北斎の絵手本
その北斎の絵の描き方が載っている本はこちら。
図書館で借りてきました。
この本には北斎が描いた絵の指南書が二つほど収められている。 その中の一つ、己痴羣夢多字画尽(おのがばかむらむだじえづくし)が今回紹介する 指南書。
おじさんとキツネのお面の描き方が載っている。
このように1ページに描ける絵と、その描き方がコンパクトにまとまっている。
ほとんど暗号
そして横に絵を描くのに使う文字を絵描き歌のようにした一文が記してあるのだが、
先生!全然わかりません!
ただ八とか一とか、あと斤の字を横にして描くことでキツネになるのかー、ということは分かる。この文の中の字を使って描くということか。
で、どの文字をどんな風に描くかが上に描いてあって、これもこんな感じです。
どれがどれなのか…!
これまたさっぱり分からない。かろうじて八とか一は分かるけど、 三の「へ」みたいなやつはなんだろうか。
絵を見ても難解
それでこれらの字をうまいこと組み合わせると狐のお面になる。北斎すごい。
しかし完成した絵の中にどの文字をどこに描くかというのもまたむずかしい。
うーん…。
こ、こう?
10分ぐらい絵と見比べてなんとか理解出来た。 それでもまだ?な部分はあるから完璧とは言えないが、 よく分からないところはもう見たまま描こうと思う。たぶんそうしたほうが1分で描ける。
描いてみた
とはいえ指南書によればこれでバッチリ狐のお面が描けるようになってるはずだ。
北斎先生すみません。
狐のお面というより…穏やかな何かになった。 マンガの釣りバカ日誌に出てきそう。 描き方を理解するのもむずかしいが、描くのもむずかしい。
ただこれは指南書がどうこうというより、単に自分の絵が下手なだけだろう。
狐のお面以外にも漢数字などを使ったイラストの描き方が載っているので、 実際に描きつつ見ていこう。
簡単だけど小技が効いてる凧揚げ
木の描き方に注目。
本の中でも一番難易度低そうだったのがこの凧揚げ。 描くところも少なそうだからまずこれから描いてみよう。
ちなみに隣の文章は、
人々をさかさに
大をおしならへ
一口く一しゝいかのほり
と書いてある。なんとなく描き方が分かるようで、やっぱり分からない。
出来映えには描く人の画力もおおいに関係します。
いくら簡単で理解しやすいものとはいえ、その通りに描けるかどうかは別らしいです。
まさに北斎みたいな絵もやや描ける
こういう北斎っぽい絵、描きたい。
どのパーツがどこに使われているのか、 これもまだ分かりやすいほうか。
むしろどの文字がどのパーツなのか照らし合わせるのが大変。 逆さになってるものもあって、7割ぐらいは文字に見えない。 北斎、だいぶムリしてると思う。
江戸時代のドラクエのパスワードだと思うと大変しっくりきた。
想像力を働かせてください。
先にも言いましたが、理解しやすいからといって誰でも上手く描けるわけではないです。 下手な人は下手に描けます。
コウモリの羽の描き方がうまい
現代でも十分通じるかわいさ。
指南書の中には動物の絵の描き方も載っている。 ただモチーフに犬や猫などの王道はなくて、コウモリとかタコがメインだ。チョイスが渋い。
このコウモリ、難易度的にはそれほどでもないのだが、 描き方がなるほどねーと思わず感心した。
大と入で羽を再現とか北斎やるじゃない。
つつい丁三をならべて
上二八
はねをひろげてならぶ大入
前半部分はさっぱり分かりませんが、 羽を広げて並ぶ大入り、なんて洒落てるではないですか。
ハワイ帰り?
う、やっぱりこんなになってしまった。それにしても絵のパーツと完成した絵では、はしょってる部分が多すぎやしないだろうか。あんな風にうまくべた塗り出来ない。
愛らしい鬼的な生物
優しい言葉をかけたくなる。
この人は一体なんなのか?ということは置いといて、とにかく良い雰囲気の絵だ。 絵手紙にして実家に送りたい。
八二八八アく六二
かり入レて
お二丁ものニ同シすがたえ
八が眉間や角で、他は…他はえーとなんだろう。とりあえず二が目になってることは察したが、ちょっと反則じゃないだろうかそれ。漢字のテストでそう描いたら怒られる。
パーツ通りに描いてみたけどなんか足りない。
どうやら髪の毛だけは自分で描きなさいということらしい。
だからといって良くなるわけでもなし。
元の絵を見ずに描ける?
