カル・ニューポート「絶えず気が散るせいで、脳の働きがどんどん悪くなっている」

カル・ニューポート（39）は、自身のウェブサイトでこう宣言している。

「コンピュータサイエンスの教授として、また父親として求められることが多いことを鑑み、私は余った時間をできる限り徹底して自分の文章に取り組むために割こうとしている。それゆえ、私は大半の作家よりも連絡をとるのが難しい。私は一般的な相談用のメールアドレスを持っておらず、SNSは一切使っていない。この職業につきものの多くの課外活動も避けがちだ」

エッセイストでジョージタウン大学の教員でもあるニューポートは、社交恐怖症であるとか、ある種の謎をかきたてるために距離を保っているわけではない。それは、純粋に精神衛生上の理由であり、また教育の仕事に完全に専念するためだ。

スクリーンの過剰使用が引き起こす消耗を説き明かした『デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する』、メールが精神の健康にもたらすネガティブなインパクトを明らかにした『メールなき世界』（未邦訳）などのベストセラーを、これまで彼は世に送り出してきた。そして、このたび『大事なことに集中する：気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』のスペイン語訳が出版された。

この本は、SNSやインスタントメッセージ「インフォテインメント（情報と娯楽が融合したもの）」に特化したウェブサイトに引きずられる社会を批判的に分析しているが、同時にサバイバルマニュアルでもある。

それは「集中力を育てる個人だけが成功するだろう」と伝えているのだ。これは午後6時以降 （夜はなおさら）仕事をしないと自らに課し、3人の幼い子供と一つのブログ、そして一つのポッドキャストを抱える人の言葉である。

「グーグルやフェイスブック、そしてアップルが喧伝した理想郷は完全な嘘だ」

集中するための4つのルール

──ある一日のことについて教えてください。2007年1月9日、スティーブ・ジョブズがサンフランシスコで「MacWorld 2007」の舞台に上がり、初代iPhoneのプレゼンテーションをした日のことです。iPhone発売から15年を迎えた今、あの日をどのように回想しますか？　あの技術革命が暗示していたかもしれないことを、何らかの方法で直観していましたか？

興味深いのは、当時、現在の私たちと携帯電話の関係を予期してはいなかったということです。ジョブズの出演を見直してみると、彼が関心を持っていたのは、人々がすでに楽しんでいた2つの装置である音楽の再生機器と電話を、一つの洗練されたインターフェースに融合することであったのは明らかです。

当時ジョブズは、人々にとって何が重要であるか、そしてどうすれば彼らにより良い体験を提供できるかを知ることに、非常に注力していました。5年後、その電話と私たちの関係は、スマートフォンと急速に成長した「アテンション・エコノミー（人々の関心や注目の程度が経済的価値を持つという概念）」の衝突により、まったく異なるものになったのです。突如として、携帯電話はユーザーから時間、注意、情報を引き出そうとする装置へと変貌しました。

それは、ジョブズがあの舞台に上がった時点では予期不可能なことでした。この点を強調しておくのは重要です。というのも、テクノロジーと私たちの関係の大部分はあらかじめ決まっておらず、また必然でもないということを示しているからです。現在私たちが目にしているのは、前述のテクノロジーの発明後に現れた、非常に具体的なビジネスモデルの結果なのです。

これからのデジタル・ウェルビーイング

──あなたはこう主張しています──「『ディープ・ワーク（集中力が最高に高まっていることを示すカル・ニューポートの造語）』は、19世紀初頭の作家や哲学者のノスタルジックな要求ではない。それは現代の生活で大きな価値を持つ高度な技量である」。

それではなぜ大半の企業は、労働環境における集中力の重要性を理解するのに苦労しているのでしょう。少し前まで、理想のオフィスのモデルは「グーグル」社の社屋のような一種の「ミニ遊園地」でした。あなたの同僚で建築学教授のデイヴィッド・ディウェインが提案する「ディープ・ワークのための部屋」とは正反対のオフィスです。

ええ、少し不可解ですね。標準的なオフィスは、なぜこうした思考に対してあんなにも敵対的に構成されているのでしょうか。より長いあいだ集中したほうが仕事のクオリティもあがり、そのことを執行役も認めているのに。

著書『メールなき世界』では、数年間の調査を経てその質問に答えることができました。2つのことが起きていると思います。まず一つ目に、現在のオフィスワークは、先代のあらゆる経済セクターでおこなわれてきたオフィスワークとは異なるということです。

現在は、自分の仕事をいかに計画し実行するかを決定するうえで、人々に多くの自立性を与えています。そのせいで組織全体が無能になり、何かが必要なときは全従業員がいつも誰かに頼るという協力体制に依存させているのです。彼らはそのためにメールや、「スラック」などの代替策を使用し、結果として「ディープ・ワーク」は不可能となっています。

問題は、そうした罠から逃れる術は本人の手に委ねられていないということです。絶え間なく気が散るのを避けるため、どのように計画を再考するかを決めるのは、その会社であるべきです。

週休3日制で労働日数が短縮しても、「同じ賃金」を支払ってコスト削減まで可能な理由

──2つ目は何ですか？

私たちが、前後の繋がりの変化に伴う犠牲を低く見積もっていることです。2000年代初頭のある時期に、私たちは純然たる「マルチタスク」は機能しないことに気づきました。たとえば、何かを書こうとするのと同時に電話で話すことはできません。

それなのに現在私たちがしているような、「受信トレイをチェックしてから自分のしていた仕事に戻ること」に伴う犠牲を、当時は過小評価していたのです。上司や同僚、友人からのメッセージでいっぱいのメールボックスをチェックすると、犠牲を伴う思考過程が始まります。

再びメインの仕事に集中するとき、前後の繋がりの変化に突き当たり、その人の認知能力は鈍ってしまいます。ところが、私たちはこのようなインパクトがあることに気づかなかったのです。私たちはメッセージを待っているときのみ、メールボックスや携帯をチェックすることになるだろうと思っていました。しかし実際は、6分ごとにそうしています。

──あなたは気が散ることに対抗する4つのルールを提案しています。「ディープ・ワーク」、退屈への扉を開くこと、SNSから離れること、そして「シャローなもの（深い集中を必要としない作業）」を排除することです。どれが一番難しいのでしょう？