ケーニヒスベルク在勤時の杉原一家。ドイツ軍兵士と Photo: Wikimedia Commons

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ジューイッシュ・テレグラフィック・エージェンシー(米国)

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Text by Jordyn Haime

いまや「日本のシンドラー」「東洋のシンドラー」として日本国内外で知られる杉原千畝。だが、日本では杉原の物語が誇張され、ナショナリズムに利用されているとの指摘も研究者らから出ている。ユダヤ系メディア「ジューイッシュ・テレグラフィック・エージェンシー」の記者が杉原をめぐる最近の研究を紹介しつつ、岐阜県八百津町にある杉原千畝記念館も現地取材した。

東京は2021年に五輪が開催される数年前からすでに、世界に示す国家イメージを作り上げていた。

東京都教育委員会は、都内の公立学校に配布した資料で、「(生徒の)日本人としての自覚や誇りを高める」ための「先人の優れた業績」を紹介している。

この4ページの資料の大半を占めるのが、外交官の杉原千畝の物語だ。杉原は1940年、ヨーロッパを逃れようとしていたユダヤ人のために命を救うビザを何千も発給した人物だ。この資料は杉原の生涯と行動をドラマティックに再現しており、さらには彼が救ったユダヤ人難民の名もなき子孫たちの言葉まで引用されている。そのひとつが次の言葉だ。

「スギハラは、自らの職業や家族を犠牲にしてまで、異なった文化や民族の見知らぬ人々を救った素晴らしいヒーローとして、記憶にとどめられ、たたえられるべきです」

1939〜40年、リトアニアの日本領事館で領事代理を務めた杉原は、何千人ものユダヤ人難民にソ連経由で日本まで行ける通過ビザを発給し、彼らが戦時下のヨーロッパを逃れる手助けをした。

杉原千畝(1900-1986)

杉原千畝(1900-1986) Photo: Wikimedia


いまや杉原の名とその物語は、彼の故郷とされる八百津町から、ユダヤ人難民が到着した敦賀港にあるミュージアムに至るまで、日本中で目にすることができる。彼の肖像は東京の記念館にもあるし、漫画シリーズや映画、さらにはほぼすべての現代史の教科書にも出てくる。

2017年、英字誌「トウキョウ・ウィークエンダー」は杉原を「これまでで最良の日本人」と呼んだ。カトリック教徒のなかには杉原の列聖(ローマ教皇から公式に聖人と認められること)を望んでいるという人もいる。

だがここ数年、杉原のスーパーヒーローとしての地位と、日本や世界中で喧伝されてきた彼の物語の詳細を公然と疑う研究者たちが、杉原自身の息子に加勢するようにして増えてきている。第二次世界大戦中の日本の行為に対する批判をうけて、日本が杉原を人道主義の象徴として利用しているとする研究者もいる。

杉原と同レベルの名声と英雄の地位を得られると思われる、戦時中のまた別の人物を持ち上げ(その物語が立証可能だろうがなかろうが)、日本がナショナリスティックな語りをさら発展させようとしていると指摘する人もいる。


杉原の物語


ビザ発給は、杉原の職務には含まれていなかった。杉原が1939年からリトアニアのカウナスに駐在したのは、その地域でのソビエトの軍事活動を見張るためだった。

だが、通過ビザを発給する日本人の外交官がいるという噂が広まると、杉原はある日、自宅の外に大勢のユダヤ人が列をなし、運よくそのビザをもらえないかと期待している光景を目の当たりにする。

ユダヤ人たちはソ連人から逃げていた。その1年後にドイツがついに侵攻してきて、大惨事が彼らの身に降りかかることになろうとは誰ひとり予測していなかった。
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Translation by Yuki Fukaya

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