ここまで北斎の指南書通りに絵を描いてきた。
ただ文章とか漢数字だけを頼りに描いてきたとは言い切れない。
いや、正直に言うと、ほとんど元の絵を見て描いてました。だってそっちの方が早いから。
これだけで描く自信ない。
しかしそう言ってしまうと指南書の存在意義自体が揺らぐことになってしまう。
なのでここはひとつ元の絵を見ずに描けるかどうか試してみたい。 でも自分はもう既に全ページ読んでしまっているためちゃんとした検証は不可能だ。
そこでまだ本を見たことがない人たちに、上の写真のようなパーツだけを見せて、 そこから絵を完成させることが出来るかどうか試してもらおう。
編集部安藤さん
当サイトライター小野さん
こういう絵を描ける知人Sさん
今回は以上の3名にお願いしてもらった。 ちなみに安藤さんは自分の顔に絵を描いてるわけではないです。
Q1.凧揚げ
まず最初は、前にも出た凧揚げ。低めの難易度から要領を得てもらおうという狙いだ。
三人に伝わっているのは赤線の部分だけ。
難易度が低いとはいえ、 入と大をたくさん描くというのは分からないだろう。 なのでそこは「入と大はいくらでも描いてよい」というヒントとして伝えた。
果たして三人は正解に近い絵を描けただろうか。
安藤さん
凧が木から生えてる。
入と大はたくさん描いて良い、と言ったら口までたくさん描いてきた。 いきなりのルール無視。
とはいえ自分自身パーツだけ見て描いたことがないから、 これでも描けてる方なのかどうか、基準が分からない。意外と健闘してるほうなのかもしれない。
小野さん
おお、かなり正解に近い。
入と大で木木を表現するのも凧の形もほとんど完璧。 ちゃんと筆ペンを使っていて雰囲気もかなり再現出来ている。
小野さん曰く「大をいっぱい書くという指令に迷った結果」だそう。 悩みながらも正解に合わせてきたのはすごい。
Sさん
凧の垂れる紐が木の幹に。
こちらも木の表現と凧の形がほぼ正解。惜しいのは凧から垂れる紐が木の幹にしたところか、でもこれはこれでありな発想。 あと「大」の中にたまに「火」が混じっているのは気になる。
これにより安藤さんはあまり健闘してないことがわかった。
Q2.だるま大師
二問目は少し難易度を上げてみよう。
パーツとしてはシンプルながら、横向きであることに気づかなければどツボにはまる可能性もあるくせ者だ。
あと一応上の文章も伝えてあったけど、 たぶんなんのヒントにもなってなかったと思う。
安藤さん
輪郭あやふや。
安藤さんは「だるまは自信があります」とのコメント。
最初はどこに自信があるのか理解出来なかったが、 目から口あたりにかけて人の顔になっているあたりか。 確かにこんな顔を描く漫画家がいそうだ。
八の使い方には相当迷った末、適当に顔に配置したのだろう。やたら妙なところにある。
小野さん
異様な威圧感。
正面向きを選んでしまった小野さん。結果として元の絵より迫力のあるものになってる気がする。安藤さんもそうだったが、八の使い方が肝かもしれない。
なお小野さんいわく「浅野忠信みたいになった」とのこと。同意したら各方面から怒られそうなのでノーコメントです。
Sさん
正解を知ってたんじゃないか。
検索して正解でも見たんじゃないかと思うぐらい似てる。 やはり絵の上手い人はこういうのも得意なんだろうか。 ムと八で鼻と頬にするのは普通思いつかないぞ。
Q.3波から現れしタコ
最後の絵はタコ。北斎と言えばタコなわけで、 これが描けるようになればほとんど北斎マスターと言える。
いつとつかかつとしとしに
ミをかさね
う也う也てたこいづる也
タコの頭は分かりやすい。問題は顔の中心あたりか。
なおヒントとして、
- パーツの中には目玉が入ってないので自由に描き入れること
- 「え」をたくさん描いて波を表現すること
は事前に伝えてある。出来るだけタコに集中してもらいたい。
安藤さん
電波を発する謎の球体。
小野さん
おータコ。
小野さん自身は「悩んだ末の悲しい結末」とおっしゃっていたが、 なかなかどうしてかなり元の絵に近い。安藤さんのを見た後だとすごく納得のタコ。
こめかみに傷のような物があって、目つきが鋭いところに小野さんのタコ像が垣間見える気がする。
Sさん
コボちゃんの新キャラ。
「タコは結構自信ある。たぶん同じだと思う」と自信満々のコメントをいただいてた。 残念ながら一番違う。安藤さんといい、自信があるものはなぜか正反対の結果になるらしい。
「と(らしき字)」を眉間のシワにしたのは小野さんと共通していて興味深い。 タコといえばやっぱり眉間のシワだよねー、という人間の心理か。
結論:絵がうまいほど描ける
パーツだけでも案外描ける。特に絵が上手い人ほど描けるようだ。描けない人が描けるようになるための指南書なのに残酷な現実だが、むかしも今もうまくなりたかったらとにかく練習しろということだろう。北斎先生ありがとうございます。
それと人に描かせておいてあれこれコメントしてきたけど、 総じてみなさんよく描けてると思います。元の絵を見ながらでも描けない人がここにいますから。