいだの地下4階が乗り換えフロア
地下1階が切れているのはここに渋谷川が流れているからである。
ここまでドーンとは流れてないだろうけど、ここ川
川のことは忘れていたが、立体にすることで気づいた。渋谷川だ、ここ。流れてる。おもわず倒置法になってしまうほど興奮した。
宇宙一地味な渋谷ガイド
この地下地図には僕なりの見どころが記入してある。この地図を使って僕のレコメンを紹介しよう。
まずは全体像・恵比寿側から見たところ
渋谷の難関、細い道
地下1階に細い通路がある。両側に地上に出る階段があり、つきあたりが壁に見えるのだが実は右に行く通路があるのだ。まるで忍者屋敷である。
ミスターミニット2軒&ヤクルト2本80円
次のレコメンはヤクルトの自動販売機。東横線が地下5階に滑り込む未来がきても2本80円のヤクルトは心の故郷である。
ヤクルトの自動販売機がある通路にはミスターミニットが2軒並んでいる。みんな靴壊れすぎだ。
室外機
地下1階に突然室外機があらわれる。室外じゃないのに室外機。地下5階まである渋谷駅にとっては地下1階はほぼ室外なのかもしれない。
ダンゴ虫
地下3階から副都心線に降りてゆくエスカレーターにダンゴ虫みたいなカバーがついている。通称ダンゴ虫である(僕の脳内では)。
空き地と純粋ドア
副都心線ホームに行く地下4階にがらんとした空き地がある。その手前にはドアだけがある。すごく通ってみたいのだが開かないので通れない。
地図をひっくり返してこんどは原宿側から
菓子パンの自動販売機
スタイリッシュな渋谷駅にもひっそりと菓子パンの自動販売機が存在している。
地下4階フロア、副都心線ホームに降りる階段の裏側という目立たない場所。ドラクエで言えば黒い壁を押したら入れるところにあるレアアイテムである。
ランチパックが充実している売店
地下2階、半蔵門線改札脇の売店はランチパックがたくさんあって嬉しい。腹も減ってないのについ買ってしまう。
ワールドフェイマス バナナの自販機
一部で有名なのがバナナの自動販売機。
地下2階から入るビル入口にある。注目は横にバナナの皮を入れる専用のゴミ箱があること。これがないとバナナの皮で滑るというコント空間が出現するのだ(して欲しい気もする)。
もう渋谷駅で迷わない
この地図を作って渋谷駅にすっかり詳しくなった。いま自分がどこにいるのかもわかる。階段を上がってどこだここ?と迷うこともない。このダンジョンはマスターしてしまった。
でも渋谷駅の地下はさらに工事をしてかたちが変わっていくらしいので新しい通路ができるのが楽しみだ。それまでこのダンボール地図がへにゃへにゃになりませんように!