政治学者グリゴリー・ゴロソフ「プーチンの独裁が続くより軍事政権が生まれる可能性が高い」

アフター・プーチン──想定できるシナリオ

「プーチン以後」のロシアがどうなるのかという問いは、少なくとも2003年ごろから出ており、その都度「プーチンが残る」という結論になっている。確かにそれがいまもいちばん妥当なシナリオであることは認めざるをえない。

2020年の憲法改正によって、プーチンがさらに12年間大統領の座に留まるための法的条件が整った。政治状況もいまだ予断を許さない。とはいえ何かしらの変化はある。ロシアで暮らす人たちにとって（それは支配階級の人たちから一般の人たちまで）、プーチンという人物が、問題を解決する人から、重大な問題そのものへと変化しつつあることがわかる。

だがこの変化は完全なものとは言いがたく、はっきりと実現されてもいない。プーチンによる長い統治のあいだ、ほぼそうだったように、多くの人びとは、プーチンが状況を打破してくれればいいと思っている。とすると、「プーチン2036」も「プーチン2036+α」もあり得る。数字は大統領の健康状態だけが決めるということになる。

しかし、ロシア政治における最高指導部のパワーバランスが変われば、体制は変容し始めるだろう。

絶対王政の可能性はほぼない

私は以前、ロシアの現政権を「選挙制の皮をかぶった個人独裁政権」と定義した。そこから民主主義が生じるとは到底思えない。たとえ民主化が起きるにしても、その前に移行期間があるだろうし、移行は民主主義的には始まらないだろう。

けれども、時間をかけて独裁政治から抜け出すという見通しもまったく確実なものではないし、それに明確に見えてもこない。過去数十年間の世界の政治を見てわかることは、独裁政権を脱する際にもっとも多いのは、別の独裁につながるというものだ。

そこで、いくつかのシナリオの可能性を議論することができるし、しなければならないだろう。それらのシナリオを、確率の高い順ではなく、論理的な順序で挙げていくことにしよう。

もっとも変化が小さなシナリオから始めよう──つまり、独裁体制が続くという場合だ。プーチンが著しい権力を維持したままになるというシナリオも理論的にはありうる。目に見える変化が起きようとも、あるいは、彼の政治的役割が完全に消えたあとでもだ。

このシナリオについてより詳しく説明する前に代替案をいくつか挙げておこう。独裁体制というのはタイプが限られている。比喩ではなく字義通りの意味でとるならば、（サウジアラビアのような）絶対王政になる可能性はゼロに等しい。

ロシア国粋主義者のイーゴリ・ガルキン＝ストレルコフのように、その道を支持する面々もいることはいる。しかし、ロシアが独裁権力をもつ皇帝に支配されるという状況を真剣に議論するつもりはない。それは、あまりにも現実とかけはなれたファンタジーになってしまうからだ。

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軍事政権や政党政治の可能性は…

もっとも可能性があるのは、治安機関、つまり、軍とその他の軍事組織による権力掌握だろう。その結果、政治学において「軍事政権」と呼ばれるものができあがる。その場合には、あらゆる軍組織と、軍事体制側に加担する（軍人でない）政治家たちが重要な役割を果たすことになる。

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