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Text by COURRiER Japon

戦後日本の食品三大発明のひとつ「カニカマ」。併称される「レトルトカレー」「インスタントラーメン」に比べ「最も地味」と言われるカニカマは、カニの名産地・石川県の地元企業で誕生し、全世界にまたがる市場を作り上げた。

「偽物」と呼ばれたカニカマは、いかにして世界の海をわたったのか。カニカマを生み出したスギヨ社取締役・内部監査室長の守義信に、世界進出の発端となったアメリカ市場への参入について、話を聞いた。
スギヨ、海外進出、カニカマ、アメリカ

スギヨ社取締役・内部監査室長の守義信


「スタンダードを取りに行け」 異例の北米市場戦略


──約50年前、石川県の地元企業で誕生したカニカマは、現在もアメリカで手堅い市場を築いています。どんな戦略があったんでしょうか?

守 1972年にカニカマ(カニカマは通称であり、商品は別名)が人工クラゲの失敗作から誕生したのち、幅広い人気を集めた経緯は一部においては良く知られた話だと思われます。


カニカマ誕生ストーリー「カニカマ氏、語る。」 「映文連アワード2022」で経済産業大臣賞を受賞したほか、国際短編映画祭にもノミネートされた

アメリカ市場への進出は、1972年の発売から2年後というスピードで着手されました。

当時の為替レートは1ドル300円前後、日本とアメリカの経済格差は今とは比べ物にならないような時代です。経営陣の狙いは、その世界随一の経済大国であるアメリカで「先駆者利益を取りにいく」ことでした。

カニカマは製法特許を取得していません。進出時は大きな国内需要がある一方で、競合他社から同種商品が次々と発売される最中でもありました。「二番煎じ」だと見られては市場を握れないという感覚があったのだと思います。

欧米市場における日本食は、現在であっても「オリエンタル(アジアン)スーパー」と呼ばれる、東洋系食品を専門に扱うスーパーに卸すのが通例です。ですが、カニカマについてはそうではありませんでした。

アジア系の食品が現在ほどメジャーでなかった当時、「日本(アジア)のもの」というイメージは、目先の売り上げは確保できても長期的には市場を狭めると考えたんでしょう。限られた市場ではなく、アメリカ市場全体を視野に入れ、発売時点から「スタンダードを取りにいく」戦略を取ったわけです。

インターネットも電子メールもない時代です。アメリカ大使館にかけあって事業者リストをもらい、130通もの手紙を送り、返信のあったわずか5つの事業者の中から、パートナーを選びました。

──初期投資に膨大な費用が掛かると言われる海外進出を、決して豊かとはいえない当時の日本で実現させたのは稀有な事例です。勝算はどこにあったんでしょう?

守 カニの名産地である石川県企業として、世界的なカニ市場の情勢について熟知していたことが大きな要素になっています。

カニの漁獲規制や需要、市場規模について知見があり、その潜在的ニーズについても把握していました。カニを知っているからこそ、「カニカマはいける」という確信があったんでしょう。実際、アメリカの事業者に売り込むときは「カニの代用品に」とPRしたと聞いています。

1970年代後半、ユナイテッド航空のファーストクラス向けの機内食のなかにカニカマが使われるようになり、それがアメリカにおけるカニカマの初出となりました。

その後は輸出額が右肩上がりに増え、プラザ合意後の急激な円高が起きたのを機に、現地生産へと踏み切りました。

「質」へのプライドが、価格競争に歯止めをかけた


──いくらカニカマがブルーオーシャンだったとはいえ、自由競争市場で生き残るのは大変ではありませんでしたか?

守 はい。1990年代になってカニカマが市場をつくれるようになってくると、新興国企業で製造された驚くほど安い値段の同類商品にシェアを奪われるようになりました。

当時、すでに複数の練り製品を扱う日本企業がアメリカ市場に参入していましたが、どの社もこの価格競争に参入せざるを得なくなりました。

しかし、途中から「安さのために質を落とすのはやめよう」という空気が日本企業のなかで生まれ、この競争は終わりました。明確なカルテルがあったわけではありません。ですが、「このままだと、カニカマ市場は崩壊する」という危機感を全社で共有していました。

過剰な価格競争は市場そのものを壊します。

事実、最も安いものは1ドル以下で売られていたのですが、そんな価格では原料代すらカバーできません。品質も粗悪なもので、製造過程を知る我々からすれば「こんなもの、商売じゃないだろう」と思わずにはいられませんでした。

「カニの代用品」として売り出してきたカニカマにとって、「安さ」は最も大きな付加価値です。しかし、それだけを追求してしまうと市場を維持することはできません。対外的にも「安さだけを求めるなら、どうぞ別の会社にご依頼ください」というスタンスに変え、価格競争と決別しました。
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