E1374 – 米国連邦政府の透明性に関する政策の経緯―CRSレポートより

カレントアウェアネス-E

No.228 2012.12.13

 

 E1374

米国連邦政府の透明性に関する政策の経緯―CRSレポートより

 

 米国のオバマ大統領は,就任翌日の2009年1月21日,“透明性と開かれた政府”に関する覚書に署名した。国民の政府への信頼を取り戻すべく,政府の透明性,国民の参加,協同を原則とする開かれた政府を確立することを約束したものである。大統領は政府支出のデータを公開するUSASpending.govやRecovery.gov,政府機関のデータ公開ポータルサイトData.govを整え,積極的な情報公開を推し進めた。そのオバマ氏が大統領選で再選を果たした直後の2012年11月14日,米国議会図書館議会調査局(CRS)が,政府の透明性に関するレポート“Government Transparency and Secrecy: An Examination of Meaning and Its Use in the Executive Branch”を公表した。これは,政府の透明性という全体像をとらえ難い情報政策の領域について,定義や重要な関連法規を整理し,政策の発展の経緯と現在の到達点を確認するものである。

 レポートはまず,情報へのアクセスを表現するのに用いられるキーワード「透明性(transparency)」について,定義が多様であること,そして,測定により理解しようとする試みがあることを指摘する。定義については,オリバー(Richard W. Oliver)氏,フォックス(Justin Fox)氏,フェランティ(David Ferranti)氏ら,学者によるものがあること,また透明性に関する活動を行う組織によるものとして,汚職・腐敗防止の活動を行う国際NGO“Transparency International”の「基本的な事実や数値だけでなく,構造やプロセスを知ることができるようにする原則」との定義があるとしている。また米国のNPO“Sunlight Foundation”は,明確な定義を示す代わりに,政府の公開性に関する10の原則を提示していることを紹介している。この10の原則とは,完全性,重要性,適時性,物理的・電子的アクセスの容易さ,機械可読性,無差別性,標準の使用,使用許諾,永続性,利用に要するコストである。透明性の測定方法については,上述のTransparency InternationalやNPO“Global Integrity”等によるものがあることを紹介している。

 続いて,政府は,国家の安全保障,個人のプライバシー,経済の安全保障を守るため,秘密とすべき情報を保持しており,それ故,透明性と秘密保持という連邦政府創設以来の2つの価値の間にせめぎ合いがあることを指摘している。その例として,ウィキリークスによる外交電報の“漏洩”にみられた議論や,情報自由法(FOIA)の解釈においてブッシュ政権とオバマ政権の間に相違がみられたことなどに触れている。その上で,今日のインターネットの普及と電子政府の興隆により国民の期待は変容し,情報へのアクセスの保障と積極的配信が国民の政府に対する信頼の増大につながっていることを示す複数の研究があることを紹介している。

 次にレポートは,政府の透明性に関係する法律を整理している。政府の透明性は,単一の政策文書になっているわけではなく,連邦政府の創設以来段階的に確立されてきたものであり,関係する法律は多岐にわたる。レポートでは,それらを(1)記録へのアクセスと透明性に関するもの,(2)政府の手続きに関するもの,(3)調査や監視に関するものに大別し,解説している。(1)では,情報自由法(1966),連邦諮問委員会法(1972),プライバシー法(1974),政府会議公開法(サンシャイン法)(1976),(2)では,連邦官報法(1935),行政手続法(1946),連邦規制柔軟化法(1980),書類作成軽減法(1980,1986,1995)や,大統領令第12866号(1993)および同第13563号(2011)等,そして(3)では,監察総監法(1978),最高財務責任者法(1990),政府業績成果法(1993),米国再生・再投資法(2009)を解説している。またこれらの法律以外に,2009年にオバマ政権が示した“開かれた政府構想”と,2011年に行政管理予算局(OMB)が明らかにした“スマートディスクロージャー”に関する覚書も,透明性に関する政策を形成するものとして解説している。

 レポートの最終章では,政府の透明性の発展を,国民の政策決定プロセスへの参加に対する効果の観点から考察している。ここではまず,連邦官報法や行政手続法が情報へのアクセスを正式な仕組みとして整えたこと,情報公開法が「事後的」なアクセスを提供する仕組みであること,連邦政府諮問委員会法が政策形成への直接的な参加のルートを提供するものであることを確認している。その上で,オバマ政権の“開かれた政府指令”が,政府の保持する多様なデータセットを市民が請求する前に公開することを求めるものであり,「事前的」な透明性に向けた政策であるとの位置づけを示している。そしてこの政策が国民の政策立案への参加に及ぼす影響について若干の考察を付している。

 米国政府の透明性に関する枠組みを整理し,「事後的な情報公開」のみの制度から「事前的な情報公開」を兼ね備える制度への発展を確認したこのレポートは,今後の政府の透明性に関する政策の議論に資する1つの基礎になるものと思われる。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://assets.opencrs.com/rpts/R42817_20121114.pdf
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TransparencyandOpenGovernment/
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/memorandum-heads-executive-departments-and-agencies-3-9-09
http://www.whitehouse.gov/open
http://www.usaspending.gov/
http://www.data.gov/

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