特集 2013年1月29日

津軽弁が分からない

父親の話す津軽弁をどこまで理解できるのだろうか
私の父親は青森県弘前市出身である。日本に数ある方言の中でも、特に難解なものの一つとして知られる津軽弁を話す地方だ。

子どもの頃、父親が田舎の親戚や友達と電話で会話しているのを横で聞いていたりもしたが、父親の話す津軽弁は私にとって全く理解ができず、まるで外国語のように聞こえたものである。

最近ふとその事を思い出した私は、改めて父親に津軽弁で喋ってもらい、その難解さについて考えてみる事にした。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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基本的には標準語スピーカー

まず始めに断っておかなければならない事は、私の父親は弘前生まれ弘前育ちではあるものの、若いうちに故郷を離れているという事である。

標準語の環境にいた時間の方が長い為、昔ほどは津軽弁を話せなくなっているらしい。相手に津軽弁で話しかけられれば反射的に津軽弁で応じられるそうなのだが、相手が標準語の場合は返す言葉も標準語である。
この父親、とにかく歩く人である
カレンダーには毎日の歩いた時間、歩数、距離が記されている
弘前を出た私の父親は、会社員、自衛隊員、郵便局員を経て退職、現在に至る。登山や沢登り、クライミングが非常に好きで、私の名前が「岳人」なのはその為だ。

現在もほぼ毎日、3時間歩いており、人生において歩いた距離では私なんざ足元にも及ばない。

最近は歩きの途中で見かける鉄塔にも興味を持ったらしく、ネットで鉄塔のタイプを調べたりしていた。特に碍子(ガイシ)の多い鉄塔がお気に入りなのだそうだ。
このような鉄塔が好きらしい
普通のものより碍子が多いのが良いそうだ
さて、話を元に戻そう。今回は津軽弁についての特集である。

私はまず父親に「津軽弁で簡単な会話をしてみてくれ」とお願いした。「うん、分かった」と言って、喋った内容がこの動画である。
うん、まぁ、確かに「簡単な会話で」とリクエストしたのは私であるが、その会話はあんまりなほど簡単に終わってしまった。文字に起こしてみても――

「な、どこさ」
「わ、ゆさ」


である。なんとわずか7文字だ。もちろん、私にはその言葉の意味が分からない。父親に尋ねてみると――

「あなた、どこ行くの?」
「私、銭湯に行ってきます」


との事であった。「な」「あなた」 で、「わ」「わたし」 なのだ。なんでも、津軽はあまりに寒い土地である為、できるだけ口を開かなくても会話ができるよう、単語が短いのだという。なるほど、まさに北国ならではの言葉という事か。面白いものだ。

今度は電話での会話

単語が短いという特徴は分かったが、もう少し長い会話も聞いてみたい。

今度は私が子どもの頃に聞いていたのと同じように、電話での会話という形でお願いしてみた。相手はお姉さん(私にとっての伯母さん)という想定である。
おぉ、なんとなく分かる……ような気がする。少なくとも、先ほどの会話よりはだいぶ理解しやすい感じだ。冬の話題としての定番中の定番、雪についての会話である。

「どんだばー、雪のあんべー」
「なんぼ、じぇんこ払ってんだば」


など分からない言葉もあるが、「雪のあんべー」の後に「多い」という言葉が続いている事で「あんべー」は「塩梅」 なんだろうなと推測できる「じぇんこ」 も5000円と金額が続いている事で「お金」 という意味なんだろうなと分かる。

子どもの頃はちんぷんかんぷんだった津軽弁も、今では前後の文脈や既知の情報から何となく推察が可能である。いやはや、私だって少しは成長しているのだ。

ちなみに、最後の方で父親が言っている「ザマ」とは神奈川県の地名「座間」の事で、津軽弁ではない。

設定を変えてもう一度

「別のシチュエーションで」と私がお願いすると、今度は同じ年齢の友達に電話したという設定で会話してくれた。
うん、こちらもまぁ、理解できなくはない。最初に「おばんですじゃー」 つま「こんばんは」 と挨拶。電話口にお子さんが出たのだろう「おとーさまだしてけれねーか」「お父さんを出してくれ」 と言っている(妙に演技が細かい)。

父親もその友達もだいぶ良い年になるので、会話の話題も体調や健康の話になりがちである。「病院」「検査」などの単語から話の方向性がつかめ、イントネーションが違っていても理解が可能だ。

唯一、「あっば、まだ生きているんだか」の「あっば」 が分からなかったが、聞いてみたら「おばさん(相手方のお母さん)」 という意味だった。

続いてもまた友達との会話である。
出だしに健康の話になり、「え、またその話題?」と思いきや、すぐに「ねぷた祭り」の話にシフトして「おぉっ」と思った。弘前らしい話題である。

その後に続く「えっこ、だれにかいてもらうんだば」 には少し頭をひねったが、あぁ、ねぷたの山車の絵について言っているのだと分かった途端、「絵っこ、誰に描いてもらうんだば」 と頭の中で文字が変換された。

会話の相手はリンゴ農家という設定だったようで、後半はその話題になっている。なんと、畑を売って「じぇんこ」に変え、孫の学費にしたそうだ。ねぷたを出す寄付が集まらない話といい、妙に世相を表した生々しい会話である。

分からないようで意外と分かる、でもやっぱり難しい

いやぁ、方言とは面白いものである。寒くて口が開けないから単語が短いというエピソードからも分かる通り、方言とはその土地の気候風土に根差し、育まれてきた文化なのだ。今回、私は父親の津軽弁を聞いてみて、やっぱり方言って良いもんだなと実感した。最初は少し難しいけど、慣れてくればなんとなく分かるものだし。

残念ながら私は方言を持っていない。そのような身としては、方言をお持ちの方が非常に羨ましいものである。近年はテレビなどの影響で全国に標準語が広まり、弘前でも標準語で話す人が増えているらしい。う~ん、せっかく方言という尖った個性があるのに、全国均一化の波に埋没してしまうのはもったいない。

やっぱり、その土地ならではの言葉というものは、その土地の人々で大事にしていって頂きたいものである。方言がたくさんある方が賑やかで楽しいし。話そうぜ、日本の方言!
弘前に親戚がいるお陰で、毎年リンゴが食い放題
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